地震災害において被害をもたらす要因の一つに、住宅の倒壊
地震災害において被害をもたらす要因の一つに、住宅の倒壊がある。耐震化をすることで倒壊は防ぐことができるが、日本の住宅のうちおよそ1割は耐震性が不十分である。住民が抱える金銭的な不安や心理的な背景、さらには地方自治体が抱える問題などから耐震化が進まない構造的な背景を明らかにする。

地震災害において被害をもたらす要因の一つに、住宅の倒壊がある。耐震化をすることで倒壊は防ぐことができるが、日本の住宅のうちおよそ1割は耐震性が不十分である。住民が抱える金銭的な不安や心理的な背景、さらには地方自治体が抱える問題などから耐震化が進まない構造的な背景を明らかにする。
地震災害において被害をもたらす要因の一つに、住宅の倒壊がある。耐震化をすることで倒壊は防ぐことができるが、日本の住宅のうちおよそ1割は耐震性が不十分である。住民が抱える金銭的な不安や心理的な背景、さらには地方自治体が抱える問題などから耐震化が進まない構造的な背景を明らかにする。
リディラバジャーナル構造化特集「住宅の耐震化~誰もが当事者、“最優先”の地震対策はなぜ進まないのか~」。
第4回となる本記事では住宅の耐震化が進まない理由(2章)を、費用の面などから住民をサポートをする自治体の視点より明らかにする。

「震災で僕の家、ぺっちゃんこになってん」
テレビで突然語られる強烈なエピソード。これは住宅の耐震化を普及・促進する静岡県のテレビCMである(現在、放映は終了)。阪神・淡路大震災で自宅が倒壊した被災体験を持つタレントが「もう9割耐震化されてんねんで」と耐震診断や改修、その重要性や補助制度についてPRする。
防災先進県である静岡県は木造住宅の耐震化を促進するため「TOUKAI-0」というプロジェクトを立ち上げ、テレビCMを起用した広報活動や費用負担などの手厚い支援施策を行なっている。
残念ながら、全ての自治体が静岡県のように積極的に住宅の耐震化を進めているわけではない。さらに、せっかく制度を用意していても、認知されず、補助が住民に行き届かないケースもある。
住宅の耐震化を進めるために自治体は何をしているのか。どのようなサポートをして、どのくらい効果があるか。静岡県が多角的に展開するプロジェクトも踏まえながら考えていく。
さらに、「耐震化しても大地震にあえば被害は避けられない」と諦めてしまう心理的構造も明らかにし、諦めてしまっている人々にどのように耐震化を普及できるか、その糸口も探る。
耐震改修の件数が“3倍”に。資金補助の効果と実態
高額な費用や高い専門性など、住宅を耐震化するためには多くの障壁が存在する。検討している途中で耐震化を諦めてしまう住民も多い中、「まずは自治体の窓口へ相談を」と日本建築防災協会の杉藤崇さんはアドバイスする。

日本建築防災協会 理事長。1962年愛知県出身。84年京都大学工学部出身。翌年建設省採用。住宅局の各課を歴任し、12年には同局市街地建築課長に就任。14年には大臣官房審議官(住宅担当)。24年に現職。
「耐震化は専門的な事項が多く、必要な情報にたどり着く前にどうしても迷ってしまいがちです。業者もたくさんあって、誰に何を頼んだらよいか分かりづらい。
さらに、悪徳業者が多いという問題も見受けられます。余分な工事を持ちかけたり、必要以上に高額な請求をするケースも少なくありません。自治体は信頼できる業者を紹介してくれるため、トラブルを避けるためにも、最初に自治体へ相談することはとても重要です。自治体によっては住民が気軽に相談できるよう、専用の窓口を設けている場合もあります。
また、都道府県単位では全て、市区町村単位でも多くの自治体が耐震診断や改修に対する補助制度を用意しています。
『工事中の引っ越しをしたくない』『高い費用を払えない』と言って、耐震化する前から諦めてしまう方もいらっしゃいますが、引っ越しをしなくても改修できる場合や費用をかなり抑えられる場合もあります。
最初から諦めてしまわないで、自治体を通じて専門家とつながっていただき、適切なアドバイスを受けることが大切です」
耐震化のハードルを少しでも下げるため、自治体は様々な支援を行なっている。その支援の効果と実態について、石川県土木部の北川睦さんが語った。

