姿を消した「あっせん機関」関係者が語る困惑
姿を消した「あっせん機関」関係者が語る困惑
連絡なしの廃業
困惑する関係者
2020年7月、とある一般社団法人が突然廃業を宣言し、連絡を絶った。
組織の名前は「ベビーライフ」
その名の通り、子どもに関わる事業を行っていた組織だ。
具体的には「特別養子縁組」という制度を活用して、生みの親のもとで困難を抱える子どもに対して、育ての親を見つけ出し、子どもに新たな環境を提供していた。
「ただただびっくりです。全てを放棄していなくなれるんだ、って」
4年前、ベビーライフを通じて子どもを迎え入れ、育ての親(養親)となった石井友子さん(仮名)は、廃業当時の驚きをこのように語る。
リディラバジャーナル、今回のテーマは
「特別養子縁組〜大手法人ベビーライフ廃業の裏に見える構造〜」
ある日突然、ひとつの組織が姿を消した裏側には、特別養子縁組制度が抱える多様な課題が潜んでいた。
廃業問題に触れる前に、そもそも特別養子縁組とは何か、簡単に説明する。
「子育てに必要なお金がない」
「自分に健康の問題があって、子育てができるかわからない」
生みの親が様々な社会課題の当事者となり、子育てを行えないために、社会的な支援が必要とされる子どもは「要保護児童」と呼ばれる。
2018年時点で、日本には約45,000人の要保護児童がいると言われている。(※1)
一方で、不妊治療の末に出産を諦めた夫婦や、自ら子どもを産むよりも、困難を持つ子どもを引き取って育てたいと願う夫婦など、要保護児童を引き取り、育てる意思のある人々も存在する。
「特別養子縁組」とはこの両者をつなぎ合わせ、困難を抱えた子どもに新たな家庭を提供する制度だ。
約45,000人の要保護児童の行き先は大きくふたつ。
児童養護施設・乳児院などの「施設」、もしくは特別養子縁組などを活用した「家庭」のいずれかである。
子どもの発育の観点から家庭での養育が国際的な主流となっている中、日本ではこれまで要保護児童の約8割(※2)が施設で生活を送る、施設中心の制度となっていた。
国際基準から遅れを取る現状を鑑み、2016年には「児童福祉法」が改正され、家庭での養育を優先とする原則が書き込まれた。
国自身も「画期的」と認めるこの政策転換により、これまでの施設中心から家庭中心へ、要保護児童に対する環境整備が今まさに進められている。
(厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」(2017年12月)に基づき編集部が作成)
「特別養子縁組」は家庭での養育を実現する代表的な制度で、16年の政策転換によりこれまで以上の役割が期待されている。
成立件数も年々増加傾向にあり、2020年現在では年間700件以上(※3)と、1988年の制度開始から最多となっている。
特別養子縁組のあっせんは公的機関によるものと、今回問題となったベビーライフなど民間のあっせん機関によって行われるものがある。
特集内にて詳しく述べるが、多くの子どもを救う量的な観点からも、より良い環境での縁組を実現する質的な観点からも、今後の養子縁組制度は民間あっせん機関にかかる期待が大きい。
そんな中、2020年7月に特別養子縁組の関係者を驚かす事件が起こる。
2009年の創設以来、多くの養子縁組あっせんを実施してきた、大手のあっせん機関「ベビーライフ」が突然廃業し、代表との連絡が一切つかなくなったのだ。
リディラバジャーナルでは、かねてより特別養子縁組の問題に注目しており、2018年には全14記事にわたる特集を公開した。
特集内では、現在所在不明となっているベビーライフ代表篠塚氏を含め、多数の関係者への取材を実施した。
当時の取材で明らかになった特別養子縁組の問題点と今回の廃業の関係性を明らかにすべく、今回改めて関係者への取材を行った。
命を預かる活動を、十分な説明なしに突然停止したベビーライフの責任が重いことに変わりは無い。
しかし、取材を通じて、ベビーライフら民間あっせん機関が置かれた苦しい状況など、廃業を引き起こす背景や、廃業を報じた一部メディアの問題など、新たな論点が見えてきた。
本特集では、廃業前後でのポイントを整理しながら「ベビーライフ特有の問題点」と「特別養子縁組そのものが抱える問題点」を明らかにし、今後に向けた提言を行う。
