※本記事には、地震災害や被害に関する記述があります。実態をお伝えするために生々しい事例やデータも紹介しているため、フラッシュバックやPTSD(心理外傷後ストレス障害)を懸念される方は、十分に注意しながらご覧ください。
「『神戸は終わったな。もう、再生できひんのちゃうか。これから、どないするんやろうな』
そんなことを考えていましたね。
一軒や二軒燃えて潰れたりするのではなくて、都市全体が、町の中心部が木っ端みじんにやられている。あまりの被害の大きさに、次から次へ消火と救助をしながら『どないかならなかったんかいな』と感じていました」
未曾有の大災害、阪神・淡路大震災から2025年で30年。当時神戸市の消防局に勤務していた野村勝さんは、消火・救助活動に当たった時の心境をこう語った。
人と防災未来センター「語り部」。阪神・淡路大震災当日は神戸市垂水消防署の消防司令補として当直。震災後は「新長田北安心安全コミュニティ推進協議会」や「細田・神楽まちづくり協議会」の会長を務め、復興まちづくり活動にも従事した。
写真提供:神戸市
写真提供:神戸市
6,434人が亡くなった阪神・淡路大震災。被害が大きくなった要因は「住宅の倒壊」にある。約10万棟、およそ19万世帯の住宅が倒壊、地震直後に亡くなったと推定される約5,500人のうち、その9割近くは建物の倒壊による圧死が死因であった。
住宅の倒壊は直接住人の生命を奪っただけではなく、崩れた家に火が燃え移ることで火災延焼の原因になり、さらには道路をふさぐことで消火・救助活動の遅延をもたらし、町全体の被害を拡大させる原因にもなった。
写真提供:神戸市
日本では1995年の阪神・淡路大震災以降、2024年元旦に起きた能登半島地震や2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)など、震度7を観測した地震が7回発生。大きな地震が起こるたびに家屋が倒壊し、人が亡くなった。
家具の固定や避難リュックの準備など、さまざまな地震の備えが紹介されている。しかし、自分の住んでいる家が倒れてしまい、その下敷きになってはそれらの備えは意味をなさない。
耐震化は地震の人的被害を大きくする要因である家屋倒壊を減らすための最優先事項だ。住人が地震を生き残り、その後に生活を立て直すための、誰にとっても最重要な地震対策でもある。火災を減らすことで、住人の命だけでなく、その地域に住む住民たちの命を守ることにもつながる。
リディラバジャーナルの構造化特集。今回のテーマは「住宅の耐震化〜誰もが当事者、“最優先”の地震対策はなぜ進まないのか〜」。
取材やデータを通し、住宅の耐震化が進めば住人の生命は守られ、町全体の被害も減ることを明らかにする。
また、資金や情報の不足によって自宅を耐震化できず、地震発生時に倒壊する可能性がある住宅に住み続けている人々がいる。重要かつ効果的であると分かっている住宅の耐震化がなぜ進まないのか。自治体の支援のあり方や建設業界の問題にも触れながらその要因も考えていく。
何度も多くの命を奪った「古い耐震基準」の実態
地震が発生し、住宅の倒壊をはじめとする甚大な被害が出ると「大きな地震だったから被害も大きくなった」と思ってしまいがちだ。しかし、「地震の大きさ」と「被害の大きさ」は分けて考えるべきであると東京大学の平田直名誉教授は指摘する。
東京大学名誉教授。観測地震学を専門とし、地震調査研究推進本部地震調査委員会委員長、気象庁南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会会長、地震防災対策強化地域判定会会長を務める。
著書:『地震を知って震災に備える』(亜紀書房)、『首都直下地震』(岩波書店)、『巨大地震・巨大津波 ─東日本大震災の検証─』(朝倉書店)。
「『地震の発生』と「『地震によって発生する被害(震災)』、この2つはきちんと区別する必要があります。
地震というのは地下で岩石がずれるように破壊される物理現象です。世界中で起きている地震の約2割が、日本の内部及びその周辺で起きていると言われています。
地震によって地盤が揺れたときに、揺れによる力に耐えきれないと建物は倒壊してしまいます。耐震化されていない建物が多い地域で地震が発生すると、倒壊する建物が多くなり、結果として被害も大きくなってしまうのです。
能登半島地震においても多くの住宅が倒壊し、一瞬でおよそ200名の尊い命が失われました。耐震化して建物が地震に耐えられるようにしていれば助かった命かもしれません。
