未来へのシカケ/Case3.沖縄の若者の就労問題に取り組む「Arch to Hoop沖縄」(後編)
未来へのシカケ/Case3.沖縄の若者の就労問題に取り組む「Arch to Hoop沖縄」(後編)
※本記事は提供記事のため、無料で公開しています
社会課題への深い洞察に基づく、課題解決に向けた取り組みを紹介する「未来へのシカケ」。第3回のテーマは「沖縄の若者の就労問題」。
前編では、沖縄の若年層の失業率や離職率の高さといった現状と、その就労困難の背景にある「多様な体験機会の不足」という課題について明らかにした。
続く後編となる本記事では、その課題に向けたひとつの解決策を取り上げる。一般社団法人Arch to Hoop沖縄が始める就労支援事業「バスケットコートレンタルサービス」だ。
この事業は、就労につまづきやすい若者が抱える困難をどう解決していくのか。当事者や彼らに伴走する大人たちの声をもとに、その仕組みと可能性を探っていく。
Arch to Hoop沖縄が始める新事業「バスケットコートレンタルサービス」
2025年11月8日、沖縄県那覇市のパレットくもじ広場で行われたバスケットボールイベント。子どもから大人まで、多くの人がバスケットボールを手に取り、会場は笑顔と歓声であふれていた。

実はこのイベントは、Arch to Hoop沖縄にとって新たな挑戦の予行演習でもあった。
会場で使用した移動式バスケットコートの搬入・設営・撤収を担当したのは、NPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい(以下ちゅらゆい)が運営する就労支援事業所「アシタネワークス」に通う若者たちだ。彼らが行う作業は、こうしたイベント運営に欠かせない役割である。
Arch to Hoop沖縄では、若者たちとともにこれらの業務を行いながら、移動式コートの貸し出しを事業化する「バスケットコートレンタルサービス」を、2026年1月から本格始動させる。
▼詳しくはこちらから(公式Webサイト)
https://arch-to-hoop-okinawa.com/service/

まずは、その仕組みを整理しておこう。Arch to Hoop沖縄が自治体や商業施設などに向けて、街なかや施設を活用したバスケットボールイベントを提案し、コートのレンタル契約を受注する。
受注後は、若者就労支援事業所にレンタル業務を委託し、支援施設に通う若者たちが、コート機材の設置・撤収、メンテナンス、イベント運営に伴う各種業務を担当する。事業収益から若者たちに正当な人件費を支払い、残りの収益は次の体験機会の提供や事業継続のための費用として循環させていく。
こうしたサイクルを回すことで、「体験機会」と「事業収益」が相互に支え合う、持続可能な仕組みとして育てていく計画だ。まずは、ちゅらゆいとの連携を軸に事業をスタートさせていく。

株式会社モルテンの社員であり、Arch to Hoop沖縄の事務局長を務める勝田駿平さんは、若者が担う仕事について次のように説明する。

株式会社モルテン スポーツ事業本部 B+推進部 主査。また、一般社団法人Arch to Hoop沖縄の事務局長も務める。
モルテンで新規事業の推進を担いつつ、Arch to Hoopの立ち上げメンバーとして活動し、事業リーダーを務める。
「一般的なレンタル業務は、お客様からの問い合わせに対し、日時や会場などのさまざまな要件をヒアリングしたうえで、見積もりを作成します。受注後は、イベント実施日に合わせて多岐にわたる作業が発生します。
現段階では、若者たちには、コート機材の搬入・搬出作業やバスケットゴールの設置・組み立て作業、現場でコートを広げる際のディレクション、イベント終了後の検品・メンテナンス作業といった実務を訓練してもらっているところです。
ゆくゆくは、お客様の要望を聞いて見積もりを作成したり、輸送の手配やそれに伴う事務作業、営業活動などにも少しずつ挑戦してもらいたいと考えています」
また、今後はイベント本体に付随するオプションサービスを作ることも検討している。イベントの記録動画や記事の制作、缶バッジなどのノベルティグッズ制作といったメニューを増やしていきたい考えだ。

