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R-SIC
2020/3/10(火)
ひきこもり当事者が求める“支援”のあり方
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2020/3/10(火)
ひきこもり当事者が求める“支援”のあり方
2020/3/10(火)

2019年、カリタス小学校の生徒や保護者らが殺傷された川崎殺傷事件や、元農林水産省事務次官が長男を殺害した痛ましい事件が起きた。

 

これらの事件に関連づけて「ひきこもり」についてもメディアで取り上げられることになったが、そのとき当事者たちはどんなことを考えていたのか。また彼・彼女らはなぜひきこもるのか。どのような支援が求められているのか。

 

恩田夏絵さん(一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事)をモデレーターに迎え、ひきこもり当事者であり、当事者活動を行う林恭子さん(一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事)と、ぼそっと池井多さん(VOSOT(チームぼそっと)代表)、対話による精神療法「オープンダイアローグ」の普及啓発に努める精神科医であり、産業医、臨床心理士の大井 雄一さんにざっくばらんに語ってもらった。

 

※本記事は、リディラバが主催する社会課題カンファレンス R-SIC 2019のセッション「ニュースでは教えてくれない『引きこもり』の真因」を記事にした後編です。

向き合うのではなく、同じ未来をみる

 恩田 夏絵  前回、2019年に起きた痛ましい事件をもとに「ひきこもり=犯罪者予備軍」という社会の認識についてお話してきました。今回はひきこもりについての社会の認識をどうしていくのか、社会でどう向き合っていくのか。支援のあり方についてもお話していきたいと思います。
 
 林 恭子  私たち「ひきこもりUX会議」(UXは、Unique eXperience=固有の体験を意味する)では、不登校、ひきこもり、発達障がい、セクシュアル・マイノリティの当事者・経験者らで集まる場をつくったり、情報発信をしたりしています。
 
私が支援者の方に向けてお話をさせていただくときにいつもお伝えしているのですが、支援というと、どうしても「支援する側」と「される側」というかたちで向き合うことになってしまうんですよね。そこには上下関係が出てきてしまう。

 

 

ひきこもり当事者の人たちのなかには、せっかく相談窓口に行ったけれども十分に話を聞いてもらえなかったとか、説教をされたという声が多かったんですね。

 

それは向き合ってしまうからだと思うんです。

 

向き合うのではなくて、横に並んで同じ未来を見る。本人がどうなっていきたいか、どんな未来になるといいのか一緒に考えて、そのためのサポートをしていく支援であってほしいと思っています。
 
ご家族や親戚、地域の方には、対等な立場の人としてごくごく普通に接してほしいです。とても困難な状況にはあると思うので、やっぱりサポートをしてくれる人がいることは心強いことだと思います。
 
 恩田  支援者側にいる大井さんは、今の話を聞いてどう思われましたか。
 
 大井 雄一  私は支援者を代表しているわけではないですが、支援と呼ばれるものに携わる者としては、十分な支援というものを提供できていない現状はきちんと受け止めなければいけないと思っています。

 

ひきこもっている人を無理やり部屋や家からひき出してくるような業者もいるんです。親御さんがそうした業者に高いお金を出して頼らざるを得ない状況があるので、そういった状況は改善していかなければならないなと。

 

 

また当事者の方と関わる際には、ヒエラルキーや権力というものをできるだけ排した場を作らなければならないと思っています。精神科医の斎藤環さんと「オープンダイアローグ」という、当事者や家族とともに医療者がチームで対話し支援を継続する場をひらいているのですが、そこではフラットな関係性を大事にしています。

 

「困り感」を持って訪れているのはクライアント(当事者)の方々であって、その問題を解くのも彼・彼女らです。
 
それからよく「自信を持て」と親が言うことがあるのですが、そう言われても無理ですよね。

 

「ペンを持て」と言われたらできますが、自信を持つというのは何かしらのプロセスの結果、訪れる状態でしかありません。たとえば、バイトでうまくいった、友だちをつくることができたといったプロセスの結果として自信を持つことができます。

 

 

草木の成長を願うときに、その草木を上から無理やり引っ張ったりしないじゃないですか。引っ張ったら抜けてしまいます。成長する力は草木がもっています。外からできることは、その草木にとって適切な光と水と肥料を与えることです。それと同じです。