また、災害関連死も増えています。要因の一つに避難所の生活環境の悪さや避難の長期化が指摘されていますが、なぜ避難所に行かなくてはいけないのかというと、家が壊れて住み続けられないからです。
住宅を耐震化して地震が起きても生活機能を維持できるように強化することは、『命を守る』だけではなくて『命をつなぐ』という意味で、災害関連死を減らすという観点からも非常に重要なことです」
耐震化の効用性を表すデータもある。次のグラフは阪神・淡路大震災において被害が大きかった地域の一つ、神戸市中央区において建造物の被害状況を調査したデータである。1981年は耐震基準が変わった年であり、建築物が建てられたのがそれ以前か以後かで被害状況が異なっていることが分かる。
1981年以降の新しい耐震基準では震度6強や7の大きな揺れを伴う地震に対して住宅が倒壊しないように基準が強化された。たとえば木造住宅では「必要な壁の量」を古い耐震基準の「1.4倍」にすることで地震の揺れに耐える力を増すことを求めている。
耐震化の重要性が改めて指摘され、阪神・淡路大震災があった1995年末には、古い耐震基準で造られた建物の耐震診断・補強を進めることを目的とした耐震改修促進法が成立。法律では自治体に対して住民の耐震化に関する相談に乗ることや、情報提供する窓口を設けることなどを求めている。
日本各地で住宅の耐震化が進み、地震が起きても建物が倒壊せずに人的被害を減らすことが期待されていた。
しかし、2016年の熊本地震や2024年の能登半島地震においても、阪神・淡路大震災と同じように、古い耐震基準で建てられた家が倒壊し、人的被害が発生した。
地球上の地震の2割が発生している地震大国、ニッポン。大きな地震が発生し、多くの家屋が倒壊することによって甚大な被害が生じている。特に「旧耐震基準によって建てられた建物」の被害が大きく、阪神・淡路大震災(1995年)、熊本地震(2016年)、能登半島地震(2024年)などの地震被害を受けて、耐震化の遅れが何度も指摘されている。
第一章では事例やデータを踏まえながら、家屋倒壊の実状や被害を繰り返してきた現実について明らかにする。
資金や情報の不足により、住人が耐震化を諦めてしまう構造
地震災害によって生じる人的被害を減らすという観点で、住宅は特に耐震化を進めるべき建造物の1つだ。また、公共施設や商業施設と違い、住宅は住人に意思決定権があり、住人が自ら動かなくては耐震化が進まないという側面もある。
そこで、本特集では「住宅の耐震化」に焦点を当て、住人がなぜ耐震化をできないか、あるいは自治体などの関連機関の支援の手はなぜ届かないか、その要因が構造的に生じる様子を見ていく。
日本では今どのくらい住宅の耐震化が進んでいるのだろうか。
耐震化の進み具合を表す指標の一つが、全ての住宅に対し、耐震性がある住宅の割合を表す「耐震化率」だ。
2024年の調査では全国約5,570万戸ある住宅のうち、10%にあたる約570万戸が「耐震性不十分」であると判明した。これは神奈川県や大阪府の全住宅数よりも多い数値である。
これらの住宅に住む人々は、大きな地震が来たら自宅の倒壊によって命を落とすかもしれない危険性に、今この瞬間もさらされ続けている。さらに、倒壊によって火災や道路をふさぐ原因となることを踏まえると、耐震性が不十分な住宅は地域住民の安心・安全を損なう可能性もある。
いつ・どこで大地震が起きるか分からない日本において、耐震性が不十分な住宅を無くすことは重要な課題である。国土交通省は2030年までに耐震性が不十分な住宅をおおむね解消することを目標としている。
2019年には、「なぜ耐震化を行わないか」その意識を問うアンケート調査が国土交通省によって実施された。74.7%の人が「費用負担が大きいから」と答えている。
日本建築防災協会が2020年に行なった調査によると、木造で2階建ての住宅を改修する場合、平均して180万円ほどの費用がかかることが分かった。
決して安くはない費用に耐震化を諦めてしまう住民も多い中、各自治体では補助金を設けたり、情報提供などの支援を行なっている。住宅の構造といった専門的な知識は素人では判断しづらいという背景もあり、「耐震化をしたいと少しでも思ったら、まずは自治体の窓口へ相談を」と日本建築防災協会の担当者は呼びかける。
自治体が手厚く耐震化をサポートしても、住民が耐震化に乗り気ではない現状もある。
住宅の耐震化が進まない実態には人間の認知上の特性や問題もあると、東京大学の廣井悠教授は自身の研究も踏まえながら述べる。