特別養子縁組がこれまで数多くの子ども・実親・養親を救ってきた事実を踏まえ、今後その役割をさらに拡大し、多くの当事者を支援していけるよう、本特集を執筆した。
困難を抱える親子を救うこの仕組みに、現状どんな課題があり、解決には何が必要か、本特集を通じて読者の皆さんと考えていきたい。
※1 総務省「要保護児童の社会的養護に関する実態調査」(令和2年12月)
※2 厚生労働省「社会的養育の推進に向けて」(令和3年5月)を基に編集部にて算出
※3 法務省「司法統計(家事編)」(平成31年/令和元年度)
7年前から見られた問題
防げなかった廃業
「ベビーライフさんについては、過去にも調査を行い、改善事項があったため都としても継続的な指導を行っていました」
民間あっせん機関の管理・監督を行う、東京都育成支援課の榎本さんは、ベビーライフについてこう語る。
いつからベビーライフには問題が見られたのか、廃業までの経緯を表にまとめた。
初めてベビーライフの活動に疑義が生まれたのは2013年。
当時について、榎本さんは次のように語る。
「2013年に、ベビーライフの提供するサービスや資金関連に疑義があるということで、都で立ち入り調査を実施し「文書指導」というものを出しました。私の知る限り、民間のあっせん機関に対して行政から指導が入ったのはベビーライフが初めてだと思います」
都では廃業の7年前、2013年よりベビーライフの運営に問題があると認識し、文書指導を行っていたという。
2018年、「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律(通称:あっせん法)」が施行されたことで、これまで「届出制」だったあっせん事業が、「許可制」へと変更された。
この法律により、民間あっせん機関への監視体制が強化されるようになったことで、ベビーライフの次なる問題が露呈した。
施行されたあっせん法に基づき、ベビーライフは同年9月にあっせん事業の許可を求め、都に審査を依頼した。
審査の状況を榎本さんは次のように振り返る。
「審査を行う中で、不適切と思われる部分があり、廃業する20年7月まで審査を継続していました。不適切と思われる部分を調べてもらい、改善してもらうには時間がかかりますので、審査は長引き、そのうちに連絡が取れなくなったのです」
通常は数ヶ月〜半年ほどで終了する審査が、ベビーライフの場合は約2年間も続き、20年7月の廃業時も「審査中」となっていた。
不適切と思われる部分とは具体的に何だったのか、榎本さんは続ける。
「ひとつは会計上の問題です。例えば、経費で車を購入して子どもの送迎に使う、となった時に、その車にかかる費用が適切な金額なのか。経費は養親が支払う手数料に反映されますので、社会通念上おかしいものがないか、ひとつずつ確認していました。
もうひとつはサービス上の問題です。例えば、子どもを実親から養親に引き渡す間は、保育所的に子どもを預かる機能が必要になります。その保育サービスを行うにあたって、十分な人員や環境か、などを調査していました」
ベビーライフは会計・サービス提供それぞれに確認すべき部分が多かったため、都は許可を出すことなく審査が長期化したという。
20年に入ると、行政に加えてサービス利用者である養親たちも異変を察知した。
ベビーライフを通じて子どもを迎え入れた養親の石井さん(仮名)は、次のように語る。
「20年の2月頃からメールの返信が遅すぎるとなり、代表の携帯に直接電話したところ、運営が厳しい状況に陥っていると聞きました。その後全く連絡が取れなくなって、6月頃に都へ事情説明をしに行きました」
13年の行政指導と18年の許可申請に基づく調査を通じて、行政側では早くから問題を認識しており、養親も廃業の半年前から異変を感じていた。
にもかかわらず、有効な手立ては打てないまま、20年7月、ベビーライフは一方的に許可申請を取り下げ、廃業状態となった。
都や養親・関係者に対して事前の説明はない突然の廃業であり、今でも代表とは連絡がついていない。
廃業までの一連をまとめると、ベビーライフには大きくふたつの問題が見えてきた。
ひとつは改善なき組織運営だ。
