「夫の給与が振り込まれる生活費の口座からお金を下ろそうとしたら、ずっと記帳が終わらなかったんです。ジー、ジー、ジー……と響く音を聞きながら、3分くらい待った。残高を見れば、給料日直後なのに数百円しかありませんでした」
由紀さん(仮名)は、ギャンブル依存症に陥った当時の夫、慎一さん(仮名)についてこう振り返る。

イメージ画像(写真AC)
「通帳を見ると、1万円、3万円、5千円、1万円……と何行も続いていて、これはなんだろう?と。夫に聞いて初めて、オンラインのギャンブルにお金を使っていたとわかりました。
当時は“ギャンブル依存症”という病気のことすら知りませんでした。本人も『もうしない』と言うので、その1回で終わりだろうと片付けてしまったんです」
家族の異変に長らく気づかず、大金を注ぎ込んでいることや借金をしていることが判明して初めて「依存」を知る——。そんなケースは支援現場で頻繁に語られる。由紀さんも、慎一さんの借金を突然知らされた家族のひとりだった。
その後、慎一さんはオンラインギャンブルを繰り返し、借金は膨らみ、精神状態も悪化。依存から抜け出せず、さらに深刻な状況に陥っていく——。
リディラバジャーナル構造化特集、今回のテーマは「2020年代のギャンブル依存」。
2025年1月頃からオンラインカジノに注目が集まったことは記憶に新しい。著名人が賭博容疑で書類送検となり、その違法性が改めて報じられた。当時は大々的な広告が打たれていたこともあり、「違法だと思わなかった」という声も目立った。
2024年には通訳者・水原一平さんの不正送金事件で「スポーツベッティング」も話題となった。競馬や競輪など公営ギャンブルでもオンライン投票が増えている。
ギャンブルのオンライン化が進むなかで、依存症へ陥るまでのプロセスや、抜け出す難しさに変化が生まれている。キーワードは「より若く、より早く、より高額に」。この変化の背景には、入口の広がり、歯止めの効きづらさ、発覚と支援の遅れといった要因が複雑に絡み合っている。
スマホやSNSが当たり前の時代に、どのように依存に陥りやすく、抜け出しにくくなるのか。本特集では、主に2020年代以降の変化を追いながらその構造を明らかにする。
ギャンブル依存症は「意志の弱さ」ではない
まず押さえたいのは、ギャンブル依存症は「脳の報酬系の病気」として捉えられている点だ。
現実には、本人にも家族にも社会にも「病気」という認識が十分に広がっておらず、「だらしなさ」「自己制御の問題」と誤解されることも少なくない。
公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会(以下、考える会)の代表を務める田中紀子さんは、「いまも誤解や偏見がある」と指摘する。

公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表。競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)。第25回日本アルコール・アディクション医学会優秀論文賞受賞。著書:『三代目ギャン妻の物語』(高文研)、『ギャンブル依存症』(角川新書)
「ギャンブル依存症の人って、どんな人を思い浮かべますか? 場外馬券場やパチンコ店にずっといて、昼間からワンカップ酒を開けながら競馬新聞を眺めている——。そんな怠惰な人のイメージがあるのではないでしょうか。
でもよく考えてみてください。依存症の人の借金は数百万にのぼることもあります。それほどの借金ができるのは、社会的信用があったからです。失踪しそうな人や返済できなさそうな人には、そもそも金融機関もお金を貸しません。
高学歴で大企業に勤め、年収が高く、結婚して家族がいる。そうした方が『やめたくてもやめられなくなってしまった』というケースも多いです。
もちろん、これは医療機関や支援団体につながった方を見てきた所感です。いまだ治療・支援に結びついていない方もたくさんいます」
誤解や偏見が根強い背景には、「依存症」として扱われてきた歴史の浅さもある。
ギャンブルの依存症的側面が精神疾患として定められたのが1970年代。当時は「病的賭博」と呼ばれていた。その後「衝動制御障害」を経て、2013年にアルコールや薬物と同じ「依存症」の分類に。2018年にはギャンブル等依存症対策基本法が制定、そこから全国規模の調査が行われるようになった。
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター(以下、久里浜)の樋口進さんは、次のように説明する。