(11月のプレイベントで参加者たちに配られた缶バッジ。参加者同士のコミュニケーションを促す仕掛けとして「缶バッジ交換ゲーム」も行われた)
知らなかった仕事に出合う体験が、就労の選択肢を広げる
では、この事業は若者の就労困難の解決にどうアプローチしているのか。Arch to Hoopは、多様な業務を体験していくこと自体が、前編で見た課題の一つ「就労の選択肢の狭さ」の解消につながると考えている。
勝田さんは次のように話す。
「イベントにおけるバスケットコートのレンタル業務は、非常にたくさんの仕事で成り立っています。それらの業務を複数体験していくなかで、自分の好きなことや嫌いなこと、得意なことに気づけるのは大きな価値だと考えています。
未知と出合う機会が増えれば、自分のことをもっと知ることができる。それは今後のキャリア選択にも必ず生きてくるはずです」
若者たちは、前述した幅広い業務の体験を通じて、時間管理やトラブル対応、計画を遂行する力など、社会で必要とされるスキルや考え方も身につけられる。
社会に存在するさまざまな仕事の在り方を知ることだけでなく、「自分が何が得意で、何が苦手か」「どんな作業に心地よさを感じるか」といった自己理解が深まることは、今後のキャリア形成において大きな意味を持つだろう。
この事業は2026年1月に本格スタートするが、すでに試験的な取り組みの一環として、複数の現場でサービス提供を行なってきた。その活動に継続的に参加してきた当事者のひとりが、曽我部大洋さんだ。

NPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆいが運営する、那覇市の就労支援事業所「アシタネワークス」を利用。
曽我部さんは、ちゅらゆいが運営する中高生の居場所「kukulu」の出身。何度かのひきこもりの期間を経て、18歳を過ぎてから就労移行支援の枠組みでアシタネワークスに通うようになり、Arch to Hoop沖縄の活動にも参加してきた。
これまでに、ちゅらゆいと付き合いのある企業にArch to Hoop沖縄の事業紹介をする営業活動や、イベント時の機材の搬入・搬出作業、映像やスチールの撮影など、幅広い業務に挑戦してきた。なかでも、いちばん好きなのは撮影の仕事だという。
「営業は説明のときに噛んじゃったりして、自分には難しすぎました。僕の場合は、撮影が好きですね。カメラがないときはまともに人を見られませんが、カメラを通してだと見ることができる。
昨日も國場組(Arch to Hoop沖縄のパートナー企業)の皆さんがミーティングしている様子を撮影しに行きましたが、カメラマンっていう役割があると、人とも話せます」

曽我部さんとは約3年の付き合いだというアシタネワークスのスタッフ・上原岳文さんは、次のように話す。

NPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆいが運営する、那覇市の就労支援事業所「アシタネワークス」のスタッフ。アシタネワークスでは、就労継続支援B型と就労移行支援の枠組みを活用し、若者や障害のある方たちの就労サポートを行なっている。また、一般社団法人Arch to Hoop沖縄の事務局スタッフも務める。
「まずは、幅広く何か体験してみることに価値があると思っています。職業体験をしたから、その仕事に興味を持てという話ではなくて。見たり、体験したりすることで、たとえばチラシのデザインをする仕事があると知る。その“知る”作業に意味があるんです。
さらに、体験した結果、たとえば『モノを売る仕事をしたくない』と思った。これって、言葉だけ聞くとネガティブに感じるかもしれないんですが、僕らはそれを価値だと捉えています。一度動いたからこそ、“自分はこの仕事が向いていない”とわかるので」
就労の困難を抱える若者たちの中には、多様な体験の機会が少なく、親以外のロールモデルに出会うきっかけを持てなかった人も少なくない。バスケットコートレンタルサービスは、そうした若者たちが幅広い就労の選択肢を知り、そこから何を選ぶべきか考える場になり得る。
「やってよかった」と思える体験が、働く意欲を育てていく

バスケットコートレンタルサービスは、若者たちの「チャレンジする意欲」や「自己肯定感」を育む場にもなり得る。これは、前編で見た「働く意欲の乏しさ」という課題の解決につながる可能性がある。
勝田さんは、この事業の特徴でもある「働いた先に喜ぶ人たちの顔が見られる」体験が、若者の意欲に良い影響を与えているのではないかと語る。
「スポーツイベントって、自然と熱狂が生まれる場なんです。自分たちが準備し、設置したコートやゴールで、参加者たちが思い切りバスケットボールを楽しみ、会場が一体となって盛り上がる。その光景を目の前で見て、高揚感ややりがいを感じられるのは、この事業ならではの魅力です。
準備は決して楽ではありませんし、しんどい場面もたくさんあると思います。でも、『あの現場に行ってよかったな、次も頑張ってみよう』と思える経験があるかないかは、就労への意欲に大きく影響しますし、今後の踏ん張りどころで確かな力になるように思います」

