地域の関係者を巻き込んだ対話による曖昧さの克服〜地域でのインパクト投資実践における課題〜

地域の関係者を巻き込んだ対話による曖昧さの克服〜地域でのインパクト投資実践における課題〜
第1回の記事では、インパクト投資という手法が特に地域において重要となる理由や背景を解説してきた。第2回となる本記事では、地域でのインパクト投資拡大に向けた課題とその解決策を、実際に取り組む事例をもとに紹介していく。
※本特集は令和6年度中国経済産業局委託事業「社会的起業家に対する地域での投資実践に向けた調査・広報事業」の一環で制作しており、無料で公開しています。記事の公開は2025年3月31日(月)までとなります。
※また記事内の発言は、上記事業の一環として開催した広報イベントの登壇者の発言をもとにしています
「社会や環境にとって良いこと」はどのように測れる?フレームワークを活用したインパクトの測定
インパクト投資とは、財務的なリターンと社会的・環境的なインパクト(正の影響)を同時に追求する投資手法であり、「儲かるかどうか」に加えて「社会や環境をよくするか」を価値判断の基準とする。
では、具体的にどのような点がこれまでの投融資と異なるのだろうか。また地域の社会・環境課題の解決に取り組む企業への投資は全てインパクト投資となるのだろうか。
インパクト投資の最大の特徴は、社会的・環境的インパクトを「測定可能な形」で示すことを重視する点にある。つまり、「なんとなく良いことをしている」という曖昧さを超えて、より具体的な課題解決や社会変革の手法として機能することを目指す手法であると言える。
投資の結果として生み出された課題解決によるインパクトを可視化し、測定するための標準的な測定フレームワークはいくつか確立されている。
たとえば、セオリー・オブ・チェンジ(以下、ToC)やロジックモデルがある(※1)。本記事では詳細な説明は省略するが、どちらも事業活動や取組がどのような課題の解決に貢献し、最終的にどのような社会の実現につながるのかを図式化したものである。
※1)セオリー・オブ・チェンジ、およびロジックモデルについての詳細な説明は、内閣府「社会的インパクト評価に関する調査研究 第3章」を参照
このようなフレームワークを活用することで、「社会的・環境的に良いこと」を具体的に可視化し、それを定量的、定性的に測定していくのがインパクト投資の特徴である。
一方で、社会的・環境的インパクトの可視化は、従来の投資活動にはなかった考え方であるため、初めて取り組む際に難易度が高い場合が多い。また他の取組機関を参考にしようとしても、それぞれ独自に解釈した上で多様な活用がされているため、自社にとってどの取組を参考にすることが最適か分からないという状態に陥る可能性がある。
地域においてもインパクト投資の取組は普及の途上にあり、投資家の間での具体的な活用ノウハウ共有・蓄積は今後の課題である。
ここからは、インパクト投資の実践に当たってどのような課題があるのか、またそれをどのように乗り越えていくのが良いかを、実際の事例をもとに具体的に見ていく。
なぜその課題が発生しているのか?課題の要因分析の重要性
まず、多く聞かれるのが「地域の課題を精緻に理解し、整理することが難しい」という点である。
インパクト投資に取り組む上で、投資家はどのような課題を解決したいのか、その「意図」を明示することが重要となる。一方で、投資家は必ずしも課題の専門家ではない場合が多い。
そのため、デスクトップリサーチで課題の大枠をつかむことができても、それがどのような要因によって起きているのか、実際に地域の生活にどのような影響を及ぼしているのかを把握することが難しい場合がある。
このような課題に対して、前回の記事で紹介した「やまと社会インパクトファンド」の運営に携わる株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズの青木武士さんは次のように述べる。
株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ 代表取締役
「私たちは、やまと地域における課題の因果関係を可視化した『課題デザインマップ』を作成しています。
たとえば、1人あたりの観光消費額が少ないという課題について、要因は実は多岐にわたります。その1つに観光客の9割が宿泊せずに日帰りしてしまうということが挙げられますが、これは旅館・ホテル客室数が少ないことに起因しています。
このように起きている課題に対して、その問題の根本要素を分解していくという作業を行なっています。
(出典:やまと社会インパクトファンド インパクトレポート2023)
そしてこの作業を行う際に、地域住民や自治体職員、地域の事業者を巻き込んだワークショップを開催します。
このプロセスこそが重要であり、地域の課題をみんなで考えることで、実際に及ぼしている影響や課題の起きている要因の本質が見えてくるのです」
(出典:株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ プレスリリース)
青木さんの「課題デザインマップ」の取組からは、単に目の前の課題を把握するだけでなく、目の前の課題がなぜ起こっているのか、構造的に課題を理解していくことの重要性がわかる。
観光消費額の例が示すように、単に「消費額が少ない」という事象だけでなく、「宿泊施設の不足」という根本要因にまで遡って課題を分析することで、より効果的な解決策やそれに取り組む投資先企業を見出せるのだ。
特に重要なのは、この分析プロセスを地域住民や自治体、事業者といった多様な関係者と共に行う点である。
社会課題とは本来、個人の困りごとを社会全体で解決するための合意形成プロセスであり、当事者不在では真の課題を捉えることはできない。
