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公開日: 2021/10/28(木)

「私たちの情報はどこに?」情報管理に見える現場と行政の溝

公開日: 2021/10/28(木)
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「私たちの情報はどこに?」情報管理に見える現場と行政の溝

公開日: 2021/10/28(木)



経済的事情や健康状態など、様々な事情で生みの親が育てられない子どもを育ての親に託し、親子の未来を守る「特別養子縁組」制度。

2020年7月に養子縁組をあっせんする機関「ベビーライフ」が突然廃業し、連絡が途絶えた問題について特集する。

 

前回は廃業までの期間に焦点をあて、ベビーライフの責任だけでなく、審査の長期化や不許可を想定してこなかった制度上の問題を明らかにした。

 

今回は、廃業直後に焦点をあて、最も大きな話題となった「出自を知る権利・情報管理」に着目する。
 

縁組成立後、養親の元で育った子どもは、どこかのタイミングで生みの親が別にいることを知らされる。
いわゆる「真実告知」を受けた後、実親の背景や現状を知る権利をどのように保障するのか。
情報管理の問題を通じて見えてきたのは、現場と行政の乖離だった。


廃業で情報はどこへ 養親の不安

4年前、ベビーライフを通じて養子を受け入れた石井友子さん(仮名)は、ベビーライフ廃業の影響を次のように語る。

 

「養親たちは『自分がベビーライフに提供した情報が今どうなっているかわからない』と情報の扱われ方に戸惑っています」

 

養親は、民間あっせん機関を通じて子どもや実親の情報を入手する。

不妊など、自分たちが養子を受け入れる背景も同様に民間あっせん機関に提供している。

 

養親から見ると民間あっせん機関が重要な情報を集約しているため、廃業によって情報の扱われ方に不安を覚えたのである。

 

ベビーライフなど民間あっせん機関の管理・監督を行う、東京都育成支援課の榎本さんは、ベビーライフが廃業した際の情報管理についてこう語る。

 

「廃業にあたって、ベビーライフが保有していた情報を都に引き継ぐよう再三求めましたが、一向にコミュニケーションは取れませんでした。廃業後、ある日突然資料が段ボールで一方的に送られてきましたが、内容はあっせんケースごとにばらつきがある不十分なものでした」

 

ベビーライフでは、紙に加えてデータでも情報を管理していたと見られるが、そのデータについては今も在処がわかっていない。

最終的にベビーライフは、保有していた養親・実親それぞれの重要な情報を都に全て引き継がないまま廃業したことになる。

 

果たして、養親が不安を抱えるように、縁組に関わる情報は消えてしまったのか。

東京都で民間あっせんを行う認定NPO法人「フローレンス」の藤田さんは次のように説明する。

 

「養子縁組には様々な人が関わっています。何よりも家庭裁判所が、養子縁組の審判を下す過程でしっかりと調査をしています。実親さんがなぜ養子縁組したか、など調査の過程で把握したことは、調査資料に書かれます。審判書は30年間、調査資料は5年間家庭裁判所に保存され、利害関係者であれば閲覧請求ができます」

 

縁組に関わる情報は民間あっせん機関だけでなく、公的機関である裁判所も保有しており、廃業によって全ての情報が手に入らなくなるわけではない。

その上で、藤田さんは民間あっせん機関にしかない情報もあると語る。

 

「とは言え、やはりあっせん機関にだけ残っている面談の記録だったり、直接密に実親さんに接してきたからこそ持っている情報は確かにあります」

 

民間あっせん機関は、行政以上に多くの情報を持つ。

今回、ベビーライフの不十分な引き継ぎによって、これらの情報がこぼれ落ちた可能性が極めて高いのだ。


ベビーライフ利用者への支援を行う東京都(東京都福祉保健局ホームページ 確認日2021/10/27)

 

情報管理から見える現場と行政の乖離

 

なぜ情報の引き継ぎは適切に行われなかったのか。

その背景には、ベビーライフだけの責任にとどまらない、現行制度の問題点が存在する。

 

養親の石井さんは、情報管理をめぐる都の対応について次のように語る。

 

「東京都に情報管理について問い合わせをした時には『前例がないもので…』とのことでした。担当の方もすごく頑張って下さったのですが、困っているように見えました」

 

都が対応に苦戦したのはなぜか。

ベビーライフを管轄する東京都育成支援課の榎本さんは次のように語る。

 

