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公開日: 2022/5/30(月)

見過ごされてきた社会問題 リディラバが挑む「子どもの体験格差」とは

公開日: 2022/5/30(月)
公開日: 2022/5/30(月)

見過ごされてきた社会問題 リディラバが挑む「子どもの体験格差」とは

公開日: 2022/5/30(月)
オーディオブック(ベータ版)

(子どもの体験格差解消プロジェクト 詳細はこちら

 

「子どもの体験がインフラからサービスに変わってしまった」

そう語るのは、リディラバ代表の安部敏樹。
リディラバは2022年4月に「子どもの体験格差解消プロジェクト」を打ち出した。

そもそも、子どもの「体験格差」とは何なのか。そして、なぜいまプロジェクトを立ち上げ、プロジェクトでは何をするのか。

安部へのインタビューを通して、いま子どもたちが置かれている苦境と、子どもたちを変える「体験」の必要性が見えてきた。

 

大学入学がピークになってしまう
東大生への授業で抱いた違和感

―先日、リディラバでは「子どもの体験格差解消プロジェクト」を立ち上げました。
そもそも、「体験格差」とはあまり馴染みのない言葉なのですが、一体どんな格差なんでしょうか。


僕は一時期、東大で授業を担当していて、たくさんの東大生と関わってきました。
授業での姿勢や、卒業後の進路、活躍の様子を追いかけていくと、言葉は悪いのですが「東大に入った時がピークの学生」と「東大に入った時がスタートの学生」がいるな、と感じたんです。

学力は、東大に入れるという意味ではそこまで大きな違いがない。じゃあなぜこの違いは生まれるんだろう。不思議に思って色々と話を聞いてみると、「体験」の差が見えてきたんです。

大学入学をピークではなくスタートにできる学生は、「高校時代に国連のサマースクールに行きました」「毎年家族で海外旅行に行ってました」といったように、勉強以外にも豊かな体験を積み重ねている人が多かった。

一方で、入学がピークになってしまう学生は、「ひたすら塾に通ってました」「勉強以外にあんまり思い出は無いですね」と、体験が不足している人が多かった。

この時から僕は「10代までの体験が人の成長に大きく影響するのでは」と考えるようになりました。

親の収入が高い傾向にある東大生でさえ、大学入学までの体験には格差がありました。
日本中の子どもたちで考えると、その格差はより大きくなります。

同時期に東京都内の定時制の学校や中退率の高い学校を回って学生と話をするボランティアをしていました。
話を聞いていると、学力の手前に、そもそも学ぶ前提となる意欲がないパターンが多い。
コミュニケーションや生活習慣や文化教養といった、数値化しづらい部分にこそ格差ができてくるのを実感しました。

実際、僕自身も家庭環境が複雑だったこともあり、高校生までは荒れた生活をしていて、周囲には悪い仲間がたくさんいました。

彼ら・彼女らの口から、家族と旅行に行くとか、海外に行くとか、週末何か特別な遊びをする、といった話はほとんど聞かれませんでした。

人の成長に大切な「体験」の機会が、家庭環境や親の考えによって大きく左右されている、この現状を「体験格差」と捉えて、もう10年近く問題提起をしてきました。

―子どもの間で体験に格差がある、というのはその通りだと思います。
一方で、子どもにとって体験が重要なんだ、という考え自体がまだまだ一般的ではないとも感じるのですが。


その通りですね。

実は教育現場や、子どもを支援するNPOの現場では、いわゆる「現場知」として体験の重要性が早い段階から理解されていました。

一方で、子どもの体験にまつわる調査や研究は「現場知」に追いついておらず、体験の重要性は客観的なものとして語られてきませんでした。

結果として、体験の重要性は教育現場の中に閉じこめられ、私たちに届きづらくなっています。

先日公開したプレスリリースの中では、体験格差を「見過ごされてきた格差」と表現しましたが、今までは体験の重要性を、社会の側に伝え、合意形成をしていくプレイヤーが少なかった。

