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地球温暖化
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温暖化解決に挑む、これからの研究者に求められること——研究と社会の橋渡しの重要性
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地球温暖化を解決するのは、再生可能エネルギーや電気自動車など、すでに普及し社会規模の議論が進んでいる技術だけでない。温暖化の解決に挑む先端技術が、実は日本の研究室でも生まれている。

 

そんな先端技術が社会に実装されるまで、研究者たちはどんな壁にぶつかるのか。

 

研究者としての知見を活かしたブランド畜産物の開発を経験し、現在は科学技術と社会課題の現場をつなぐ株式会社リバネスの自然共生型産業研究所の所長を務める福田裕士さんの視点から、研究と社会の橋渡しについて考える。
 

※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた3/11のライブ勉強会「【リディ部環境会議vol.4】温暖化解決に挑む、科学者たちの舞台裏~ラボと現場の橋渡し役の重要性~」で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。

 

<福田裕士さん>
奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科分子生物学修士課程終了後、飼料販売会社の直営養豚場にて、一年半農業に従事。2008年リバネスに転職後、沖縄事業所で「福幸豚」の開発に携わり生産・販売事業の立ち上げを経験。熊本、大阪勤務を経て、2020年より東京本社人材開発事業部兼務。

研究のタネは個々の課題意識から

自動車から工場まで、従来のさまざまな技術が地球環境を破壊する原因になっている。しかし、新しいテクノロジーを効果的に用いて環境問題を解決していくこともできるのではないか。

 

その際には「環境問題全体ではなく、問題を分解して考える必要がある」と福田さんは話す。

 

一口に「環境問題」と言ってしまうと領域が広く実態がつかみにくいが、その中身を見ていくと、CO2回収、マイクロプラスチック、ゴミ処理のインフラなど、さまざまな分野で課題がある。

 

「ですから、個々人が各現場を見て課題を発見し、その上で自分自身のテーマを絞り込んで技術を生み出していくことが大切です」と福田さんは説明する。

 

では、いま先端技術の開発現場の最前線では、誰がどのような技術を開発しているのだろうか。

 

株式会社リバネスではリアルテックの事業シーズ(※)を発掘・育成する「テックプランター」という取り組みを行っている。その一環としてリバネスが2020年10月に開催した「エコテックグランプリ」のファイナリストには、「マイクロプラスチック除去で安全な水と食料を届ける」「亜臨界水反応技術を用いた農水産業資材の活用」など、興味深い技術の提案が選ばれている。

 

※リアルテック:地球と人類の課題解決に資する研究開発型の革新的テクノロジー

※シーズ:企業が有する事業化、製品化の可能性のある技術やノウハウなど

 

その中の一つに「太陽光によるCO2回収・貯蔵・供給・利用システム」がある。これは、太陽光を用いてCO2を回収・貯蔵・供給する分子技術と、太陽光によるCO2化学変換を組み合わせた提案だ。太陽光によって大気中のCO2を炭素資源(カーボン)として再利用する「持続型炭素循環システム」の構築を目指している。

 

提案者の東京理科大学の今堀龍志准教授は、元々、環境分野の専門家ではない。薬学を学び、分子を設計する技術を持っている強みを生かして、熱を使わず太陽光だけで大気中のCO2を捉えたり放したりできる制御分子を設計した。

 

これがうまくいけば、たとえば、工場の煙突から排出されるCO2をキャッチした制御分子を固体の状態で輸送して植物工場に提供し、CO2を植物に吸収してもらいながら植物の成長も促すことが実現できるという。目下、事業化を進めている。

 

ほかにも、ファンファーレ株式会社の近藤志人社長が提案した「数理最適化による産業廃棄物業界の省力化」という事例も興味深い。

 

町の中でよく見かけるごみ収集車はどこの処理場に向かうのか。実はそのルートを決めるのは簡単ではない。

 

収集業者はなるべく廃棄物を満載して処理場に持っていきたい。一方で、処理場は処理能力を超える廃棄物を持ち込まれると困る。その両者のバランスを取りつつ、産業廃棄物業界では日々複雑な手作業でルートを決めているという。これは労働力不足に悩む業界にとって大きな課題だった。

 

この課題に気づいた近藤さんは、全国の産廃処理業者を回ってデータを集め、AIの機械学習による最適化アルゴリズムを使って、ごみ収集配車計画の自動作成を可能にした。

 

そして、ベンチャー企業ファンファーレを立ち上げ、従来の1/100の工数で最適な配車表を作成するサービスの事業化を進めている。そんな近藤さんは文系出身者で、いわゆる研究者ではない。

 

「研究のタネは個人の疑問から生まれるものです。だからリバネスでは、誰でも、小学生でも、研究者になれると考えています」と福田さんはいう。
 

(PAKUTASO)

イノベーション創出のために乗り越えるべき壁

個人の疑問や課題意識から研究は始まるが、環境に関わる技術のタネが社会にイノベーションを起こすまでにはさまざまな壁がある。

 

福田さんも、自身の研究をもとに沖縄で「福幸豚」などのブランド畜産物を開発した経験を持つが、その中でいくつもの壁を感じたという。

 

