• 新しいお知らせ
    ×
いまこそ学び直し!あべとしきと考える社会問題の構造20
2020年4月。新型コロナウイルスの感染拡大により、すべての人が、ひとつの社会問題の「当事者」となりました。不安に溢れる今だからこそ、困難な状況にある人たちへの想像力をもち、社会全体で「やさしい関心のセーフティネット」が築けたら――そんな思いで、私たちリディラバは、4月5日から毎日毎晩、社会問題に関するオンライン勉強会「リディズバ」をスタートしました。 熱量あふれる勉強会のようすを、記事と動画でお届けします。
公開日: 2020/5/26(火)

投資家はここを見る!事業で社会変革をおこす「ツボ」とは?

公開日: 2020/5/26(火)
公開日: 2020/5/26(火)

投資家はここを見る!事業で社会変革をおこす「ツボ」とは?

公開日: 2020/5/26(火)
オーディオブック(ベータ版)

 あべ  今回のテーマは、ソーシャルビジネス領域への投資についてです。


従来の投資のセオリーである「財務的リターン(投じた額に対していくら儲かって返ってくるか)」だけではなく、「ソーシャルインパクト(どれだけ社会に影響をおよぼすか)」も目的とする社会的インパクト投資では、「ソーシャルビジネスって社会に良いことをしているのはなんとなく分かるけれど、事業性はどうなの?」「何を見て投資家はソーシャルビジネスに投資をするの?」といった疑問を抱いた方も多くいるのではないでしょうか。


今回は社会的インパクト投資家である山中礼二さんに、上手くいくソーシャル事業のツボと、目指している投資モデルについてお聞きします。

 

山中礼二(やまなかれいじ)
キヤノン株式会社で新規事業の企画・戦略的提携に携わった後、2000年にグロービスに参加。グロービス・キャピタル・パートナーズでベンチャー企業への投資と経営支援を担当。その後、医療ベンチャーのヘルス・ソリューション(専務取締役COO)、エス・エム・エス(事業開発)を経て、グロービス経営大学院の教員に。2015年からKIBOW社会投資ファンドを立ち上げ、社会を変える起業家への投資育成を行っている。愛さんさん宅食株式会社(取締役)。NPO法人STORIA(理事)。内閣府休眠預金等活用審議会(委員)。一橋大学経済学部卒。Harvard Business School 修了(MBA)"

 

※本記事は、リディラバ主催のオンライン勉強会「リディズバ」第21回(2020/4/25開催)を要約・編集したものです。

※動画全編は記事末尾にあります。リディラバジャーナル有料会員の方、もしくは有料会員の方によるシェアURLから記事をご覧いただいている方は、ご視聴いただくことができます。新規ご登録はこちら

(非会員の方でも、シェアURLから1週間無料で該当記事を読むことができます)

投資家から見る、ソーシャルベンチャーの3つのフェーズ

 あべ  自己紹介も兼ねて、山中さんの大まかな活動内容についてお話いただけますか。

 

   一般財団法人KIBOWでインパクト投資をすると同時に、グロービス経営大学院でベンチャー系の科目の教員をしています。


我々の行っている「社会的インパクト投資」とは、社会課題を解決しながら、利益も同時に生み出すタイプの投資です。かつて、お金がどんどん回っていく事業は「プライベートセクター(民間企業/団体)」、儲からない事業は「パブリックセクター(行政)」に二分されていました。

 

しかし儲からないように見えた領域が、実は創意工夫で儲かる事業にできる中間領域で、ここでイノベーションを起こせるのが社会起業家の醍醐味だと思うんですよね。そこに投資をしていきたいと思っています。

 

 あべ  その分野が広がることは、資本主義の拡大の観点でも、パブリックセクターの負担縮小という観点でもメリットなんですよね。税収は減っていくが社会問題が増えていく現代の大きな論点ですね。


その反面、どんなに社会的にいい事業であっても、実際のビジネスモデルが見せられないと投資家も乗っかりにくい側面もありますよね。リスクを一緒に背負って乗ってくれる投資家にそこまでの素地を見せられることが、起業家にとって一番大きな責務だと思うんです。

 

   投資家から見てもとても興味深い観点で、ソーシャルベンチャーには3つのフェーズがあると思っています。


①Validation phase:社会的に良いことをやれているのか社会的立証ができていない
②Business Modeling phase:社会的に良いことはしているが事業性が確立できていない
③Impact Maximize phase:社会性も事業性も確立できていて、このままどんどん拡大していける


