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公開日: 2019/9/16(月)

「障害児の親になる」のは決して不幸なことではない 

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「障害児の親になる」のは決して不幸なことではない 

公開日: 2019/9/16(月)
オーディオブック(ベータ版)

※本記事は、こちらの方針に従って事後編集が加えられています

 

産まれてきた自分の子どもに障害があったら、子育てをしていく上で何を思い、どんなことに悩むのだろうか。

 

また、障害者が社会で自立して生活していくために必要なこと、変えていかなければいけないことはどのようなことがあるのか。

 

経済学の観点から障害者が最大限能力を発揮できる社会を提言した『障害者の経済学』著者で慶應義塾大学商学部教授の中島隆信さんと、障害者の自立支援を行うNPO法人AlonAlon理事長を務める那部智史さんは、ともに障害のある子どもの親だ。

 

中島さんの子どもは脳性まひが、那部さんの子どもには最重度知的障害がある。お二人に、障害のある子の親の思いについて聞いた。

 

※本記事は、リディラバが主催する社会課題カンファレンスR-SIC2019のセッション「障害を持つ子の親になって感じること、考えること」を記事にしたものです。

障害児の親になることは不幸ではない 

 モデレーター  障害のあるお子さんがいる保護者が子育てをする上では、どのようなことを意識したり、心がけたりするのが良いのでしょうか。

 

 中島隆信  基本的に、子どもにとって親というのは「面倒な存在」だと思っています。健常児だったら、親の存在を面倒に感じて、いつかどこかで離れられますよね。

 

でも、障害児はそれができない。だから障害のある子の親は、その子が18歳になっても20歳になっても、ずっと子育てを続けている状態なんです。

 

自分でごはんを食べられない障害児は、その子が大人になって親が高齢になっても、親がずっと食べさせてあげる。そういう関係が延々と続いていってしまうんです。

 

一方で、親は自分の子どものことを一番わかっていると思い込んでいるけれど、実は周りのほうが客観的に見ていて理解しているかもしれない。

 

一定の年齢になったら、福祉的な支援を受けるほうが子どもにとってもいいのかもしれない、と考え方を切り替えるのもありだと思います。

 

世の中には「障害者はずっと親が世話をしていくべき」という考えが根強い気もしますが、福祉サービスをうまく利用していく発想がもっとあってもいい。

 

あとは、親は親で何か自分のことをやったほうがいいんじゃないかと思います。

 

僕も、障害者の研究のほかにも、大相撲やお寺、高校野球の研究をしたり、本を書いたりしています。那部さんも自分で会社をやったり、NPOを運営したりしている。

 

親も何かしら活動していないと、子どもの障害をずっと抱え込んでしまい、共倒れになってしまうリスクがありますから。

 

 那部智史  そうですね。僕は今、施設運営を通じて知的障害の子たちの経済的支援を行う活動をしていますが、これは僕に障害のある息子がいるからやっているものです。

 

そういう意味で、僕の場合は、自分の仕事に子どもの存在を感じることで、心の安定を保っている。

 

 

僕がなぜうつを克服できたかというと、「自分のもとに、障害のある息子が産まれてきたことに意味があるんじゃないか」というように、考え方を変換したからなんです。

 

重要なのは「障害があって産まれた子がいるからといって、家族中が不幸になるとは限らない」ということ。

 

むしろ僕は、障害のある子どもがいたからこそ充実した人生になったし、息子が健常者だったら、今もただのサラリーマンだったかもしれませんから。

 

 中島  障害児を育てるのは手がかかりますが、結局は、親自身に拠るところは大きいと思います。

 

例えば仕事でトラブルがあったり夫婦げんかをしたりしてイライラしていると、子どもへの対応にもそれが出てしまう。

 

障害児がいる家庭の離婚率が高かったり、障害児を虐待してしまったりする親もいますが、それは、障害児がいたことが理由ではないと思うんです。

 

たとえその子が健常者だったとしても、夫婦関係や親の精神状態に問題があれば、同じ結果になっていたのではないかなと。

 

僕は、障害児はその家庭やその子に関係する人たちが抱える問題を全てあぶり出す存在じゃないかと考えています。

 

