「助けて」と言えない日本社会で、子どもたちの「当たり前」を守るために
「助けて」と言えない日本社会で、子どもたちの「当たり前」を守るために
「みんなで食事をしたり、電車に乗ったり。私たちが当たり前にしていることを体験できていない子どもたちがいる。その現実に直面したときに、『これはなんとかせんといかん!』と思いました」
そう語るのは、原水敦さん。未就学児から高校生を対象とした探究プログラムを企画・運営している一般社団法人ピープラスの代表理事であり、「子どもの体験格差解消プロジェクト」の協力団体の1つでもある「一般社団法人こども宅食応援団」の理事も務める。
原水さんは障害者福祉の世界でキャリアをスタートさせたのち、体験教育活動へと軸足を移して約10年が経とうとしている。
原水さんはなぜ福祉から教育へと足を踏み入れたのか。体験は子どもたちに何をもたらすのか。そして、原水さんの体験活動への思いとは。
現場から見た体験格差の実態を原水さんに聞いた。
【原水敦】
一般社団法人こども宅食応援団理事。大学4年次に休学。ボスニアでのNGO活動に参加。卒業後、障害者福祉施設に入職。在職中に市民団体Uppleを立ち上げ、7泊8日の教育キャンプをスタート。2013年に独立し、(一社)ピープラスを設立。福岡にカタリ場、マイプロジェクトを誘致。同時に、北九州まなびとESDステーション特任教員として、ESDをテーマに大学生主体の約25個のプロジェクトを伴走。2020年より(一社)こども宅食応援団に参画し、2022年6月に理事に就任。北九州市立大学非常勤講師、高校スクールソーシャルワーカー。社会福祉士、保育士。
体験を通じて、子どもは大人になる
――原水さんは、こども宅食応援団の理事と同時に、自身でも子どもたちの体験教育を推進する活動に取り組まれていますよね。
「子どもたちにもっと自然体験を!」という思いから、2007年に市民団体Uppleを立ち上げ、自然の中での教育キャンプを始めました。
2015年4月からはNPO法人カタリバからの委託で、福岡県内でのカタリ場事業や九州地域での「マイプロジェクト」を開始し、同時に一般社団法人ピープラスを設立しました。
ピープラスでは、未就学児から小・中学生を対象に、子ども主体の自然体験の場を提供しています。
海・山・川・ときには無人島を舞台に、短いものでは日帰り、長いものでは7泊8日のキャンプを主催しているんです。
「ナナメの関係」を大切にしていて、ちょっと上のお兄さん・お姉さんがどう生きているのかに触れるというのを中心に据えてやっています。
(ピープラスの活動の様子)
――その中で、子どもたちにどんな変化が起きているのでしょうか。
もともと発達障害を抱えて学校へ行けていなかった中学生の子がいるのですが、私たちのキャンプに来るようになって学校に行けるようになったと聞きました。
野外体験を通じて、あの人に会える、あれが出来る、という居場所が出来て、それが本人の自信にも繋がって。そんな変化が生まれているのかなと。
また、親御さんがよくおっしゃるのは「表情が大人になった」ということですね。キャンプに行って主体的になったという話をよく聞きます。
生きていくことに対して自分が主体的に何かを意思決定していくという経験を積む場として、自然の中ってすごくいいんです。
自宅ではおうちの人がやってくれていることも、キャンプではすべて自分たちでしないといけない。
「自分でする」ということが子どもたちにとって当たり前になってくると、家に帰ってからも自分からやるようになるんでしょうね。
障害者福祉から教育への越境
“制度”ではなく“人”を変える
――原水さんはもともと、社会福祉士としてキャリアをスタートされているんですよね。
はい。障害者支援の現場で働く中で、「福祉ってすごく大切だな」と思うのと同時に、「福祉だけじゃ追いつかないな」というのも痛感していました。
法の中に定められているものだけじゃ全然追いつかない。やっぱり市民が変わらないと難しいと思って。
――どんな経験からそう考えるようになったのでしょうか?
