更新日: 2026/1/22(木)
未来へのシカケ/Case3.沖縄の若者の就労問題に取り組む「Arch to Hoop沖縄」(前編)
更新日: 2026/1/22(木)
更新日: 2026/1/22(木)
未来へのシカケ/Case3.沖縄の若者の就労問題に取り組む「Arch to Hoop沖縄」(前編)
更新日: 2026/1/22(木)
※本記事は提供記事のため、無料で公開しています
仕事や働き方を知らないまま、大人になっていく。働きたいという意欲を持てず、就労の壁にぶつかってしまう——。これは、沖縄で子ども・若者支援に取り組む団体が語る“就労問題”の実態だ。
社会課題への深い洞察に基づく、課題解決に向けた取り組みを紹介する「未来へのシカケ」。第3回のテーマは「沖縄の若者の就労問題」。
2026年1月から一般社団法人Arch to Hoop沖縄が新たに挑戦する“若者の就労につながる収益事業”に焦点を当て、その立ち上げの背景にある問題を探っていく。

Arch to Hoop沖縄は、2023年に沖縄で開催されたバスケW杯をきっかけに、スポーツ用品事業等を行う株式会社モルテンと、沖縄で子ども・若者の自立支援を行うNPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい(以下ちゅらゆい)が、子どもの体験格差解消を目指して立ち上げた団体だ。バスケットボールイベント「Arch to Hoop」や職業体験プログラム「Arch to Work」などを通じて、子どもたちに多様な体験の機会を届けてきた。
そして2026年1月からは、若者の就労支援事業として「バスケットコートレンタルビジネス」に挑戦する。就労に困難を抱える若者たちが自らコート設営などの業務を担い、さまざまなビジネス体験や賃金を得ることで、自立へのステップを踏めるようにする構想だ。

▼詳しくはこちらから(公式Webサイト)
https://arch-to-hoop-okinawa.com/service/
なぜ就労に悩む若者に「体験の提供」が必要なのか——。前編となる本記事では、就労困難の背景にある「多様な体験機会の不足」という問題について、現場の声からひもといていく。
※編集注)本記事でいう「体験」とは、旅行やイベントなどの“非日常の体験”から、親や友人との関わり・会話といった“日常の体験”までを含む
「仕事や働き方を知らなかった」。多様な体験機会の不足が生む“選択肢の狭さ”
そもそも沖縄の若者たちは、どのような就労の困難を抱えているのか。
沖縄労働局の資料によると、沖縄県の完全失業率は全国と比べて高い。なかでも15〜29歳の若年層ではその傾向が強く、就労でつまずいてしまう若者が少なくない。

失業率の高さの背景には、高い非正規雇用率や低い賃金水準など、複数の要因が複雑に絡み合っていることが指摘されてきた(※1)。
一方で、就労でつまずく若者について支援現場の声を聞くと、特に子ども時代に困難な状況を経験してきた人ほど、そのリスクが高まりやすいことが見えてくる。背景には、雇用環境といった要因に加えて「子ども・若者期の多様な体験機会の不足」もあるという。
ちゅらゆいが運営する就労支援事業所「アシタネワークス」のスタッフであり、Arch to Hoop沖縄の事務局スタッフも務める上原岳文さんは、多様な体験機会の不足がもたらす課題として「就労の選択肢の狭さ」を挙げる。

NPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆいが運営する、那覇市の就労支援事業所「アシタネワークス」のスタッフ。アシタネワークスでは、就労継続支援B型と就労移行支援の枠組みを活用し、若者や障害のある方たちの就労サポートを行なっている。また、一般社団法人Arch to Hoop沖縄の事務局スタッフも務める。
「ちゅらゆいは、不登校やひきこもりの子どもが安心して過ごせる居場所づくりから活動がスタートしました。
居場所に通うなかで元気になり、巣立っていく子も多いのですが、なかには次のステップ(就労等)に進めないまま止まってしまう子が一定数いることが、10年ほどの支援を通じて見えてきました。
アシタネワークスに通う若者たちの多くは、不登校やひきこもりの期間に社会との距離が生まれてしまった人たちです。職場体験などの機会を得られず、地域の大人や友人の親などを通じて、さまざまな仕事や働き方を知る体験を持てなかった人も少なくありません。
そうした若者たちの中に、就労に困難を抱えるケースが特に多いように感じます」
ちゅらゆいの代表理事であり、Arch to Hoop沖縄の理事も務める金城隆一さんも、多様な体験機会の不足が「選択肢の狭さ」につながっていると話す。

