「ひきこもりになったのは生き延びるためだった」――当事者が語るひきこもりの実情
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「ひきこもりになったのは生き延びるためだった」――当事者が語るひきこもりの実情
2019年、カリタス小学校の生徒や保護者らが殺傷された川崎殺傷事件や、元農林水産省事務次官が長男を殺害した痛ましい事件が起きた。
これらの事件に関連づけて「ひきこもり」についてもメディアで取り上げられることになったが、そのとき当事者たちはどんなことを考えていたのか。また彼・彼女らはなぜひきこもるのか。どのような支援が求められているのか。
恩田夏絵さん(一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事)をモデレーターに迎え、ひきこもり当事者であり、当事者活動を行う林恭子さん(一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事)と、ぼそっと池井多さん(VOSOT(チームぼそっと)代表)、対話による精神療法「オープンダイアローグ」の普及啓発に努める精神科医であり、産業医、臨床心理士の大井 雄一さんにざっくばらんに語ってもらった。
※本記事は、リディラバが主催する社会課題カンファレンス R-SIC 2019のセッション「ニュースでは教えてくれない『引きこもり』の真因」を記事にした前編です。
ひきこもりになったのは生き延びるため
恩田 夏絵 今回の対談は登壇者4名のうち、ひきこもり当事者、経験者が3名ということで、当事者目線の話ができればと思います。
私自身も小学2年生から不登校になり、ひきこもり、リストカットなどを経験していますが、まずはひきこもる背景にはどんなことがあるのか、というところからお話いただければと思います。ぼそっと(池井多)さんからお願いします。
ぼそっと池井多 ぼそっと池井多と申します。私はひきこもり当事者であります。なんでひきこもりになったかっていうことをきちんと述べようと思ったら、3冊ぐらいの本になっちゃうんですね。でも、それをあえてひと言でいえば、母子関係です。今振り返ってみると、母親が自分にインプットした「かくあるべき人生」を歩むしかなくなった、つまり「自分を生きられないこと」に絶望して動けなくなったんだと分かりました。
私の場合は、大学を卒業して、世間でいうところの良い企業に内定が決まって、さてあとは入社式を迎えて社会人になるだけ、というときにひきこもりが始まったんです。
「もうここから先は、会社員としての無味乾燥なレールがしかれているだけだ。人生終わったな」と感じたためでしたが、そう感じている自分さえ意識できませんでした。そのときは、文字通り「布団から出られない」「部屋から出られない」という状態になりました。
1980年代ですから「ひきこもり」という言葉もなく、自分がなぜそんな状態になってしまったのかも分からないし、自分の状態を伝える言葉もない。本当に地獄で、死のうと思いました。それから20年、30年後に、「やっとあれはひきこもりの始まりだったのだ」と分かりました。
あの時が人生の分かれ目だったわけです。私は23歳でした。では、当時の無意識的な選択を、今の私がどのように評価しているかというと、「よかった」と思っています。ひきこもってよかった、と。
もしも、あの時ひきこもらないでエリートサラリーマンのようになっていたら、私は早々に自殺していたか、自分がとうてい望まない人生を歩んでいただろうと思います。そう考えると、私がひきこもりになった理由は「生き延びるため」だったとまとめることができます。
林 恭子 私は高校生のときに不登校になりました。不登校になったとき、私の場合は体調にあらわれたのですが、最初は原因が分からなかったんです。でも、いろんなことを考えたり、本を読んだりするなかで、非常に厳しい校則や体罰などが私には合わなかったんだということに気づきました。
私はどちらかというと良い子ちゃんタイプで、親や先生の言うことはよく聞くようなタイプだった。でも、理不尽な理由で先生が生徒を殴っていることなどに、非常に憤りを感じていたんです。そうした状態が破綻して不登校になったんじゃないかと思っています。
それから私も母との関係がおかしいなということに20代に入って気づきます。母はコントロールしたがる意識が非常に強く、私はいかに母の言う通りに生活していくかということで頭がいっぱいだったんです。それで「自分がない」と気づいたときに、大きな混乱に陥ったことがありました。