養豚は農家にとって手間がかかるわりに収益性が低く、病気が発生すると全頭廃棄になってしまう上に、飼料の大量生産や輸入がCO2増加につながっているといった課題を抱えている。

 

そのような課題を解決するため、福田さんは学生時代に畜産学科で学んだ。ところが、最初に就職した飼料販売会社で配属された直営養豚場では「大学で学んだことは忘れろ」と言われてしまった。

 

研究成果が現場で生かされていないという課題を発見した福田さんはリバネスに転職。沖縄に8年間勤務する間に、シークヮーサー、アセロラ、泡盛蒸留粕など5つの未利用資源を飼料化し、「福幸豚」をはじめとするブランド畜産物の開発に取り組んだ。

 

「捨てられていた資源を飼料化することで、新たな飼料を生産・輸入する際に発生するCO2を削減できます。そして、その飼料で育ったブランド豚を食べることで温暖化の解決に貢献できるという“カーボンオフセット(※)”を謳って、東京の大企業の社員食堂などにも販売しました」

 

※カーボンオフセット:日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方

 

研究者と畜産現場の両方を経験した福田さんは、両者を橋渡しする“コミュニケーター”の役割が重要だと話す。

 

さまざまな課題がある中で、自分自身の疑問を持つことから研究が始まり、課題についての仮説を立て、仲間を集めて研究を進める中で新たな価値が生まれる。それがイノベーションだ。

 

だが、そもそも自分の課題を周りに伝えないとイノベーションは始まらない。「企業研究者の中には5年10年と経験を積み、ある程度のプロジェクトを任されるようになっても、自分自身が取り組みたい課題を組織内で話せない人がよく見られます」と福田さんは指摘する。

 

また、自分の課題を表明できたとしても、仲間がいないという悩みにぶつかる。福田さん自身、「福幸豚」を開発するための仲間を見つけるのに2年ほどかかったという。自分がやりたいプロジェクトにどうやって人を巻き込むかは新規事業に共通の苦労だ。

 

さらに、研究を進めるためには資金調達が欠かせない。とくに、環境に関わる技術の場合、農業技術や医薬品のように受益者が明確に限定される技術と異なり、「その技術によるサービスに誰がお金を払うのか」というビジネスモデルのデザインが難しい。

 

国が設定している科学研究費は予算が年々削減され、従来の方法ではなかなか研究費が確保できないという現実がある。

一方で、企業から共同研究という形で資金を調達したり、起業してベンチャーキャピタルから投資を受けたり、資金を集める方法は多様化している。大学院生向けに研究資金を支援する団体もある。

 

「昔は国を相手に研究費を取ってくればよかったのですが、今はいろいろなステークホルダーに対してプレゼンをして資金を集めてくるわけです」
 

 

(写真AC)

これからの研究者に求められるコミュニケーション

「お金を出すということは仲間になることとほぼ同義です」と福田さんは話す。研究の目的や価値に共感して「仲間」になってもらうためには、相手に合わせてコミュニケーションの方法を変える必要がある。

 

「しかし、学会で発表した経験はあっても、企業向けのプレゼンはやったことがないという研究者が多いですね」と福田さんは課題を指摘する。

 

また、研究資金の確保とともに、研究者のポストが足りないという“ポスドク問題”も深刻だ。

 

日本では1990年代以降の科学技術立国として、大学院重点計画などの政策により博士号取得者を増やしたが、大学や研究機関などのアカデミアにも民間企業にもポストが足りず、博士号まで取ったのに就職できないという実態がある。

 

企業側にとっては、学卒者と5年の差がある博士号取得者の採用は大きな投資だ。当然、チームを率いる研究リーダーのような存在を期待するが、本人はその課題に対して解決する情熱が少ないなど、人材のミスマッチが生じがちだという。

 

アメリカでは博士号取得者の多くがベンチャー企業など民間に就職して研究成果の社会実装に向かうのとは対照的に、日本では博士号取得者のほとんどがアカデミアに残りたがるマインドセットが見られると福田さんは話す。


アカデミアに残ると言っても、研究だけを行うわけではない。とくに大学では教育もしなければならないので、ポストを得るには教育の実績も評価の対象となる。

 

「研究者として論文を読んだり実験したりするだけでなく、他者とコミュニケーションを行い、自分の知識・意見を他者と混ぜ合わせることが必要とされているのです」と福田さんは言う。

 

(写真 福田裕士さん)

 

他者との意見交換によって個が確立される。そして新しい研究のタネの発見につながるのだ。

 

研究成果を社会のために役立てるには、自分がやりたいことを社会の側に伝える必要がある。自分が実現したい価値を話せて書けたり、会った人たちと一緒に考えをつなげて新しい価値をつくり出せたりする能力が必要だ。

 

リバネスはそれができる人材を「サイエンスブリッジコミュニケーター®」と呼び、その考え方やスキルを身につける体系的な研修や、さまざまな意見交換の場を提供している。

 

「私たちも研究者の皆さんと一緒に、さまざまな課題の解決に挑み、この世界を変えていきたいと考えています」

 

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