産まれてきた自分の子どもに障害があったら、夫婦や家族として試されていると思ったほうがいいかもしれない。

 

「自分たちだったら絶対にうまくいく」と信じてその子を育てあげる。それが、夫婦や家族としての力なんじゃないかと考えています。

 

 

 那部  今、僕は障害者の人たちの自立支援を行うNPOを運営していますが、その中で、障害のあるお子さんを持つ親御さんの「心を折らせない」ことを何よりも優先しています。

 

親の心が折れてしまうと、子どもは不幸になりやすい。知的障害があって産まれてきたお子さんがいると、親御さんは、その子がこれから経験するであろう不幸なことを、まだ起きてもいないのに想像してしまいます。

 

だから、その不安な気持ちを和らげるようなサポートをしたり、同じように障害のあるお子さんを育てる親御さんとのつながりをつくる。

 

そうして「親を孤立させないこと」に力を入れています。

障害者の就労の課題と今後

 モデレーター  障害のある方の就労について、今後はどのように変わっていくとお考えでしょうか。また、現状の課題はありますか。

 

 那部  障害や難病があって企業などで働くことが困難な人が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービスとして「就労継続支援」という言葉があります。

 

「継続支援」というように、来所している障害者の方々の就労を継続して支援していく必要があります。

 

障害者の方々でも企業に就職できるのは、現状ではわずか1%程度。もちろん、障害の度合いもさまざまなので、一概に企業への就職を支援することを良しとするのかどうかは難しい面もありますが。

 

ただ、そうした作業所での仕事は、現状として簡単な作業しか与えられていないケースが多く、それだと障害者の人たちが高い収入を得るのは難しいですよね。

 

もっと専門性があって、次の就労にも活かせるような仕事をしてもらえるような仕組みをつくることも大切だと思います。

 

今、ソーシャルビジネスはGDPの3%程度と、少しずつではありますが、社会的な課題の解決をビジネスや事業として考えられることが増えています。

 

それは、多くの人にとってモノを買う理由が「共感」になってきているからだと思うんです。

 

昔だったら、「安いから」「多機能だから」という理由で買っていたけれど、今は「どうせ買うなら、ストーリーがあって社会にとって良いものを買おう」という流れになっている。

 

障害者がショコラティエとして働き、一般市場でも通用するレベルのチョコレートの製造・販売を行う「久遠チョコレート」というプロジェクトがあります。

 

これも、昔は障害者の人たちが細々と福祉事務所で作ってひっそりと売っていたようなものを、並んででも買いたいようなチョコレートにした。

 

これからは、こういうコンセプトから共感されるような商品がどんどん出てくる。そう思うと、障害者の就労の可能性もより広がっていくんじゃないかと期待しています。 

障害者の可能性を広げられる教育を

 モデレーター  将来の就労にも大きな影響を与える「教育」について、お二人はどのようにお考えですか。

 

 中島  難しいテーマですよね。たとえばある時、都立支援学校の就業技術科を見に行ったんですが、障害のある高校生が3年間かけて、掃除や単純作業などのいわゆる「障害者仕事」をやっていた。

 

果たしてそれは教育なのか、と疑問に思いました。それに限らず、教育の段階で、障害者を決まった仕事に「当てはめている」ということが、残念ながら多いんですよね。

 

教育は、その人の可能性を広げていくことだと思います。

 

人それぞれ、その人に合った人生があるように、障害者それぞれに合った働き方ができて、彼らがやりがいを感じられる仕事ができることにつながる教育をしていくことが大切だと思います。

 

 那部  今は障害のある子は特別支援学校に行ったり、小学校でも別のクラスへ通っていたりと、教育の中で健常者と障害者が分けられていますよね。

 

昔は近所の遊び友達の中にも、普通に障害のある子がいたと思います。

 

障害者と接する機会がないまま育つと、「障害があること」がどういうことなのか、あるいはそれがどんな人なのか、わからない。

 

障害者を隔離してしまうのは、健常者の教育という意味でもナンセンスだと感じます。

 

子どもの時から、社会に障害者がいることが当たり前になるような制度設定を国として考えてもらえたらと思いますね。

 

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