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公開日: 2024/2/19(月)
更新日: 2024/2/22(木)

「魅力を感じられない」「キャリアを描けない」。なぜ少ない?学校教育現場の女性管理職(中編)

公開日: 2024/2/19(月)
更新日: 2024/2/22(木)
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「魅力を感じられない」「キャリアを描けない」。なぜ少ない?学校教育現場の女性管理職(中編)

公開日: 2024/2/19(月)
更新日: 2024/2/22(木)
オーディオブック(ベータ版)

「確かにその働きぶりを見て『すごい』と思いますが、自分がその立場になるとは思えない。管理職の職務に魅力を感じることができないんです

 

そう話すのは、小学校教員のMさんだ。

 

「自分には能力が足りないと感じてしまう」「意欲を高めたりスキルを伸ばす機会が不足している」——。学校教育現場で働く女性教員が管理職になろうと思えない背景には、「キャリア形成」における課題がある。

 

特集「なぜ少ない?学校教育現場の女性管理職」。ワークライフバランスの課題に触れた前編に続き、中編ではキャリア形成における課題を見ていく。

 

※本記事は文科省からの委託事業の一環で制作しており、無料で公開しています。

「魅力を感じられない」管理職への印象や不安

前編で触れたように、現在の学校教育現場では「管理職になりたい」と思う女性教員は少ない傾向にある。

 

「女性教員の活躍推進に関する調査研究(平成28~30年度 独立行政法人国立女性教育会館)」の「学校教員のキャリアと生活に関する調査(※)」によれば、管理職になりたいと思う教員の割合は女性が7.0%、男性が29.0%となっている。

 

管理職になりたくないと答えた人の理由として最も多かったのは、「担任を持って子どもと接していたい」(63.5%)だった。

 

※独立行政法人国立女性教育会館「学校教員のキャリアと生活に関する調査」結果の概要 https://nwec.repo.nii.ac.jp/records/18821

 

前述のMさんは次のように語る。

 

「管理職と教員では、職務内容が全く異なると感じています。

 

たとえば教頭は、校内外のさまざまな調整ごとを行う仕事で、子どもと直接関わる時間が少ないために魅力的に感じられないところがあります

 

 

また同調査では、女性のほうが男性より割合が高い項目として「自分にはその力量がない」(女性 66.9%、男性 51.5%)などがある。

 

これは「女性教員には管理職になるための力量がない」ということではなく、回答の背景に心理的な不安が潜んでいる可能性があると考えられている

 

独立行政法人国立女性教育会館の「学校における女性の管理職登用の促進に向けてⅡ(※)」によれば、以下のように考察されている。

 

「力量不足の認識については、子育て期のブランクや性別により偏った分掌等によって、男性に比べ、リーダーになるための経験やロールモデルが十分でないこと等から、心理的な不安が生じている可能性があります

 

※独立行政法人国立女性教育会館「学校における女性の管理職登用の促進に向けてⅡ」 https://nwec.repo.nii.ac.jp/records/19014

 

女性教員のキャリア形成支援に注力する教育委員会で働くNさんは、「リーダーになるための経験の不足」について以下のように話す。

 

「私たちの教育委員会では、『女性が管理職への道を歩むためのキャリア支援が不足している』という問題意識があります。

 

たとえば、過去に管理職に就任した女性の中には、育児等で学年主任や教務主任のキャリアを積むことができず、いきなり教頭先生になったというケースが少なくありませんでした。

 

学校全体を俯瞰する視点を持つことや、外部との交渉を行うことなどを、教頭になってから初めて経験する。

 

本人にしてみれば、これまでの経験とは全く異なる仕事を突然求められるため、自分が管理職として働けるかどうか自信が持てず、大きな不安を感じてしまう。

 

このような課題に対しては『キャリアをどのように積み重ねていくか』という点が大事で、私たちがしっかりとサポートし、フォローしていかなければならないと思っています」

スキルを学ぶ機会はあるか、ロールモデルはいるか。キャリア形成の環境的な課題

女性教員が管理職へとキャリアを進めていくためには、「管理職に必要なスキルや意欲を培う機会があるかどうか」という環境的な要因も大きい。

 

石川県能美市教育委員会の学校支援課で働く亀田香利さんは、自身が小・中学校で教頭を務めた経験を振り返って、「研修やコミュニティがあったことが自分にとって大きかった」と語る。

 

亀田香利(かめだ・かおり)
石川県で教員採用後、公立小中学校教諭、石川県教育委員会小松教育事務所指導主事、川北町教育委員会学校教育課 課長補佐兼指導主事、課参事、公立小中学校教頭を務め、現在は能美市教育委員会 学校支援課 担当課長。