リディラバは今回のプロジェクトを通して、調査・研究も含めて、「体験が大事」を社会の当たり前にしていきたいと思っています。


(プレスリリースの一部)

体験はインフラからサービスに
変わる社会で割りを食う子どもたち

―子どもたちの体験格差は、決して今突然生まれたものではないと思います。
問題意識を長年抱いてきた中で、近年この格差はどんな変化を見せているのでしょうか。


単純に、子どもたちの間での格差が拡がっています。

というのは、体験がどんどんとサービス化されて、サービスを利用できるか否かの経済格差と親の意思がそのまま体験格差に反映されるようになったからです。

―体験がサービス化された、これはどういう意味でしょうか。

子どもに関わるプレイヤーを整理すると、大きくは、地域・学校・家庭の3つです。
その中で、地域と学校のリソースが減少して、子どもたちに体験を提供する余裕がなくなっています。

例えば、かつて地域においては、「子ども会」のようなコミュニティが盛んでした。
子ども会のみんなでお祭りを手伝ったり、どこかへ遊びに行ったりといった体験が地域に用意されていました。
しかし、いま「子ども会」が活発な地域は減り続けています。

学校においても、学習指導要領は年々拡充され、部活動の負担も大きく、教員はすでに抱え切れないほどの役割を担っています。今から新たに子どもたちの体験を届ける力は残されていません。

その結果、習い事に通える、週末に旅行に行ける家庭の子どもだけが、体験を積み重ねる社会になっているのです。

子どもの体験は、社会に当たり前に存在する「インフラ」から、対価を支払わなければ受けられない「サービス」へと変わってきています。

―この体験格差に関して、リディラバではこれまでに何か取り組みを行ってきたのでしょうか。

お金がある家庭の子どもたちだけができる良質な体験を、どうやったら多くの子どもたちに届けられるんだろう、と考えて辿り着いたのが「修学旅行」でした。

2012年から、中学校・高校の修学旅行に、社会課題の現場を訪れるスタディツアーを導入してもらいました。

家庭環境や親の意思に関係なく、修学旅行に参加する子ども全員に、非日常の体験を届けられる。これまで延べ1万人以上の子どもたちがツアーに参加してくれました。


(中高生向けツアーの様子)

一方で、経済的理由から修学旅行に参加できない子どもや、学校に馴染めず修学旅行に行きたくない子どももいます。

体験格差を埋めたいと思いながら活動するなかで、もっと苦しい状況にいる、もっと体験を必要としている子どもたちに何かできないかと感じたのが、今回の「体験格差解消プロジェクト」に繋がっています。

大人の都合で「一生に一度」を失った子どもたち

―ではその「体験格差解消プロジェクト」とは、一体どんな取り組みなのでしょうか。

大きく2つのチャレンジに挑もうと思っています。

ひとつはシンプルに、子どもたちに体験を提供して、体験格差を解消することです。
具体的には、困難を抱えた子どもたちを日々支援しているNPOと協力し、子どもたちを非日常の場所に連れていきます。

先日実施した第一回のトライアルでは、新潟県越後妻有(えちごつまり)地域で開催される「大地の芸術祭」を訪れて、世界各国のアート作品を観てもらったり、地域のおじいちゃん、おばあちゃんと交流してもらったりしました。
中学3年生〜高校3年生の子どもたち計9人に参加してもらいましたが、半分の子どもは新幹線に乗ることすら初めてでした。

これまで、体験の機会に恵まれてこなかった彼ら・彼女らにとって、価値ある1泊2日になったと思っています。



(トライアルツアーの様子)

もうひとつのチャレンジは、調査・研究です。

僕らが提供するツアーだけで、体験が不足する全ての子どもたちをカバーできませんし、1回のツアーが十分な体験とは言えません。

子どもたちには多様な体験の積み重ねが必要ですが、公的な支援も含め、まだまだ社会の側が十分な体験の量を供給できてない。この現状を変えるためは、体験の重要性を客観的に示す調査・研究が必要だと考えています。