独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問。昭和54年東北大学医学部卒業。米国立保険研究所(NIH)留学、国立久里浜病院臨床研究部長、国立病院機構久里浜医療センター院長などを経て現職。ゲーム依存、ギャンブル依存などの行動嗜癖、アルコール関連問題の予防・治療・研究などを専門とする。著書:『ウルトラ図解 ギャンブル依存』(法研)、『ゲーム・スマホ依存から子どもを守る本』(法研)など
「昔は“悪いクセ”くらいに扱われることも少なくありませんでした。相談先の医療機関や支援団体も少なかった。徐々に病気として、相談・治療の対象になることがわかってきました。
ギャンブル依存は『DSM-5』という診断基準で『物質関連障害および嗜癖性障害群』に分類されるもの。“悪いクセ”ではなく、自分ではコントロールできない状態に陥る病気です。
脳の報酬系の病気で、ドーパミンという快楽物質の放出とギャンブル行為が結びつく。耐性ができるので同じ刺激では満足できず、より強い刺激を求めるようになる。
さらに、意思決定に関わる前頭前野の働きも落ち、冷静な判断ができなくなり、負けてもやめることができなくなる。『これだけ負けたんだから次は勝つはず』と完全に信じ込んでしまうのです」
ギャンブル依存症は「性格の問題」ではない。脳の働きの変化によって本人のコントロールが効かなくなる病気である。
国による定義は「ギャンブル等にのめり込むことにより日常生活または社会生活に支障が生じている状態」とされているが、こうした依存状態が深刻化すると、当事者は大きな借金を抱え、生活そのものを立て直せないほど追い込まれる。
電気や水道が止まる、食べるものがなくなる、住まいを失う——。生活困難に加えて精神状態の悪化、自殺企図の恐れも。また家族への影響も大きく、家庭内窃盗や家計の破綻などに発展することもある。
実際に依存はどう始まり、どんな順序で深刻化していくのか。第2回の記事では、由紀さんの通帳に残った“出金の列”を手がかりに、慎一さんのギャンブルが「大人の嗜み」から「依存状態」となるまでの加速をたどる。
「オンライン」を介して増加するギャンブル依存当事者
現在、ギャンブル依存に陥る可能性のある人は少なくない。厚労省の実態調査(※1)では成人の1.7%が「ギャンブル等依存が疑われる者」だった。全国で100万人の規模になる。
また、医療機関につながる人も増えている。久里浜の資料(※2)によれば、依存症専門の医療機関における診療実績報告を集計すると、ギャンブル依存症の外来・入院患者数はいずれも増加傾向にある。


さらに樋口さんは、2020年代に入って「オンライン」を利用した相談が増えていると続ける。
「以前は相談の6割以上がパチンコでしたが、近年は急速に減っています。コロナ禍の前後で比べると、オンラインギャンブルの割合が大幅に増えました。
オンラインというと、オンラインカジノやスポーツベッティングなど違法のイメージが強いかもしれませんが、競馬や競艇といった公営ギャンブルのオンライン投票やFXなど、合法のものもあります」
久里浜のデータ(2017〜2019年と2022〜2024年の比較)では、外来初診で主に行なっているギャンブルの分類を見ると、パチンコ・パチスロは約半分に減少。一方、オンラインカジノ、公営ギャンブル、FXなどを含むオンラインギャンブルの割合は合計で59%と増加している。

また、考える会が2024年に発表したアンケート調査(同会主催の相談会に訪れた人を対象 ※3)でも、オンラインカジノの相談件数は2019年では8件、2023年では97件と増えている。

もちろん、受診や相談が増えたからといって「患者数が増えている」と断定するのは難しい。認知の広がりによって支援につながりやすくなった可能性もある。
それでも、現場のデータや支援者の実感を踏まえると、少なくない当事者がいること、そして2020年代に入りオンラインに関する困りごとが増えていることは確かだと言える。
より若く、より早く、より高額に——。2020年代からの変化
2020年代に入ってから、ギャンブル依存の問題構造には変化が見られる。それが「より若く、より早く、より高額に」という点だ。
まず「若年化」について。厚労省の実態調査によれば、依存症問題で相談機関に来た人のうち、ギャンブル依存群の平均年齢は男性が43.9歳、女性が42.7歳だった(2023年度)。
全体として若いとは必ずしも言えないが、支援団体の調査結果を見ると若年化の傾向が伺える。たとえば、考える会の調査によれば近年20代の相談者が急増している。2023年には20代と30代だけで全体の約8割を占めた。

