一橋大学アウティング事件から学ぶ、性的マイノリティに対する支援のあり方
一橋大学アウティング事件から学ぶ、性的マイノリティに対する支援のあり方
2015年4月、一橋大学法科大学院の男子学生が同級生に同性愛者であることを同意なく暴露(アウティング)され、自殺するという事件が起こった。
事件から4年。性的マイノリティやアウティングに対する社会的理解は少しずつ浸透しつつあるが、最近も性同一性障害で性別変更したことを勤務先で同意なく明かされたケースがニュースになった。
今回話を聞いたのは、筑波大学人間系障害科学域の助教である河野禎之さんと、性の多様性についての情報発信などを行う一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さん。
筑波大学人文社会系助教の土井裕人さんをモデレーターに、事件の舞台となった大学という場に求められる多様な性のあり方の支援に焦点を当て、現状や課題について考える。

※本記事は、リディラバが主催する社会課題カンファレンスR-SIC2019のセッション「“一橋大学アウティング事件”から考えるLGBT支援「ゲイ暴露」の悲劇を繰り返さないために」を記事にしたものです。
性はグラデーション、それぞれの性のあり方
土井裕人 まずは「どんな性のあり方でもフェアに生きられる社会」を目指して活動する一般社団法人fairの代表理事である松岡さんから、そもそもLGBTとは何か、アウティングの何がどう問題なのかについて、お話をいただけますか。

国立大学法人筑波大学人文社会系助教の土井裕人さん
松岡宗嗣 私は一般社団法人fairの代表理事で、主に法制度や政策に関する情報発信を行っています。私自身がゲイの当事者でもあります。
まず、LGBTはレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの4単語の頭文字からとった性的マイノリティの総称のひとつです。
レズビアンは、性自認が女性で、性的指向(好きになる性)が女性の人。ゲイは性自認が男性で、性的指向が男性の人。
バイセクシュアルは、性的指向が男女どちらにも向く人。
トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性別とは異なる性を自認する人です。
ところで、そもそも性別はどのように決まるのでしょうか。
身体の性で決まる、と考える人が多いと思うのですが、性別やセクシュアリティは、4つの性の軸を掛け合わせることで表せるのではないかと考えられています。
それは「からだの性」「こころの性」「好きになる性」「表現する性」の組み合わせです。
たとえばですが、髪の長さが何センチならば「女性らしい」のか、あるいは「ボーイッシュ」なのか、というのは人によって違いますよね。
性はグラデーションがあって、突き詰めれば一人に一つずつあるんじゃないかと言えるのではないかと私は考えています。

一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さん
これまでは、男か女かという二元論や、異性愛を前提とした制度設計がなされたり文化が作られてきたりしたために、その「枠」からはみ出た人たちは生きづらさを感じてきました。
また、セクシュアリティはグラデーションだとお伝えしたとおり、もちろん性的マイノリティと言われる人たちはL・G・B・Tの4種類に限るわけではありません。
たとえばFacebookのUS版では、性別欄は50種類以上から選べます。Xジェンダーという男女どちらでもない/いずれにも分類されたくないといった人や、Aセクシュアルという他者に性的な興味関心を抱かないという性の形もあります。
こうした前提があった上で、大学生のLGBT当事者はどのようなところに困難を抱えているのでしょうか。
私自身もゲイの当事者で数年前に大学を卒業したのですが、大学内におけるLGBTに対する認識はまだまだ道半ばと感じています。
たとえば授業中に「ホモ」や「オカマ」といった差別的な発言をする先生もいます。
他にも学生相談の窓口でセクシュアリティの相談をしようと思っても、担当者が必ずしも専門家ではなく知識が浅いために「気の迷いでは」といった対応をされてしまったという事例を聞いたこともあります。
また、同じセクシュアリティの友達が欲しくてSNSを通じて知り合ったが、大学の中で会うと他の友達に「何の友達?」と詮索されてしまう。セクシュアリティがバレてしまうのではと思い、大学では会えない、などという声もあります。

