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構造化特集
住宅の耐震化 第6回
公開日: 2025/7/16(水)
更新日: 2026/8/3(月)

「どこに住むか」で決まる住民の安全──。“安心の格差”を考える

公開日: 2025/7/16(水)
更新日: 2026/8/3(月)
構造化特集
住宅の耐震化 第6回
公開日: 2025/7/16(水)
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更新日: 2026/8/3(月)
構造化の視点

地震災害において被害をもたらす要因の一つに、住宅の倒壊

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地震災害において被害をもたらす要因の一つに、住宅の倒壊がある。耐震化をすることで倒壊は防ぐことができるが、日本の住宅のうちおよそ1割は耐震性が不十分である。住民が抱える金銭的な不安や心理的な背景、さらには地方自治体が抱える問題などから耐震化が進まない構造的な背景を明らかにする。

地震災害において被害をもたらす要因の一つに、住宅の倒壊がある。耐震化をすることで倒壊は防ぐことができるが、日本の住宅のうちおよそ1割は耐震性が不十分である。住民が抱える金銭的な不安や心理的な背景、さらには地方自治体が抱える問題などから耐震化が進まない構造的な背景を明らかにする。

地震災害において被害をもたらす要因の一つに、住宅の倒壊がある。耐震化をすることで倒壊は防ぐことができるが、日本の住宅のうちおよそ1割は耐震性が不十分である。住民が抱える金銭的な不安や心理的な背景、さらには地方自治体が抱える問題などから耐震化が進まない構造的な背景を明らかにする。


オーディオブック(ベータ版)

リディラバジャーナル構造化特集「住宅の耐震化~誰もが当事者、最優先の地震対策はなぜ進まないのか~」。

 

第6回となる本記事では過疎から考える耐震化の課題(3章)として、過疎が耐震化の進まない要因になっている実態について探る。

 

 

四国の南西部にある高知県黒潮町はカツオ漁が盛んな海の街である。太平洋に面しており、これまで幾度となく津波に見舞われてきた。最新の想定によると、最悪のケースでは高さ34mの日本最大級の津波が来ることも想定されている。

 

「避難放棄者ゼロ・犠牲者ゼロ」を目指す黒潮町は住宅の耐震化にも力を入れているが、そこには「住民が津波から避難できるようにするため」という目的もある。住宅の耐震性が十分でないと、家が倒れるなどして避難に時間がかかってしまい、津波から逃げられなくなってしまうからである。

 

黒潮町のように本腰を入れている自治体もある一方で、なかなか耐震化が進まない自治体もある。これまでの記事で紹介してきた住民や自治体で起きている構造的な問題に加え、「過疎」も大きく影響している。実際に、都心部と比べると地方では耐震化率が低くなる傾向にある

 

過疎は様々な要因が複合的に重なって起こる問題であり、住民や自治体の努力だけでは解決が難しい。過疎が耐震化に影響することにより、「どこに住んでいるか」で「どのくらい安全か」が決まる、いわば「安全の格差」が生じている

 

なぜ、地方では耐震化が進まないのか。地方で深刻な問題となっている過疎が耐震化に影響を与える構造を見ていく。

過疎がもたらす「耐震化の遅れ」や「負けの不動産」という問題

「能登半島地震の被災地においては、高齢化や人口流出による過疎が進んでいました。このような状況では、家に住み続ける現役世代がいないため、建て替えによって住宅を耐震化することができません。

 

過疎化しているところは日本中にいっぱいあって、あちこちで人口が激減しています。能登で起きている現実は日本の未来を示していると思わなくてはいけません

 

耐震化が進まない現状についてそう話すのは、第2回の記事で「社会的条件による耐震化の遅れ」など、能登半島地震の被害が拡大した要因を指摘した名古屋大学の福和伸夫名誉教授だ。

 

福和伸夫さんの写真

福和伸夫(フクワ・ノブオ)
名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長。ハンドルを回して振動を作り、模型を揺らすことで耐震や免震の仕組みを知ることができる「ぶるる」を開発した。あいち・なごや強靭化共創センター センター長や地震調査研究推進本部、政策委員会 委員長も務める。
著書:『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』(時事通信社)『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信社)ほか。

 

実際に耐震化率と過疎の分布を見比べると、内陸部や半島部など、過疎関係市町村に指定されている地域で耐震化が進んでいない現状が明らかになる。

 

耐震化率と過疎関係市町村分布図の比較

 

