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公開日: 2022/11/29(火)

子どもたちに「当たり前のようで、当たり前ではない体験」を 体験格差解消プロジェクト ツアーレポート

公開日: 2022/11/29(火)
公開日: 2022/11/29(火)

子どもたちに「当たり前のようで、当たり前ではない体験」を 体験格差解消プロジェクト ツアーレポート

公開日: 2022/11/29(火)
オーディオブック(ベータ版)

「知らない人たちと関わるのは怖いと思っていたけど、こんなに楽しいんだ!と気持ちが変わって、自分でも驚いています」

これは、リディラバが実施した「子どもの体験格差解消プロジェクト」を通して、一泊二日の旅行に参加したある子どもの言葉だ。

「子どもの貧困」や「教育格差」といった、子どもにまつわる社会課題が近年注目を集めるようになった陰で、見逃されてきた社会課題がある。

 

子どもの体験格差。

文部科学省の調査によると、家庭での自然・芸術文化体験等の「体験」への支出は、世帯年収400万円未満の家庭では平均8.3万円/年。

一方、世帯収入が600万円~800万円の家庭では、平均13.3万円/年、1200万円以上の家庭では平均21.8万円/年と、所得格差がそのまま子どもの「体験格差」となっている。

また所得に限らず、学校に馴染めず不登校になってしまう、両親の介護で遊ぶ余裕がないなど、様々な理由から、十分な「体験」を得られていない子どもたちもいる。

先日公開した記事「見過ごされてきた社会問題 リディラバが挑む『子どもの体験格差』とは」では、リディラバ代表の安部敏樹が体験格差への思いを語った。

今回は、プロジェクト発足後初めての取り組みとなる中高生向けツアー「旅する学校in大地の芸術祭」に密着。

リディラバで体験格差解消プロジェクトを推進する梅原慎吾さんへのインタビューと共に、1泊2日のツアーを振り返る。

企画者の梅原さんが「3つの思いを込めた」と語るツアーによって、子どもたちは、どのような非日常を「体験」したのか。
ツアーからは体験格差を考える上でのヒントが見えてきた。

「新幹線は初めて」
ゴールデンウィークにツアーを開く理由


向かう先は、新潟県の越後妻有(えちごつまり)地域。
年間50万人以上が訪れる日本最大級のアートイベント「大地の芸術祭」が旅の目的地となる。プロジェクトの責任者の梅原さんが語る。

「今回のツアーには9人の子どもたちが集まってくれました。

学校に馴染めなくて不登校の期間が長く、修学旅行に行けなかったとか、ひとり親家庭で、親の仕事の都合上どうしても遊びに出かけるのが難しいとか、皆さんそれぞれ理由があって、旅行やレジャーの体験を重ねてこなかった子どもたちです。

ツアーをゴールデンウィークに開催したのにも理由があります。

ゴールデンウィークが明けて学校に行くと、友達同士で『こんなところに行った』『こんなことした』って自分たちの体験を語り合うんですよね。
先生も、決して悪意なく『ゴールデンウィークは何しましたか』みたいな話題を振ることもある。

その話題についていけなくて、悲しい思いをしてきた子どもたちもいると思うんです。

長期休みに遠くに出かけるという、当たり前のようで、決して当たり前ではない体験を届けたくて、ゴールデンウィークに実施をしました」

一同は新幹線に乗って新潟県を目指す。

この「新幹線に乗るという体験」は梅原さんにとって思いがけないものだったという。

「参加してくれたのは15歳〜18歳、中学3年生〜高校3年生の子どもたちなのですが、約半数の子どもが『新幹線に乗るのは初めてだ』と言っていました。

僕自身、体験格差のプロジェクトを担当するようになってから、色々と調べたり勉強したりしたつもりでしたが、『新幹線に乗る』という行為が、子どもたちにとって貴重な体験だとは想像していませんでした。

僕たちの当たり前と、子どもたちの当たり前にギャップがあるんだと実感した瞬間でした」

新幹線に揺られること約1時間半、一同は新潟県の越後湯沢駅に到着。
駅からは貸切バスに乗って、「大地の芸術祭」の作品を巡る鑑賞ツアーが始まる。

「一生の思い出になるかも」
ツアーに込めた3つの思い

新潟県の雄大な自然の中に、次々と現れるアート作品に触れる子どもたち。

「大地の芸術祭」の立ち上げから、20年以上にわたって、越後妻有と芸術祭の発展に尽力してきた原蜜(はら・みつ)さんの案内のもとで、約8時間のツアーを通して、20以上の作品を楽しんだ。





芸術祭の鑑賞ツアーが終わった後は、子どもたちは温泉へと移動。
1日の疲れを癒して、宿へと向かった。



梅原さんは、3つの思いを込めてこのツアーを企画したと語る。

「1つめの思いは、『本物に触れてほしい』

大地の芸術祭って、言わば『芸術界のメジャーリーグ』みたいな場所なんです。
国内外で成功している著名なアーティストたちが集まって、新潟の何もない農村を舞台に、真剣勝負で作品を創り上げる。

