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公開日: 2021/11/4(木)

新特集「第3のニュース」とは何か

公開日: 2021/11/4(木)
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新特集「第3のニュース」とは何か

公開日: 2021/11/4(木)
オーディオブック(ベータ版)

2018年のサービス開始より、個別の社会課題を徹底的に調査し、課題が生まれる構造を解きほぐす「構造化特集」を公開してきたリディラバジャーナル。

開始4年目を迎えたいま、「構造化特集」に次ぐ新たな特集として「第3のニュース」を開始した。
 

「第3のニュース」とは何を意味しているのか。
「第3のニュース」を開始する背景には、社会課題にまつわる報道にどんな問題意識があったのか。
「第3のニュース」で、どんな記事を社会に発信していきたいのか。
 

新特集への思いを、リディラバジャーナル編集長の安部敏樹に聞いた。



リディラバジャーナル編集長 安部敏樹


 

何が「第3」なのか
これまでのニュースを分類

 聞き手  

リディラバジャーナルでは新たに「第3のニュース」という特集を開始しました。

「第3のニュース」ということは、その前に第1・第2のニュースがあると思うのですが、それぞれどんなニュースを指しているのでしょうか?



 安部  

第1のニュースは、「ストレートニュース」と呼ばれるものです。

一次情報をスピーディーに報じるニュースで、例えば選挙で誰が勝ったとか、こんな交通事故があったとか、「起きたこと」そのものを伝えるニュースです。
多くの人イメージするニュースのほとんどは、この第1のニュースに当てはまると思います。

第2のニュースは、「調査報道」と呼ばれるものです。

これは、複数の一次情報をベースにして独自の分析・意見を加えたニュースで、先ほどの例に対比させるならば、この人が選挙に勝ったのはなぜか、交通事故を引き起こした要因は何か、など「なぜ起きたのか」「起きた背景」を伝えるニュースです。

森友問題のような政治的スキャンダルを追跡したり、震災で地域がどう変わったのか長期間追いかけたりするようなニュースが当てはまります。

既存のニュースに誤りがある際に、調査して誤りを指摘する「ファクトチェック」も、この第2のニュースに含まれますね。

 

 聞き手  

スピーディーに事象を伝える第1のニュースと、長期の調査で事象の背景を伝える第2のニュース、ということですね。

 

この、第1・第2のニュースでは足りないものがあるからこそ、リディラバジャーナルでは「第3のニュース」を開始すると思うのですが、第1・第2のニュースができたこと・できていないことはなんでしょうか。

 

 安部  

第1のニュースは、問題の存在を明らかにする役割を持っています。


例えば、子どもが虐待を受けて亡くなってしまった、という事象はニュースになって初めて世に存在が知られることになります。

極論ですが、第1のニュースがなければ、子どもが亡くなっても、多くの人はその事実を知らないままです。

一方で、第1のニュースでは「起きたこと」しかわかりません。
虐待死を伝えるニュースをいくら読んでも、「なぜ起きたのか」はわからない、そこで役割を果たすのが第2のニュースです。

第2のニュースでは、「亡くなる前に虐待の通報があった」「母親は誰からも支援を受けず、働きながら子育てを行なっていた」のように、事象の背景にある事実を調査して、亡くなってしまった原因を解き明かしていきます。


第1のニュースだけではわからなかった、「事実の検証」や「責任の特定」を行うのが第2のニュースの役割です。

第1、第2のニュースでメディアとして十分な機能を担っている場合もあります。

例えば政治家のスキャンダルなんかは、報道によって不正が明るみになり、結果として辞職したり返金したりという形で終結する。
権力を監視して、問題があれば是正させる、といった領域では、既存のメディアがやれている部分も大きいと思います。

しかし、社会課題を扱うとなると、第2のニュースだけでは足りない部分があって、第3のニュースが必要になってくると思っています。

 

リディラバジャーナル過去取材内容の一部

 

第1,第2のニュースでは
課題解決が進まない

 聞き手  

足りない部分、とはなんでしょうか?

 安部  

一言で言うと、課題解決への寄与です。政治家のスキャンダルの場合、報道を通じて悪さをした議員が辞職したり、非を認めて処遇を受けたら、一定の解決と呼べると思います。


少なくとも、報道がなければ明るみにならずにそのままだったわけなので、報道が問題解決に寄与したと言えます。

 

では、虐待死の問題で、「通報を受けたのに対応しなかった児童相談所が悪かった!」と言って問題が改善されるかというと、そうではないのです。


なぜなら、児童相談所は決して怠慢で対応をしなかったのではなく、この10年で通報件数が倍増して業務が手一杯になっている、対応したくてもし切れないからです。

実は多くの場合、社会課題の現場には「この人がサボってる、この人が悪意を持っている」といった特定の悪者がいません。
虐待における児童相談所の例のように、一見すると悪者と思える人たちにも、その境遇に追いやられてしまった合理的な理由があります。

 

第2のニュースが担っていた「事実の検証」と「責任の特定」だけでは、明確な悪者がいない社会課題のニュースには対応できないのです。

 