福和さんはさらに、過疎が住宅の耐震化に与える影響についてこう続ける。

 

「耐震化率は棟数ではなく戸数ベースで全国平均の値を公表しており、人口が多いところの状況が反映されています。

 

人が集まるところは新築のマンションが多く、建て替えが進みますから、何の努力をしなくとも耐震化率が上がります。一方、過疎化しているところは家を建て替える人が少なく、古い家がそのまま残ってしまうため、耐震化率が上がりづらい傾向にあるのです

 

また、古い建物のうち戸建て住宅は4割、集合住宅は7割を耐震性があると仮定して算出されているようです。本当にこの仮定が成り立っているのか、疑問は残ります。

 

耐震化率は『全住宅(戸数)のうち、どの程度耐震性の不十分な住宅があるか』という指標であり、『地震が起きたときにどの程度被害があるか』という人の生死について被害を想定する上では役に立ちます。

 

一方で『自治体や住民がどのくらい努力しているか』という実態は耐震化率だけでは分かりません。耐震化率には高齢化率や人口流出率も大きく影響します。自治体や住民の努力が報われるとは限らない指標なのです」

 

耐震化率は本来の役割を超えて「努力の結果を示す指標」、例えば自治体間の比較の対象にされることがある。しかし、耐震化率は行政だけの問題ではなく、住民や産業界などの問題も絡まっているので留意が必要である。

 

過疎も耐震化率に影響している。そして、過疎に由来する「建て替えがされない」という住宅事情が、耐震化を進まなくさせる要因の一つとなっている。また、第4回の記事で紹介したように、財政や人手など、自治体のリソース不足も耐震化が進まない要因となるが、過疎はそのリソース不足の原因にもなる。

 

さらに、過疎は地価の低下をもたらし、「住宅の資産価値」にも影響を与える。マンション建替え研究所 特任研究員の大木祐悟さんは地方における「負けの不動産」の実状を指摘する。

 

大木祐悟さんの写真

大木祐悟(オオキ・ユウゴ)
旭化成不動産レジデンス株式会社 マンション建替え研究所 特任研究員。定期借地権推進協議会運営委員長も務める。1983年に旭化成工業株式会社に入社、1992年からは不動産コンサルティング業務に従事。2011年に旭化成不動産レジデンスに転籍。
著書:『災害が来た! どうするマンション』(ロギカ書房)『最強 マンションの購入術』(ロギカ書房)『マンション再生 経験豊富な実務家による大規模修繕・建替えの実践的アドバイス』(プログレス)ほか。

 

「地方の、地価が比較的安いところに建っているマンションの中には、建て替えもできず、売却もできないマンションがあります。

 

その要因の一つが、建物の解体費がその土地の地価を上回ってしまう状況です。『地価が1億円だが、建物を解体すると2億円かかる』という状態では、マイナス1億円のいわば『負けの不動産』になってしまいます。

 

2010年代後半、滋賀県野洲市にある通称『廃虚マンション』がメディアで話題になりました。外壁がボロボロになっているなど、危険な状態で放置されていたマンションです。行政が公費で建物を解体し、1億円ほどの費用がかかりました。(※1)

 

人が住めないくらいに老朽化したマンションも、費用が足りなければ解体することはできません。マンションを放置した結果、誰かが被害を受けたとすると、人命を損なう恐れがあり、さらに賠償責任が生じる可能性もあります。

 

東京など、地価が高いところであれば土地の売却益で解体費用を賄えます。しかし、地価が低いところでは土地の売却益だけでは費用が足りず、所有者が解体費用を負担しなくてはならないところもあり、『所有していること』がリスクになる場合もあるのです

 

過疎は地価の低下を招き、建て替えも売却もできない「負けの不動産」も生み出している。

 

一方で耐震性が不十分な住宅や古い建物を放置しておけば、大きな地震が起きた際に被害を拡大させ、復興が遅れるなどして、より過疎を深刻化させる要因にもなり得る。

 

「卵が先か、鶏が先か」のジレンマのように、過疎と住宅の問題は密接につながっている。

 

※1:野洲市都市建設部住宅課「区分所有建物の空き家に対する行政代執行の事例について」によると「行政代執行に要した費用」は「118,132,460円」であった。

「できない」を「できる」に変える——。「ベター」で進める地震対策

過疎は一朝一夕に解決する問題ではない。一方、巨大地震がいつ来るか分からない以上、過疎がある状態でも住宅の耐震化は進めなくてはならない。

 