沖縄県出身。NPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい・代表理事。また、一般社団法人Arch to Hoop沖縄・理事。
関西で不登校やひきこもり支援を行なったのち、生まれ故郷である沖縄の社会問題に取り組むためにUターン。子ども・若者を応援する仕組みをつくるため、2010年にちゅらゆいを設立。
「体験の機会が少ない子たちほど、自分の知っている範囲のものから選択する傾向があるように思います。
料理にたとえると、旅行先でも食べ慣れたチェーン店を選んでしまうイメージです。食べたことのないものを選んで、想像以上のおいしさに出会った体験がないから、食べたことのないもの(新しい選択肢)に手を伸ばせない。
仕事に置き換えると、知っている仕事のなかから選ぼうとする。ちゅらゆいに来ている子どもたちの中には、周りの大人たちの労働環境が厳しいという子もいますが、それが当たり前の感覚で育っているため、自分たちも似たような仕事を選択してしまいがちです。
その結果、待遇や働き方の面で不安定な仕事を選ばざるを得ず、長く続けるのが難しくなってしまうケースも少なくありません」
そもそも社会にはどのような仕事があり、自分にはどんな仕事が合うのか——。就労の選択肢を知る体験が限られると、「やりたい」と思える仕事に就けなかったり、ミスマッチが起きたりして早期の失業や離職につながりかねない。
多様な体験機会の不足がもたらす「働く意欲の乏しさ」
多様な体験機会の不足は、就労の選択肢を狭めるだけでなく、本人の意欲や自己肯定感にも影響を及ぼす可能性がある。
金城さんは、多くの子どもや若者と関わってきた実感として、「体験の機会が少ない環境に置かれている子ほど、チャレンジする意欲や自己肯定感が乏しい」と感じているという。
文部科学省の調査による分析でも、体験活動(生活・文化体験/自然体験/社会体験)の機会が多かった子どもほど、自尊感情などが高い傾向にあることが示されている。これらの体験には、友人や地域の人との関わりなども含まれると考えられる。
もちろん、体験機会が多ければ“必ず”意欲が高くなるわけでも、体験機会が少ない子どもが”一様に”意欲を持てないわけでもない。それでも、こうした分析や現場の実感を踏まえると、体験の機会が限られる環境では自己肯定感や前向きな意識が育ちにくい可能性がある。
こうした意欲の課題は、就労支援の現場でも見られるという。沖縄で就労支援や企業の経営管理等に携わる山川伸夫さん(株式会社うむさんラボの取締役COO)は、次のように話す。

株式会社うむさんラボ・取締役COO。
40代になって東京から沖縄に移住し、うむさんラボの創業メンバーとして事業開発と経営管理全般を担う。自ら社会課題解決を目指す事業を複数立ち上げて事例づくりをしながら、沖縄におけるソーシャルビジネスの実践と普及に取り組んでいる。
「私たちの活動の中で、子どもを育てる親御さんを中心に職業訓練や就労サポートを行なっているのですが、働く意欲や自己肯定感の面で悩みを抱える方も少なくないと感じています。
たとえば、就労に必要なスキルを学ぶ講座を1年ほどかけて実施した際、どうしても途中で脱落してしまう方がいました。詳しくお話を聞いていくと、子どものころから周囲との関わりが薄く、親や大人から『あなたならできるよ』と言われてきた体験が少ない。
むしろ、自分の存在や可能性を否定される言葉を投げられてきた中で『どうせ私なんて』という気持ちが強くなり、チャレンジすること自体を諦めてしまう……と。こうした方は決して少なくありません」
大人との会話や身近な人に応援される日常的な体験、非日常の体験の機会を十分に得られないことは、意欲や自己肯定感の乏しさを招く一因になりうる。結果として、若者の就労のつまずきにつながっている可能性がある。
経済的・時間的に余裕のない家庭が多い沖縄
ここまで見てきた子どもの体験に関する課題——選択肢の狭さや意欲の乏しさは、家庭に経済的な余裕や時間的なゆとりがない場合に生じやすいとされている。
文部科学省が2023年度に実施した「子どもの学習費調査」によると、おおむね世帯の年間収入が少ないほど「学校外活動費(体験活動や地域活動、習い事、塾等)」にかける支出が少ない傾向が見られる。
収入が少なくとも子どもの体験を大切にしている家庭は数多く存在するが、非困窮世帯に比べて状況的には難しくなりやすい。

