生きていてよかった、と思える体験を子どもたちに。 「この指止まれ!」で始まる、社会を変える挑戦
生きていてよかった、と思える体験を子どもたちに。 「この指止まれ!」で始まる、社会を変える挑戦
「自分が会社を立ち上げたのは、社会をより良くしたいという思いからでした」
そう語るのは、アソビュー株式会社代表執行役員CEOの山野智久さん。同社が運営している予約サイト『アソビュー!』は、北海道から沖縄まで、アウトドアやものづくり体験、遊園地や水族館、日帰り温泉などの600種類以上の遊びを10,000施設以上紹介している。とくに首都圏のファミリー層から圧倒的な支持を得ている遊びのプラットフォームだ。
山野さんは人生を豊かにする「遊び」を専門領域としてさまざまな事業を展開していくなかで、子どもにとっての「体験の価値」を目の当たりにしてきた。
「子どもの体験格差解消プロジェクト」が社会を変えるために果たすべき役割とは。発起人の一人である山野さんに聞いた。
【山野智久】
アソビュー株式会社代表執行役員CEO。
明治大学法学部卒。2011年アソビュー(株)創業。レジャー×DXをテーマに、遊びの予約サイト「アソビュー!」、観光・レジャー・文化施設向けバーティカルSaaS「ウラカタシリーズ」を展開。観光庁アドバイザリーボード、経済同友会観光再生戦略委員会副委員長。著書に「弱者の戦術」(ダイヤモンド社)
社会全体に、
遊び・体験の価値を届けたい。
――今回、本プロジェクトの発起人として「子どもの体験格差」の解消に取り組むことを決めたのはなぜでしょうか?
実は、アソビュー社でも過去に子どもの体験格差問題に取り組んだことがあります。2021年、緊急事態宣言が発令されたり、まん延防止等重点措置が適用されたりしていた頃のことです。
先行きが不透明な中、多くの大人たちは精神的にも経済的にもストレスを抱え、子どもたちは遊びに出かける機会を奪われていました。
社内では「行動制限を受けている子どもたちのために、我々にできることは何だろう」という議論になりました。その結果、週末の便利でお得な遊び予約を提供している『アソビュー!』を通して、子どもたちに体験機会を無償でプレゼントしようという結論に至ったんです。
このアイデアに500社以上の企業が賛同してくれて、1万人の子どもたちに体験を届けることができました。
▼参考
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000088.000015664.html
――素晴らしい取組ですよね。そして今回のプロジェクトでは、コロナ禍の影響だけでなく、経済的困窮や社会的に孤立しやすい環境にある子どもたちの「体験格差」を解消することを掲げています。
現在、『アソビュー!』に会員登録して、実際に遊びの予約をしたりギフトを贈ったりしたことのある利用者は約900万人です。
つまり、クレジットカードを持っている18歳からアクティブシニア層の10人に1人がサービスを使ったことがある計算になります。
認知度ということでいえば、2600万人がサイトを間接的に使っているので、対象人口の4人に1人は『アソビュー!』を知っていて、さらに首都圏のファミリー層に限っていうと、半数近くに認知されているというのが現状です。
ただ、『アソビュー!』で扱っているのは有料のレジャー施設が中心ということもあり、メインのユーザー層は世帯年収が500万円以上の世帯です。
そのため、より所得の低い、厳しい状況にある世帯の皆さんにも体験を通した価値ある時間をお届けするためにはどうしたらいいのだろうかということは、以前から考えていたところでもありました。
リディラバの安部さんをはじめ思いを同じくする同士で連携することで、『アソビュー!』のプラットフォームを越えて、社会全体に遊び・体験の価値を届けていきたい。これが、僕が「子どもの体験格差解消プロジェクト」の発起人になった大きな理由です。
(山野智久さん)
「生きていてよかった」
非日常の体験がもたらす子どもたちへのインパクト
――アソビュー社は、創業から10年を迎えたタイミングでミッションを「ワクワクをすべての人」にから「生きるに遊びを」へとアップデートされました。どんな思いがあったのでしょうか。
「遊びを軸に人生を豊かにしたい」という基本的な考え自体は変わっていなくて、その考えを、より明確に言語化したのが新ミッションです。
