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公開日: 2025/3/17(月)
更新日: 2025/3/19(水)

なぜ今、インパクト投資なのか? 〜社会課題解決を後押しする資金の流れを作る〜

公開日: 2025/3/17(月)
更新日: 2025/3/19(水)
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なぜ今、インパクト投資なのか? 〜社会課題解決を後押しする資金の流れを作る〜

公開日: 2025/3/17(月)
更新日: 2025/3/19(水)
オーディオブック(ベータ版)

「社会課題解決という目標に向けて、インパクト投資手法を確立させ、成長分野に対する官民の資金供給の担い手を拡大させていくことで、社会課題の解決が新たな市場としてスピード感を持って拡大する仕組みづくりを進め、マルチステークホルダー型企業社会を推進する」


これは、内閣官房新しい資本主義実現会議による「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」に記載されている文章だ。

 

日本各地で「シニア世代の健康を支援したい」「地球の環境問題を解決したい」「子どもの教育格差をなくしたい」という思いを持って起業する人々が増えている。こうした思いから起業され、社会的・環境的課題の解決や新たなビジョンの実現とともに、持続的な経済成長を目指す企業は「インパクト・スタートアップ」と呼ばれる。


しかし、こうしたインパクト・スタートアップが直面する最大の壁が「資金調達」だ。起業家の熱意とアイデアがあっても、金融機関や投資家からの融資や投資を得られず、事業の実現や拡大に苦しんでいるケースが少なくない。


なぜだろうか。基本的に金融機関や投資家が重視するのは主に「収益性」や「成長性」といった財務的指標である。一方、インパクト・スタートアップは短期的な利益最大化よりも持続可能な形で社会課題を解決し、社会性と利益の創出との最適なバランスを考えながらビジネスモデルを追求している。


このギャップが、社会課題解決に取り組むインパクト・スタートアップの資金調達を困難にしているのだ。こうした状況を打開し、社会的課題を解決する新たな経済システムを構築するための鍵として注目されているのが「インパクト投資」である。


リディラバジャーナルでは今回、3回にわたってインパクト投資の意義や実践例、そして推進における課題と解決策をみていく。
 

※本記事は令和6年度中国経済産業局委託事業「社会的起業家に対する地域での投資実践に向けた調査・広報事業」の一環で制作しており、無料で公開しています。記事の公開は2025年3月31日(月)までとなります。

インパクト投資——お金の流れを変える革新的アプローチ

インパクト投資とは、財務的リターンと社会的・環境的インパクト(正の影響)を同時に追求する投資手法である。つまり「儲かるかどうか」だけでなく「社会や環境をよくするか」を価値判断の基準に加える、新しい投資のあり方だ。


従来の投融資では、インパクト・スタートアップのビジネスモデルは評価されにくい傾向があった。しかしインパクト投資は、経済的価値と社会的価値の両面から事業を評価するため、社会課題解決に取り組む事業者に新たな資金調達の道を開くものとなっている。


また、人口減少と少子高齢化が進む日本では、社会課題がますます多様化・複雑化している。これまで主な担い手だった行政だけでは対応しきれなくなっており、民間セクターの力が不可欠になっている。


そこで重要なのが、これまで「外部不経済(※1)」として放置されてきた社会・環境課題の解決を、経済活動のなかに組み込んでいく新たな資本主義の形だ。インパクト投資は、社会課題を「コスト」ではなく「機会」と捉え直し、課題解決の担い手を増やしていくための方法として期待されている。


※1)外部不経済:ある企業や消費者の経済活動が、市場取引によらずに第三者に不利益・損害を与えること。例えば、公害問題などがある

 

インパクト投資を牽引する多彩なプレイヤーたち

では、誰がインパクト投資を行なっているのだろうか。その担い手は多様で、日々拡大している。


大手機関投資家である生命保険会社や損害保険会社、普通・信託銀行はインパクト投資枠を設定し、教育や医療分野のインパクト・スタートアップへの投資を積極的に開始している。


政府・公的機関も重要な役割を果たしている。年金基金としては世界最大規模の約258兆円を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、これまで「他事考慮(※2)」に当たるとして慎重だったインパクト投資に取り組む意向を示した。


※2)他事考慮:本来考慮すべき事項を考慮せず、または考慮すべきでない事項を考慮する行為。上記の文脈においては、年金資産の運用において「専ら被保険者の利益のために運用すること」、つまり年金受給者の利益以外の目的を考慮することを指す


また、金融庁はインパクト投資に関わる多様なプレイヤーの連携を図るための「インパクトコンソーシアム」を設立するなど、その推進に力を入れている。


他方で地域に目を向ければ、地方銀行や信用金庫が地元のインパクト・スタートアップに対するインパクト投資を始めている。ベンチャーキャピタルが立ち上げたインパクト投資ファンドに、地元地方銀行に加えて地方自治体が出資者として名を連ねる事例も出てきた。


このように、インパクト投資の担い手は幅広く多様化しているが、特に注目されているのが地域における取り組みである。

地域社会が直面する課題の数々。高齢化、人口減少、産業の衰退、公共サービスの縮小——

インパクト投資の担い手が多様化する中で、昨今地域における取り組みにも注目が集まっている。


その最大の理由は、地域社会が直面している「課題解決の担い手不足」という深刻な課題にある。人口減少や高齢化が進む地方では、地域固有の課題が山積する一方で、それに対応できる主体が不足している。


