ソーシャルビジネスの仕組みって?——がん検診受診率向上事業から考える
ソーシャルビジネスの仕組みって?——がん検診受診率向上事業から考える
社会課題の解決を目的に行われる事業、「ソーシャルビジネス」。近年はNPO・NGO・ソーシャルベンチャーなどが多く立ち上がっており、社会を支える屋台骨として注目されています。
一方で、ソーシャルビジネスが成り立つ背景やビジネスモデルについては、まだあまり詳しくないという方も多いかもしれません。
今回は、語り手・安部敏樹(あべとしき)とともに、がん検診受診率向上事業などを行うキャンサースキャンを事例として、ソーシャルビジネスの仕組みやその社会的意義を学んでいきます。
※本記事は、リディラバ主催のオンライン勉強会「リディズバ」第5回(2020/4/9開催)を要約・編集したものです。
※動画全編は記事末尾にあります。リディラバジャーナル有料会員の方、もしくは有料会員の方によるシェアURLから記事をご覧いただいている方は、ご視聴いただくことができます。新規ご登録はこちら。
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歳入は減少、社会課題は増加…その中で生まれる新たなビジネス
今回は国内におけるソーシャルビジネスの仕組みについて話していきたいと思いますが、まずはこちらの天秤を見てください。
左が日本政府の「歳入」、基本的には税金ですね。いま日本は、すくなくとも過去50年は経験したことがないレベルの人口減少に直面しています。つまり、歳入が本格的に減るフェーズがいよいよやってきた。
ところが、右の「社会課題」は今後どんどん増大していきます。戦後の食料問題などの「全国民当事者」みたいな問題に代わって、いまは小から中くらいのさまざまな社会課題が出てきているんです。
大きくいうと、これまで社会課題は税金で解決してきました。でも、これから歳入が減っていくとすると、公的なお金だけで社会問題を解決するのは難しくなってくる。
そこで必要なのは、新たなマーケットを作り出すことです。たとえば、ある社会課題があったときに、これまではそれに対して1兆円の税金をつぎ込んでいたけれども、さらに民間が1兆円を投資して“産業化”する。公的なお金と民間のお金、そのハイブリット版みたいなマーケットを作り出していかないといけないんです。
そして、社会課題を産業化するときに大事なことが、「何が問題なのか」を設定し、他者と合意形成を行うこと。その上で、企業の研究資産や自治体の予算、あるいは市民からの寄付といった、みんなの資源を社会課題に投入していきます。
そうして産業化し、法人等が立ち上がってくれば、当然納税をするわけなので、一定の税収が国に戻っていくかたちになります。減少する歳入を新たな税収で補っていくサイクルをつくっていかないと、おそらくこの国では社会課題がどんどん放置されていってしまう。
歳入減少などの制限があるなかで、どうすれば社会の困りごとを解決する仕組みを実現できるのか。それをみんなで考えていくことが、ソーシャルビジネスという仕組みの根本にあると僕は信じています。
チラシを変えるだけで受診率が向上!
ソーシャルビジネスの具体事例として、株式会社キャンサースキャンの取り組みを見ていきたいと思います。
キャンサースキャンは、がんによる死亡者数を減らすため、マーケティング手法を活用し、がん検診の受診率を向上させることを目的に活動している会社です。
たとえば、みなさん40歳以上になったら「乳がん検診を受けましょう」という案内のチラシが、行政から配られます。ある地域では、これを1500人に配ったところ、1人しか検診に来なかったそうです。一方で、キャンサースキャンが新たに作ったチラシでは、1489人中131人が検診を受けてくれたと。
情報を整理してメッセージを絞り、1万円の補助が出ることを一目でわかるようにした。すごいシンプルな変化ですけど、これにより受診率が大幅に上がりました。
※チラシのデザインはこちらの資料のp7、p8からご覧いただけます
このメリットってかなり大きいんですよ。たとえば、がんがステージ1のときに見つかった場合と、ステージ4のときに見つかった場合とでは、後者のほうが治療費がかかってくる。つまり、受診率が上がって早期発見につながれば、医療費が抑制される可能性があると。
日本は医療費がものすごく高い国です。しかも毎年右肩上がりで、これが大きくなればなるほど、他の社会問題に使えるお金も少なくなってしまう。その点、キャンサースキャンの取り組みには期待ができます。
キャンサースキャンのチラシはがん検診の受診率を向上させる効果がありますが、がん検診自体に医療費削減効果が示されているわけではなく、寿命を伸ばすというエビデンスもありません(※1)。
がん検診の受診にはメリット・デメリットがあり(※2)、受診の是非に関しては現時点でさまざまな議論が交わされています。
また、今後は受診率だけでなく、寿命・QOL・医療費といった、受益者にとって意義のある指標を改善できるかどうかを示すことが課題とされています。
官民連携の仕組み「ソーシャルインパクトボンド」
キャンサースキャンは「早期発見によって削減できた医療費の半分を、我々にください」という事業モデルで、行政との委託契約を結んでいます。
「医療費を削減できる、つまり国民の税金を効率的に使えるようになる」と言って、いろいろな自治体に提案していきました。
ここで問題なのは、行政が基本的に予算の作成に重点を置いていることです。年度のはじめに決まった金額を民間事業者に提示して、業務が実行されたら支払う。このかたちでは、民間事業者が成果を出すことに対するインセンティブをつけられない。
たとえば「チラシを配った結果1人しか来なかった」という、最終的な成果を評価する力が弱いんです。「成果連動型」になっていない。
民間事業者からすると、どのくらいの成果があったか見えてその分報酬が上がれば、もっとがんばろうという気持ちになりますよね。逆に成果が少なければ、上がるようにがんばる。
だから、どのくらいの成果が出たかを評価したうえで、行政が民間事業者に支払う金額を決める。こうした成果連動型のモデルにしたほうが、実は民間との付き合い方はいいんじゃないかと思うんです。
ただ、こうしたモデルにすると、成果が出るまで事業者にはお金が入ってこない状態になる。そこでどうするかというと、運営資金を確保するために、投資家や財団などから出資してもらうんです。
そして、最終的に成果が出たら、行政が出資者に対してお金を支払うと。つまり、「行政と民間事業者の成果連動型の契約」と「民間の投資家からの資金調達」の二つを組み合わせるということです。こうしたモデルは「ソーシャルインパクトボンド」と呼ばれています。
(動画全編につづく)
【オンライン勉強会「リディズバ」第5回(2020/4/9開催)】
・テーマ:ソーシャルビジネス大解剖 ~キャンサースキャンの事例から~
・語り手:安部敏樹
・時間:約54分間
▼動画全編▼
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