その後は回復に向かっていきますが、それは十数年経ってようやく、とても信頼できる精神科医の先生と出会えたことが大きいです。それから、ひきこもりという言葉が出てきて、同じように悩んだり苦しんだりしている人たちと出会えたことで、一人じゃなかったんだと知って救われました。
20年間「明日こそ起きよう」と思っても、朝起きられなかった
林 不登校になってからは昼夜逆転の生活が始まりました。起きるのがお昼の1時、2時ごろで、寝るのは明け方です。その生活が20年続きました。
20年間も朝起きられなかったのですが、私はその間、一日たりとも「どうせいつも起きられないんだからもう朝起きなくていいや」と思ったことはないんです。
毎晩「必ず明日こそ起きよう、明日こそ起きよう」と思ってもできない。
それはやはり、多くの人が学校に行ったり仕事をしたりしているなかで、それができない自分が存在していることに耐えられなかったからなんですね。対して、ほとんどの人が寝静まっている真夜中であれば、私みたいな駄目な人間でも存在していてもいいかなとちょっとは思える。少しだけ心が休まる時間帯だったんです。
30代の後半になって、ようやくお昼前に起きられるようになって、起床時間が少しずつ早まっていきます。ですが昼夜逆転してる頃は、もう一生私は午前中に起きることはないだろうと思っていました。
恩田 ひきこもりというのは、本当に百人百様ですよね。精神科医であり、臨床心理士でもある大井さんから見て、ひきこもりになる原因について何かお考えはありますか。
大井 雄一 「社会的ひきこもり」という言葉があるように、一人ではひきこもれないですよね。無人島に一人だけいるとしたら、ひきこもりも何もないわけです。
ご家族との関係や会社の人との関係、友だちとの関係などさまざまな人との関係のなかで、何らかの「困り感」を抱える状態になってしまう。林さんが仰ったように、寝坊したくてしている人はいないんですよね。個人の責任を問うことはできないし、それで解決する事象でもないと私は思っています。
支援する側は結果としてひきこもりの状態になったのを見て、ひきこもりや不登校の原因は何なんだろうと考えますが、恩田さんの言うように百人百様です。それを一緒くたにひきこもりだ、不登校だと一様に捉えて解決策を見い出そうとする。そうしたことが問題の解決を難しくしていると考えています。
イメージと異なるひきこもりの姿
池井多 私はいまだにひきこもり当事者なんですけれども、昔ほど「ガチ」ではないです。
昔ながらのひきこもりのイメージを持っている方は、「ひきこもり」というと、たとえば決して外へは出ずに、両親が建てた家の二階の一番奥の部屋に立てこもって、一日中三角座りをしているものだと考えているかもしれません。けれども、「ひきこもり」というのは実に多様でありまして、必要なことがあれば、このようなトークイベントやテレビに出てくる人もいるのですね。
そういう、ひきこもりの現実の姿に基づいて、支援とか先々のことを考えていかなければならないだろう、と思います。なので、私は「VOSOT(チームぼそっと)」として、当事者としての体験、あるいは似たような体験を持つ当事者たちと一緒に当事者発信というのをやっているわけです。VOSOTは何の略かと申しますと、Voice Of Survivors Of Traumaです。つまり、心的外傷のサバイバーたちの声を発信する活動です。
恩田 よく界隈では、「ガチひき」という言葉が出てくるんですが、当時はどんな状態だったんですか。
池井多 「ガチひき」あるいは「ガチこもり」だと本当に人の目が怖い。人に会えない。私の場合は外の光が怖かった時期がありました。
カーテンの外側に光が差していて、車が通るだけでカーテンに影が揺らめく。それを内側から見ていると、「ああ、外の世界は動いてるんだな。僕を置いてどんどん先へ行っちゃうんだ」などと考えて、もうそれだけで焦ってしまう。カーテンを見るのも嫌なので、雨戸を全部閉めていました。
そんなふうに洞窟みたいにして生活していたのが、私のガチこもりのころです。
恩田 私は不登校やひきこもりは誤解されやすいと思っていて。よくある誤解として、働きたくない、怠けたいからひきこもっているんだということがあります。
私が(林)恭子さんと一緒にやっている「ひきこもりUX会議」(UXは、Unique eXperience=固有の体験を意味する)では生きづらさを抱える女性自認の方々を対象とした「ひきこもりUX女子会」という当事者会をしています。
