子ども支援のフロントランナーが語る、貧困と教育格差の実態
子ども支援のフロントランナーが語る、貧困と教育格差の実態
あべ 今回は、困難をかかえる子どもへの学習支援や居場所支援を行っているNPO法人Learning for All 代表の李炯植くんに、子どもの貧困と教育格差の問題について聞いていきます。
この問題は多くの人が関心を持ちやすいテーマですけど、たとえば貧困家庭の実態などについてはまだまだ理解されていないのかなと思います。今回はそのギャップを埋める機会にできたらいいなと。
また、新型コロナウイルスの感染拡大が貧困家庭にどのような影響を与えているのか。そういったところの状況や困りごとについても聞いていきたいと思います。
東京大学教育学部卒業。2014年7月に特定非営利活動法人Learning for All を設立、同法人代表理事に就任。さまざまな困難をかかえた子どもへの無償の学習支援や居場所支援を展開し、これまでにのべ約7,000人以上を支援。新たなチャレンジとして「困難を抱えた子どもたちへの包括的支援モデル」づくりや、他団体などに「ナレッジ展開」する事業も展開開始。「子どもの貧困に、本質的解決を。」とミッションに掲げLearning for All を率いる。「全国子どもの貧困・教育支援団体協議会」幹事。Forbes JAPAN 30 under 30に選出。
※上記ダイジェスト動画・本記事は、リディラバ主催のオンライン勉強会「リディズバ」第16回(2002/4/20開催)を要約・編集したものです。
※動画全編は記事末尾にあります。リディラバジャーナル有料会員の方、もしくは有料会員の方によるシェアURLから記事をご覧いただいている方は、ご視聴いただくことができます。新規ご登録はこちら。
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貧困の背景にある生活習慣の問題
あべ まずは貧困と教育格差の実態について、李くんの活動の中でのエピソードも含めてお話してもらっていいですか。
李 「世帯年収と学力は相関関係にある」ということはよく言われていますよね。高収入の家庭のお子さんほど勉強ができると。
貧困家庭のお子さんはだんだんと勉強ができなくなって、偏差値の低い学校や定時制の学校に行き、就職も満足にできず非正規労働者になって、貧困の連鎖に陥ってしまう。
経済的な要因が学力に反映されるということは、これまで学習支援をしてきた中ですごく感じているところです。貧困家庭では学習机やイスがなかったり、あるいはワンルームだから親がテレビを見ている横で勉強せざるを得なかったり。そういった要因で勉強ができないと。
親御さんも働きづめで、ものすごくストレスが溜まっているから安らぐ時間がない。ちゃんと家でお子さんの勉強を見てあげることもできないんですね。
あべ いまの話をちょっと整理すると、「生活習慣をつける」ということが家庭の中の資産として存在しているけれども、たとえば親が働くので精一杯で「家に帰ったらテレビが見たい」という状態だと、お子さんに生活習慣をつけさせることができないと。
そうすると当然ながら勉強する習慣もつかなくて、それが学力の低下にあらわれてくるということですね。
李 そうですね。特に、未就学のときにどれだけ安心安全な環境で健康に育ってきたか……というところは学力にあらわれてきます。お母さんからあまり声をかけられなかったために、言葉をうまく話せない、一つの単語しか言えないというお子さんもいらっしゃるんですね。
それ以前に歯磨きができない、服装が5日間変わらないというお子さんもいらっしゃいます。なので貧困の問題というのは、学習の問題以前に生活全体を見ていかないと解決しない。
あべ そういった子どもたちにはどういうサポートが必要なんですか。
李 学校にも家庭にも安心できる環境がない、というのが大前提なので、心理的安全性を持ってもらわないかぎり何もサポートできないです。
みんな自分のできなさは理解しているんですけど、それってなかなかさらけ出せないですよね。だから勉強を教えるにしても、学童で過ごすにしても、まずは安心安全な環境をつくることが全土台になります。その上で、お子さんの年齢や発達状況に応じた支援を組み立てていくと。
それは学習支援のときもあれば、食事支援のときもある。なかには不登校の期間が長すぎて、勉強する環境自体に拒絶反応があるお子さんもいらっしゃいます。
そういうときは、まったく違う環境で一緒にマンガを読んだり、パズルしたりすることで関係性を築く。こうした支援の形はすべてオーダーメイドで考えています。
支援の成果はどのように測ればいいのか
あべ そうした支援の成果ってどのように測っているんですか。