従来は行政がこの役割を担ってきたが、財政的・人的余力は年々縮小している。また、営利企業も市場規模の縮小を理由に地方からのサービス撤退を進めることもあり、地域課題に取り組む主体の「空白地帯」が生まれつつある


この担い手不足は負の連鎖を引き起こしている。未解決の課題が蓄積され、生活インフラが弱体化すると、さらなる人口流出を招き、担い手不足に拍車がかかるという悪循環に陥ってしまうのだ。

 

 

そこで注目されるのが、インパクト・スタートアップの存在である。行政では対応しきれない領域に柔軟に参入し、市場原理だけでは成立しにくいサービスを革新的なビジネスモデルで提供する。さらに地域に雇用を生み出し、若年層の流出を抑制する効果も期待できる。


しかし、こうした新たな担い手を増やすためには前述の通り、資金調達面で大きな障壁がある。ここでインパクト投資の重要性が浮かび上がる。財務的リターンだけでなく社会的・環境的インパクトも評価軸に加えることで、従来の金融では評価されにくかった社会課題解決型ビジネスにも資金を供給する流れを作り出せるのだ。

インパクト投資の推進が生み出す地域への価値

インパクト投資の推進はインパクト・スタートアップの事業拡大に寄与するとともに、さまざまな波及効果を持つ。


地域金融機関は、インパクト投資への取り組みを通じて、自らの地域活性化に向けた投融資の意義を再確認・再定義することができる

 

地方銀行や信用金庫には「地域経済の発展に貢献する」というミッションも備わっており、人口減少による市場縮小が進む中、従来型の融資モデルにとどまらない、新たな地域活性化の方法が必要となっている。

 

インパクト投資を通じて、地域の社会課題解決に取り組む事業者を育成・支援することで、新たな融資先・取引先創出が期待できる。単なる社会貢献だけでなく、地域の持続可能性を高めることで長期的な顧客基盤を維持し、自らの経営基盤を強化していく効果を発揮しうる

 

また、地域課題の多様性を考えると、全国一律の解決策や画一的な投資基準では対応しきれないケースが多い。

 

たとえば過疎地域の医療アクセス問題と都市部の高齢者孤立問題では問題が大きく異なる。また過疎地域の医療アクセス問題の中でも、地域によってその要因や効果的な解決策は異なる部分がある。

 

 

地域に根ざした金融機関はその地域特有の文脈や優先課題を熟知しており、この知見を活かしたインパクト投資を行うことで、地域の実情に即した解決策を持つ事業者を見出し、育成することができる


また、地域金融機関がこれまでに培ってきた地域内のネットワークを活用して、社会課題解決に向けた事業者と行政、住民、専門家などの間の目線合わせを担い、ハブとしての役割も果たせるのだ。


このように、地域におけるインパクト投資の意義は、単に「お金を流す」だけにとどまらず、社会課題解決に挑戦する新たな事業者に成長機会を提供し、従来は市場から見過ごされてきた社会的ニーズを「ビジネスチャンス」として可視化することにもある。


その結果、雇用創出や新たなサービス提供を通じて地域経済に活力をもたらし、行政だけでは担いきれない課題解決の仕組みを構築する。つまりインパクト投資は、持続可能な地域社会を実現するための重要な鍵なのである。

地域におけるインパクト投資の事例

ここからは地域でインパクト投資を実践している具体的な事例を見ていく。


まず注目したいのは、奈良県およびその周辺地域の課題解決に特化した「やまと社会インパクトファンド」である。

 

このファンドはヘルスケア領域でインパクト投資を実践してきたベンチャーキャピタル「キャピタルメディカ・ベンチャーズ」と、奈良県に所在する南都銀行の投資専門子会社「南都キャピタルパートナーズ」が共同で運営している。


医療・介護・健康といった「健康資本」、工芸・加工品・観光等の「文化資本」、林業・農業・酪農等の「自然資本」に関するやまと地域特有の課題を解決するスタートアップ企業に投資を行なっている。


投資先の一例が、障害者の職業選択の自由度の低さという社会課題解決に挑む「HIRAKUホールディングス株式会社」だ。奈良県生駒市に本拠を置く同社は、発達障害のある子どもに対する未就学から卒業後までの一貫した支援を展開している。


このファンドは、投資経験豊富な専門家と地域金融機関が協力することで、地域に根ざしたソーシャルビジネスやローカルビジネスへの資金循環を加速させる新たなモデルを提示している。


また、インパクト投資による資金調達を活用している地域事業者の例として、株式会社エーゼログループが挙げられる。岡山県西粟倉村に拠点を置く同社は「未来の里山」を目指して国内複数地域で事業を展開している。


同社は、インパクト投資の普及に取り組む一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)からインパクト投資による資金調達を実現し、地域資源を活かした持続可能なビジネスモデルの構築に取り組んでいる。

まとめ:地域社会課題解決のための新たな資金の流れ

インパクト投資は、社会課題解決に取り組む事業者に必要な資金を提供する新たな手法として、大きな可能性を秘めている。従来の融資や投資では評価されにくかった社会的価値に光を当て、経済的リターンと社会的インパクトの両立を目指すこのアプローチは、地域社会の持続可能性を高める重要な役割を果たすだろう。


一方で地域でのインパクト投資普及に向けてはさまざまな課題がある。次回は、普及に向けてどのような課題があるのか、また実践者はその課題をどのように解決しているのかを紹介していく。

 

リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
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