スマホを開けば、賭けは始められる—&mda
スマホを開けば、賭けは始められる——。ギャンブルのオンライン化が進んだ2020年代、依存は「より若く、より早く、より高額に」深刻化しやすくなった。なぜ本人も家族も気づけないまま、借金や生活崩壊まで加速してしまうのか。入口の広がり、歯止めの効きづらさ、発覚と支援の遅れ。2020年代に入りギャンブル依存がより陥りやすく、抜け出しにくくなっている構造を明らかにする。

スマホを開けば、賭けは始められる——。ギャンブルのオンライン化が進んだ2020年代、依存は「より若く、より早く、より高額に」深刻化しやすくなった。なぜ本人も家族も気づけないまま、借金や生活崩壊まで加速してしまうのか。入口の広がり、歯止めの効きづらさ、発覚と支援の遅れ。2020年代に入りギャンブル依存がより陥りやすく、抜け出しにくくなっている構造を明らかにする。
スマホを開けば、賭けは始められる——。ギャンブルのオンライン化が進んだ2020年代、依存は「より若く、より早く、より高額に」深刻化しやすくなった。なぜ本人も家族も気づけないまま、借金や生活崩壊まで加速してしまうのか。入口の広がり、歯止めの効きづらさ、発覚と支援の遅れ。2020年代に入りギャンブル依存がより陥りやすく、抜け出しにくくなっている構造を明らかにする。
リディラバジャーナル構造化特集「2020年代のギャンブル依存〜より早く、より若く、より深刻にハマる病〜」。
第6回となる本記事では、依存症予防・回復の仕組みを構築する難しさ(3章)として、依存を「陥りにくく、抜け出しやすく」する仕組みづくりの課題を見ていく。

「もちろん法律的には、グレーゾーンはありません。法律で定められたもの以外は違法のギャンブルです。
ただ、何がレジャーとしてのギャンブルで、何が犯罪としてのギャンブルなのか、周知が行き届いていない。何も知らぬままSNS経由で、いきなり違法のものに手を出してしまうリスクもあります」
こう話すのは、ギャンブル依存の問題に詳しい弁護士の名藤朝気さんだ。
依存を予防するには、リスクの高い違法のオンラインギャンブルに手を出さない環境をつくる必要がある。だが現実には、「違法性が伝わりきらない」ことも起こる。
また、合法ギャンブルの側に規制をかけようとすると、別の難しさが立ち上がる。今後はスマホゲームとの接続、無許可のスポーツベッティングの広がり、そして大阪IRなど、ギャンブルに触れる機会そのものが増えていく可能性もある。
本記事では、ギャンブル依存を「陥りにくく、抜け出しやすく」する仕組みづくりがなぜ難しいのかを明らかにする。
線引きはあるのに、理解が追いつかない——違法性が伝わり切らない現状
社会として依存症予防の仕組みを考えるとき、まず重要になるのは、依存に陥る「入口」を狭めることだ。
もちろん、ギャンブルをする人が全員依存症に陥るわけではない。健全に楽しんでいる人も多い。
だが、第2回で触れた慎一さん(仮名)のような、依存のリスクを高めやすい違法のオンラインギャンブル(オンラインカジノ等)のケースは、始める段階でできる限り防ぐべきだ。
しかし、この入口対策は簡単ではない。要因の一つが、合法・違法の線引きはあるのに、社会の理解が追いついていないことだ。名藤さんはこう話す。

インテック東京法律事務所 弁護士。ギャンブル依存症問題を考える会顧問弁護士。
「法律では賭博罪、常習賭博罪などがありますが、競馬などの公営ギャンブルや宝くじなどは合法です。
繰り返しになりますが、法律上“グレーゾーン”はありません。法律で定められたもの以外は違法ギャンブルです。オンラインカジノもその一つです。
ただ、一般的な認識はどうでしょう。2025年には著名人が複数、書類送検されたと報じられました。『グレーだと思っていた』という供述も伝えられています。
何がレジャーで、何が犯罪か、周知が行き届いていない。知らないままSNS経由で、いきなり違法のものに手を出すリスクがあります」
こうした状況を受け、国は警察庁の特設ページやポスター、SNS等を通じて「オンラインカジノは犯罪だ」と周知を進めている。こども家庭庁でも青少年・保護者向けの啓発資料を作成するなど、入口段階での注意喚起を強化している。
それでも2025年の警察庁の調査では、オンラインカジノの違法性を「認識していなかった」人が全体で43.5%にのぼった。20代では認識率が51.1%にとどまり、約半数が違法性を認識していない。周知は進んでいるが、なお道半ばだ。

