事業を伸ばす「内省」の必要性——ソーシャルセクターの舞台裏
事業を伸ばす「内省」の必要性——ソーシャルセクターの舞台裏
あべ 今回は前回につづいて、ソーシャルビジネスの事業運営の課題について、青木健太さんとお話していきます。
青木さんは途上国の子どもの人身売買の問題に取り組む認定NPO法人かものはしプロジェクトの共同創業者です。2018年4月からは、団体内のカンボジア事業を一部切り出す形で独立。いまは“ものづくりを通したひとづくり”をコンセプトに活動する、NPO法人SALASUSUの共同代表として活動されています。
今回もソーシャルセクターのリーダーシップや、事業運営のむずかしさについて語っていけたらと思います。
1982年生まれ。2002年、東京大学在学中に、2人の仲間とともに「かものはしプロジェクト」を創業し、”子どもが売られない世界をつくる”という理念のもとカンボジアの児童買春を解決するために活動。2008年からカンボジアに渡り、貧困家庭出身の女性たちを雇用し、ハンディクラフト雑貨を生産・販売するコミュニティファクトリー事業を統括する。2018年4月からカンボジア事業は独立。現在はNPO法人SALASUSU共同代表として活動を続けている。新法人では、「ものづくりを通したひとづくり」を活動コンセプトに、独自の教育プログラムを開発。現在は、そのプログラムを工房からカンボジア全土、そして世界に広めるべく日々奮闘中。
※上記ダイジェスト動画・本記事は、リディラバ主催のオンライン勉強会「リディズバ」第29回(2020/5/3開催)を要約・編集したものです。
※動画全編は記事末尾にあります。リディラバジャーナル有料会員の方、もしくは有料会員の方によるシェアURLから記事をご覧いただいている方は、ご視聴いただくことができます。新規ご登録はこちら。
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寄付に込められた思いをどう受け取る?
あべ 社会問題って、巨大すぎるじゃないですか。絶望感におそわれるわけですよ、やってると。
でも、その絶望感に対してやればやるほど無力感に苛まれるのではいけない。じゃあ、どうすれば、周りに知らせるといった小さな取り組みを重ねることに意味があったと思えるのか。
社会問題を構造的に考える人が増えていくことは、優しい社会をつくることにつながっていくんですよ。だから、みなさんが情報を共有したりして、周りを巻き込むことはめちゃくちゃ価値がある。でもその価値を感じづらいというのも分かるんですよね。
これはソーシャルセクター全体の問題だと思っていて、寄付とかもするんだけど、自分のお金がどれだけ問題解決につながっているのか疑問に思うわけですよね。
そのために、NPOや現場の人が丁寧に説明していかなくちゃならない。本来は、その時間は社会問題の解決に使っていた方がいいのに。
青木 それに関しては、ドナー(寄付者)が持つ暴力性というのもありますよね。寄付というのは、願いや意思を込めたお金をいただくわけです。その金額が大きければ大きいほど出す人の願いは大きくなるかもしれないし、自分のお財布にとって相対的な痛手が大きくなるほど、期待を持ちますよね。
それで良かれと思ってサジェッションすることがある。それが受け手にとってすごく良い刺激になることもあるし、もちろん受け止めるんだけど、必ずしも受け入れる必要はないわけですよね。
そのときに僕らはちゃんとプロとして考えました。こういう理由でうまくいかないとわかっているから、それは難しいと、伝えなくてはいけません。
逆に言えば「提案を受け入れないと寄付がいただけないのであれば、寄付は要りません」と言えるためには、現場の問題解決とファンドレイジングの両方のプロじゃないといけない。
あべ 問題の理解が深いわけじゃないけど、お金を出してくれる人の意見をどう受け止めるのかという問題ですよね。
たとえば、震災のときに孫正義さんが100億円の寄付を出していました。そのときに思ったのは、そのお金を孫さんが使ってくれたらいいのにということ。お金って、誰が使うかがすごく大事になってくる。お金の使いみちに関してよく分かっていない人が口を出してしまうとちゃんと問題解決につながらないよねと。
一方で、NPO側の課題としては、預ける側の人たちが「この人に預けたら絶対にうまく使ってもらえる。それだけの実力がある」と思われるということじゃないですか。このギャップをどう埋めていくかに私は関心が高いですね。
事業家から思想家へ
