社会を学ぶ“放課後”のひととき。学童保育の現状と課題
社会を学ぶ“放課後”のひととき。学童保育の現状と課題
あべ 新型コロナウイルスの影響をうけ、運営上の様々な問題が表出している学童保育。ニュースで取り上げられることも多くなりましたが、学童保育を利用したことがない人にとってはあまり身近な問題でなく、学童保育の現状を知らないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、NPO法人Chance for All で民間の学童を運営し、学童保育の改革に挑む中山勇魚さんをゲストに迎え、学童保育が直面している課題、その解決のために社会がすべきことを考えます。
早稲田大学教育学部卒業。18才の時に家庭の事情で家族で夜逃げ。東京都内のホテルやウィークリーマンションを転々とする。環境によって人生が大きく変わってしまう経験を経て「家庭や環境で人生が左右されないためにはどうしたらよいのか」を考え始める。大学在学中に様々な環境のこどもたちや教育のあり方について学んだり、学童保育の指導員として現場で勤務する中で放課後の可能性に着目。卒業後は保育系企業にて新規園の開発に従事。その後、IT企業でシステムエンジニアとして勤務しながら学童関係者とともに「こどもたちのための放課後」を実現するための準備を開始し、2014年に私立の学童保育CFAKidsを開校。現在足立区、墨田区で8校舎を運営。
※上記ダイジェスト動画・本記事は、リディラバ主催のオンライン勉強会「リディズバ」第18回(2020/4/22開催)を要約・編集したものです。
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国の基準も、予算もない——社会を支える学童の実態
あべ 今日のテーマは学童保育の改革、ということで、まずは中山さんがどんな活動をされているのか、お話いただけますか?
中山 我々は「生まれた家庭環境で人生が左右されないこと」を目指して活動していて、学童保育、中でも民間の施設を運営しています。
学童って実は、小学校よりもかなり長い時間を過ごす場所なんです。小学校で過ごす時間は1年間で1200時間くらいなのに対し、学童は1600時間。特に夏休みなんかは朝から晩まで。子どもたちは友達と遊び、ときにはケンカしながら、生活のルールや社会を学びます。
あべ 学童では学校よりも長い時間を過ごしていて、それが人格形成の場にもなっているということですね。それはめちゃくちゃ重要度高い。
中山 学童って保育園や学校みたいに国の基準がなくて、予算も少ないんです。
保育園の予算はいま、1兆、2兆円とかの規模。それが学童は、全国で130万人くらい、保育園と同程度通ってるのに予算は700億円くらいしかない。単純に一人当たり月4500円ですよ。それで命を預けられるのかっていう。
あべ 600万人いる小学生のうち、130万人も学童に通っているのに、予算は2ケタ違う。それは現実的になかなか難しいですよね。
でも、僕らもある意味で加担者なわけで。働かなければならないけど子どもの居場所がない、どこかで預かってくれる人はいないかな、と低予算で学童に押し付けている構図があると思います。
もともと脆弱な構造に、コロナの影響は容赦なく…
あべ 今回のコロナ禍でも、学童への支援が非常に手薄だった。学童がいかに社会を支えているのか、認識できてないという話ですよね。
中山 小学校は3月から一斉休校になり、うちは朝8時から開けてるんだけど、行政からは1円も、消毒薬やマスク等の物資も含めて援助がない。「休校にかかる費用はすべて負担します」と政府は発表したけれども、その「すべて」の中に民間の学童施設は入ってないんですね。
しかも、我々に感染症の専門知識はない。職員もいつ感染してしまうかわからないし、子どもたちが感染したときは責任問題になるかもしれない。いろんなリスクを抱えながらも、全国の学童の先生たちは子どもたちや保護者のために開けるしかない。薄氷を渡るような2ヶ月でしたね。
あべ かと言って出口は見えてないから、今後も厳しい状態が続く中で、どこまでしっかりと学童の支援をしていけるのかっていうのは、国としての課題ですね。学童の運営は資本主義的な論理だけではうまくいかないから、まさにソーシャルセクターとしてやっていくべきことで。
そこで政府とのコミュニケーションが重要になるんだけど、政府を動かすのは何かというと、国民の声。国民がどれだけ問題の構造を知ってるか、意見を言えるかが大事になってきます。
学童からの帰り道を、「褒められる帰り道」に
あべ Chance for Allが本当に素晴らしいと思うのは、保護者とのコミュニケーションが手厚いところだと思うんです。
中山 子どもをお客さんにしない、保護者を消費者にしないというのは意識しています。学童はサービスを提供することではなく、子どもを一緒に育てていくことである点を大切にしていますね。コロナの影響で一日中家にいることが増え、今まではなかったのに子どもに手をあげてしまったという家庭もあって、相談に乗ることもあります。
あべ そういうことって親御さん自身も辛い。相談すると批判されるかも、というような思いもある中で、学童とかを通して保護者とコミュニケーションを取れるかって結構大事なセーフティネットだったりしますよね。
中山 あと、我々は「褒めのタネ」って呼んでるんですけど、保護者が思わず子どもを褒めたくなるようなタネをまいています。
仕事が終わって保護者が学童に迎えにきたときに、「今日ね、敏樹くんはこんないいことを言ったんですよ。こんないいことをしたんですよ」と伝えている。学童からの帰り道に怒られるんじゃなくて、「頑張ったんだね」って褒められる帰り道にしようっていうのをやってて。保護者からも「うちの子の、全然知らなかったいい一面に気付けた」っていう声が多くあります。
あべ なんかもう、これ聞くだけでChance for Allに預けたいって気持ちになりますね。
一方で、学童だけじゃなくて社会全体、地域で子どもを育てていく意識も大切だと思いますが、そのためには何が足りていないんですか?
中山 社会が変わっていくために必要なのはまず、「子どもの比較評価をやめよう」ということ。この学年ではこれができないといけない、このスピードでこれを習得しなきゃいけないとか。日本の子どもたちの自己肯定感が低い原因はこれだと思います。学年で区切ることなどもただの行政の都合であって、子どもたちは何も悪くない。それなのにある一定の基準に当てはめてこの子はできる、できないって決めつけるのはダメだと思っています。
(動画全編につづく)
【オンライン勉強会「リディズバ」第18回(2020/4/22開催)】
・テーマ:「放課後は人生でもっとも大切な時間」学童保育の改革に挑む
・語り手:安部敏樹、ゲスト:中山勇魚さん
・時間:約63分間
▼動画全編▼
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