樋口さんは「スマホからのオンラインギャンブルが増えていることを考えると、必然的にスマホを使いこなす若者が増えることになりますが、全体的に年齢は下がっている印象です。以前は50代、60代の方も多かったのですが、最近は30代くらいが増えてきました」と話す。
次に「借金額の大きさと借金までの早さ」について。考える会の調査によれば、借金平均額は年々増加しており、2023年には855万円となっている。

厚労省の実態調査でも、相談機関へ相談した当事者のギャンブル関連借金額の平均値は、2020年度の約394万円に対して2023年度では約654万円へと上がっている。ただし対象は「相談につながった人」に限られる。当事者全体で増えたと断定はできないが、上述したように相談現場では高額化が見てとれる。
樋口さんによれば、特にオンラインカジノの場合は借金額が数千万円、中には数億円にのぼるケースもあるという。借金を抱えるまでも早く「数千万円の借金までものの2〜3ヶ月だったという患者さんもいます」と話す。
考える会の調査(※4)でも、オンラインカジノを始めてから最初の借金までが「1週間以内」という人が約3割、「1ヶ月以内」も約3割だった。

より若く、より早く、より高額に——。こうした2020年代からの変化は、ギャンブル依存に陥りやすく、抜け出しにくい構造を強めている可能性がある。詳しくは第1・2章で見ていく。
また、近年では借金返済のために犯罪につながり、いっそう抜け出しにくくなるという問題もある。
これまでも金策のために家庭内窃盗や横領などへ走ってしまう事例はあった。いまはそこに口座売買や携帯の転売、詐欺といった「闇バイト」と呼ばれる犯罪が新たに加わっている。なぜ当事者は犯罪行為につながってしまうのか、第2章で解説する。
リスクを知らぬままゲートをくぐることを阻止できるか
ここまで見てきた現状に対して、国をはじめさまざまな対策が進められている。
2018年に制定された基本法では、ギャンブル依存症の予防・治療・社会復帰支援の総合的な推進が掲げられている。また、学校教育における啓発や人材育成方針などについても定められている。
ただし、依存に陥る「入口」の予防にはまだ難しさがある。ギャンブル依存の問題に詳しい弁護士の名藤朝気さんは、合法/違法の線引きの周知不足と、取締りの曖昧さをあげる。

インテック東京法律事務所 弁護士。ギャンブル依存症問題を考える会顧問弁護士。
「法律上、合法/違法はハッキリしています。公営ギャンブルなど国の定めたものは合法で、それ以外は原則違法です。ただ、その周知が行き届いていない。
2025年に著名人がオンラインカジノで書類送検された際も、『違法だと思わなかった』『グレーだと思っていた』という供述がありました。
また、違法のものをやった人が全て検挙されるわけでもない。著名人の検挙の際には『見せしめ的だ』という声もありました。経験者全員ではなく、目立つ人だけを検挙しているのではないか、という見方です。
もちろん、全員を見つけて逮捕することは現実的ではありません。ただ、実際に検挙されるかどうかに“匙加減”があると、やって良いのか悪いのかという判断が曖昧になります。
合法/違法は決まっているものの、それが周知されていなかったり、運用上ではどこかぼんやりしていることが、人々の意識に悪影響を及ぼしているのではないでしょうか」
こうした依存症対策の仕組みを構築することの難しさは、第3章で扱う。特に今後は、ゲームとギャンブルの融合、スポーツベッティング、大阪・夢洲のIR(2030年秋頃の開業予定)など「入口」が増える恐れもある。それらの対策の現状や課題も見ていく。
スマホ一つで日常に入り込んだギャンブルは、気づいたときには自身でコントロールが効かなくなり、生活や健康を一気に崩す恐れがある。
それは本人の「だらしなさ」や「意思の弱さ」からではなく、本人を取り巻く社会の構造的な問題によって引き起こされている。
いま何が変わり、どこで歯止めが外れやすくなり、なぜ出口が見えなくなるのか——。本特集を通じて、見えにくい2020年代のギャンブル依存の問題構造を明らかにする。
各記事の紹介
第1章 依存症に陥りやすい構造
<第1回 いつでもどこでも、のめり込む。2020年代のギャンブル依存の陥りやすさ>
電車の中でも、布団の中でも——スマホを開けば、賭けは始められる。
2020年代、ギャンブルはスマホで気軽にできるようになった。公営競技の市場拡大とオンライン投票の伸びが、触れる入口を増やす。
そして、いつでもどこでもできて、現金を使わず、勝ち負けがすぐわかる——。こうした利用構造が「もう一回」を加速させ、依存に陥りやすくなる可能性がある。
医療・支援現場の声とデータから、2020年代のギャンブル依存の陥りやすさを明らかにする。
<第2回 「大人の嗜み」だったはずが、抜け出せない依存状態へ。2020年代のギャンブル依存の実態>