 

支援者にできることは、現場にいる当事者の方々が自分のペースで、向かいたい方向に葉や根を伸ばせるような環境を準備することかなと思っています。

どんな支援が必要なのか分からない人も多い

 ぼそっと池井多  私が会ってきた当事者のなかには、「あなたはどういう支援が欲しいのか」と訊くと、答えられない人が多い。

 

社会が「就労支援が必要」というものだから、それにつられてそう答える当事者の方もいます。当事者が本当は何が必要だと思っているのかを、社会に通用する言葉に翻訳する人が必要になっていると思います。

 

私が欲しいものとしては、一般に考えられている支援よりも、まずはお金です。ひきこもりUX会議やVOSOTのように、実働している当事者活動がこれだけ盛んに行われているわけですから、そうした当事者活動を資金的に支援してくださるのが望まれます。

 

 恩田  私は(林)恭子さんと一緒に、ひきこもりUX女子会という生きづらさを抱えた女性自認の方に向けた当事者会をやっています。

 

北海道から沖縄まで全国を飛び回って今まで80回ほど開催し、延べ3000人ほどの方が参加しています。参加してくださる方のなかには、元気になっていく人もいます。

 

当事者会に来て、家族に申し訳ないと思っているといった、ずっと言えなかったことを吐き出すことができる。そして、その経験や想いに共感する人がいて、自分一人じゃなかったんだと実感することは大きいと思います。

 

感想として、自分で言語化できなかったことが言語化されてきたので気持ちの整理がついたといった言葉をいただくこともあります。
 


私たちは就労支援のための窓口につなぐことは基本的にありませんが、参加者が就労して女子会に来なくなることも少なくありません。あくまで当事者会なので、安心して安全に話せる場をつくっているだけですが、その環境のなかで自分なりに一歩一歩、道を歩んでいく人がいるという実感があります。

ひきこもりの人にどうやってアプローチするか

 恩田  私たちはひきこもりの方が集まる機会をつくっていますが、そこまで来ていただくのは簡単じゃないんです。なので、ひきこもりUX会議では、当事者の人にどのように情報を伝えるのか、どんな言葉をつかうのか、かなり気をつけています。

 

たとえば、予約は不要にします。予約しなければならない、それだけで行かない理由になりますから。

 

また、できるだけ多くの方に知っていただきたいと思って、大手新聞社から地方紙までいろんな媒体で記事を書いていただいています。

 

それから最近とても重要な情報ツールになっているのはTwitterです。Facebookは基本的に本名で登録するのでハードルが高いですが、Twitterは匿名でもできるので、使っている方も多いと思います。私たちもTwitterで当事者目線の言葉遣いを意識した発信をしています。

 

当事者の方々と接点を持つためには皆さんはどんなことに気をつけていますか。
 
 大井  ダイアローグの場にご家族のみがいらっしゃり「患者さんご本人」や「ひきこもっている当事者」の方はいらっしゃらない、という状況はよくあります。

 

そういう時、やはりご本人に来ていただくことが重要だと思われる場合ならば、「どうすればご本人に来ていただけるだろうか」という話をご家族と続けていくことがあります。

 

もう一つは、ご本人のいないところでその方の話をすることは基本的に禁止しています。

 

「たとえばここに椅子があったとして、ご長男が座って今日の話を聞いていらしたらどんなふうに仰ると思いますかね」と想像してもらうこともあります。ご本人の存在を意識するだけで普段の言葉遣いや態度、考える内容が変わっていく気がします。
 
 池井多  VOSOTの場合は、主に高齢化したひきこもりを対象としているものですから、あまりネットに頼らないようにしています。紙のチラシをたくさんつくって、地域の精神保健の相談窓口やひきこもり地域支援センターなどに置くように心がけています。

 

それから、これは行政への希望なのですが、地域の保健所や保健相談所で当事者会の受付をしてもらえると、もっと住民が参加しやすくなるかなと思います。
 
 林  一つだけ補足させていただきたいのですが、ひきこもりUX女子会では参加者の声などを掲載したブックレットをつくっています。

 

 

参加者の方がどんな必死の思いで参加しているのか漫画でも伝えています。

 