インパクト投資家がデスクワークだけで課題を定義するのではなく、現場の声を集め、協働して課題を構造化していくアプローチが、地域に根ざしたインパクト投資の第一歩となる。
課題を解決することが結果として事業や利益につながる?関係者の巻き込み
地域でのインパクト投資実践に向けた課題として、次に取り上げるのが、インパクト投資を始める際の出資者の獲得や、継続していく上での巻き込みの難しさである。
ベンチャーキャピタル型のファンドの場合、ファンドの管理運営者(GPと呼ばれる)は資金を単独で用意することが難しいため、出資者(LPと呼ばれる)を募って十分な投資額の確保やリスク分散を行うのが一般的である。
また事業会社が自社勘定でインパクト投資を行なったり、コーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)がインパクト投資を行う際にも、社内の意思決定者や経営層との合意形成を図っていく必要がある。
インパクト投資は通常の投資と比較して利益が生まれるまでに時間がかかる場合が多い。なぜなら、ビジネスモデルの特性上、短期的な収益最大化ではなく、受益者や地域社会等の利害関係者との強い関係性を築き、長期的な競争優位性の確立を目指す場合が多いからである。
そのため、出資者や社内の意思決定者の目線に立つと、社会・環境課題への貢献が優先されて利益が犠牲になるのではという懸念を持ちやすくなることがある。
このような懸念を、どのように払拭して運営資金の獲得をしていけば良いのかという点が、インパクト投資を実践していく上でのハードルとなる。
これに対して、⺠間の⽬利き⼒で選ばれた企業を官⺠で集中⽀援し、スタートアップの成功モデルを創出するための「J-Startup」制度の地域版「J-Startup WEST」の共同設立者である仲田亮さんはこのように話す。
経済産業省中国経済産業局地域経済部 イノベーション推進課係長
「J-Startup WESTでは、急成長を志向するユニコーン型の企業はもちろんのこと、地域・社会の課題解決などを重視し、事業成長との両立を目指すインパクトスタートアップ型の企業も対象としています。
売上や利益以外の点を重視する意義を地域の関係者に説明していく際に、たとえば海洋問題の解決に取り組むスタートアップの場合、地域が抱える海の課題と事業のつながりをToCやロジックモデルで示すこともできると思います。
これにより、商工会議所や自治体、地場企業といった地域経済の関係者との共通認識を持つことができ、スタートアップ支援への共感を得る一助になるのではないでしょうか。
また、地元を愛し地域の発展に寄与したいと考える方々が、経済合理性に加えて地域性や社会性を共通言語としてスタートアップと対話することで、地域との協業が進む端緒となり得ます。
J-Startup WESTには、こうした地域・社会課題解決に関心の高い方を含め、266の企業・団体にサポーターとして参画していただいています。」
(「J-Startup WEST企業採択の選定基準」出典:中国経済産業局・四国経済産業局「J-Startup WESTのご紹介」)
また、先述の青木さんも以下のように言う。
「地域では、地域外からの新たな人材の流入が難しい場合があります。私たちの場合は、先ほどお話しした課題デザインマップを関係者と共同作成しているため、そこで話し合われた課題を解決できる人がいるという認識が広まり、スタートアップや事業者も集まってきやすくなっています。
そしてその課題解決に取り組みながらも事業を成長させ、地域経済に寄与することができる実践者を育成することができれば、自然と地域からの期待が集まるようになります。
やまと社会インパクトファンドでも当初は南都銀行とともに始めましたが、新たに地元企業が出資を始め、応援してくれるようになっています」
(出典:やまと社会インパクトファンド インパクトレポート2024)
これら二つの事例から見えてくるのは、インパクト投資における説得力のある「共通言語」の重要性である。
ToCやロジックモデルを用いて地域課題と事業のつながりを可視化したり、課題デザインマップを関係者とともに作成したりすることで、単なる「良いこと」を超えた具体的な価値創造のストーリーが共通言語として関係者間に共有される。
地域経済に根ざした投資家や出資者に対しては、地域の課題が可視化されることによって、抽象的な社会貢献ではなく、長期的にどのような経済的・社会的価値を生み出すのかを説得力を持って話すことできるようになる。
その際、短期的な出資者への利益だけでなく、地域の課題が解決されずに放置され続けた場合、出資者の将来的な事業活動にどのようなリスクが生じるかといった観点から経済的価値を考えることも重要である。
まとめ:「対話」と「可視化」がインパクト投資成功の鍵
本記事では、地域でのインパクト投資実践における二つの重要な課題——「地域課題の深い理解と構造化」と「出資者の獲得と継続的な関係性の構築」——について探ってきた。これらの課題に対する解決策の共通点は「対話」と「可視化」にある。
地域の多様なステークホルダーとの対話を通じて課題の本質を理解し、その構造を「課題デザインマップ」のように可視化することでインパクト投資の意図を明確にできる。
また、投資対象となる事業がどのように社会課題の解決と経済的リターンを両立させるのかを、ロジックモデルなどを用いて可視化し、出資者と共有することで長期的な支援を得ることができる。
次回の記事では、さらに地域でインパクト投資を推進していく上での課題や、実践者がどのようにそれを乗り越えているのかを解説していく。

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