李 ひとつは学力で測れますが、ほかにも学童の利用率やアンケート調査などはしています。
たとえばアンケートでは、自己肯定感や自己意識に関して聞いています。「自分に自信が持てているか」とか「頼れる大人はいるか」とか。そうした項目については測っています。
また、お子さんの周りのステークホルダーも重要なので「保護者の方の安心感が増しているか」「受援力(他者に助けを求め、快くサポートを受け止める力)が高まっているか」なども調べていますね。
あと最近考えているのは、地域との協働です。地域の方々と僕たちがどれくらいつながっているのか、どれだけ僕たちのことを知っているのか、どれだけ困難を抱えているお子さんを僕たちにつないでくれるのか、あるいは学校がどれくらい僕たちとやりとりしてくれるのか……。
そうした部分を密にしていくことが、セーフティーネットをよりキメ細やかにしていくために必要だと思っています。地域における関係人口数、それ自体が僕たちの価値になるので。
あべ 実はもっとも大事な価値は数値化できないところにあると。かんたんに評価できるものではないからこそ、ちゃんと評価していく視点を持ちたいですよね。
李 そうですね。ゴリゴリ経営するのも重要なんですけど、地域に根ざしていくことが僕たちの事業の本質なので、そこは両輪必要だと思います。
この3年間、ゴールドマン・サックスさんからお金をいただいていますけど、今年は包括支援のモデルとその成果指標をつくることにフォーカスしてるんですね。
成果指標をつくって一度測ってみて、その成果を報告書ベースで出すと。そのノウハウはすべて他の団体さんに提供していきたいと思っています。
あべ みんなでノウハウをシェアしていくことは大事ですよね。特にソーシャルセクターって、若い人たちがなんとなく憧れを持って入ってくる場合もあれば、40代・50代になってから入ってくるケースもあるんだけど、いずれにせよノウハウがないんですよね。
ノウハウがないと事業化されないし、事業化されないと継続していかない。だからノウハウを分かりやすくテキスト化してアーカイブし、学べる状態にしておくことは重要だと思いますね。
コロナ禍で炙り出されたソーシャルセクターの経営課題
あべ 今回のコロナで不景気が来ると予想されていますが、そのときに親御さんの仕事が縮小され、所得が減り、さらに困りごとが増える状況にもなり得ると。貧困問題が加速度的に悪化していく未来が見えるいま、どういう支援をしているんですか。
李 学童は開いてはいますが、自宅に居られる方はそうしてくださいと伝えています。ただ、どうしても仕事をやらないといけない方や、学童が閉まると困るので働かざるを得ない保育士の方などはいらっしゃいます。
そういった方々に関してはちゃんと見るようにしていますし、これはニーズを聞きながらですけど、オフラインでの対面支援は基本的に一旦中断しています。いまはご家庭にタブレットとWi-Fiを送らせてもらって、オンラインでの対面支援に切り替えているところですね。
あべ でも、これって言ってみたらLearning for All みたいに一定の資本力があるNPOだからやれていると思っていて。たぶんオフラインを中心にしてきた多くのソーシャルセクターは余力がなくて、自分たちの基本給もやばくなっている状況にあるんじゃないかと。
当事者を支援しきれない状態のNPOが出てきている。これは、ソーシャルセクター自身がツケを重ねてきた「体力のなさ」という経営課題があるからだと思うんですね。この課題が結局のところ当事者に影響を与えてしまっている側面がある。
李 そうですね。特に学習支援で言うと、多くのNPOが自治体から事業を受けています。でも今は事業が中止になっているので、そもそも貧困家庭のお子さんにリーチできないんですよね。
事業委託で取得した個人情報は毎年破棄しないといけないので、団体側から連絡することができない。社会インフラとしての僕たちの弱さを、いますごく感じていますね。
うちは寄付や自主財源ベースで事業をおこなっているのですぐに連絡できるんですけど、行政にぶら下がっている状態だと連絡すらできない。結局、こういうときに動けない僕らの存在意義ってなんだろうかと感じます。
あべ そうだよね。本当は一定の資本をちゃんと蓄えておいて、こういうときこそ当事者サポートに当たれるようにしないといけない。
(動画全編につづく)
【オンライン勉強会「リディズバ」第16回(2020/4/20開催)】
・テーマ:子供の貧困
・語り手:安部敏樹、ゲスト:李炯植さん
・時間:約63分間
▼動画全編▼
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