上原さんも、チームのなかで自分の役割を実感できる体験は、自己肯定感などのポジティブな感情につながると指摘する。
「力仕事が得意なメンバーは力仕事を、そうではない人はメールで見積書のやり取りをするなど、自分の得意な作業で役割を果たすことができます。役割をやり通した先に、イベントで喜ぶお客さんの顔を間近で見ることができるので、自分たちが関わっている実感を得やすい。仕事をする意義を感じられますし、彼らにとってすごくいい影響があると思います。
さらにこの事業でいくら売り上げがあったか、その中からみんなにいくら払われるか、といった情報はすべて開示します。そのほうが、『この仕事をしたから、このお金が支払われるんだ』という理解も深まるし、自分の役割への納得感にもつながりますよね」

(コートパネルを積んだカゴ車や、移動式バスケットゴールは重量物であるため、搬入先の施設や備品を傷つけないように慎重な作業が求められる。若者たちは安全管理を含めた実践的な指導を受けており、作業マニュアルの制作段階から参画している)
これまでのArch to Hoopの活動を振り返り、曽我部さんはチームで作業を進めること自体の楽しさを次のように語る。
「人の意見とか聞けるのは楽しいですね、自分が思ってもみないような意見が聞ける。この人はこう考えてるのか、自分とは違う考えだな、とか。参考にしたいと思うことも多いです」
今後の活動について尋ねてみると、1月から始まるバスケットコートレンタルサービスにも積極的に関わっていきたいという答えが返ってきた。
「これまでの活動も、すごくいい経験ができていると思います。(ちゅらゆいの)金城さんや上原さんが、『やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいい』ってよく言うんです。実際にやってみると、難易度が高いこともあるんですが、家にひきこもっていたら体験できることじゃない。
Arch to Hoopに出会えてよかったなと思います。イベントではみんな嬉しそうで、楽しげで。それから働いてお金が入るのも、やっぱり嬉しいですしね」


失敗してもいい。「体験すること」から始まる就労支援
ここまで見てきたように、バスケットコートレンタルサービスは、さまざまな業務体験を通じて「選択肢の狭さ」に働きかけること、役割を果たした先にある喜ぶ人の顔や対価を通じて、働く意欲や自己肯定感を育てること——この二つの側面から、就労につまづきやすい若者が抱える困難を解決しようとしている。
勝田さんは、このレンタルサービスで特に大事にしているのが「失敗できる環境」だという。

「Arch to Hoop沖縄は企業ではありません。利益を最優先する立場ではないからこそ、失敗できる場を提供できる。それはこの事業の大きな価値であり、強みです。若者たちには、その環境をフルに生かしてもらいたいと思っています。
たとえば、『こんなサービスがあったらお客さんは喜ぶんじゃないか』とアイデアを出して、実際にそのアイデアをお客さんに提案してみる。結果として全然刺さらなかった。でも、そんなチャレンジもいい体験になりますよね」
どんどん試していいし、失敗してもいいし、“この仕事は自分に合わない”と気づいてもいい場所。うまくいくことだけが評価されるわけではなく、いろんなことを「体験してみること」そのものを肯定するスタンスが、就労につまずきやすい若者たちにとって、次の一歩を踏み出す力になるはずだ。
企業とNPOの連携が生み出す、課題解決への道すじ
前編では、ちゅらゆい代表・金城さんの「若者たちを安定した就労につなげるための支援には、支援団体だけでは限界がある」という発言を紹介した。
支援団体は、子ども・若者の生活や心身の安定を支えるための体験を保証している。一方で、若者たちが就労と向き合う挑戦的な体験を継続的に用意するためには、支援団体だけでなく、企業側の関心や協力が必要になる。
Arch to Hoop沖縄は、スポーツ用品事業等を行う「企業」のモルテンと、沖縄で子ども・若者の自立支援を行う「NPO」のちゅらゆいが連携して立ち上がった団体だ。この「企業とNPOの連携」によって、新たに始まるコートレンタル事業が実現できている。
Arch to Hoop沖縄の代表理事であり、株式会社モルテン代表取締役社長の民秋清史さんは、企業とNPOが連携する意義を次のように語る。