また、名藤さんはこう続ける。
「仲間内の賭け麻雀のようなものは、まず逮捕されないですよね。極端に聞こえるかもしれませんが、限られたリソースの中でどこを優先して検挙するかという判断は生じます。
すべてを見つけて逮捕するのが現実的だとは思いません。ただ、取り締まりに優先順位があることで『やっても大丈夫なのでは』と見えてしまうことがある。リスクの軽視や違法ギャンブルへの犯罪意識の薄さにつながっているのではないでしょうか。
賭博罪の成り立ちは古い。一方で社会もギャンブルの種類も変わってきました。本来なら『何が賭博に当たるのか』『どこから取り締まりの対象になるのか』を改めて議論し、整理する必要があると思います」
違法オンラインギャンブルの取締りについては、内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部(以下、内閣官房)も次のように話す。
「詳細は警察に確認いただきたいですが、違法なオンラインギャンブルすべてを取り締まるのは難しいところがあります。
ですが、昨年9月には改正ギャンブル等依存症対策基本法が施行され、違法オンラインギャンブル等のサイト・アプリを開設・運営する行為や、リーチサイトやSNS等で違法オンラインギャンブル等に誘導する情報の発信行為が禁止されたことにより、こうした情報の削除が進められています」
対策は進められている。一方で、法律上の線引きは明確でも理解が追いつかないことや、全件取り締まりが現実的に難しい側面もある。結果として「やっても捕まらないのでは」という感覚が生まれ、依存リスクの高い違法オンラインギャンブルへのハードルが下がっている可能性がある。
行き過ぎた広告はどこまで抑えられるのか
違法オンラインギャンブルについて対策が進む一方で、合法のギャンブル——とりわけ公営ギャンブルを介した依存の予防にも課題がある。
ギャンブル依存症に陥った元夫の当事者家族である由紀さん(仮名)は、合法・違法を問わず、ギャンブルがあまりに“気軽に始められる”状況そのものに危機感を抱いているという。
「世の中を見渡すと、合法・違法どちらもギャンブルへのハードルが低すぎるのではないかと思うようになりました。たとえ合法でも、安易に始めていいものではない——そのことをもっと伝える必要があるのではないかと。
お酒やタバコの広告には、未成年への注意や健康上の注意表示が入りますよね。でも公営ギャンブル(競馬・競輪・オートレース・ボート等)は、注意喚起よりキャンペーンのほうが目に入ってしまう。
私たちは気軽に周りの人を誘います。本当にそれでいいのだろうか、と」
公営ギャンブルの注意喚起に関しては、全国公営競技施行者連絡協議会の「公営競技広告・宣伝指針」で、広告・宣伝に「〇〇は適度に楽しみましょう」「〇〇券の購入は20歳になってから」等の注意事項を表示することが示されている。
一方で、この指針は「表示スペースが僅少な場合は省略可」ともされている。媒体によっては注意喚起が目立ちにくい、あるいは見かけないことも起こり得る。由紀さんは「公営ギャンブルの広告・キャンペーンも、より抑制する必要があるのではないか」と指摘する。
だが広告に一律の基準を設定するには、難しさもある。内閣官房はこう話す。
「まず、公営ギャンブルは所管や運営主体がそれぞれ異なります。中央競馬は農林水産省の所管で主体は特殊法人、競輪・オートレースは経済産業省の所管で主体は自治体、ボートレースは国土交通省が所管で主体は自治体……といった具合です。
『ギャンブル等依存症対策基本法』においても、国は、事業者の自主的な取組を尊重しつつ、必要な施策を講ずるとされていますが、たとえば広告などの表現の基準はそれぞれの事業者において自主的な指針を制定し、運用しています。
他分野でも同様ですが、国が一律に基準を定め、事業者に対して『この表現はダメ、ここからは良い』とすることは困難です。表現の自由など、権利との関係も出てきます。
もちろん行き過ぎたものがあれば指摘し、所管先から事業者を指導してもらっていますが、基本は各事業者が定めている基準に沿って自主的に対応してもらうことになります」
依存リスクを下げようと、公営ギャンブルに規制をかけようとしても、権利とのバランスや広告の線引きが難しい。さらに所管や運営主体が分かれている以上、国として一律のルールを設けることも簡単ではない。
ギャンブルに手を伸ばす機会が増えるほど、入口対策は難しくなる
入口対策を進めても、今後のリスクとして残るのが、ギャンブルに増える「機会」そのものが増えていくことだ。機会が増えれば、依存リスクにさらされる人の範囲も広がりうる。
その一つとして指摘されるのが、スマホゲームとの「接続」だ。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの樋口進さんは、子どもがリスクを知らないまま入り込む可能性を懸念する。