私が入職した2000年頃は、介護保険制度ができ、NPO法人がどんどん立ち上がって「福祉」に関するサービスが社会に増えていく時期でした。
そうした過渡期に、「障害が重い」と言われる方々との出逢いがあり、その方の5年先、10年先、そして親御さんが亡くなった後のことをどうしても考えてしまうわけです。
社会全体としては「地域福祉」が主流になる一方で、「障害が重い」と言われる方々の多くは、最終的には人里離れた施設に入所して暮らすしかないという現実がありました。
あるとき、自分の担当だったAさんが親御さんの都合で通所が難しくなって、入所施設に行かざるを得ないという状況になりました。
通所してきた最後の日、Aさんは号泣し始めたんです。彼は当時20歳で、発語がうまくできなかったんですが、号泣することで「入所施設には行きたくない!」というメッセージを発していたんですね。
障害のある方たちは自分で選択することができないままに人生を歩まざるを得ない。その姿を見て「これはなんとかせんとマズいぞ」と思いました。
親御さんにとってはもっと切実で、ふとした瞬間に「この子は私が連れて行きます」なんて言うんですよね。
それはつまり、「私が死ぬときには、この子と一緒に死にます」ということです。人がそこまで追い詰められる社会って何なんだろうと。
障害のある方に向けられる、社会の冷たい目。こうした、当事者の「周りの人たち」を変えることができれば、困っている人を地域で支えていくという状況をつくれるかもしれない。
これからを担う子どもたちを育てていくことが、誰も取り残されないような社会に繋がるのかも知れない。
そう考えて、子どもの教育に関わるキャリアへ進んでいきました。
全国100団体以上に伴走する中で見えてきた
体験格差につながる課題
――現在は、困難世帯に食品を届ける「こども宅食」事業を支援する、こども宅食応援団の理事をされていますね。
福祉は自分から「福祉サービスを利用したいです」って申請をしなければ受けられないんですが、そこからもれている人たちがたくさんいる。
Uppleやピープラスで提供するキャンプなどの体験教育機会も似た構図で、これは有償なので参加費を払える家庭の子どもしか参加できません。そこに来られない子もたくさんいるわけです。
そういう現実を目の当たりにしてきた中で、困っている人のところに食事を届けるように “福祉が外に出張っていく”スタイルが必要だと感じていました。
そこで、最初は九州エリアの担当として、こども宅食をやりたい団体や、やっているけれどもなかなかうまくいかないという団体へのアドバイスをしたり、お手伝いをしたりという伴走支援を始めました。
今は九州に限らず、全国で約100団体の伴走支援をしています。
(子ども宅食応援団の活動の様子)
――こども宅食を利用されている世帯は、原水さんから見ると、どんな困りごとや困難を抱えているのでしょうか。
経済的貧困と社会的孤立の二つが掛け合わされた状態にいると思っています。
――社会的孤立というのは具体的にはどういうことでしょうか?
ひとり親世帯に多いのですが、「誰にも頼れない」と思い、社会との繋がりを失っている状態です。
社会から孤立している上に経済的困窮状態であるということが、非常に難しい状況をつくっていると私は考えています。
「困っている」「助けて」と言えない日本社会
例えば、一人で子育てをしていると、どうしても育児に時間をとられて社会に参加する機会が少なくなります。
その結果、周りとの接点が極端に少なくなるので、自分から助けを求めることに対するハードルが上がっていく。自ら支援を求める「求援力」がない状態ですね。
また、支援を受け取る「受援力」も弱くなっている。これは日本人の性質ということもあるのかもしれませんが、厳しい状況に置かれていながら「うちは大丈夫ですから、もっと困っている人のところへ行ってあげてください」みたいなことをおっしゃる。
こども宅食では、地域のボランティアが食材を届ける。それが受援力や求援力を上げていくきっかけをつくるんですよね。
何かあったときに、名札をつけた専門家へ行くよりも、つながりがあって信頼できるおじちゃんおじちゃん・おばちゃんに相談する方がハードルが低い。
「困っているんです」というのを言いやすくすることは、今の日本社会にすごく必要だと思います。
――こども宅食はあくまで入り口・きっかけということですね。
こども宅食を通して関係性を築いていくと、子どもたちが「助けて」と言えるようになっていく。
そうすると、子どもたちの本音が聞こえ始めるんです。
それで、やっと子どもたちと社会とをつなぐきっかけをつくれるようになります。
学習支援なのか、不登校の子の居場所なのか、不足している体験機会をつくるのか。
こども宅食の先に、個々の課題に対応する社会資源に繋げていくことが重要だと私は思っています。
“プラスα”ではなく、すべての子どもにとっての当たり前を
――原水さんご自身は、体験活動を通して子どもたちにこんなふうになってもらいたいということはありますか?
自分の人生をちゃんと自分で生きてほしいという想いが強いですね。ありのままの自分を好きになってほしい。
「自分のままでいいんだ」っていうことを自信を持って認めて、自分で自分の人生を生きていくことが大事だと思っています。
まずは自分。そして、それができると周りにも目が向くようになると思うんですね。
そういう機会をキャンプのような特別な体験の中だけでなく、日常にもつくりたいと思って、2022年10月にオルタナティブスクールをオープン。
今後は未就学児向けの日常を支える事業にもチャレンジしたいと考えています。
(オルタナティブスクールの活動の様子)
――経済的困窮あるいは社会的孤立の状態にある子どもたちにとって、自己肯定感や主体的な意欲を獲得する機会は限られていて、しかも一度失うとなかなか立て直す機会が少ないように感じます。
ピープラスでも、過去に経済的困窮世帯の子たちを対象にキャンプをやったことがあります。
そういう世帯の子たちは、いつも参加費を払って参加している子たちとはまったく違った反応をしていました。
みんなで一緒にご飯を食べるとか、切符を買って電車に乗るとか、みんなで一緒に泊まるとか。私たちからしたら何気ないことを「楽しかった」って言うんです。
衝撃でした。そういう子たちに何かできないかなというのはすごく思うところで、他にも同じことを考えている団体は絶対いるだろうと思っていたので、今回のリディラバさんの「子どもの体験格差プロジェクト」のお話にはすごく共感できました。
しかも、各支援団体のスタッフも引率で同行する。
子どもたちを普段見ている人たちが一緒に行くことで、日常に体験活動の結果を接続していくという仕組みもいいですね。
体験学習って世間では”プラスα”の活動だと思われがちなところがある。でも本来は子どもたちに届けるべき教育だと私は思っていて。
だから、それが制度化されて全国にあるというのが理想ですね。体験学習に誰もが無料あるいは安い金額で参加できて、週末に気軽に行けるという感じで。
このプロジェクトが、そうした結果に繋がっていくことを期待しています。
(子どもの体験格差解消プロジェクト 詳細はこちら)
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