「夫がスマホでギャンブルをしているなんて、まして借金があるなんて——考えもしませんでした」
始まりは競馬。ストレス解消のつもりが、スポーツベッティング、オンラインカジノへと移り、家族の目に触れないまま加速していく。気づいたときには、通帳に残った“出金の列”と、すでに膨らんだ借金が——。
当事者家族の由紀さんが語る元夫・慎一さんのエピソードをもとに、2020年代のオンラインギャンブルの実態を見る。
第2章 依存症から抜け出しにくい構造
<第3回 「ギャンブルの借金は、ギャンブルでしか返せない」という思い込み 2020年代のギャンブル依存の抜け出しにくさ>

「次は勝てる」「ここで取り戻せば返せる」——。借金が膨らむほど、その思い込みは強くなる。
オンライン化により、短期間に高額の借金を抱えやすい現代のギャンブル依存。スマホは生活必需品であり、ギャンブルから離れることが難しい。さらに追い込まれた先では、窃盗や横領に加え、SNSを介した「闇バイト」などの犯罪との接点も。
2020年代のギャンブル依存の抜け出しにくさを、構造的な視点で紐解いていく。
<第4回 学びと未来を奪っていく——。2020年代のギャンブル依存が若者に与える影響>

若者が依存に陥る怖さは、借金だけでは終わらない。大学で学ぶはずだったこと、新人として身につけるはずだった基本スキル、挑戦と失敗を積み重ねる経験。その“土台づくり”が、ギャンブルに吸い取られていく。
ギャンブルをやめた後も、就ける仕事が限られ、低賃金と短期離職で借金が返せない恐れも。
2020年代のギャンブル依存が若者にとってハイリスクである構造を、支援現場の実感から詳しく見ていく。
第3章 依存症予防・回復の仕組みを構築する難しさ
<第5回 見えない依存、つながるまでのハードル——。2020年代のギャンブル依存支援の課題>

ギャンブル依存に陥る構造、抜け出しにくい構造に変化があっても、そこから抜け出すための支援のあり方は変わらない。カギは「早期に専門家が介入すること」だ。
ただ現実には、本人も家族も依存状態に気づきにくく、恥や恐れで相談が遅れてしまうこともある。また、支援の受け皿不足、地域間格差といった課題もあり、当事者が支援につながるまでには壁がある。
医療・支援現場の声から、依存当事者への支援の構造的な課題を明らかにする。
<第6回 増える「入口」にどう向き合うか。2020年代のギャンブル依存の予防・回復の仕組みの課題>

ギャンブルに触れる「入口」が広がっている中、国や自治体では依存の予防・回復に向けた対策が進められている。一方で、依存リスクや合法/違法の線引きの周知不足、取締りの曖昧さといった課題もある。
社会として依存症予防・回復の仕組みを構築していく中で、どのような構造的な難しさがあるのかを見ていく。
※1 厚生労働省「令和5年度 依存症に関する調査研究事業 ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査 報告書 概要」
※2 国立病院機構久里浜医療センター精神科 松﨑尊信「ギャンブル依存症について診断・治療と臨床現場から見た最近の課題(令和6年10月24日 第14回ギャンブル等依存症対策推進関係者会議)」
※3 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会「水原一平さんも罹患したギャンブル依存症とオンラインカジノ(含:スポーツベット)被害の実態」
※4 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会「オンラインカジノ経験者への緊急アンケート」
※2026年3月6日:記事中の画像がイメージ画像であることが分かるよう、表記を追記しました
※2026年3月24日:「各記事の紹介」に第2回〜5回の記事のリンクと画像を掲載しました
※2026年3月31日:「各記事の紹介」に第6回の記事のリンクと画像を掲載しました