トランスジェンダーの当事者は、履歴書の男女欄の記入やリクルートスーツの着用はどうすればいいのか。自分の望む姿で働けるのかという不安を持っていても、大学のキャリアセンターは情報や対応経験がなく、適切な対応を受けることができないのが現状です。
そもそも当事者の学生もキャリアセンターへ相談にいこうと思えない、という問題もあります。
他にも、授業の点呼でフルネームを呼ばれてしまい、名前のイメージする性別と、見た目の性別が違うために回りからギョッとした目で見られるという経験をしたトランスジェンダーの当事者もいます。
学生証の氏名を通称名に変更できるかどうか、学校の更衣室、トイレ、健康診断、ゼミ合宿でのお風呂や部屋割りなど、男女分けされた設備をどう利用するかに困りごとを感じる人もいます。
ゼミやサークルの飲み会で「ホモネタ」や女装をして揶揄するようなネタなども依然として行われていますが、その背景には男らしさ/女らしさ、異性愛を前提としたコミュニケーションや制度設計が「あたりまえ」「普通」という規範があります。
性的マイノリティの多くが自分の性のあり方をオープンにできないのは、「バレたら自分の居場所がなくなってしまうのではないか」という恐れからであり、そこにカミングアウトとアウティングが関わってきます。
カミングアウトは、自分の性のあり方を誰かに公表したり伝えること。一方でアウティングは、本人の同意なく第三者にその人のセクシュアリティを暴露してしまうことです。
アウティングはその人の居場所を奪ってしまったり、プライバシーの侵害につながる可能性があリます。
なのでカミングアウトされた際には、肯定的に受け止めて、誰にまで伝えていいのか、どこまで伝えているのかを確認するのが望ましいと考えています。
ガイドラインを通じて大学の姿勢を内外に示す
土井 河野さんには、大学としての性的マイノリティの学生への支援についてお話をいただけますか。
河野禎之 私は2015年に性的マイノリティの学生と出会ったことがきっかけで、性的マイノリティの学生への支援を進めてきました。他の大学が組織としてはほとんど何の取り組みもしていないなかで、大学として組織的な枠組みを作りました。
LGBTなどの大学生の困難と支援の現状に関して、「なぜ支援を行うのか」「基本理念とガイドライン」「事例から見える学生の状況」の3つをお話しようと思います。
まず、大学が「なぜ支援を行うのか」については、性的マイノリティの人たちは学生生活を送る上で、何らかの生きづらさやリスクを抱える可能性が高い。そのため、メンタルヘルスのリスクマネジメントや人権擁護という観点で支援をする必要があります。

国立大学法人筑波大学人間系障害科学域助教の河野禎之さん
ただそれ以上に力点を置いているのはエンパワーメントです。
筑波大学は、地球規模の社会的課題に対するイノベーションを創出することをミッションとする大学なので、大学内で差別があればイノベーションの源泉ともいえる人材と環境の多様性が損なわれてしまい、ミッションを達成することができません。
具体的には、2017年に、『LGBT等に関する筑波大学の基本理念と対応ガイドライン』を策定し、公表しました。PDFでも公開しているので、クレジット表記さえしてもらえれば、皆さんの組織で使っていただいて問題ありません。
策定時に注意した点は、以下の3つです。
1. 当事者の声を反映させる
2. 具体的な実践項目に基づく
3. 積極的な意味をもたせること
「当事者の声を反映させる」のは、大学が勝手に作ったものを「一方的」に押し付けるというのは避けたかったためです。
当事者抜きで決めてしまうと、当事者のニーズと乖離してしまうことがある。そのため、当事者の学生サークルや学生、教職員への事前ヒアリングはできる限り行いました。
「具体的な実践項目に基づく」は、大学生活は有限で短いので、嫌な思いをしたまま社会に出ることがないよう、理論のみならず制度として実装されることを念頭に策定しました。

「積極的な意味をもたせること」は、性的マイノリティは本来“可哀想な存在”でも、“支援を受けるべき存在”でもない。それぞれの個人が本来の力を発揮できるようにエンパワーメントしていくという視点をもたせようということです。
そして、これらの留意点に沿って3つの基本理念とガイドラインを策定し、大学としての姿勢を内外に示しています。
ただし大切な前提として、セクシュアリティを開示するかしないかはその人の生き方なので、大学側が無理に開示させるようなことはしません。
支援を受ける場合、「こういう事情があるので……」というカミングアウトがセットになってしまいがちですが、カミングアウトが必要のない制度設計に大学側がすればいい。
クロゼット(非開示)であることを否定しないようにすることが、大学に限らないあらゆる組織に求められていると感じます。
編集後記
・・・後編「一橋大学アウティング事件からの教訓と大学の役割」に続きます。

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