独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問。昭和54年東北大学医学部卒業。米国立保険研究所(NIH)留学、国立久里浜病院臨床研究部長、国立病院機構久里浜医療センター院長などを経て現職。ゲーム依存、ギャンブル依存などの行動嗜癖、アルコール関連問題の予防・治療・研究などを専門とする。著書:『ウルトラ図解 ギャンブル依存』(法研)、『ゲーム・スマホ依存から子どもを守る本』(法研)、など。
「たとえばスマホゲームのガチャは、ギャンブルに近い体験になりやすい。幼い頃からそうした仕組みに慣れてきた子どもが、ギャンブルにスムーズに移行してしまうのではないかと危惧されています。
スマホゲームがギャンブル依存にどう影響するのか、確固たるデータはまだありません。ただ患者さんからは『スマホゲームをしているときに間違って入ったのがオンカジのサイトだった』という声もあります。
両者がシームレスになることで、リスクを知らないままギャンブルにハマる、あるいは違法なものに手を出すことは考えられます」
また、樋口さんは「無許可のスポーツベッティング(※1)」の広がりにも懸念を示す。
「アメリカのギャンブル関係者と話すと、スポーツベッティングが過熱しているという話はよく出てきます。大きな問題になっているとも聞きます。
日本にも将来、同じ波が来ないのか心配しています。子どもたちにも訴求すると思うので。
“スポーツへの賭け”と聞くと、健全そうに見えてしまう面もあります。けれど実態としては、オンラインカジノ等と同じような形で違法のものが流入し、依存の入口になる危険があります」
さらに、もう一つ大きな「ギャンブルへの接触機会」として挙げられるのが、2030年秋頃の開業が想定されている統合型リゾート・大阪IRのカジノ(以下、大阪IR)だ。
大阪IRは、国際会議場・展示場、ホテル、レストラン、エンタメ施設、そしてカジノなどで構成される統合型リゾートで、夢洲での開業が計画されている。
大阪府・市では、大阪IRの区域整備計画において、依存症の予防対策を打ち出している。大阪府・市IR推進局の担当者は次のように説明する。
「日本に住む方(在住外国人を含む)が対象となりますが、入場回数の規制、マイナンバーカードによる本人確認、入場料6,000円などでハードルが設けられています。本人や家族から申告があれば、本人確認時に入場できない措置も取れますし、一定以上の頻度では通えないようにもなっています。
また、24時間365日利用可能な相談体制を構築します。明らかにカジノで問題のあるギャンブルをしている場合は、訓練を受けたスタッフが声をかけ、相談ブースにつなぐ対応も想定しています。
ICT技術を活用した入退場管理も行います。防犯カメラで行動が不自然な方を把握し、ギャンブル行動の早期発見につなげる。賭け金額や滞在時間の上限設定を可能にするプログラム導入も進めています」
こうして依存の入口を狭め、早期発見・早期相談につなぐ仕組みは用意されつつある。ただ、ギャンブルへの新たな接触機会が増えれば、対策は「整備して終わり」では済まない。運用の継続や見直しに加え、想定外の流入経路にも対応し続ける必要がある。
スマホゲームとの接続、無許可のスポーツベッティング、そしてIR——。ギャンブルに触れる機会が増えるほど、入口対策は構造的に難易度が上がる。一定の対策は取られていても、環境や手法が変化し続ける以上、「陥りにくい」仕組みを社会に実装し続けることは難しい。
入口は狭める。それでも限界がある——だから早期回復のネットワークを厚くする
依存に陥る「入口」の予防はこれからも必要だが、"完全に閉じる"ことは難しい。だからこそ、被害を最小化する現実的な対策として重視されているのが、「依存に陥った後、いかに早く回復につなげるか」だ。
たとえば、大阪IRの区域整備計画や府のギャンブル等依存症対策推進において計画されている(仮称)大阪依存症対策センターは、ワンストップで依存症に対応する施設として構想されている。大阪府健康医療部の担当者はこう話す。
「医師、相談員、心理士など多職種に相談でき、自助グループや司法書士などへの相談にもつなぐことできるよう検討しています。同時に依存症対策の企画立案や調査・研究も行うセンターにする予定です。
これはIR誘致を契機とした依存症対策でもありますが、既存のギャンブル等依存症患者の方への対応も行う予定です。2031年度末を目標に割合を減らしていく方針です。
直接的な相談や回復プログラムの提供に加え、データや知見の蓄積、人材育成もして、地域の依存症対策のハブになれたらと考えています」
大阪に限らず全国でも、当事者・当事者家族と医療機関、支援団体、法律専門家などがつながり、ネットワークをつくって早期回復につなげる動きがある。
内閣官房は「都道府県や政令指定都市を中心に、連携の会議体を持ち、ネットワーク形成を進めることを基本計画に据えている」と話す。
「都道府県や政令指定都市など、一定規模の自治体にはネットワークをつくる役割を期待しています。回復のすべてを医療だけで完結させることはできません。支援団体や債務の問題から弁護士などと連携できるように、自治体がハブになることが重要です。
ただ、全都道府県で同じレベルの取り組みができているわけではありません。そもそも専門の医療機関がない地域もあります。地域の事情を見ながら広げていく段階です」
このように、早期回復に向けたネットワークづくりは進みつつある。だが、ネットワークが機能するためには前提がある。依存に陥った人を早く見つけ、適切な窓口へ早くつなげることだ。
当事者家族の由紀さんは、家族の立場から「早期に気づく」ことの重要性を語る。
「ギャンブルには誰しも依存リスクがある、と社会に広まれば、『アレ、もしかして……?』と思うきっかけは増やせると思います。
たとえば家庭でも、親が子どものスマホの使い方を見て『アレ?』と早めに気づければ、依存に陥ることを防げるかもしれない。
知っておいてほしいのは、依存してしまうことと、本人の人格や意志の強さは関係ないということです。
私は『夫は立派な人だから大丈夫だろう』と思っていました。でも立派でも、意志が強くても、依存症になることはある。そうなると本人の力だけではどうにもならなくなっている可能性もあります。周りが気づけるかどうかが重要だと思います」
本人の意志や根性だけではどうにもならない。だからこそ、本人や家族の努力だけに委ねるのではなく、周囲が依存リスクを知り、早期に気づいて支援につなげられる状態を社会としてつくっておく必要がある——。
この点において、内閣官房や大阪府が繰り返し強調するのが「周知・啓発」だ。
「『ギャンブル等依存症対策推進基本計画』では、若年層への普及啓発の観点から、地域において教育委員会等との連携を強化することや、動画を中心にSNS等インターネットを活用するととしており、若年層対策を強化することとしています。
また違法オンラインギャンブルについては、警察庁が、若年層を中心に蔓延している状況を受け、紙媒体だけでなくSNSや映画館で違法性を伝えるメッセージを流すなど、若年層に関心を持っていただけるような形での広報にも取り組んでいます」(内閣官房)
「若年層への予防啓発として、教員向けの研修や、動画・チラシの作成なども行なっています」(大阪府健康医療部)
そして内閣官房は、制度やネットワーク整備と並行して、教育の重要性を改めてこう語る。
「事業者や国、自治体の依存症対策が重要なのはもちろんですが、違法オンラインギャンブルを含め、家庭や教育の中でも、どのように知識を身につけていくか、という点は大きいと思います。依存に陥らないためには、依存症の症状やそのリスクを知ること、あるいはお金の管理の仕方を知ることなども必要です。
その点で、啓発や教育も対策の肝になると思っています」
本記事では、ギャンブル依存を「陥りにくく、抜け出しやすく」する仕組みづくりがなぜ難しいのかを見てきた。