「あっせん法では、あっせん業務の許可が取り消しとなった場合、民間あっせん機関の持つ情報は都道府県または他の民間あっせん機関に引き継ぐと規定されています。

今回、ベビーライフは許可申請の審査中の状態で、都側からの不許可ではなく、ベビーライフ側からの申請取り下げとなりました。

審査中のあっせん機関が廃業した場合の情報引き継ぎについては法律での整備がされていなかったため、東京都側でも対応が困難になりました」

 

十分な引き継ぎを行わなかったベビーライフの責任に加えて、行政側での情報管理に関する法整備の遅れ、想定不足が背景にあったのだ。

 

今回問題となった情報管理について、国はどのように考えているのか。

養子縁組制度の活用を促進する、厚生労働省子ども家庭局の石原珠代さんは次のように語る。

 

「現状では、各あっせん機関が情報を永年保存して、常に出せる状態にしておいて頂く仕組みになっています。国で情報を保管しているわけではありません」

 

あっせん法では、実親の情報や生活情報などを記録した帳簿をあっせん機関が永年で保存するよう定めており、法的にも民間あっせん機関に適切な情報管理を規定していると主張する。

 

しかし、現場からは現実的な声が聞こえる。

認定NPO法人「フローレンス」の藤田さんは次のように語る。

 

「民間あっせん機関は、小さな規模で運営しているところがほとんどです。

もちろん団体は情報管理に努めていますが、今回のように団体が廃業となる可能性は当然ゼロではありません。過去のあっせん情報を永年保管といって『あっせん機関任せ』にしているだけだと、情報を長期間に渡って管理していくのは難しいと思います」

 

法的にはあっせん機関が管理することになっていると主張する国と、現実的ではないと語る現場で主張に乖離が見られる。

 

この行政と現場の乖離は、今後の情報管理のあり方にも見られる。

東京都で養子縁組を担当する育成支援課の榎本さんは、今後の情報管理について次のように語る。

 

「あっせん法の許可を受けた機関が廃業した場合、現行の法制度では都道府県または他の民間あっせん機関に引き継ぎができることになりますので、今回のベビーライフのような問題は起こりにくいかと思います。
そもそも、実親さんが行政機関でなく民間のあっせん機関に相談したということは、行政へ知られたくない気持ちがある可能性がある中で、『結局行政に全ての情報がいくの』と思う人もいるかもしれません。
民間が得た情報を、全て行政が吸い上げて管理するのがいいかは慎重に検討すべきだと思います

 

一方で、現場からは情報管理の整備を求める声があがっている。

認定NPO法人「フローレンス」の藤田さんは次のように語る。

 

「あっせん機関が持つ情報が今回のような廃業で引き継がれないのは問題です。どこのあっせん機関も廃業になるリスクはあるので、こういった情報を保管する第三者機関のようなものがあったらいいと思います

 

ベビーライフは法整備の過渡期に起こった問題であり、行政での情報管理は慎重に検討が必要と主張する都に対して、再発の可能性を指摘し個別のあっせん機関に依存しない情報管理を求める現場。今後の方針にも乖離が見られる。

 

法整備に責任を持つ国の考えについて、厚生労働省子ども家庭局の石原珠代さんは次のように語る。

 

「養子の情報を国で一元管理するべきというお声は、養子さんご本人であったり養親さんの団体であったり、各所から頂いています。今具体的に申し上げられることはないのですが、情報管理のあり方は真剣に考えればなければならないと思っています」

 

国としても課題は認識しているが、現状においては議論の途中とのことだった。

今後の国の動きにリディラバとしても継続的に注目する。

 


・・・次回は廃業後、ベビーライフ問題をめぐる各メディアの報道に焦点をあてる。
一部報道では海外へのあっせんを「人身売買」と問題視する声が見られたが、現場と乖離するこれらの報道の問題を明らかにする。

 

リディラバジャーナルでは、特別養子縁組制度について全14記事の特集記事を2018年に公開しています。
より深く問題を知りたい方はこちらから、特集記事もお読みください。

編集後記

新たに開始した「第3のニュース」特集。
この特集では、社会課題にまつわるニュースを起点に、その裏にある構造を解き明かしていきます。
ニュースの見え方が変わっていく、ニュースがわかるようになる新特集、ぜひお楽しみください。

「第3のニュース」という特集名に込められた思いや、新たな特集を開始した背景は、近日公開予定の編集長インタビューにてご紹介します。
こちらもぜひ、本特集と併せてお読みください。

 

 

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特別養子縁組〜大手法人ベビーライフ廃業の裏に見える構造〜
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