 聞き手  

では具体的に、第3のニュースにはどんな特徴があるのでしょうか。

 

 安部  

第3のニュースの特徴は、「解決を目的に据えてニュースを紐解く」点にあります。

 

事実を明らかにすることでも、悪者を見つけるのでもなく、このニュースをきっかけに問題解決を進めるには何が必要か、という視点から社会課題を調べます。
社会問題には特定の悪者がいないと言いましたが、その代わりに、構造に問題がある場合が非常に多いです。

虐待の例を用いると、児童相談所が対応できなかったことをただ責めても問題解決に寄与しません。

ただ、児童相談所の職員を拡充するために何が必要か、管轄する厚生労働省に聞いてみたり、児童相談所が担っている機能は、民間のNPOでも担えないのか現場で活動する人たちに聞いてみたりすることで、建設的な問題解決への一手が見えてきます。

既存メディアが「第3のニュース」
に挑めない理由


 聞き手  

「課題解決を進めるための報道」これが、既存のメディアから生まれにくいのはどうしてでしょう。

 

 安部  

要因は主にふたつで、ひとつはメディアの事業構造の問題です。

 

メディアを事業的に考えると、当然ながら1本の記事にどれくらいの人件費や取材費が必要で、その効果としてどれだけ会員が増えたか、多くの人に読まれたか、といった計算をすることになります。

社会課題を背景まで含めて正確に調査して、解決策を含めて報道するのは労力が大きく、時間も人手も必要になってきますし、誤った情報を公開してしまった際のリスクも大きいです。
 

事業目線では、コストがかなり大きい領域で、そこに対して見合うリターンがあるのかと考えると、多くのメディアにおいてはリターンが無い。

であれば、頑張って社会課題を扱うよりも、例えばテレビの切り抜きのような記事を一瞬で書いて、コスト低く多くの人に読まれるものを出そうとか、どうせ人手を割くなら芸能人の不倫を見つけようとか、そういった方向に舵を切るのが事業としては合理的になってしまいます。

リディラバジャーナルではスタート時から社会課題のみを扱うと決めていますし、このコストの大きさをわかった上でメディアに取り組んでいますが、そういったメディアとしての哲学や意思決定がなければ、社会課題を扱っていくのは環境的に年々厳しくなっています。

 

もうひとつの要因は、社会課題を調査し解決策まで提示することの難しさです。


虐待の例で続けると、恐らく既存のメディアでも、児童相談所がキャパオーバーになっているという問題までは辿り着くと思います。


しかし、ではこのキャパオーバーの問題を変えていくには何が必要か、まではリアリティを持って提示できないと思います。


なぜなら、自分たちも政策立案や課題解決型の事業立案はやったことがないし、やり方を知らないからです。

リディラバでは、省庁や企業と連携して課題解決を推進するチームがあり、政策のでき方や、事業の作り方に対して実際の経験があります。

 

その経験を基に「本当に解決を目指すなら何をする」という考えを具体的に読者の皆さんに提示できるのは、リディラバジャーナルならではの特徴です。


第3のニュースで報道した解決策は、言うだけにとどまらず、タイミングを見て実際に政策提言や事業化にチャレンジしていけたらとも思っています。


リディラバが企業と共同で行う課題解決の一例

読者のみなさんも議論の担い手に

 聞き手  

ここまでで、「第3のニュース」の特徴と、なぜリディラバが取り組むのかを語ってもらいました。
最後に「第3のニュース 」を通じて社会や読者の皆さんにどんな変化を生み出していきたいのか、教えてください。

 

 安部  

いま、社会課題のニュースのほとんどは「悲劇」と「批判」に終始しています。

 

「こんなに悲しいことがありました」「これは誰が悪いんです」といったニュースだけでは、課題解決も進んでいきませんし、読み手である皆さんもポジティブな気持ちになりにくいですよね。

「第3のニュース」は、社会課題の現場で起こった出来事を、未来に向けたポジティブな変化の起点にしたいと思っています。


ネガティブな事件が起きてしまった時、批判合戦や感情的な悲しみの共有で終わりにするか、これを変わるきっかけと捉えて前向きに議論ができるか。


僕は、ニュースに関心を持ってくれた人たちの気持ちを考えても、次なる被害を防ぐためにも、批判ではなく前向きに、解決に向けた議論がなされている方がいいと信じています。

僕たちは「社会課題ってニュース見てもわからないな」という気持ちを払拭して、むしろ自分の考えを持てるようになるような特集を届けていきます。

 

読者の皆さんは、記事をきっかけに自分の考えを共有して、新たに議論の輪を拡げる担い手になってもらいたいと思っています。


「ニュースは悲劇で終わらせず、変化の起点に」という考え方を、リディラバだけでなく、読者の皆さんと共に社会に拡げていけたら何より嬉しいです。

編集後記

「第3のニュース」初回の特集は「特別養子縁組〜大手法人ベビーライフ廃業の裏に見える構造〜」
業界大手の団体が突然姿を消してしまった事件、その裏側には何があったのか、こちらからお読みください。

リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
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