石川県土木部次長兼建築住宅課長兼能登半島地震復旧・復興推進部生活再建支援課担当課長。
「2018年、熊本地震の被害を受けて国が耐震補助政策を見直しています。これを機に石川県でも耐震診断や改修を行う際に定額で150万円の補助を行うことを決めました。金額としては全国的に見ても手厚い補助となっていますが、これは石川県にある住宅の面積が他の地域に比べて大きい傾向にあり、費用がよりかかることを見越して設定しています。
補助を始める前は、耐震改修の件数は年間およそ30件でした。150万円の補助を行うようになってからは、年間およそ90件と約3倍に増加しました。実際に改修した方からは『孫を安心して家に呼べるようになった』などの声があったと聞いております。
最初の3年間は順調に改修が増えたのですが、それ以降は年間60件程度の水準で足踏みしていました。伸び悩んだ背景として、資材などの値上がりによる耐震化にかかる費用の高騰が影響していると分析しております。
また、耐震化の普及に力を入れている市や町では、ダイレクトメールの送付や、建築年数の古いお宅に戸別訪問をするところもありました。一方で、マンパワー不足などの要因で、全ての市や町でそのような施策を十分に行えていたわけではありません。
市や町の職員数も限られているので、『何でもやる必要がある』という状態で、住宅に関わる技術職員も、まちづくりとして全般的に必要な業務も担っています。
全くやれなかったというわけではないですが、他の課題や、やるべきことも多く、耐震化だけに注力するのは現実的でなかった事情もあると考えられます」
石川県は全国的に見ても手厚い耐震補助制度を設けていたが、近年の活用状況は伸び悩んでいる状態であった。さらに、市や町など基礎自治体においては耐震化の普及だけに注力できない事情もあった。
そのような状態で起こったのが2024年元旦の地震である。2024年1月1日、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生、584人が犠牲となった(2025年5月1日時点、内356人は災害関連死)。耐震化の有無が被害の状況に影響したと北川さんは指摘する。
「能登半島地震において、1981年より前、旧耐震基準で建てられた住宅は19.4%が倒壊しました。一方で2000年の現行基準で建てられた建物の倒壊は1%にも達していません。

能登地域の耐震化率は高いとは言えない状態でした。能登地方は住宅の面積が大きい傾向にあり、古い家も多いため、耐震診断や改修の費用が高くなる傾向にあったことが要因として挙げられます。
さらに、過疎が進んでいる場所では『後継ぎがいないため古い家をそのままにしている』といったケースもありました。
外見が綺麗になるリフォームは目に見えて性能がアップしたと感じやすいですが、耐震となると見た目には効果がよく分からない。大きな地震が来て初めて効果を発揮するという側面があり、中々住民の皆さまが前向きには取り組みづらい事情があると感じています」
石川県の事例は、費用負担を減らすことで住宅の耐震化が進むことを示唆している。しかし、建築費の高騰によって耐震化の費用が増加することで改修や建て替えの件数は伸び悩んでしまった。
財源にも限界はあり、マンパワー不足で耐震化の促進や周知だけに注力できない基礎自治体もある。マンパワー不足や財政難など、地方自治体が抱える困難もまた、耐震化が進まない要因となっている。
防災先進県静岡県が展開する“住宅の耐震化を進めるプロジェクト”
防災先進県である静岡県では「TOUKAI-0」という名前で、旧耐震基準で建てられた木造住宅を対象とした無料の耐震診断や耐震補強工事費用の補助、広報啓発活動など多角的に耐震化の促進を進めている。
県が行なった調査によると、耐震補強工事に対する補助件数は全国で第一位の実績に達している。「TOUKAI-0」の工夫している点などを静岡県建築安全推進課の影山耕平さん(取材当時)が語った。
静岡県くらし・環境部 建築住宅局建築安全推進課 建築耐震班 主任(取材当時)。
「『TOUKAI-0』は建物の倒壊による死者数を一人でも多く減らすことを目標としており、1981年の5月以前、旧耐震基準で建てられた木造住宅に対して補助を実施しています。
まず、対象となる家屋にお住まいの方へ『こういう補助制度があります』と知らせることが重要であり、重点期間を設けて広報活動を実施しています。方針としてはメディアミックス、つまり、テレビCM、新聞広告、県や市町の広報誌、ダイレクトメール、戸別訪問など複数の異なるメディアを組み合わせて発信を行うことを意識しています。
その中でも特に効果があったものは、無料の耐震診断等を知らせるダイレクトメールの送付です。『期間限定で無料の耐震診断を行なっている』と案内するとともに、返信用はがきで診断の希望を直接、市町(基礎自治体)の窓口へ送れる仕組みになっています。市町の担当者と直接やり取りするきっかけを作ることができ、相談や補助制度の利用件数が向上しました。
ダイレクトメールのデザインは、イラスト関係の業者からアドバイスを受け、色合いや質問項目の数などを工夫し、メインターゲットである高齢者が見やすく、行動しやすくなるように工夫しています。

