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公開日: 2023/7/27(木)

課題解決を加速させるために“構造化”する。リディラバジャーナル5周年インタビュー(中編)

公開日: 2023/7/27(木)
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課題解決を加速させるために“構造化”する。リディラバジャーナル5周年インタビュー(中編)

公開日: 2023/7/27(木)
オーディオブック(ベータ版)

2023年に5周年を迎えた、社会問題を構造化するメディア「リディラバジャーナル」。

 

今回は編集長の安部に、5年間の軌跡や構造化というコンセプトにこだわり続けてきた理由を聞きました。

 

立ち上げの経緯を振り返った前編に引き続き、中編では、リディラバジャーナルが設立時から掲げ続けているコンセプト「構造化」の意義に迫ります。

 

聞き手は、リディラバ ジャーナル編集部の井上です。

 

※本記事は23年6月6日に開催した「【リディラバジャーナル5周年/編集長インタビュー】赤字でも構造化をやりぬく。編集長・安部敏樹が語る『社会課題メディア』の未来」を編集してお届けしています。

 


「自己責任論からの脱却を」構造化が可視化するもの

井上

リディラバジャーナルでは、設立時から“構造化”をコアなコンセプトに置いています。

 

2018年の1月、最初の構造化特集として「【ホームレス】彼・彼女らが失い取り戻すもの」を公開しました。その後も、特別養子援組、ヘイトスピーチ、性風俗など40以上のテーマを構造化し、1000本を超える記事を出してきました。

 

これまで構造化にこだわり続けてきた理由はなんでしょうか。

 

安部 

前回、構造化は社会課題の全体像を伝えるために始めたとお話ししましたが、「脱自己責任論の議論をする」ためにも重要なんです

 

たとえば、いまはだいぶ減ってきたけれど「ホームレスの人って怠けているだけでしょ」と思う人がいるとする。

 

一方で、構造化により、ある人がホームレスになる背景を明らかにすると「怠けていたからホームレスになったわけでは決してない」という事実や、「もし社会が問題の構造にメスを入れていれば、この人はホームレスにならなかったかもしれない」「もしその立場に置かれたら自分もホームレスになっていたかもしれない」ということもわかる。

 


【ホームレス】彼・彼女らが失い、取り戻すもの 第6回「家族からもむしりとられる。ある障害者が家を失った話」より

 

つまり構造化することで、社会問題が当事者の自己責任だけで生じているものではないことがわかり、課題解決のためにどのようにアプローチすべきかが見えてきます

「社会として解決すべき」の合意形成の土台に。構造化の意義

安部

構造化の意義についてもう少し踏み込むと、構造化は外部不経済(※)の内部化にもつながると思っていて。

 

※外部不経済:ある企業や消費者の経済活動が、市場取引によらずに第三者に不利益・損害を与えること。例えば、公害問題などがある

 

井上
急にギアをあげてきましたね(笑)。詳しく聞かせてください。

 

安部

一般的に、経済的なインセンティブが機能する課題は、ビジネスプレイヤーが解決していくことが期待されます。

 

一方、経済的なインセンティブが機能しない課題は、社会の中で取り残されるようになります。この課題は社会問題の定義と非常に被るものが多く、民間事業者が課題解決に取り組むためには、経済的なインセンティブが必要になります。

 

たとえば医療や介護は、受益者の負担以外に国が税金や保険料を投入することで、経済的なインセンティブが回るようになっています。
 

井上

ホームレスの人たちへの支援についても、税金などで経済的なインセンティブを機能させるべき領域ですよね。

 

安部

そうですね。

 

機能させるためには、ホームレスの人たちが抱える課題は、その人の自己責任に帰結するものではなく、社会構造から生まれていることを可視化し、課題の解決は社会に意味があることをみんなで合意する必要があります。

 

構造化はそうした合意形成の土台であり、税金など経済的なインセンティブを機能させる必要性や意義を伝えるものとして、非常に重要だと思っています。

 


【ホームレス】彼・彼女らが失い、取り戻すもの 第1回「結婚できると思わなかった。ホームレスが失った『資産』とは」より

構造化することで、テクノロジーの介入の余地を示せる

安部

構造化にこだわる理由で言うと、テクノロジーの社会問題解決への活かし方を示せるという点もあります。

 

いま、社会問題解決の事業化の領域を拡大することが求められているときに、ここ10〜20年くらいのテクノロジーの進化を考えると、デジタル企業の社会問題への介入の余地は大きい。構造化は、その余地を示せるコンテンツでもあると考えています。

 

たとえば、デジタル企業が得意なことに「中抜き」がありますよね。Amazonはかつて複数の問屋が関与していた“流通”を1社でやってのけている。

 

中抜きは、事業領域の様々な構造を理解していないとできません。そこで構造が示されていたら、デジタル企業としてどのように入っていくべきか、自社のテクノロジーをどう活かすべきか分かると。


井上
なるほど。


安部

あとは、構造化を通じて社会課題解決のレバレッジポイント(※)を示すこともできます。投資家が入ってきやすくなり、資本効率も上げられるということも構造化の意義の一つです。

 

※レバレッジポイント:小さな力で大きく持続的な成果を生み出せるポイント

 

構造化するのは、問題の解決に向かっていくため

井上
構造化にこだわる理由をいくつかお聞きしてきましたが、解決に向けて構造を明らかにしていくところが共通していますね。
 

安部

そうですね。大事にしているのは、問題解決を一番の目的に据えて「本来はこうあるべきなのに(理想)、現状はそうなっていない(現実)」という視点で構造を伝えることです。そこから、解決に向けたリソースやアセットの最適な使い方の方向性が見えてきます。

 

テレビや新聞はメディアの性質上、構造的なコンテンツを作ることの難しさがあると思っています。テレビでは情報を伝えることの時間的な制約があり、新聞はコンテンツ作成における経済的な合理性が欠けてしまうことがある。

 

いまは、フリーライターの方などが社会問題への構造的な理解を持っていることが多いですが、取材して数年に1回新書を出版するだけでは、経済的に続けることが難しい現状もあります。

 

構造化をやり続けるには、記者に構造的な調査を行う能力や、時間的な余裕がいる。そのためには、構造化というフォーマットを好み、お金を払っていただく読者の存在が必要です。

 

リディラバジャーナルでは、構造的なコンテンツの提供を読者と約束し、記者が調査できる時間を確保して分析を深めています。

 

構造化を続けていられるのは読者の皆さんのおかげです。改めて、ありがとうございます。

 

 

【コラム:問題を構造化する力は、どうすれば養えるのか?】

 

安部

日々流れるニュースの中で気になった問題を、自分なりに構造化してみるのはいいかもしれません。

 

特に、同様の事象を報じたニュースが複数回流れたときは、その事象の背景に強固な構造が存在していることが多いです。

 

「当事者の困りごとが発生してしまう背景には、こうした構造があるからではないか」と仮説を立て、分析し、人と共有してみる。これを繰り返すことが、構造化の力を養う具体的な方法の一つです。

 

日々のニュースだけでなく、リディラバジャーナルの様々な社会問題の記事も対象にできるかと思います。ぜひ構造化特集を参考にしていただきながら、構造化の力を養う手段としても、リディラバジャーナルを活用いただけると嬉しいです。
 

 


 

後編「構造化はどのように問題解決に活きているのか。リディラバジャーナル5周年インタビュー」に続きます。

リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
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リディラバジャーナル5周年インタビュー
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