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公開日: 2023/8/12(土)

未来へのシカケ/Case2. 地域支援「コミュニティナース」(前編)

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未来へのシカケ/Case2. 地域支援「コミュニティナース」(前編)

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オーディオブック(ベータ版)

リディラバジャーナル新連載「未来へのシカケ」。

 

この連載では、社会課題への深い洞察に基づく、課題解決に向けた取り組みを紹介する。

 

第2回となる今回のテーマは、コミュニティナース。

 

Community Nurse Company株式会社が展開する各事業を紹介しながら、予防医療や地域コミュニティのあり方を考察する。

 

Community Nurse Companyは代表の矢田明子さんが、2017年に設立した会社だ。

 

全国に「コミュニティナース」の輪を広げるべく、養成講座や、自治体や企業連携などさまざまな取り組みを行っている。

 

コミュニティナースとは、「人とつながりまちを元気にする」存在のこと。

 

「コミュニティナーシング(地域看護)」からヒントを得た概念で、特定の職業や資格ではなく、実践のあり方を指す。

 

地域に暮らす人々の身近な存在として、個々の専門性を生かしながら、多様なケアを行うのが特徴だ。

 

設立者の矢田さんの目標は、「1億総コミュニティナース化」。全国民が地域でケアを担うような社会の実現だという。

 

そもそもそれは、どのような社会なのか。実現するための手立てはあるのか。

 

「1億総コミュニティナース化」に向けて様々なシカケを進める矢田さんに聞いた。

 

矢田 明子(やた あきこ)Community Nurse Company株式会社 代表取締役/一般社団法人 Community Nurse Laboratory 代表理事。島根県出雲市出身。父の死をきっかけにコミュニティナース着想。2014年島根大学医学部看護学科卒業後、自身も活動しながらコミュニティナーシングの担い手の育成を開始。2017年Community Nurse Company株式会社を設立し、コミュニティナーシングの社会実装を本格化。島根県雲南市に拠点を構えながら、全国の企業や自治体と連携し、コミュニティナーシングの社会実装を進めている。著書「コミュニティナース ―まちを元気にする“おせっかい”焼きの看護師」。2022年第10回アジア太平洋高齢者ケア・イノベーションアワード HOME CARE FOR AGEING-IN-PLACE部門グランプリ受賞。

「健康なうちから」介入するコミュニティナース

矢田さんが、「コミュニティナース」の活動を始めることになった原点は、がんによる父親の急死だ。

 

病院で診察を受けた時には既にがんが全身に転移しており、その数ヶ月後に父親は亡くなった。

 

その時矢田さんは、「健康なうちに医療の専門家につながる仕組みがあれば」と思ったという。

 

その後自ら、医療で地域に貢献できるようになろうと、大学に入学して看護の勉強を始めた矢田さんだったが、厳しい現実に直面する。

 

医療の世界は、名称独占、業務独占という職能ごとの縦割りで成り立っており、業務領域の枠を超える学習や実習はほぼ皆無だった。

 

しかも、健康相談など一見ハードルの低い医療ですら、アクセスしてくるのは「病気の予兆がある」人のみ。

 

健康なうちから地域の人々を医療的にサポートすることは、看護学科のカリキュラムの中では包摂されておらず、「健康なうちに健康の専門家につながる仕組み」を学ぶのは容易ではなかった

 

そんな折、矢田さんは「コミュニティナーシング」の考え方と出会う。

 

コミュニティの内部で、身近な存在として関わりを深めながら、まちの人たちを元気にする。

 

そのような存在になれば、地域の人々が健康なうちから、予防的な介入を行うことができるかもしれないと考えた。

 

「既存の医療や介護は、困った時に助けてもらえる仕組みですよね。

 

表に出てきたニーズを満たしてもらうのは、確かに助かりますし、ありがたい。

 

でも一方で、『どうしてそのような状態になるまで放ったらかしだったのか』という問いがあると思うんです。

 

困りごとは、個人が自分で認知する前からあったはず。

 

元気なうちにその困りごとに気づくことができれば、その人はもっと自分の力でよい方向に進めたかもしれない。

 

健康なうちに、個人の持てる力を最大限発揮できる。そんな社会を実現することが重要だと思うんです」

 

個々人が持つ力を最大限発揮できる社会を作るためには、何が必要なのか。

 

課題は、医療や介護の仕組みだけでなく、そのサービスを享受する受益者側にもあると矢田さんは指摘する。

 

「困った人を助けるという既存の社会システムは、逆に『いざとなれば公的サービスが助けてくれるんでしょ』という意識を、受益者に根付かせてしまう側面もあると思うんです。

 

なんだかんだ保障があると、『健康でいなければならない』というモチベーションも下がる。

 

一番大切な健康に対して意識が向かないまま、日々の雑務に忙殺されることになります」

 

このような課題は、既存の仕組みでは解決できないのだろうか。矢田さんの考えは懐疑的だ。

 

「現場の医療や介護システムを維持するのも精一杯の中で、そのシステムが全て、健康なうちから人々を支えていくという動きに変わっていくにはもう少し時間がかかると思っています。

 

また、医療は特定の資格を持つ人しか参入できないようにすることで、ビジネスを成り立たせていますから、その枠組みを超えて、全ての人がケアの担い手になっていくという取り組みは根本的に難易度が高いでしょう」

 

だからこそ矢田さんは、既存のシステムや職種の垣根を超えた、コミュニティナースの取り組みを始めることを決意したのだ。

 

「1億総コミュニティナース化」に向け、会社を設立

矢田さんは大学に通いながら、「コミュニティナースの見習い」として、地域コミュニティに入り込み、地道な関係づくりを続けた。

 

雑談から仲良くなり、信頼を獲得していくうちに、健康相談も徐々に増えていった。

 

矢田さんの活動は注目を集め、頻繁に問い合わせが来るようになる。

 

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リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
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