世界的にも高い水準を誇る日本の医療。その裏で、医療費の
世界的にも高い水準を誇る日本の医療。その裏で、医療費の増大、勤務医の多忙化、病院の経営難と様々な課題が押し寄せている。
経済成長・人口増加と「右肩上がり」の時代に構築された医療制度が、「右肩下がり」の時代を迎えた今、現場に与えている歪みを明らかにする。
世界的にも高い水準を誇る日本の医療。その裏で、医療費の増大、勤務医の多忙化、病院の経営難と様々な課題が押し寄せている。
経済成長・人口増加と「右肩上がり」の時代に構築された医療制度が、「右肩下がり」の時代を迎えた今、現場に与えている歪みを明らかにする。
世界的にも高い水準を誇る日本の医療。その裏で、医療費の増大、勤務医の多忙化、病院の経営難と様々な課題が押し寄せている。
経済成長・人口増加と「右肩上がり」の時代に構築された医療制度が、「右肩下がり」の時代を迎えた今、現場に与えている歪みを明らかにする。
リディラバジャーナル構造化特集「地域医療」。
第4回となる本記事では、「病院の経営難」(3章)として、数多くの病院が赤字に苦しむ背景を明らかにする。
「病院とは、経営に責任を持つ人が生まれづらい組織なんです。
医療法によって、病院のトップである『院長』は医師が務めると定められています。
医師というのは、技術者・研究者のような素質が強く、経営的な能力を兼ね備えているとは限りません。
様々な病院を見てきて、一般企業では当たり前に行われている経営努力や組織改善が、多くの病院では行われていないことに気づきました。
医者が経営も行う、という現状の仕組みそのものが限界を迎えていると感じます」
こう語るのは、医療コンサルタントとして長年、医療業界の実務を見てきた山口誠さん(仮名)。
日本の医療費は年々増加し続け、2021年度には過去最高となる44兆円を超えた。
医療費が増加している、すなわち医療需要が拡大しているならば、医療の供給者となる病院の収支は良くなりそうだが、多くの病院が経営難に陥っている背景を解説する。
「何をやっても儲かる」時代から経営難に
診療報酬の影響
一般社団法人 日本病院会らが2019年に行った調査によると、約63%の病院が医業収支(医療行為に基づく診療報酬)上の赤字を計上している。
補助金や助成金など、診療報酬以外を含めた最終的な経常収支においても、約45%の病院が赤字となっている。
黒字の病院についても、利益率は数%にとどまる病院がほとんどで、大きな利益をあげている病院はほとんど存在しない。
山口さんは、病院経営の内情について、次のように語る。
「保険診療の価格は全国で統一されていて、病院に価格決定権はありません。
優秀な医師を採用して、病院を建て替えて、いい設備を用意したからといって、受け取る報酬を高くすることはできません。
10~20年ほど前は、医療現場に十分な余裕が生まれるような診療報酬が設定されていて、病院は『何をやっても儲かる』状態でした。
しかし、最近では国が医療費の増加を問題視し、2年に一度行われる診療報酬改定の度に、病院経営が厳しくなっていく傾向があります」
現場の医師も同様に、病院経営の難しさを指摘する。
千葉県にある「塩田病院」で総合診療部の部長を務める医師、青木信也さんは次のように語る。
医療法人SHIODA塩田病院総合診療科・部長。2007年滋賀医科大学医学部卒業。地域で役に立つ医師を目指して初期研修から湘南鎌倉総合病院で過ごし、小児から高齢者までどんな主訴の人も診る北米型ER(救急救命)研修を積む。その間、鹿児島や沖縄の島々で離島研修も経験。2013年北海道松前町立松前病院で「総合診療医」として慢性期外来、病棟、訪問診療、終末期ケアなどに従事し、市立函館病院の要請で道南部のドクターヘリにも乗る。長崎県上五島病院で1年間の離島医療+オーストラリア、クィーンズランド州での3ヶ月のrural general practitioner研修を経て、現在にいたる。「地域での医学教育」「地域医療」を自分の軸にしている。
「今の制度のもとで、病院が安定的に黒字経営を続けるのは無理があると思います。
診療報酬はギリギリに設定され、小児科など特定の分野に関しては、採算性が合わないので撤退する民間病院も増えています。
国の財政が厳しいのはもちろん承知していますが、十分な報酬なく良質な医療を提供するのは、現場としても難しいです」
自らがサービスの価格決定権を持たない。
規制産業特有の構造の中で、病院の経営状況は、国が定める診療報酬に大きく左右されている。
「今までなんとかなっていた」
変革を拒む病院の実態
病院の経営難は、国が定めた診療報酬制度だけが要因なのか。
医療コンサルタントの山口さんは、現場で見えてきた問題点を指摘する。
「病院経営における診療報酬の影響は確かに大きいです。
ただ、様々な病院を見てきて、一般企業では当たり前に行われている経営努力や組織改善が、多くの病院では行われていないことに気づきました。
例えば、決済の承認制度が存在せず、現場の医師や看護師が自由に経費を使えるような病院があったり、経営会議が機能しておらず、誰も病院の経営状況を把握していない病院があったりしました。
現状の制度下で、病院は決して大儲けはできません。
かといってこれほどの病院が赤字になることもないと思います。病院の経営努力、組織改革の余地は大いにあります」
病院に必要な変化とは具体的に何か。
ひとつに「変化する政策への対応力」が挙げられる。
病院経営に大きな影響を与える診療報酬は、国の政策の方向性を色濃く反映する。
政策に沿った医療を提供すれば、より多くの診療報酬を得られ、経営状況は好転していくと山口さんは語る。
「例えば、2014年から『地域包括ケア病棟』という制度がスタートしました。
これは簡単に言うと、手術や緊急度の高い治療が終わったけれども、そのまま自宅に戻って生活を送るのは困難な患者さんに対して、自宅復帰を目的としたリハビリや看護を提供する制度です。
国が医療需要の将来予測を行ったところ、このような『回復期』と呼ばれる時期の病床が今後不足してくることがわかったのですが、単純に『回復期』の病床を増やしてくださいと病院にお願いしても、病院が従ってくれるとは限らない。
そこで、このような制度を作り、診療報酬上の優遇を行うことで、回復期の病床設置とそれに伴うリハビリ・看護を病院に促し、政策の実現を図るんです」
患者にとっても自宅復帰が促進され、病院としても診療報酬が増額される。
山口さんは、担当している病院に具体的な増収額も示しながら病床転換を提案したが、返ってきたのは思わぬ返答だった。
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