正真正銘のプロたちが創った、本物のアート作品と出会えるのが、越後妻有地域を行き先に選んだ大きな理由です。

また、ツアーで触れられる『本物』はアート作品だけではありません。
例えば、ツアーの中で食べる食事。





食材は地元新潟で穫れた良質なコシヒカリや野菜を使って、長年この地域で暮らしてきた地元のおじいちゃん、おばあちゃんが腕を振るって調理をしてくれます。

宿泊も、地域で子どもたちの居場所となってきた廃校をリノベーションした施設に泊まります。

本物のアート作品はもちろん、本物の食事、本物の地域文化にも触れられる。

もしかすると、子どもたちは、この旅行で触れた何かを一生忘れない思い出にしてくれるかもしれません。であれば、旅行を通して色々な『本物』に触れてもらいたい。
そう思って、ひとつひとつのプログラムを企画しました。」

2つ目の思いはなんなのか、その答えは2日目のプログラムにあった。

家と学校の往復
体験格差が生んだもうひとつの負

ツアーの2日目、子どもたちが向かう先にあったのは、アート作品ではなく、廃校になった学校の体育館。

ここでは、地域で活動する女子プロサッカーチーム「FC越後妻有」の選手たちが、子どもたちを出迎えてくれた。



選手たちは普段、プロサッカー選手としての活動に加えて、大地の芸術祭スタッフとしての活動や、農家としてお米を育てる活動も並行して行っているという。

子どもたちは、そんなFC越後妻有の選手たちと一緒に、体育館でワークショップに参加。
プロ選手たちと一緒に、全身を使ったストレッチやサッカーの試合を楽しんで、自然の中で思いっきり体を動かした。

プログラムに込めた2つ目の思いについて、梅原さんはこのように語る。

「2つ目の思いは、『生き方に触れてほしい』

体験格差によって子どもたちが失うのは、体験だけではないと思っています。
体験を通して人と仲良くなるとか、新しい人と出会うとか、人との繋がりも、同時に失われてしまう。

今回のツアーでは、アート作品を案内してくれた原さんだったり、FC越後妻有の選手たちだったり、あるいはリディラバのメンバーだったり、たくさんの大人に触れて、多様でユニークな生き方を感じてほしいなと思いました。

原さんは、地域のためにという純粋な思いで、0から日本最大の芸術祭を作り上げた人ですし、FC越後妻有の選手たちは、農家×芸術祭スタッフ×サッカー選手っていう日本中どこを探しても出会えないキャリアを歩んでいます。

普段、学校や家族以外で大人と接する機会が少ない子どもたちが、ツアーを通して出会った大人たちを見て、『ああ、色々な生き方があるんだな』と感じて欲しいなと思いました。

願わくば、『大人って楽しそうだな』とか、『大人になるって素敵だな』と未来への期待を持ってもらえたら嬉しいですね」

「栄養士になりたい」
子どもたちが体験から得るもの

本物のアート作品を鑑賞し、新潟の文化に触れる食事と宿泊を満喫、FC越後妻有の選手たちとの交流を経て、ついに1泊2日のツアーも佳境を迎える。

最後に子どもたちが取り組んだのは、2日間の思い出を振り返るワークショップ。
子どもたちがツアー中に撮影したアート作品の写真に、タイトルを付けて、タイトルの理由や写真の魅力を語り合うワークショップだ。



このワークショプには、梅原さんの3つ目の思いが込められている。

「最後、ツアーに込めた3つ目の思いは『自分なりの面白さを見つけてほしい』

子どもたちにとって体験がなぜ大事かというと『これが好き!』とか『将来これになりたい!』って自分の思いや感情に気づくきっかけになるからだと思うんです。

極端な例かもしれませんが、サッカー選手になれるのは、子どもの頃サッカーを習える環境にあって、『サッカー選手になりたい!』と思えた人だけです。

夢までいかなくとも、趣味とか好きなものが見つかると、人生は豊かになっていく。
今回のツアーを通して、何か子どもたちが『面白いな、好きだな』と思ったならば、その気持ちを持ち帰って、大切にしてほしいなと思いました。

アートが好き、ご飯が好き、自然が好き、写真が好き、乗り物が好き…

どんな小さな『好き』でもいいので、ツアーから何か自分の気持ちに気づいてもらいたいと思って、プログラムの最後にはワークショップを組み込んで、2日間を振り返ってもらいました」

最後のワークショップを終えて、子どもたちは東京へと帰っていく。
2日間の感想を聞いてみると、次のような言葉が返ってきた。

「普段、写真を撮る機会はあまりないので、たくさん写真を撮れたのが印象的でした」

「新潟のご飯がすごく美味しかったです。将来は管理栄養士になりたいと思っているので、地域の名産品を使って、綺麗に盛りつけされた料理を見て、すごくワクワクしました」

「みんなでサッカーをしたのが楽しかったです。
監督の教え方が上手で、私もすぐに教えてもらったことができて、嬉しかったです」

こうして1泊2日のツアーは終了。
参加した9人の子どもたちは、それぞれの思い出を胸に、新幹線で新潟を後にした。


 



体験格差解消プロジェクトでは、今回のツアーのような子どもたちへの体験提供に加えて、体験格差に関する調査・研究を行い、体験の重要性を定量的に可視化していきます。
プロジェクトの様子は、リディラバジャーナルで随時発信していきますので、ぜひリディラバジャーナルにご登録の上、続編をお待ちください。

 

(子どもの体験格差解消プロジェクト 詳細はこちら

 

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