あべ リディラバとしては、問題の全体をみる意識を高めていきたい。そうすると、寄付のインパクトも変わると思っていて。同じ金額でも2倍の効果が出る可能性がある。
青木 そういうふうにお金を使っていきたいですよね。最近は、IT企業などで成功した人とかが、本当はうまくお金を使いたいと思っていたりする。だけど、事業のプロだから、中途半端なNPOにお金を出せないと思っているときに、受け皿になりうるソーシャルセクターがまだ多くない。
自分も含めて全然できていないから、プロの経営者としてもっと成熟していかないといけない。それはスキルの話だけではなくて、個人としても成熟していかないと受け皿にならないと思う。
あべ 経営者って、ビジネスの世界であってもある領域を超えてくると、思想家みたいになってきますよね。もう事業家というよりは、哲学者みたいな。いろんなタイプはあるけれども、そういうふうになっていく。
個人の内省の深さは、事業の成長の天井になりがちだから、どう深めていくかは大きな課題ですよね。
青木 リーダーシップの旅を考えたときに、ビジネスセクター、ソーシャルセクターともに大事なのは、自分のキャラクターを知って、それを手放したり、自覚してチョイスが生まれるようにしていったりすることです。いわゆる認知行動療法(※)みたいなものですね。
(※認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした精神療法。)
ただ、ソーシャルセクターに特有なのは、立ち止まりにくかったり、そのためにお金をつけづらかったり、自分が傷ついていることに振り回されてしまったりする。そこにお金を出していかないといけないと思っています。
ソーシャルセクターには「勝ち」も「負け」もない
あべ あと、バランスが難しいんだけど、競争がないと振り返りづらいのかな、と。自分がやっていることを相対比較できないじゃないですか。
これを自分がやっていなかったらもっと違うかたちになっていたかもしれない、というのが分からないんですよね。頑張ってますから、となっちゃう。
競争があって、自分が至らなかったからこの戦に負けたんだなと分かると、それはすごく良い内省の機会になるんだけども、ソーシャルセクターではそれがなかなかない。
青木 「勝ち」がないから、「負け」もないんだよね。すごくむずかしくて、やっていることに意味があると思っていないと心が持たないという側面もある。
社会は1、2年で変わったりしないから、最低でも15年はやってくださいとなったときに、その15年の間、やっていることに意味はあるんだろうかと自問自答し続けているとつらい。でも、負けがないと内省が深まらないということもある。
あべ おれやってるもん、私やってるもんってなると危険じゃないですか。そこからなかなか抜け出せなかったりするし、本当に優秀な人はアゴがあがっているかどうかというところに敏感だったりする。
ソーシャルセクターが強くなるためには、そういう感度の高い人を引っ張ってこないといけない。
青木 僕はそういう自己内省の対話にプロのファシリテーターを入れる試みを7、8年やっています。それは有意義だけど、大変。
自分の過去の傷とかルーツを振り返るというのは、準備ができていないときに強要されると、暴力になってしまう。
それはないようにやっているけど、それでも感情と感情がぶつかり合う。だから、すごく疲れるし大変だし、すぐに成果がみえるわけじゃなかったりする。でも長期的には関係性の質が上がってきます。
そもそも社会問題に取り組んでいる人が不幸せになると、新しい社会問題を生産しているだけじゃないか、と思いますね。
あべ 大事なのは、一緒に働くメンバーが「なんでこの人はこういう発言をする心理構造になっているんだろう」と想像できるかどうかだと思っていて。
それができると、ああこの人はこういう文脈で発言しているけど、それはこういうことだから特段気にしなくてもいいよねとか、逆に一見大丈夫そうだけど、ヤバいかもなというのが少しずつ分かってくる。
青木 対話を通じて人の力、仲間の力を借りて、内省をすることが大事であって。自分一人で俺は何者なのかと考えていても、意外と分からない。それをつかめていくといいなと思います。
(動画全編につづく)
【オンライン勉強会「リディズバ」第29回(2020/5/3開催)】
・テーマ:ソーシャルセクターの舞台裏
・語り手:安部敏樹、ゲスト:青木健太さん
・時間:約52分間
▼動画全編▼
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