東京大学・教授。1978年10月東京都生まれ。専門は都市防災、都市計画。内閣府「首都直下地震帰宅困難者等対策検討委員会」座長、内閣官房「防災庁設置準備アドバイザー会議」専門委員等も務める。
著書:『知られざる地下街』(河出書房新社)『これだけはやっておきたい!帰宅困難者対策Q&A』(清文社)。
「『30年以内に地震が起こる確率は◯◯%』と言われたときに、自分ごととして捉えられる人はそう多くありません。
たとえば降水確率なら30%、50%、70%の場合で傘を持っていくかどうかということを、何回もトライアンドエラーしているから、自分の経験で判断できます。ただ地震となると非常に発生頻度が低いため、自分の経験に基づいて正しく判断する、ということがなかなか難しいわけです。人間は不確実な未来に対してお金を出さないという特徴があることも知られており、そうした認知的な特性も耐震化を拒んでしまう人が出る要因の一つであると考えられます。
また、私が以前行なった研究では『耐震化しても大地震にあえば被害は避けられないから』という理由で『耐震化工事をしない』と回答している人の存在が明らかになりました。さらにその方々の個人属性を調べると、『高齢かつ年収が低い』という属性に当てはまる方が多いということが分かりました。
『地震は怖いから耐震化しなくてはいけない』という認知と『耐震化する経済的な余裕がない』という認知の双方が正しいとき、認知的に居心地の悪い状態(『認知的不協和』)になります。すると、どちらかの認知を消そうとする働きが起こるのですが、お金がないことは誰の目に見ても明らかなので、『地震は怖い』という認知の方を消してしまうのです。
このような認知になると、せっかく行政やメディアの方が出してくれたリスク情報も心理的に拒否されてしまいます。したがって、危険性や重要性に関する情報を伝えるだけではなくて、改善行動を促すような、たとえば補助金や助成の情報だとか、『自分もできる』と思ってもらえるような情報をセットで出すことが重要です」
マンパワー不足や財政難が原因で情報提供や補助金が充分に行えていない自治体もある一方で、廣井さんが調査対象とした静岡県はメディアミックスの手法を取り入れて入念に耐震化をサポートしている。4回の記事では多角的に耐震化を支援する自治体の事例も紹介する。
耐震化が進まない背景にはさまざまな理由で耐震化を諦めてしまう人々の存在や、自治体の支援や情報が届かないという事情がある。
第二章においては人間の認知特性も含め、幅広い視点から耐震化を諦めてしまう構造を考える。
耐震化のハードルをさらに上げる、合意形成の困難さや過疎などの問題
1つの建物を複数人で所有・管理するマンションは戸建て住宅とはまた違う耐震化の難しさがある。岡本正弁護士は分譲マンションにおける合意形成の難しさを次のように語る。
銀座パートナーズ法律事務所。弁護士。博士(法学)。気象予報士。新潟大学研究統括機構客員教授。岩手大学地域防災研究センター客員教授。防災科学技術研究所客員研究員。人と防災未来センター特別研究調査員。慶應義塾大学や青山学院大学の講師も務める。内閣府出向や日弁連災害対策本部の経験を活かし「災害復興法学」を創設。
著書:『被災したあなたを助けるお金とくらしの話 増補版』(弘文堂)『災害復興法学Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』(慶應義塾大学出版会)ほか。
「マンションの耐震化が進まない大きな要因は、合意形成の困難さにあります。例として耐震改修、つまり建物を残してマンションを耐震化する場合を考えてみます。
分譲マンションのような、1つの建物を区分して複数人で所有する場合のルールを定めたものに『区分所有法(正式名称:建物の区分所有等に関する法律)』があります。
マンションを耐震改修する場合、共用施設の撤去や大規模な形状変更工事を伴うことが多いため、現在の区分所有法では『共用部分の重大な変更』に該当する可能性があり、議決については、原則として、『区分所有者とその議決権の各4分の3以上』の賛成が必要となるなど、要件として重たいルールが定められています。
そもそも『多額の資金が必要だから耐震化に反対だ』という人も多くいると思われますので、計画の必要性や合理性などを説明し賛成してもらうにも労力がかかります。