また、『きっかけリーフレット』という耐震化の体験談を集めたものも配布しています。例えば、2世帯住宅に住んでいる方が子どものために耐震補強をした事例などを紹介しています。
特に高齢の方々は『跡取りがいない。今後、建物を活用する予定がない』といった理由でなかなか工事に踏み切れない方が少なくありません。そのような方に対して、『家が快適になり、帰省する孫へのプレゼントになった』『リフォームと一緒に耐震化して快適になった』『近所に迷惑をかけないように耐震化をした』といった具体的な事例を示すことで、少しでも耐震化に対して前向きになっていただこうという意図があります。
さらに、家屋の戸別訪問も行なっております。市町の担当者と県の担当者ができるだけ一緒に訪問できるように心がけています。
住民の意向も分かるところが戸別訪問のメリットですね。腹を割って話せますし、こちらが伝えたいことも直接伝えやすい。やはり、顔と顔を合わせて、向かい合ってやり取りすることで住民の皆さまに安心感をより感じていただけるようになると実感しています」
住宅の耐震化が進みづらい地域があることを受け、国土交通省は『木造住宅の安全確保方策 マニュアル』を作成した。国土交通省の松井康治さんが作成の背景や意図について語った。

国土交通省住宅局建築指導課 建築物事故調査・防災対策室長。
「能登半島地震の被害から、住宅の耐震化が進みにくいエリアの課題が見えてきました。そういった地域で耐震化を促進するためには、自治体に効果的な取り組みを、多角的に進めていただく必要があり、参考となるマニュアルとして本資料をまとめました。
重要な取り組みの一つに啓発活動があります。先進的なところでは明確にターゲットを絞り、ダイレクトメールを活用しながらその後の支援につなげている自治体もあります。
また、行政だけが旗を振っても、住宅の耐震化は進みません。積極的に進めている地方自治体には、研修などで育成した工務店と連携して耐震化に取り組んでいる事例もあります。国としても、こうした地域の事業者と協同する取り組みに対しては財政的に支援を行なっています。
『木造住宅の安全確保方策 マニュアル』には、先進事例が多く載っています。ぜひ、各自治体の方に参考としていただきたいですね」
住宅の耐震化において、最終的に意志決定をするのは住人である。一方で、住人だけで耐震化を完遂することは難しく、国と地方自治体は積極的にサポートをしている。その最前線に基礎自治体は立っており、マンパワーや財政など、リソースの不足と戦いながら取り組んでいる。
「大地震にあえば被害は避けられない」——住民が“諦め”に至る心理的な背景
ここまで、自治体が耐震化を進めるために行なっている様々なサポートを紹介した。しかし、自治体が賢明に働きかけても耐震化を諦めてしまう住民がいる。国土交通省の調査では23.9%が「耐震化しても大地震による被害は避けられないと思う」と回答していた。

