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構造化特集
地域医療 第1回
公開日: 2023/6/9(金)

「時期がちょうど重なる」高水準な日本型医療が生まれた背景

公開日: 2023/6/9(金)
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「時期がちょうど重なる」高水準な日本型医療が生まれた背景

公開日: 2023/6/9(金)
構造化の視点

世界的にも高い水準を誇る日本の医療。その裏で、医療費の

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世界的にも高い水準を誇る日本の医療。その裏で、医療費の増大、勤務医の多忙化、病院の経営難と様々な課題が押し寄せている。
経済成長・人口増加と「右肩上がり」の時代に構築された医療制度が、「右肩下がり」の時代を迎えた今、現場に与えている歪みを明らかにする。

世界的にも高い水準を誇る日本の医療。その裏で、医療費の増大、勤務医の多忙化、病院の経営難と様々な課題が押し寄せている。
経済成長・人口増加と「右肩上がり」の時代に構築された医療制度が、「右肩下がり」の時代を迎えた今、現場に与えている歪みを明らかにする。

世界的にも高い水準を誇る日本の医療。その裏で、医療費の増大、勤務医の多忙化、病院の経営難と様々な課題が押し寄せている。
経済成長・人口増加と「右肩上がり」の時代に構築された医療制度が、「右肩下がり」の時代を迎えた今、現場に与えている歪みを明らかにする。


オーディオブック(ベータ版)

リディラバジャーナル構造化特集「地域医療」。
 
第1回となる本記事では、高水準の日本型医療が成立した背景(1章)として、現代の様々な課題の根底にある、日本型医療制度の成立背景を明らかにする。

 

構造化マップ


 

「医療制度の評価は、①医療の質、②医療へのアクセス、③医療にかかるための費用、の3つの観点で行うのが国際的なスタンダードになっています。

 

日本の医療制度は、 ①の質は先進国に比べ遜色はなく、 ②のアクセスは優れており、 ③の費用も先進国のなかでは比較的低い水準にあります。

 

総合的に考えて、日本の医療制度は国際的に高い水準にあると言ってよいです

 

医療政策の研究を専門とする、国際医療福祉大学大学院の島崎謙治教授はこのように語る。

 

前回の記事でも紹介した通り、日本の医療は良質でアクセスしやすく、費用負担も少ない。

 

利用者目線では非常に充実した制度である一方で、この日本型医療制度が運用されてきたことが、さまざまな課題を生んだ背景にもなっている。

 

本記事では、医療現場でいま起こっている課題の背景として、日本の医療制度の特徴と成立背景を明らかにする。

特徴①「民」中心の医療提供と「公」中心の費用負担

日本型医療制度の最も大きな特徴は、医療の提供者と費用負担者の組み合わせにある。

 

日本における医療費の負担者を、以下にまとめた。

 

【国民医療費の負担者の図】2020年時点:窓口負担11.5%、保険料負担49.5%、公費負担38.4%(うち国庫25.7%、地方自治体12.7%)

 

医療費における患者の窓口負担額は原則として3割である。

 

ただし、小学校入学前の子ども、70歳以上の高齢者(現役並みの所得者を除く)の自己負担額は1割〜2割に設定されていることや、高額療養費制度(※)の存在によって、日本の医療費の総額で考えると、患者負担は3割を下回る。

 

(※自己負担額が一定額以上の場合に、それを超える部分を保険給付する仕組み。これにより、高額な治療や手術等を行った場合にも、患者負担は一定額までに抑えられる)

 

そして、残りの約9割は保険料と国・自治体による公費によって賄われている

 

対照的に、アメリカでは原則として個人が医療費を負担する仕組みとなっており、民間の医療保険に加入できない貧困層などは、医療へのアクセスに困難を抱えている。

 

日本では、国民・事業主から徴収した保険料と、同じく国民・事業主から徴収した公費(税金)を、医療を必要とする人たちに再配分する「公的」な機能によって、窓口負担額は先進国と同等程度に抑えられている

 

また、医療の提供者は「民」が中心となっている。

 

【病院開設者の割合を表した図】国3.9%、公的医療機関14.6%、医療法人69.0%、その他10.6%、個人1.9%


上図の通り、日本の病院のうち約7割は民間の医療法人によって経営されており、民間病院では採算性が合わない地域など、民間を補完する形で公的病院が存在している。

 

 「公」による費用負担によって、国民は医療機関の窓口で多額の支払いをせずに医療へアクセスすることができる。
 
一方で、「民」中心の医療提供によって、医療提供量を国がマクロ的に制御する難易度は高まっており、医療の進歩や高齢化など社会的な医療需要の高まりを受け、医療費が増加する一因となっている。

特徴②医療へのフリーアクセス

日本型医療の2つ目の特徴として、医療への「フリーアクセス」という概念がある。

 

フリーアクセスとは、病院の規模や専門を問わず、患者自身が自由に受診先を選べることを意味する。

 

例えば、患者が「この病院でこの先生の治療を受けたい」と思えば、自身の病状の深刻度などを問わず、自由に治療を受けることができる
 
本来、近所の診療所で治療が完了するような軽度の症状でも、本人が望めば設備の整った大きな病院での治療が可能となる。
 
このフリーアクセスは世界的にも珍しい制度で、先進国の多くは対照的に「ゲートキーパー」という制度を採用している。

 

例えばイギリスでは、患者が住む地域ごとに「総合医」という医者が存在し、救命救急以外の場合、総合医の診断を経て必要と判断されなければ、専門医による高度な医療や入院治療にはアクセスができない。

 

このように、患者の状態に応じて適切な医療に振り分ける機能をゲートキーパーと呼ぶ。



 

日本では、文化としての「かかりつけ医」は存在するものの、いつでも誰でも、どこの病院でも原則治療を受けることができる。
 
患者にとってはメリットの多い制度だが、一方で医療現場ではフリーアクセスゆえの課題も生まれている。


大学病院に勤務する現役の医師、黒田浩一さん(仮名)は次のように語る。
 
「医師の業務の中で、時間的にも精神的にもコストが大きいものとして、『クレーマー』と言うと語弊があるかもしれませんが、対応が難しい患者さんへの治療があります。
 

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リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
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※この記事はリディラバジャーナルの会員限定Facebookグループ「リディラバジャーナル企画室」からの転載です。******皆さん、こんにちは〜!

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※この記事はリディラバジャーナルの会員限定Facebookグループ「リディラバジャーナル企画室」からの転載です。ーーーみなさん、こんにちは!リディラバジャーナル編集部の井上です。

2〜3月は3年ぶりの構造化特集の復活ということで、「無戸籍」をテーマに構造化特集をお届けしてきました。

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CONTENTS
intro
高水準の日本型医療が成立した背景
no.
1
no.
2
現状の課題①医療の財源問題
no.
3
現状の課題②病院の経営難
no.
4
勤務医の多忙化
no.
5
no.
6
解決策としての地域医療構想と私たち
no.
7