また、耐震化の工法によっては居住スペースが狭くなったり、眺望に著しい影響が出たりすることもあります。そのようなケースでは『共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼす』と評価される可能性があり、当該区分所有者の個別同意が必要な場合も出てきます」(※2025年5月1日時点)
耐震化のハードルを上げるのは合意形成だけではない。過疎や少子高齢化などの問題も耐震化の普及を遅らせる原因となっている。
2024年1月1日に発生、584人が犠牲となった能登半島地震(5月1日記事制作時点、内356人は災害関連死)。名古屋大学の福和伸夫名誉教授は被害が大きくなった要因の一つとして社会的条件による耐震化の遅れを指摘する。
名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長。ハンドルを回して振動を作り、模型を揺らすことで耐震や免震の仕組みを知ることができる「ぶるる」を開発した。あいち・なごや強靭化共創センター センター長や地震調査研究推進本部、政策委員会 委員長も務める。
著書:『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』(時事通信社)『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信社)ほか。
「『高齢化・過疎化=耐震化は進まない』と言っても良いと思います。
輪島や珠洲は人口が、最も多い時の4割になっています。高齢化も進んでいましたし、人口流出による過疎化も深刻でした。こういう状況ではその家に住み続ける現役世代がいないため、建て替えによって住宅を耐震化できないわけです。
過疎化しているところは日本中にいっぱいあって、あちこちで人口が激減しています。能登で起きている現実は日本の未来を示していると思わなくてはいけません」
石川県ホームページから
住宅は補強を行う「改修」か「建て替え」によって耐震化される。都心部は人口流入が多く、住宅の需要が高いこともあり、古い建物が新しい建物に建て替えられるいわば「建物の代謝」が高い傾向にある。地方は逆に、古い建物がそのままになり、耐震化が進まない。
福和さんも「耐震化率は耐震化に対する自治体や住民の努力を反映した値ではなく、高齢化率や人口流入も強く影響している」と指摘する。
過疎や高齢化は財政の悪化の要因となり、自治体のリソースが減少することで耐震化の支援が滞る遠因にもなっている。さらに、取材を進める中で
「耐震化に対する支援額を上げて利用者数が向上したが、近年の物価高で利用が減少してしまった」
「地方では地価が下がりすぎて、建て替えることも改修することも、どうすることもできない物件がある」
といった事象が耐震化にも影響している実態も明らかとなった。
耐震化が進まない要因は利害関係者の多さや過疎・高齢化など、住人だけでは解決が困難な問題が関わっていることもある。
第三章では過疎や高齢化など地域や社会で起きている問題が住宅の耐震化をさらに困難なものにしている現状を見ていく。
冒頭で阪神・淡路大震災の実態を述べた野村勝さんは今、語り部をしている。震災の記憶を語りながら、自助の大切さも伝えている。
「消火・救助活動中、助けられなかった命もたくさんありました。
神戸市では八万軒以上の家が潰れましたが、当直の隊員は300人ですから、全部の現場へは行けませんでした。阪神・淡路大震災のとき消防、警察、自衛隊で助けた命は、全体の5%程度。他の95%は地域の住民が助けたんです。
一番大事なのは、自分の命を自分で守る。
それを守れない場合は、隣近所の人が共助で守ってあげる。それでも守れない人は公助で守ることになりますが、あまりにも被害が大きすぎた場合はどれだけ待っても来てないかもしれない。
公助にも限界があるという経験をしたからこそ、『まず大事なのは自分で自分の命を守ることやで』という話を僕はいつもしています」
住宅の耐震化はその重要性や有効性から地震防災や自助における、誰もが最優先に取り組むべきこと、「一丁目一番地」であると言われる。
本特集では住宅の耐震化が進まない構造を明らかにし、住民や自治体が「住宅の耐震化」を後回しにしないことで、いつか必ず起きる巨大地震が引き起こす被害を少しでも減らすためには何が必要か考える。
各記事の紹介
【1章 地震による住宅倒壊の実状】
<1回 “我が家”が奪った命と町並み 阪神・淡路大震災の実態から見る住宅倒壊の現実>
阪神・淡路大震災の後、「もっと住宅の耐震化を進めるべきだ」という声があった。しかし、それらの教訓を生かしきれずに熊本地震や能登半島地震でも住宅の倒壊による被害が起きてしまった。