住民の命を守るためにどんな工夫ができるだろうか。その糸口を探る。

 

section1で過疎と耐震化の関係を語った福和さんは、著書『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』(時事通信社)で高知県の事例を取り扱った。

 

甚大な被害が想定されている南海トラフ地震。高知県の一部地域では揺れの大きさが震度7に達し、黒潮町のように発生する津波の高さが30mを超えると想定されている地域もある。

 

その高知県で耐震化に向き合っている人々の様子は「ホンキになった高知の人たち」として書籍の中で紹介されている。なぜ本気になったのか。どのように取り組んでいるのか。その様子を福和さんは語る。

 

「本気になった背景には『津波』があります。津波から逃げるためにはケガをしてはならず、ケガをしないためには住宅を地震の揺れに耐えられるようにする必要があるからです。

 

ケガをしないことが目的ですから、見栄えがするような立派な改修ではなく、命を守って逃げられるような最低限の補強さえすればいいわけです。

 

さらに、お年寄りも多く、費用を出せない方がいるため、『安くしないといけない』『簡単に補強できるようにしなくてはいけない』という発想になります。

 

その結果、住民に対する補助は『費用の8割まで、○○万円以下』という部分的なものではなく、『最大165万円までは全額補助』というある程度の金額までは全額補助できる形にしました。さらに、安価な耐震改修の工法も導入し、住民が安心して耐震化できるようにしています

 

また、他の地域では公平性の面などから耐震診断と補強は別々の業者がやっていますが、高知県は一気通貫、診断と補強の連続性を確保できるようにしました。地元の人が潤わないと良くないから、地元の大工さんが仕事が取りやすくなるように制度を変えたんですね。

 

『津波で流されてしまうかもしれないけど、逃げることはできて、命は最低限助かるようにしよう』と覚悟を決めて、本気で取り組んだからこそ、結果として耐震化が進んだのだと思います」

 

津波から人々の命を守りたい」という住民と行政の共通認識が、「安全に逃げるための耐震化」という明確なゴール設定につながった。その結果、「安く」「簡単に」など、耐震化のハードルを下げる工夫がなされた

 

意識だけでは「進まない住宅の耐震化」という問題の改善は難しい。高知県の事例は、目的を明確にすることや現実的な選択肢を用意することの重要性を示唆している。

 

第4回の記事では、やむを得ない事情で耐震化ができない場合の、住民の選択肢を用意する静岡県の事例を紹介した。県が作成した図には「耐震化以外の『命を守る対策』を実施する」方法として住み替え(耐震性のある住宅への引っ越し)や防災ベッドの設置が記載されており、それらに対しても補助金を出している。

 

さらに、その選択肢の一つに「耐震シェルター」がある。住宅全体の耐震性を改善することはできないが、部屋単位など、部分的に安全性を高めることができる。一般社団法人耐震住宅100%実行委員会の松延隆行事務局長は、共同開発した耐震シェルターの事例を紹介する。

 

松延隆行さんの写真

松延隆行(マツノべ・タカユキ)写真上
一般社団法人耐震住宅100%実行委員会事務局長。株式会社エヌ・シー・エヌ 執行役員 開発営業部長。

 

「『木質耐震シェルター70K』という商品を株式会社エヌ・シー・エヌとの共同開発により商品化、2017年から発売しました。

 

累計で100個いかないくらいの売り上げだったのですが、近年の能登半島地震や南海トラフ臨時情報が出たことで意識が高まり、この1年で70個近く、急激に売り上げが伸びています。

 


画像提供:一般社団法人耐震住宅100%実行委員会

 

こちらのシェルターは、木材でできた直方体の枠組みを部屋の中に入れ、シェルターがあるところの安全性を部分的に向上させます。

 

ケースバイケースで施工費用は別にかかりますが、シェルター単体であれば100万円ほどの費用に抑えることができ、居住しながらの工事も可能です。

 

自治体から『耐震診断を受けなさい』と言われて、実際に受けてみると危険な状態にあると分かることもあります。しかし、想定しているよりも高額な金額を見積もりで示され、諦めてしまうことも少なくありません。工務店の視点に立つと、仕事が一つなくなることを意味します。

 

シェルターで必要な部分を強化し、施工費用を安くしたり、浮いたお金でリフォームをやるというニーズがあったこともこのシェルターを作ったきっかけになりました。

 