特にこの①のフェーズでは、これが本当に正しい事業なのか、これで社会が変わるのかが立証されていないので、このタイミングでの投資が一番難しいんですよね。

 

 あべ  政策的な観点で見ると、「これだけお金を投入したらどれぐらい社会が良くなるか?」といった③のフェーズを大きく求めすぎているのでは、と思うんです。

 

逆に最も難しいのが①のフェーズで、現状としてソーシャルセクターは①でとまっているところも多く、先に進めていない側面もあると思うんですよね。

 

この認知のギャップを埋める機能がまだまだ不十分な気がしていて、社会課題を現場ベースで構造化していくことがこのギャップを埋めることにつながるんじゃないかと考えています。

インパクト投資に重要な「社会性」と「経済性」のバランス

 あべ  クリティカルな事業モデルなのに、事業展開をしていく場所によっては一般的な事業に比べて資金的サポートが弱く、継続していかなかった事例も過去にはありますよね。

 

   十分に社会をよくできるモデルでも、経済的にも成功できることを証明できないと、現代の資本主義においてお金が流入しないんですよね。お金が流入するモデルまでをつくりきれて初めて「インパクトモデル」が社会を構造的に変える力を持てるんだと思うんです。

 

 あべ  社会を構造的に変えることって、非常に難しいですよね。たとえば貧困世帯が住宅を確保できないといった課題があったときに、発展途上国ではインパクト投資がうまくいかなくても、今後不動産価格が爆上がりする可能性が低い日本ではうまくいく可能性がありますよね。

 

問題そのものと解決策は分けて議論するべきで、社会課題解決のための根本的なロジックを理解した上でその可能性にかけたのが(山中さんが所属される)KIBOWだと思うんです。そこまで判断をした上での投資であることを、皆さんにも理解してもらった上で応援してほしいですね。
 

   ある社会課題がなぜいままで解決されずに行き詰まっていたのか。その「構造」を理解した上で、これを変える「ツボ」を抑えている事業に投資することが、難しいけれども大事な観点だと思っています。

 

それと同時に、経済的に成り立って行くビジネスモデルを構築すること、そしてそのモデルを社会起業家と一緒に作り上げていくことが本当に価値のあるインパクト投資だと考えていますね。

 

 あべ  構造化することで、社会課題解決のために一番大事なことを資本主義側から理解できる。これはすごく大きなメッセージですね。

ソーシャルセクターの新しい資金源「休眠預金」

   「社会を構造的に変えるツボ:レバレッジポイント」には複数の解釈があり、そこに対するアプローチの一つが、私も審議会の委員を務めている「休眠預金」です。


休眠預金とは、預けたことを忘れたままになっていたり、預金者が亡くなってしまうなどの事情で銀行に残されたお金のことで、日本だと年間約500〜700億円近く存在しています。

 

いままでは銀行の売上になっていましたが、今後はソーシャルセクターに分配するという法律ができ、しかもその分配先は、政府ではなく民間が割り振るという画期的な変革なんですよね。

 

 あべ  そうなんですよ。いままでの公益的な事業に対する資金源が税金以外にもできるようになり、大枠はすごく良いシステムですよね。今後このシステムをどう継続して良くしていけるかが課題でもありますね。

 

   休眠預金の担い手の輪が、いま一つ広がっていない課題感もあります。背景にはペーパーワークが多かったり、PR不足の面があったり、あるいは出資や貸付にひるみがちな制度の担い手、議員の存在などもあるかもしれないです。

 

ただ、本当の勝負は新型コロナウイルスが広がった、まさにいまですよね。日本社会でこの危機を乗り越えていくために、休眠預金がどう上手く使われていくか。それが今後、休眠預金が社会に根付くのかどうかの勝負になると考えています。

 

 あべ  変動はあるものの毎年500~700億円近くあるうち、休眠預金がソーシャルセクターへの活用制度に割かれる額は、今年度でまだ30〜40億円程度。大きなギャップがあります。


いずれ制度が上手く回れば増額していく、という議論の中で走り始めたシステムなのですが、ここでの課題は、いま割かれている30〜40億円をいかに適切に配分できるかということではありません。この市場を今後10倍にしていくことを想定して配分することで、ソーシャルビジネスがしっかりと継続していけるのか、という点です。

 

今後、この財源が国庫に戻ることなく、しっかりとソーシャル領域で継続的に根付いていってほしいですね。
 

(動画全編につづく)

 

リディラバジャーナル有料会員の方、もしくは有料会員の方によるシェアURLから記事をご覧いただいている方は、以下の動画全編をご視聴いただくことができます。 ※有料会員の新規ご登録はこちら。(非会員の方でも、シェアURLから1週間無料で該当記事を読むことができます)

【オンライン勉強会「リディズバ」第21回(2020/4/25開催)】

・テーマ:投資する社会起業家をどう決める? 事業拡大に重要な「構造化」とは?