(上図は公立学校における傾向だが、私立学校においても同様の傾向が見られる)
そして、沖縄では経済的に余裕のない家庭が少なくない。
小中学生の保護者を対象とした最新の調査(2024年度沖縄こども調査)では、子育て世帯の21.8%が困窮世帯に該当するとされた。2016年の調査から改善は見られたものの、依然として多くの家庭が困窮状態に置かれている。
また、ひとり親家庭の数も全国と比べて多い(※2)。もちろん、ひとり親家庭のすべてが経済的に厳しいわけではないものの、平均的には負担が大きくなりやすい。
こうした経済的な余裕のなさは、時間的な余裕のなさにもつながりうる。たとえば、ひとり親家庭で親が仕事に追われ、どうしても子どもと関わる時間を確保しづらいケースなどが考えられる。
金城さんは、支援の現場で感じていることを次のように語る。
「私たちの居場所に来ている子どもたちの中には、経済的に厳しい家庭の子も多いのですが、実は『食べるものが何もなくて飢えている』という子はそれほど多くはありません。
たくさんの子どもと関わってきましたが、やはり“体験をしっかり積めなかった子”の割合が高いと感じます。たとえば、コンビニで食べものは買えるけど、家族でレストランに行って食事をするような体験がない——。家庭での体験の種類が著しく少ないわけです。
親自身が余裕を持ちにくく、子どもと関わりたくても関われないこともあれば、『体験のためにお金や時間を投資する』という感覚を持てる状況にないこともあります。
そうした環境で過ごしてきた子どもたちは、新しいことにチャレンジしたくても、一歩を踏み出すハードルが高くなりがちです」
多様な体験機会が不足したすべての子ども・若者が、必ずしも就労に困難を抱えるわけではない。また、現時点で「体験機会の不足によって就労が困難になる」という因果関係が明確に示されているわけでもない。
それでも、経済的・時間的な余裕のない家庭が少なくない沖縄の現状や、現場で支援にあたる人たちの声を踏まえると、多様な体験機会の不足によって選択肢が限定され、意欲を持ちにくいまま就労でつまずいてしまう若者がいることは十分に想像できる。
※編集注)なお、子どもの体験に関する問題が構造的に発生する要因には、経済的・時間的な余裕のなさの他にもさまざまな要因がある。詳しくは2026年公開予定の構造化特集「子どもの体験に関する問題(仮題)」で解説する
必要なのは、子どもから若者への移行期の支援
ちゅらゆいでは、居場所支援などを通じて子どもの体験に関する課題に向き合ってきた。金城さんは、支援の重要性について以下のように話す。
「まずは日常的な体験を保障することが必要です。きちんと食事がとれて、安心できる大人がまわりにいる環境のなかで、子どもの意欲は少しずつ回復していきます。
そこからさまざまな体験にチャレンジしていくことになりますが、自分から体験の機会を掴みにいける子は多くありません。信頼できる親やきょうだいが一緒にいるからこそ、挑戦できる。家庭が十分にその役割を果たせない場合は、私たちが担うことになります」
一方で金城さんは、「子どもから若者への移行期」の支援がもっと必要だと強調する。
「支援の対象である子どもたちは、18歳以上になって成人すると、いきなり自己責任にされるわけです。しかし、中高生の時期にしんどい思いをしてきた子たちが、成人したからといって急に元気になることはあり得ません。
居場所支援を通じて元気になっていく子どもたちもいますが、まだ伴走がなければ社会復帰が厳しい場合もある。たとえ就職できたとしても、非常に厳しい環境の職場に雇用されていくケースもあります。
私たちのような支援団体は、子どもを“社会に出るためのスタートライン”まではなんとか連れていくことができます。ただ、そこから先——社会に参加し、安定した就労につなげていくための支援には、私たちだけではどうしても限界があります」
居場所支援などによって、生活や心身の安定を支えるための体験は保障できる。しかし「働く」という段階に進むと、さらに多くの大人や組織の力が求められる。
ちゅらゆいでは就労移行支援も行なっているが、ここまで見てきた就労の選択肢の狭さ、働く意欲の乏しさといった課題については「行政や企業、市民のみなさんと一緒に解決していきたい」という。

こうした背景を踏まえ、2026年から新たに始まるのが、若者の就労につながる収益事業「バスケットコートレンタルサービス」だ。
就労に困難を抱える若者たちが、自身でコート設営や企画といった業務を担う。さまざまなビジネス体験を積みながら、自立へのステップを踏める場にしていく——。
続く後編では、この事業がどのように若者の就労困難の問題に向き合おうとしているのか、その具体的な仕組みと可能性を掘り下げていく。
※1 参考文献:
沖縄県「沖縄21世紀ビジョン基本計画(沖縄振興計画)等総点検報告書」
沖縄振興開発金融公庫「公庫レポート 沖縄における若年雇用問題 ーミスマッチを生む意識構造の分析を中心にー」
※2:2023年の沖縄県の調査によれば、母子世帯の出現率は4.38%・父子世帯の出現率は0.54%で、いずれも全国調査と比べて約2倍の数値となっている(全国調査は2021年実施のため、参考値)
※2026年1月22日:撮影・掲載の配慮が必要な方の写り込みがあったため、前編のサムネイル画像を差し替えました

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