阪神・淡路大震災の事例をもとに住宅が倒れることによって起こった被害の実態を明らかにし、地震の揺れを受けても住宅を倒壊させないことの重要性を明らかにする。
<2回 倒れなかったのは偶然ではない——。築年数で分かれた被害の明暗>
自然現象である地震は止めることはできない。だが、耐震化をすることによって住宅の被害は最小限に防ぐことができる。
阪神・淡路大震災の被害を調べたある調査では、「1981年以前に建てられたかどうか」によって被害に差があることが判明した。2016年の熊本地震や2024年の能登半島地震でも同様の傾向が現れている。
なぜ建築時期によって被害の状況が変わるのか。過去に起きた地震の事例から、住宅の耐震化について重要性や効果を考える。
【2章 住宅の耐震化が進まない構造】
<3回 “危険な家”に住み続ける住人たち——。耐震化を諦める要因とは>
内閣府が2017年に行った調査では、「大地震が起こったとしたら、どのようなことが心配か」という質問に対し回答者の72.8%が「建物の倒壊」をあげている。一方、「耐震調査」を行っていると回答したのは28.3%だった。
倒壊が恐ろしいことであると多くの住民が分かっているのに、それを防ぐための耐震化が進まないのはなぜか。データや学術的な知見をもとに耐震化が進まない理由を考えていく。
<4回 「お金がない」「どうせ助からない」——。諦める住民と自治体の苦悩>
全ての自治体が、耐震化の普及に注力したり、手厚く補助できているわけではない。さらに、せっかく補助を用意していても、住民に認知されず、届かないケースもある。
住宅の耐震化を進めるために自治体は何をしているのか。どのようなサポートをして、どのくらい効果があるか。先進事例を踏まえながら考えていく。
さらに、「耐震化しても大地震にあえば被害は避けられない」と考えてしまう住民の存在も明らかにし、耐震化を諦めてしまう人々の命をどのように守るか、その糸口も探る。
<5回 隣人を説得できるか——。“人が多い”共同住宅ならでは、合意形成の困難>
利害関係者が時に1,000人以上におよぶ共同住宅においては、意見を一つにまとめる合意形成が耐震化のハードルとなることがある。
「ローンの支払いだけでも大変だから耐震化にお金はかけられない。」
「もう何年も住まないから余計なお金は払いたくない。」
多様な思いを抱えた住人同士が、どのように合意形成をし、命を守る選択を取れるか。その可能性や課題を考える。
【3章 地方における耐震化の課題】
<6回 能登半島地震より考える防災の未来——。過疎や高齢化を前提として命を守るためには>
建物の需要が高く建て替えのスピードが早い都会では、古い耐震基準の家屋が壊され、新しい耐震基準で建てられることにより、自ずと耐震化率が高くなる傾向にある。
一方、地方では高齢者のみが暮らす家屋や住民流出による空き家も多く、耐震化しなくてはならない建物がそのままになっているケースもある。
過疎や高齢化などの問題によって耐震化が進まなくなる構造を明らかにし、そのような状況下でも住民の命を守るためにはどうすれば良いかその方策を探っていく。
※本記事に関し、以下の箇所に事実誤認が認められたため修正いたしました。
・2025年5月16日
修正前:「国土交通省は2030年までに住宅の耐震化率を「100%」、すなわち耐震性が不十分である住宅を「0戸」にすることを目標としている」
修正後:「国土交通省は2030年までに耐震性が不十分な住宅をおおむね解消することを目標としている」
・2025年5月17日
グラフ「木造住宅の建築時期別の被害状況(能登半島地震)」
1
修正前:「1981年以前の大破」の数値 「676棟(19.08%)」
修正後:「1981年以前の大破」の数値 「676棟(19.8%)」
2
修正前:「1981年~2000年の軽微・小破・中破」の数値 「505棟(56.5%)」
修正後:「1981年~2000年の軽微・小破・中破」の数値 「505棟(56.6%)」
3
修正前:「1981年~2000年の倒壊・崩壊」の数値 「48棟(0.7%)」
修正後:「1981年~2000年の倒壊・崩壊」の数値 「48棟(5.4%)」
※以下の箇所に誤字が認められたため修正いたしました。
・2025年5月29日
グラフ「最大震度7を観測した地震」
修正前:「※3 2020年12月以降の一連のの地震活動を指す」
修正後:「※3 2020年12月以降の一連の地震活動を指す」