・語り手:安部敏樹、ゲスト:山中礼二さん

・時間:約71分間

 

▼動画全編▼

 

※リディラバジャーナルについてもっと知りたい方はコチラ
note
リディラバジャーナル編集部
noteのicon
【強迫症啓発週間】発達障害支援に欠けた「学校・家庭・福祉をつなぐ"あいだ"の存在」
2024年10月18日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「東大だと結婚が難しくなるから、慶應にしておけば」国際ガールズ・デーに読みたい、女子にかけられている呪い
2024年10月11日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
東京・埼玉で相次いだ闇バイトによる強盗。指示役に脅されていた若者も?
2024年10月4日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「選択的夫婦別姓制度」が総裁選の焦点に?日本の姓の歴史の背景をひもとく
2024年9月17日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
新しい認知症観とは?“常識”を捨て、認知症の人に「寄り添う」ことが、その人らしさの尊重に繋がる
2024年9月6日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「9月1日」を乗り越えた子どものその後は?SOSを聞き逃さず、切れ目のない支援を
2024年8月30日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
子どもは「安心して学校を休む権利」をもっている。夏休み明けの子どもの自殺防止に役立つチェックリストも
2024年8月23日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「食品ロス」が「日本の食料自給率」を救う?2つの社会課題を解決へ導く循環型システム
2024年8月9日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ!リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「パパは寝てる」Tシャツの裏で、男性の育休取得率は過去最高に。新旧の価値観がぶつかり合う転換期
2024年8月2日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
起業家が受ける不当な圧力・セクハラ。背景にあるものは?【ニュースに潜む社会課題をキャッチ!】
2024年7月26日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「障害者が子どもを産むな」ひとつでもできないことがあれば子どもをもってはいけないのか?
2024年7月19日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず。

続きをみる
芸術祭なのに、米作りに雪かき?「大地の芸術祭」が挑む地域づくりとは
2024年7月12日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず。

続きをみる
「夏休みに特別な体験をさせられない」子どもの体験格差は、学ぶ意欲や将来の可能性にまで影響を及ぼす?
2024年7月8日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
メディアが作り出した? 生活保護費引き下げにつながった世論
2024年7月1日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
在日クルド人に対するSNSでのヘイトスピーチ。書き込みへの法的措置の意義とは?
2024年6月21日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
輪島・珠洲の断水解消も、水道は使えない。復興を左右するのは世間の関心の深さ
2024年5月31日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ!リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
少しずつ可視化されてきた「恋愛的にも性的にも惹かれない」人たち。アロマンティック・アセクシュアルとは?
2024年5月24日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
喜べない教員の給与増。残業が残業だと認められない給特法とは?
2024年5月17日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ!リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
勤務時間15分減で退職金ゼロ?非正規の人の労働条件を改善するための制度のはずが…
2024年5月14日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
性犯罪の被害者の約半数が子ども。わが子をグルーミングから守るには?【ニュースに潜む社会課題をキャッチ!】
2024年5月7日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず

続きをみる
動物の虐待摘発過去最多。「保護犬・保護猫」前進の裏で生まれる課題
2024年4月12日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず。

続きをみる
スクールカウンセラー約250人が雇い止め。子どもの心の健康を支える専門職なのに任期は1年?【ニュースから読み取る社会課題!リディラバジャーナル】
2024年4月4日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず。

続きをみる
依存症の人に必要なのは「反省や刑罰」ではなく「治療と仲間」
2024年3月29日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず

続きをみる
「同性婚を認めないのは違憲」互いの違いを尊重できる成熟した社会へ
2024年3月18日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
能登半島地震、深刻なボランティア受け入れ態勢不足が課題
2024年3月8日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ!リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
×
CONTENTS
intro
いまこそ学び直し!あべとしきと考える社会問題の構造20
no.
1
no.
2
no.
3
no.
4
no.
5
no.
6
no.
7
no.
8
no.
9
no.
10
no.
11
no.
12
no.
13
no.
14
no.
15
no.
16
no.
17
no.
18
no.
19
no.
20