現在、依存症に陥った後の早期回復に向けたネットワーク整備は進みつつある。一方で、現状では対応が難しく、さらに今後増えていく可能性もある「入口」の予防に関しては道半ばだ。
また第5回で触れたように、支援の現場では「本人や周囲が依存に気づきにくく、支援につながりづらい」「家族が周囲に頼る際に“恥”の意識などが働き、相談しづらい」という課題もある。
入口を狭める取り組みを続けながら、早期回復のネットワーク構築を進める。そしてネットワークを機能させるために、周囲が気づけるだけの認知を広げる——。依存症対策の現実解として重視されているのは、その両輪だ。
※1:本稿でいう「スポーツベッティング」は、海外のオンラインカジノ等が提供する無許可のスポーツ賭博などを指す

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続きをみる毎年5月14日〜20日は、ギャンブル等依存症や関連して生じるさまざまな問題について理解をし、予防などへつなげることを目指す、「ギャンブル等依存症問題啓発週間」。この期間、リディラバジャーナルで特集している「2020年代のギャンブル依存」(全6回)の記事を無料公開いたします。
2020年代のギャンブル依存のキーワードは、キーワードは「より若く、より早く、より高額に」。本特集では、「だらしない」といった偏見や誤解の多いギャンブル依存の「陥りやすい構造」、「抜け出しにくい構造」、「予防・回復の仕組構築の難しさ」の3つの視点から整理しています。
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