いま既に、それぞれの現場が「子どもたちにとって体験が重要なんだ!」と声をあげています。

現場の声を「子どもたちの体験には定量・定性的にこんな価値があります」と説得力ある調査・研究に昇華させて、社会に訴える役割を担いたいです。

例えばですが、先日あるNPOの方から「定時制高校で卒業旅行を実施した学年は、卒業率が高い印象なんだよね」という話を聞きました。

高校を卒業するのと中退するのでは、卒業後の進路や収入にも大きな違いが生まれてきます。
極端な話ですが、研究として「旅行を用意すれば、これだけ卒業率が高まる。高校卒業と中退では、収入の差がこれだけあり、納める税金の額はこれだけ増加する」という結果が出たら「卒業旅行に公的な支援を投入しましょうよ」とコミュニケーションが取れるようになります。

―厳しい環境にいる子どもたちへ体験を届け、社会全体で体験の提供量を増やすため、調査・研究も行う。
これはリディラバが長年抱えてきた問題意識を形にするプロジェクトだと感じたのですが、いまこのタイミングでのスタートに意味はあったのでしょうか。


正直なところ、ずっとチャレンジしたいと思いながら、人手が必要だな、とか、調査研究ってめちゃくちゃ大変だよな、とか、色々な算段があって、一歩を踏み出せない期間がありました。

そんな中で、やるぞと腹を括ったのは、コロナ禍で子どもたちがあまりに多くを失ってしまったからです。
大人たちは、コロナ禍でも自分の判断で飲みに行ったり、遊びに行ったりしています。我慢ができなくなったら、我慢しなくてもいいんです。

でも、子どもたちは違ったんですよね。
修学旅行や運動会、文化祭と、楽しみにしていた体験は、大人の一方的な決定で失われました。

大人たちは、一生に一度の修学旅行を中止にしておきながら、その分の体験を提供できているのか。
自分たちもコロナで大変だからといって、その負担を子どもたちに押し付けているんじゃないか。

僕は大人の一員として、子どもたちの体験を奪ったままにしたくないし、大人の都合を子どもに押し付ける社会をつくりたくない、そう思ってコロナ禍の中で準備を進め、やっと公開することができました。

―最後にお聞きしたいのですが、このプロジェクトが拡がっていき、体験格差がなくなった社会は、どんな場所になっているのでしょうか。

「子どもが諦めなくてよい社会」だと思っています。
逆に言うと、今は子どもたちが体験格差によって色々なものを諦めざるを得ない世の中になっている。

例えば、AO入試ではこれまでの経験や頑張ったことを聞かれます。AO入試に挑戦して、進路を選びたいけど、どうせ自分には無理かと諦めている子どもがいます。
周囲の友達が好きな習い事をやって、「サッカー選手になりたい」「画家になりたい」と語る中で、僕は習い事したいなんて親に言えない、とやりたいことを諦めている子どもがいます。

子どもたちが、社会に諦めを覚えて「世の中どうでもいいや」と思うのか、社会に希望を持って「自分も社会で活躍したい」と思うのかは、私たち大人に懸かっているんです。

いままさに困難を抱えている子どもたちに、貴重な体験を届けるためでもあり、未来に意思ある大人をつくるためでもある「体験格差解消プロジェクト」
今後も色々な発表が控えているので、皆さん楽しみにしてもらいつつ、応援・協力をしてもらえたら嬉しいです。
 



今回、発起人の安部が熱い思いを語った「体験格差解消プロジェクト」
詳細な情報や最新の取り組みについては、以下の特設ページからご覧ください。

 

(子どもの体験格差解消プロジェクト 詳細はこちら

 

また、リディラバジャーナルでは、今後も継続的にプロジェクトの様子を配信していきます。
リディラバジャーナルへの登録はこちらから。

 

リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
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