耐震化を諦めてしまう住人の心境は「認知的不協和」という心理学の枠組みで説明できると東京大学の廣井悠さんは語る。

東京大学・教授。1978年10月東京都生まれ。専門は都市防災、都市計画。内閣府「首都直下地震帰宅困難者等対策検討委員会」座長、内閣官房「防災庁設置準備アドバイザー会議」専門委員等も務める。
著書:『知られざる地下街』(河出書房新社)『これだけはやっておきたい!帰宅困難者対策Q&A』(清文社)。
「私が以前行なった研究では『耐震化しても大地震にあえば被害は避けられないから 』という理由で『耐震化工事をしない』と回答している人の存在が明らかになりました。さらに、その方々の個人属性を調べると『高齢かつ年収が低い』という属性に当てはまる方が多いということが分かりました。
『地震は怖いから耐震化しなくてはいけない』という認知と『耐震化するほどの経済的な余裕がない』という認知の双方が正しいとき、認知的に居心地の悪い状態(『認知的不協和』)になります。すると、どちらかの認知を消そうとする働きが起こるのですが、お金がないことは誰の目に見ても明らかなので、『地震は怖い』という認知の方を消してしまうのです。
このような認知になると、せっかく自治体やメディアが出したリスク情報も心理的に拒否されてしまいます。したがって、危険性や重要性に関する情報を伝えるだけではなくて、改善行動を促すような、たとえば補助金や助成の情報だとか、『自分もできる』と思ってもらえるような情報をセットで出すことが重要です。
別の調査では『被害は避けられない』と回答した方でも補助額を上げ、自己負担額を減らすと『改修したい』と前向きに答える人が増える傾向を示しました。
怖がらせすぎると『じゃあどうしたら良いの?』と住民が諦めてしまう可能性があります。住宅の耐震化における認知的不協和の場面では、費用負担が大きいために改善手段を持たない住民が『地震は怖い』『防災は大事』などと言われ続けて、心理的な悪循環に陥っている方も少なくないと私は推測しています」
静岡県では、選択肢を増やすことで『自分もできる』と住民が行動しやすくなるような工夫をしていると影山さんが語る。
「あくまで私たちの部局としては、家屋全体の耐震化を重視しております。基本的にはお住まいになっている建物が耐震性能を有しており、地震から命を守れる状態になっていることが理想的です。
しかし、建て替えや耐震補強工事はどうしても費用が高くなってしまうため、少しグレードが低くても良いから命を守れるような対策にもニーズがあり、効果は下がってしまう一方で費用を抑えることができる選択肢も用意しております。
福祉と密接に関わってくる面もあり、健康・福祉や医療関係の部局と連携して補助制度をおいている市町もあります」

国土交通省や廣井さんの調査からも明らかになった「耐震化しても大地震にあえば被害は避けられない」と耐震化を諦めてしまう住民の存在。その背景には「地震は恐ろしく、防災は大切である」と理解した上で、費用を負担できない現実との葛藤の末の心理的理由もある。
耐震化が進まない要因には単純な知識や情報の不足だけではなく、重要性を分かっているからこそ、葛藤してしまうケースも発生している。
本記事では住民の耐震化をサポートする自治体の困難や工夫について見てきた。

地方自治体はマンパワー不足や財政難といった問題を抱える中、住宅の耐震化にだけ注力を向けられない状態にある。一方で、工夫を重ねて着実に耐震化を進めている静岡県のような自治体もあり、それを先進事例として自治体間で共有しようとする動きもある。
過疎や高齢化など、社会問題を抱える地方はどのようにして耐震化をすれば良いか。その困難や論点については最終回、第6回の記事で扱う。
第3回・第4回の記事では主に戸建て住宅、特に旧耐震基準で建てられた木造住宅について扱ってきた。次回、第5回では分譲マンションなどの共同住宅の耐震化について扱う。
利害関係者が時に1,000人以上に及ぶ共同住宅においては、合意形成が困難になる。多様な思いを抱えた住人同士が、どのように円滑に合意形成をし、命を守る選択を取れるか、その可能性や課題を探っていく。
編集後記
あるニュースのインタビューで「大きな地震が来たらどうせ助からない。だから防災対策はしない」と話している方がいました。そういう方にこそ耐震化の重要性を伝えたいと思ったことも、この特集をはじめたきっかけの一つにあります。
しかし、取材や調査を重ねるうちに「重要であることは百も承知で、それでも費用の問題などで諦めるしかない」という状態にある方もいることと分かりました。
耐震性が不十分な住宅を0にするためには何が必要か。最終章では、過疎や高齢化が進んでいく社会において、それでも住民の命を守っていくため、住宅の耐震化を進めるためにはどうすれば良いかその糸口を探っていきます。

令和8年熊本地震で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。また、一日も早く被災されたみなさまの安全が確保され、平穏な日々を取り戻されることを、心よりお祈り申し上げます。
令和8年熊本地震を受け、リディジャーナルでは地震や防災について考える2つの特集を9月3日(木)まで、全記事無料公開しております。
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