会計やサービスに関して東京都が指摘した問題が、2013年の行政指導・18年からの審査を経ても改善されることなく、廃業まで至った責任は大きい。
もうひとつの問題はコミュニケーションなき廃業だ。
調査が長期化していること、また4月の電話で代表が一部の養親にのみ伝えた「運営が厳しい」とった状況を利用者に伝えることなく、突然の廃業により混乱をもたらした。一連のコミュニュケーションには問題があったといえる。
姿を消しているベビーライフ篠塚代表(2018年の取材当時)
不誠実なベビーライフ
それを許す現行の制度
なぜ7年前から問題を把握していながら、今回の廃業を防げなかったのか。
背景には、ベビーライフだけの責任にとどまらない、現行制度の問題点が存在する。
ひとつは不許可を想定しない審査体制だ。
東京都の榎本さんは、審査を進める上での葛藤を次のように語る。
「言い方は難しいのですが、この審査は例えばこういった書類がある、情報が揃っている、と許可を出す基準はあるのですが、明確にこのような場合には不許可、という基準はありません。となると我々としては、ベビーライフが関わっている子どもの命に関わることですので、慎重にならざるを得ません。許可を前提としている審査で、今回のように迷うケースが想定外だったと思います」
東京都で民間あっせんを行う認定NPO法人「フローレンス」の藤田さんも、審査について次のように語る。
「知る限り、あっせん法が始まってから不許可を出したケースは非常に少ないようです。行政側も、民間あっせん団体の審査という初めての取り組みで、判断軸もない手探りの中、審査に時間がかかったんじゃないかと思います。しかし、ベビーライフに限らず、許可制度ができたからには、運営に適切でない点がある場合には、きちんと不許可を出していくべきと感じます」
ベビーライフに不適切な要素が見られた上で、約2年もの間審査が不許可とならずに調査中となった背景には、そもそも不許可を想定していない審査体制があった。
もうひとつの問題は、調査期間中の運営に対する想定不足だ。
現行の制度では、審査中もあっせん活動は通常通り実施できることになっているため、ベビーライフは約2年の審査中も不安定な状態で活動を継続していた。
養親の石井さんは、この期間に新たなトラブルも見られたと語る。
「どうやらベビーライフは廃業直前まで新規のあっせん申し込みを受けていたようです。その時に申し込んだ養親さんからは、お金を払ったけれど、ほとんどサポートを受けていないと聞いています」
審査中、すなわち許可が下りていない状態での運営で利用者への不利益が発生していたという。
不許可のハードルが高いとしても、審査中も通常通り運営が可能だった点について、東京都の榎本さんは次のように語る。
「ベビーライフだけ見れば、審査中の運営はどうだったのか、という話はあると思います。一方で、健全に運営している民間あっせん機関が多数ある中で、一律で審査中は活動できない、というのはまた問題があると思います。審査中も、当然困難を抱える親子の受け皿は必要ですから」
健全なあっせん機関も含めて審査期間中は一律で運営を停止すると、制度が機能不全に陥るとの主張は納得できるが、現行制度のままでは第二のベビーライフが生まれた際に、審査中も活動ができてしまう。
不許可を想定しない審査、審査中の活動いずれの問題にも、背景には性善説による制度設計が透けて見える。
ベビーライフの不適切な運営に加えて、性善説での制度設計によって、長期間にわたって問題が放置され、廃業という最悪の結果をもたらしたといえる。
・・・ここまで、ベビーライフの抱える問題、その背景にある制度上の問題を明らかにした。
次回は廃業直後に焦点をあて、各種メディアでも議論を呼んだ
「出自を知る権利・情報管理」に注目する。
情報管理のあり方をめぐっては、現場と行政の乖離が浮き彫りになった。
より深く問題を知りたい方はこちらから、特集記事もお読みください。
編集後記
新特集「第3のニュース」初回となる今回のテーマは特別養子縁組。
今日から4回にわたって、ベビーライフ廃業の裏側に潜む業界全体の課題や、既存報道の問題点を明らかにしていきます。
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