工務店の話では、耐震化だけを行う方は少なく、キッチンやリビングのリフォームと合わせて、こちらのシェルターを必要な部屋に入れるというケースが多いようです。『住み慣れた家にそのまま住みたい』というリノベーションの要望や、お金や時間の問題など、依頼主さんのニーズに合わせてシェルターの活用を提案してくださっていると聞いています。

 

また、費用が足りずに耐震化を諦めてしまいそうな方に、自治体の方から本製品をご紹介いただけるというケースもあるようです」


耐震シェルターは費用の高さが理由で住宅の耐震化をあきらめてしまった人々にとって「現実的な選択肢」の1つとなった。さらに、それは工務店の仕事にもつながった。高知県の事例と同様に、「現実的な選択肢」を用意することで安全に一歩近づいた事例である。

 

過疎によって住宅の耐震化が進まない現状がある。過疎そのものの解決は非常に困難ではあるが、こうした「ベターな選択肢」による現実的な解決は少なくとも耐震化を促進することはできるはずだ。

 

「進まない住宅の耐震化」は命に直結する問題である。「どこに住んでいるか」で「どのくらい安全か」が決まるような社会にしないために、過疎を前提として住宅の耐震化を進められるような仕組みや工夫が必要である

 


 

松延さんは耐震化に対する思いを述べる。

 

「地震で倒れないように、最高等級の基準で住宅を建てる。それを実現すれば、圧死で亡くなる方もいなくなります。家が壊れずに、生活が短期間で戻れば地震が来ても大丈夫。それが『耐震住宅100%実行委員会』で目指しているところです。

 

地震は必ず来ますが、今の技術をもってすれば地震で倒れない家を造ることはできます。住宅をお持ちの方、これから持とうとしている方には『見た目も大事ですが、耐震性にこそ一番お金をかけるべきだ』と伝えたいですね」

 

本記事では過疎や高齢化が耐震化に与える影響や、建築業界の問題を見てきた。

 

 「構造化の視点」・過疎に由来する「建て替えがされない」という住宅事情が、耐震化を進まなくさせる要因の一つとなっている  ・厳しい状況下においても「現実的な選択肢」を用意することによって耐震化が進んでいる事例もある。

 

耐震化の問題は、住人だけで解決することが難しいこともある。そんな時は行政や地域など周りの支援が重要となるが、過疎によって地域のリソースが不足すると、周りからの支援も難しくなる。

 

しかし、難しいからと言って耐震化の問題を放置すれば、地震が起きた際に被害を拡大させる要因となり、人命が失われ、地域も衰退してしまうかもしれない。

 

どのくらいの地震がいつ・どこに来るか予知することはできない。しかし、巨大な地震がいつかは必ず来るということは分かっている。そのことを分かっているのに、手を打てずに、地震が来たら命を落とすかも知れない住宅に住み続ける人々や、住宅倒壊から始まる衰退の加速を憂う行政や地域の人々もいる。

 

「どこに住んでいるか」で「どのくらい安全か」が決まる。住宅の耐震化における「安全の格差」の問題は根深い。

編集後記

2025年の3月、南海トラフ地震について被害想定や計画の見直しが10年ぶりに行なわれました。

 

中央防災会議 防災対策実行会議の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について」によると、最悪のケースでは29万8000人の方が亡くなると想定されています。そのうちの約4分の1、7万3000人が建物の倒壊によって亡くなるとされています。

 

一方、この資料では「昭和 56 年以前に建築された建物の耐震化を促進することにより、死者数は現時点で約 73,000 人と想定されるものが、約 77%減の約 17,000 人に大きく減少するものと推計される。(いずれも地震動は陸側ケース、冬・深夜の場合)このことからも、今後も、建物の耐震性の強化を促進する必要がある」とも伝えています。

 

取材を進め、多くのデータや声と接する中で住宅の耐震化の推進は決して簡単なことではないと感じました。しかし、確実に命を守る方策であり、諦めずに取り組むべき重要なことであると改めて思っています。

 

地震や津波という自然現象は無くせません。しかし、自然現象がもたらす被害は減らすことができます。耐震化が進み、建物倒壊で亡くなる人が減ることを切に願っています。
 

リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
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リディラバジャーナル編集部
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CONTENTS
intro
地震による住宅倒壊の実状
no.
1
no.
2
住宅の耐震化が進まない理由
no.
3
no.
4
no.
5
過疎から考える耐震化の課題
no.
6