なぜこうしたものをつくっているのかと言うと、まだ家を出られない、遠くて行けないという方にも「あなたは一人じゃない」ということをとにかく伝えたいと思っているんです。

 

参加者のなかには、新聞の記事で当事者会のことを知って、その記事をずっと持っていて、3年経ってやっと来れたという方が少なくないんです。なので、当事者会などにすぐに来れない方がいることを踏まえて、どうやって情報を届けていくか考えることも大切だと思っています。
 
 恩田  ありがとうございました。あるひきこもり経験者の方は、「社会の偏見がひきこもりを殺してきた、人を殺してきた側面があると思う」と仰っていました。

 

第一回で人々が動いていない時間帯にやっと自分の存在があってもいいと思えるという話がありましたが、それほどまでに自尊心が低い状態にもかかわらず、さらに社会が追い打ちをかけていくことがあります。

 

ではその社会とは何なのかと考えたときに、人間の集合体が社会なのであれば、まさに「私たち一人ひとりがどういうふうに生きていくか」が問われています。

 

どんな言葉を使うのか、どんな発言をするのか、どんな行動をするのか、何にお金を使うのか、それらが集まって社会というものになっていく。なので今回の登壇者の方のお話をもとに、みなさんもどんな発信や行動をしていくのかご自身のなかで落とし込んでいただければと思います。

 

 

 

【登壇者プロフィール】

 

 大井 雄一 

茨城県出身、県立水戸第一高校卒。愛媛大学医学部卒業後、初期研修医を経て筑波大学大学院に入学し現研究室で学ぶ。2012年博士課程修了、同年7月より現職。産業医として労働者のメンタルヘルス支援に携わる。内閣府「第23回世界青年の船」心理アドバイザー。フィンランド発祥の、対話による精神療法「オープンダイアローグ」の普及啓発に努め、ひきこもりやうつなどの様々なメンタルヘルス問題に悩む家族に対し、社会ネットワークの観点から対話による支援を継続している。医師、臨床心理士、労働衛生コンサルタント。社会医学系専門医協会認定指導医、日本産業衛生学会関東地方会代議員。著書に『公務員がうつになったら読む本』(学陽書房、共著)、『ストレス対処力SOC: 健康を生成し健康に生きる力とその応用』(有信堂、共著)など。オープンダイアローグのトレーナーとなるべく、トレーニングコースをヘルシンキで受講中(2020年2月修了)。

 

 林 恭子 

新ひきこもりについて考える会世話人/ヒッキーネット事務局/NPO法人Node理事。高校2年で不登校、20代半ばでひきこもりを経験する。信頼できる精神科医や同じような経験をした仲間達と出会い少しずつ自分を取り戻す。現在はNPO法人に勤務しながらイベント開催や講演などの当事者活動をしている。

 

 ぼそっと池井多 

1962年生まれ。幼少期より母親に精神的虐待を受け青年期以降にうつ病発症。23歳、企業から就職内定を受けてひきこもり始める。一橋大学卒業後、20代のそとこもり(海外ひきこもり)を経て30代以降うちこもり(国内ひきこもり)、社会から遠ざかる。生活保護利用者。治療を求めた精神医療から組織的な虐待を受け、治療者の検閲を経ない患者の声を社会に届ける「当事者発信」の重要性に目覚め、2013年VOSOT(ぼそっとプロジェクト)開始。現在ひきこもり当事者の声を社会に発信する一方、「ひ老会(ひきこもりと老いを考える会)」「ひきこもり親子公開対論」を開催し、ひきこもりの高齢化「8050問題」の解決の方向性を提案している。ひきこもり当事者メディア「Hikipos」などに執筆記事多数。

 

 恩田 夏絵 

1986年生まれ。小2から不登校。その後、ひきこもり、リストカットなどを経て定時制高校を卒業するが、“生きること”への希望を見いだせず、人生最期の旅のつもりで地球一周の船旅へ。様々なヒトと出会うことで“生きること”の多様さを実感。死ぬのをやめてピースボートに就職する。企画運営、デザインを担当する傍ら、2010年に洋上フリースクール『ピースボート・グローバルスクール』を開校。2014年からは当事者経験を活かして“人生と社会をリデザインする”をコンセプトに活動するクリエイティブチーム「ひきこもりUX会議」を主宰。

 

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