当事者会のほかに、ひきこもり当事者・経験者を主な対象にした実態調査もしています。369名の女性にご協力いただいた「女性のひきこもり、生きづらさについての実態調査2017」では、「あなたは働きたいと思いますか」という質問に約7割の方が働きたい、とても働きたいと回答しています。
働きたいけれども働けないような心理状態にあるんですね。自分の存在価値が極めて低いと思っているなかで、どうやって働いていけばいいのだろうかとか、社会のレールに戻ることは遠くの話だと思っています。
林 ひきこもりUX女子会は、2019年現在「キャラバン」という形で全国でも開催しています。いらっしゃっている方は、10代から60代までの女性で、延べ参加人数は3000人を越えました。
多くの方がもうやっとの思いで女子会にいらっしゃいます。外出の練習をしたり、建物の前まで来たけど部屋に入れなかったりする人もいます。
いじめや親子関係、職場のパワハラやセクハラ、DVの被害、性暴力の被害など、いろんな苦しさを抱えた方がいらっしゃるんですね。
そうした方々を見てきて、やっぱり誰でもひきこもりという状態に陥る可能性はあると思います。なので、一度ドロップアウトしたとしても戻れる社会だといいなと思います。たとえば、介護離職で正社員を辞めたとしてもまた正社員に戻れる状態や、週5日8時間勤務という働き方以外の働き方があれば、ひきこもりだけではなく、多くの人にとって参加しやすい社会になると思います。
・・・中編では、ひきこもり経験者が加害者となってしまった事件をめぐって、「ひきこもり=犯罪者予備軍」という偏見を問い直します。
【登壇者プロフィール】
大井 雄一
茨城県出身、県立水戸第一高校卒。愛媛大学医学部卒業後、初期研修医を経て筑波大学大学院に入学し現研究室で学ぶ。2012年博士課程修了、同年7月より現職。産業医として労働者のメンタルヘルス支援に携わる。内閣府「第23回世界青年の船」心理アドバイザー。フィンランド発祥の、対話による精神療法「オープンダイアローグ」の普及啓発に努め、ひきこもりやうつなどの様々なメンタルヘルス問題に悩む家族に対し、社会ネットワークの観点から対話による支援を継続している。医師、臨床心理士、労働衛生コンサルタント。社会医学系専門医協会認定指導医、日本産業衛生学会関東地方会代議員。著書に『公務員がうつになったら読む本』(学陽書房、共著)、『ストレス対処力SOC: 健康を生成し健康に生きる力とその応用』(有信堂、共著)など。オープンダイアローグのトレーナーとなるべく、トレーニングコースをヘルシンキで受講中(2020年2月修了)。
林 恭子
新ひきこもりについて考える会世話人/ヒッキーネット事務局/NPO法人Node理事。高校2年で不登校、20代半ばでひきこもりを経験する。信頼できる精神科医や同じような経験をした仲間達と出会い少しずつ自分を取り戻す。現在はNPO法人に勤務しながらイベント開催や講演などの当事者活動をしている。
ぼそっと池井多
1962年生まれ。幼少期より母親に精神的虐待を受け青年期以降にうつ病発症。23歳、企業から就職内定を受けてひきこもり始める。一橋大学卒業後、20代のそとこもり(海外ひきこもり)を経て30代以降うちこもり(国内ひきこもり)、社会から遠ざかる。生活保護利用者。治療を求めた精神医療から組織的な虐待を受け、治療者の検閲を経ない患者の声を社会に届ける「当事者発信」の重要性に目覚め、2013年VOSOT(ぼそっとプロジェクト)開始。現在ひきこもり当事者の声を社会に発信する一方、「ひ老会(ひきこもりと老いを考える会)」「ひきこもり親子公開対論」を開催し、ひきこもりの高齢化「8050問題」の解決の方向性を提案している。ひきこもり当事者メディア「Hikipos」などに執筆記事多数。
恩田 夏絵
1986年生まれ。小2から不登校。その後、ひきこもり、リストカットなどを経て定時制高校を卒業するが、“生きること”への希望を見いだせず、人生最期の旅のつもりで地球一周の船旅へ。様々なヒトと出会うことで“生きること”の多様さを実感。死ぬのをやめてピースボートに就職する。企画運営、デザインを担当する傍ら、2010年に洋上フリースクール『ピースボート・グローバルスクール』を開校。2014年からは当事者経験を活かして“人生と社会をリデザインする”をコンセプトに活動するクリエイティブチーム「ひきこもりUX会議」を主宰。
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