株式会社モルテン 代表取締役社長 最高経営責任者。また、一般社団法人Arch to Hoop沖縄・代表理事。
スポーツ用品、自動車部品、医療福祉機器、マリン産業用品という4つの事業部を持つモルテンを経営。ハードウェアとクリエイティブをかけ合わせた分野で、グローバル市場にプロダクト提供している。
「Arch to Hoop沖縄は、社会課題解決のために企業とNPOが連携する“モデル”をつくりたいと考えています。
多くの人は、困っている人がいれば助けたいし、何とかしたいと思っているはず。ただ、助けるのにお金も時間も両方かかるとなると、少し躊躇してしまう。
僕ら企業は、時間はそこまでかけられないけれど、人やモノ、お金、情報、あとは社会的な信用といった資源を持っている。一方、ちゅらゆいなどのNPOには、専門的なネットワークがあり、現場で日々向き合っているからこそ、問題の本質が分かっているという強みがある。お金は潤沢でないかもしれないが、課題に専念するための時間もある。だから、一緒にやろうと。
複数の企業が、年間少しずつでもお金や知恵、リソースを出し合えば、よりNPOはお金の心配をせずに自分たちの活動に集中できるでしょう。こういう話をすると、『企業にとって意味あります?』という話になりがちですが、それはぜひイベントに参加してくれた企業さんに聞いてみてください。何よりまず、“市民としての意味”がある。世の中が良くなるんなら、僕ら市民にとって意味がありますよね。だから、時間やお金の余剰が少しでもあるなら、社会課題に使いませんか、と思うんです」
今回のバスケットコートレンタルサービスは、モルテンが持つ強みや資源を活かした一つの“モデル”だ。Arch to Hoop沖縄は今後、「多様な体験機会の提供」を目的に、こうしたモデルをさまざまな企業・NPOとともにつくり、広げていきたいと考えている。

この構想に共鳴し、新たなパートナー企業として参画するのが、株式会社國場組だ。沖縄県で建設業を中心に、ホテル、映画館、OA機器販売など幅広く事業を展開する老舗企業である。
國場組は、これまでも地域課題の解決に向けた活動に取り組んできた。2016年に沖縄の子どもの貧困問題が注目されたのを機に、自分たちに何ができるか模索し続けてきたという。
11月のプレイベントにもサポーターとして参加した國場組の小橋川和哉さんは、企業とNPOが連携する意義についてこう話す。

株式会社國場組 総務部総務課 課長。
「私たちのような企業がこうした取り組みに参加する際に気をつけているのは、『企業側の自己満足やゴリ押しになっていないか』という点です。ちゅらゆいの金城さんをはじめ、NPOの方たちにたくさん相談しながら、慎重に確認して取り組むようにしています。
そんななか、以前『モノより体験が足りていない』という声をいただきました。そこで、子どもたちに映画鑑賞体験を届けられるよう、居場所支援を行う複数の団体に、國場組グループが運営する映画館の鑑賞チケットを配布したこともあります。
今回のバスケットボールイベントでは、会場の周りに防護ネットを張る必要があり、普段から付き合いのある協力会社に依頼して設置をしてもらいました。こうやって企業が持っているリソースをそれぞれが持ち寄り、NPOと連携していけば、課題解決の可能性はさらに広がっていくのではないかと感じています」
また、小橋川さんはこうした取り組みが「社員の成長」にもつながっていると話す。
「プレイベントには國場組から7名の社員が参加して、それぞれ企画や運営、効果測定などに携わりました。入社3年以内の若手社員を中心に声をかけましたが、イベントの企画や運営に携わることで、社員の経験値が上がることを期待しました。失敗してもいいから、挑戦することで自信をつけてほしい、という思いもありましたね。
最初はみんな緊張していたのか固まっていましたが、徐々に指示を待たずに動けるようになっていって。イベント当日も、参加者の方たちと積極的にコミュニケーションを取れていて、各々に主体性が芽生えたのは嬉しかったです」

こうした企業とNPOの連携を土台に、2026年1月からいよいよバスケットコートレンタルビジネスがスタートする。今後の展望について、民秋さんはこう語る。
「仕事の根本は、誰かのために何かをして喜んでもらい、対価をもらうこと。バスケットコートレンタルサービスを通じてその経験を得て、自信をつけたり、挑戦する意欲を回復したりしたうえで、外に出ていく。就労に困難を抱える若者たちが、経済的自立ができるところまでたどり着けるようにしたいと思っています。
まずは(若者が)イベントに参加するだけでもいいんです。参加するだけで飽きてくる頃に、イベントの運営に携わってみる。すると、イベントを運営して人を楽しませる、社会に価値を与えるという体験ができる。Arch to Hoopはまもなく3期目に入りますが、この一連の流れをようやく作れるようになってきました。
今後は、沖縄の企業にこうした活動をもっと広げていきたいと思っています。いろんな若者たちがいるので、いろんな種類の仕事を体験できる場がほしいんです。企業、NPO、若者が同じ空間で手を動かし、一緒に楽しむ場がつくれたらと考えています」


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