衣食住のスペックを上げていくだけでは人生が味気ないことに、もうみんな気づいていると思うんですよ。衣食住を満たすだけでなく、遊びの持つ「楽しい」「ワクワクする」という感情的な領域をプラスすることこそが人生を豊かにするために大事なのだと私は考えています。
――コロナ禍では不要不急の外出は控えるという自粛生活が続き、子どもたちにとって楽しくてワクワクするような体験機会が奪われることになりました。だからこそ、子どもにとっての体験の価値が改めて見直されるということもあったのではないでしょうか。
『アソビュー!』では月に1回のペースでユーザーインタビューを行っているのですが、そういった機会に子どもにとっての遊びの価値を再認識させられることが多くあります。
例えば、千葉県在住のあるご家庭の話ですが、刀に興味があるお子さんのためにお母さんがアソビューで刀鍛冶体験の予約をし、高速バスに乗って母子で京都まで行ったのだそうです。
実際に刀をつくる過程を体感したり、憧れの刀鍛冶と話をしたり……。お子さんにとってはかけがえのない体験になったんだと思います。
「生きててよかった」。体験後、お子さんがそう言ってくれたそうなんですね。
子どもに「生きててよかった」と言わしめるほどのインパクトをもたらす力が、非日常の体験にはあるんです。
そのほかにも、初めて釣りを体験して以来、毎週家族で釣りにいくようになったとか、体験をきっかけに食卓で思い出を語り合う時間をもつようになったという話をよく聞きます。私自身も娘との関わりの中で、週末などに非日常の体験を共有することによって信頼関係が深いものになっている実感があります。
我々は非日常の体験にフォーカスして事業を展開していますが、日常・非日常にかかわらず“体験を共有する”ことが家族関係にポジティブにはたらくのではないでしょうか。
(ボートに乗る体験をする子どもの様子)
「この指止まれ!」と
みんなが集まれる場をつくる
――山野さんはこれまでにも、GoToトラベルに関するロビイングや、「一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合」の立ち上げなど、社会のリーダーとして政治や政策に対しても声を上げて行動を起こしているように思います。何が山野さんを駆り立てているのでしょうか。
それは「社会をよくしたい」という思いです。
国の政策も社会の不便を解消したり困りごとを解消したりするためのものなので、課題解決の方向性は、国であろうと民間であろうと基本的にはイコールとなるはずです。
でも、国はすべての困りごとを可視化できるわけではありません。適切に優先順位をつけられているかというと、必ずしもそうとは限らない。
だから、我々のような存在が専門領域で連携することに価値があるはずです。
―――実業家から「社会をよくしたい」という言葉が真っ先に、迷いなく出てくることに時代の変化を感じています。
今は、社会起業家とスタートアップとの境界が融合してきている感じがしますね。
私はミレニアル世代にあたりますが、その次のZ世代といわれる人たちも含めて利他性が強く、社会の課題を解決することに向き合っている人が多い印象があります。
周りを見回してみても、「自分たちの代で100年先の未来をつくっていこう」という志を持っている人によく出会います。
社会課題はどんどん複雑化してきていて、国が解決してくれる時代ではなくなってきました。これからは、課題を“プロジェクトベース”で、“みんなで”解決することが必要です。
人任せにするのではなくて、個人レベルで課題に目を向けて解決を目指して行動していくことが重要です。
――個人のレベルで見ると、社会をよくしたいという思いや悩みは抱えていても、社会課題解決のための具体的な一歩を踏み出すことはハードルが高いと感じる人も多いように思います。
そのためにも、「この指止まれ!」とみんなが集まれる場をつくることが大事です。
体験格差の問題については「子どもの体験格差解消プロジェクト」がその役割を担っていくのではないでしょうか。
その場に、それぞれの個人が自分ができる方法で関わってほしい。寄付でも、体験を提供するプレイヤーとしてでもいい。あるいは調査に関わるとか、スタッフとして事務局を支えるとか、それぞれの得意を活かした関わり方があると思います。
みんなが何かしらのアクションを起こせば、このプロジェクトを力強く前に進めていくことができる。それは100年後の未来を豊かにすることにもつながるはずです。
(山野智久さん)
(子どもの体験格差解消プロジェクト 詳細はこちら)
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