コロナが生んだ孤立の乗り越えかた——メディアと私の新しい関係
コロナが生んだ孤立の乗り越えかた——メディアと私の新しい関係
あべ 外出自粛が余儀なくされるいま、これまでにない孤立感を感じている方も多いと思います。私たちはこの孤独とどう向き合い、いかに乗り越えていけばいいのでしょうか。
今回のゲストは、世界の分断と孤立について取材を続けてきた、ジャーナリストの堀潤さん。堀さんがジャーナリズムの道に進んだ原点をはじめ、孤立孤独を手当てするメディアの役割などについて考えていきます。
アナウンサーとして日本放送協会(NHK)入局。岡山放送局での勤務を経て、「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター等、報道番組を担当。2012年、市民ニュースサイト「8bitNews」を自ら立ち上げる。2012年6月、アメリカ合衆国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に客員研究員として派遣され、SNSの活用などを研究。留学中に日米の原発事故報道を追った『変身 - Metamorphosis』を制作。2013年4月1日付でNHKを退局した。フリー転身後は、ジャーナリスト・キャスターとして数多くのテレビ・ラジオ番組等に出演する一方、インターネットテレビ、SNS、執筆活動などを通じて、精力的に発信を続けている。
※上記ダイジェスト動画・本記事は、リディラバ主催のオンライン勉強会「リディズバ」第25回(2020/4/29開催)を要約・編集したものです。
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変わりつつある「メディアと私の距離」
堀 このリディズバの感じ、いいですね。まさにメディアと私の距離が変わってきたことを実感しています。
あべ メディアと私の距離!いきなり面白いテーマが来ましたね。堀さんは、メディアと私の距離を変えることに挑戦してきた人だと思うんですが、詳しく聞かせてください。
堀 僕がNHKに入ったのは、やっぱり放送が変わらなければ、僕が問題意識を感じていたメディアの、そしてメディアに支えられた社会の実態は変わらないと思ったからなんです。大学時代にドイツ文学を専攻し、プロパガンダについて研究する中で、戦争プロパガンダを通して大衆の国民化の片棒を担いできた日本の放送が戦後見直されたのかというと、そうではないと思って。
あべ 本当の意味で社会を作っていく主体性のある意見と、プロパガンダで生まれた受動的な意見がかつては区別されていたけど、いまは「世論」として一括りにされてしまった。
堀 いろんなメディアがある中で、当時の僕は公共放送に注目したんです。「公共」って名前がついているのに、「パブリック」という実感が僕の中にはなかった。取材先に行くと「天下のNHK」みたいな感じで持ち上げられている。上下関係を感じたんです。
でも、そんな公共放送が変わるチャンスとなるイノベーションがありました。デジタル放送です。それまでのアナログ放送は電波を一方的に受信するものでしたが、デジタル放送になると、送信されたものに対して視聴者側も打ち返すことができる。そうした双方向性が生まれて初めて、電波が公共のものになると思ったんです。
メディアと私の関係がフラットで、インタラクティブで、相互監視もできてパートナーでもある。そんなメディアであるべきと考えた21歳の時の思いを実現するために、いまも淡々とやり続けています。
「世の中捨てたもんじゃない」と思えた原体験
あべ ところで、ジャーナリズムの道に進むきっかけになった、堀さんの原体験って何だったんですか。
堀 うーん、基本的に世の中のことをあんまり信じてなかったんですよね。いまも根底には、「世の中は終わってる」「そんなに大したことない」という思いがあります。でも、いろいろな体験をする中で「やっぱり世の中捨てたもんじゃないな」と思えるような、そんな人との出会いがあったんですね。そういう人がいるなら、同じように社会に期待していない人たちにも、そのことを伝えて希望を与えたい。
あと、NHKに入社して岡山放送局にいた時、取材をした地元の人たちにとても感謝されたんです。そのときに、「知ってほしい」と思っている人はこんなにもたくさんいるのに、その思いをテレビは伝え切れていないと気づいた。「知ってほしい」という人々の思いを、テレビを通して伝えていくことが使命だと思いました。
あべ そういう原体験って大事ですよね。メディアにとどまらず、人が生きていく上でどう孤立を乗り越えて、主体性を獲得し、自分の人生に期待を持って生きていけるかって大事だと思っていて。
私も、「今なら世の中と繋がれるかも」と思えた瞬間があったから今こうして仕事ができています。そういう経験を多くの人にしてもらいたい、そしてメディアがその媒介となればいいな……そういう思いが堀さんの原点にあるのかなと感じました。
みんなで作り上げるジャーナリズムへ
堀 孤独や孤立を手当てしていくことって、メディアの使命だと思うんですね。メディアというとマスメディアのことだと思われがちですが、Zoomだってメディアだし、困っている人に知見や知恵をわたせるような場所を提供する、そういう舞台設定をしていくこともメディアの役割です。
あべ いやーそうですよね。リディラバはツアーの事業から始まりましたが、人々が身体性を持ち、当事者性を持って関われるメディアってないのかなと考えて思いついたのがツーリズムだったんです。テレビのニュースだと5分、10分、Twitterだと10秒とかですっと情報が流れちゃう。でも旅行って、実際に足を運んで、時間を使いますよね。
堀さんがおっしゃったような舞台設定、仕組みづくりをして、みんなで解決していくジャーナリズムってどうやって作っていったらいいんですかね?
堀 やっぱり、「捨てたもんじゃないな」と思うきっかけとなった相手とつながって、一緒に発信していくことだと思います。自分がやりたいことを発信した時、テレビ局、企業、社会起業家、インターネットと、いろんなところから「僕も私も」という賛同の声を得られた。その時「やっぱり社会も捨てたもんじゃないな」「社会のセーフティネットってここにあるんだな」と実感したんですよね。協力するのはメディア同士と思っていたんだけど、そんなことなかった。
ここ最近、ジャーナリストと個人が一緒になって発信し、問題提起だけでなく解決方法の模索や実践までをパッケージとして伝えていく必要がある、と言われていて。でも既存のメディアだと、まだまだスピード感も細かさも追いついていないんじゃないかな。
あべ なるほど。ある海外の会議に出席したら、リディラバの事業モデルをまさにそのように紹介されたんですよね。問題が発生する瞬間だけではなくて、その前後にも関わることができる余白を残して、問題を解決していくっていう。そういうメディアのあり方がこれから大きなトレンドの一つになっていくんでしょうね。
(動画全編につづく)
【オンライン勉強会「リディズバ」第25回(2020/4/29開催)】
・テーマ:コロナが生んだ孤立の乗り越えかた
・語り手:安部敏樹、ゲスト:堀潤さん
・時間:約74分間
▼動画全編▼
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