 

「女性管理職や女性教員が共に学び合う任意団体主催の研修に参加しました。

 

女性管理職や管理職候補となる教員を対象とした学びの場があり、教育分野に携わる有識者をお呼びした講演会や、元校長先生からのお話を聞く会、現役の指導主事から教科指導を学ぶ会など、さまざまな研修が組まれています。

 

管理職への過程で必要なスキルを身につけられるのはもちろん、職場の外で、同じような立場の女性教員と交流し、お互いの悩みを言い合えることも非常によかったです。

 

こうした研修に参加する機会、コミュニティに所属する機会に恵まれたのはとてもありがたかったです。また、異業種のコミュニティや学びの場に参加し、越境して学ぶことを通して、別の視点で教育を見つめるということもやってきました」

 

また、中学校で教頭や校長を歴任したTさんは、ロールモデルの存在の大切さについて次のように話す。

 

「私は、先輩の女性校長や仲間の女性管理職など、身近にロールモデルがいたから何とかやって来れたと思っています。ときには相談相手にもなっていただきました。

 

『何かをしろ』と命令されるのではなくて、私に意欲が出るように育てていただいたと思いますし、管理職の仕事について深く考えさせられました。

 

おかげで学校運営の醍醐味を感じることができ、ずっと管理職の職務を夢中でやって来れたのだと思います

 

亀田さんが述べた「スキルや意欲を培う機会」と、Tさんが語った「ロールモデルの存在」。これらが不足している学校教育現場では、女性教員がキャリア面において管理職に魅力を感じられなかったり、「自分には力量が足りない」という心理的な不安を抱えやすかったりする可能性が考えられる。

「男性のほうが向いている」は本当か。固定化される管理職のイメージ

前編のワークライフバランスに関する課題の中で、「女性は家事、育児、介護をするのが当たり前」というアンコンシャス・バイアスについて触れたが、キャリア形成におけるアンコンシャスバイアスも存在しているケースがある

 

女性教員のキャリア形成支援に注力する教育委員会で働くNさんは、こう話す。

 

「すべての学校現場がそうとは言いませんが、いまだに『危機管理のタスクは男性の方が向いている』と無意識に思い込んでいる学校現場はあります

 

たとえば『学校で何かトラブルが起こったとき、相談で終わるような小規模な問題であれば女性でも対応できるが、より緊急性が高く、教職員の言動や校内の管理体制に関わる問題になると、女性には難しいのではないか』『校内外から責められることに耐えうるメンタルが必要と考えると、女性より男性の方が管理職に向いているのではないか』という認識があります。

 

しかし実際に、女性より男性の方が危機管理能力に長けているのか、女性より男性の方がメンタル面で強いのかと言われると、必ずしもそうとは言えないと思います」

 

 

このようなアンコンシャス・バイアスは、ここまで見てきたような女性教員を取り巻く課題が存在するために、女性教員自身も「女性は管理職に向いていない」と内面化してしまっている可能性が考えられる

 

「学校教員のキャリアと生活に関する調査」によれば、「男性のほうが女性より管理職に向いている」に「そう思う」「ややそう思う」と回答した教員は25.7%で、女性教員の方が男性教員より多い割合でそう答えていた(女性29.7%、男性21.3%)。

 

また、年齢が若い教員ほどこの割合は高く、特に女性教員の中では20代(34.2%)、30代(32.3%)、40代(30.5%)、50代(25.1%)という傾向が明らかになっている。

 

このデータから、若い女性教員ほど「男性のほうが女性より管理職に向いている」と考えていることがうかがえる。

 


 

特集「なぜ少ない?学校教育現場の女性管理職」。

 

これまで、ワークライフバランスとキャリア形成に関する課題、そしてどちらにも共通するアンコンシャス・バイアスの課題について触れてきた。

 

では、実際に学校教育現場で活躍する女性管理職は、どのような働き方をしているのか。さまざまな課題にどのように向き合ってきたのか。

 

後編「女性管理職の取り組みから学ぶ、課題解決のヒント」では、女性管理職の実践的な働き方や課題解決のためのヒントを見ていく。

 

※2024年2月19日 20:01
編集部内で下記の記載漏れが確認されたため、追記いたしました。
「※本記事は文科省からの委託事業の一環で制作しており、無料で公開しています。」
これまで委託事業の一環で制作した記事は必ずその旨を記載しておりましたが、編集部内での作業時に手違いがあり、記載が漏れていたため追記いたしました。

 

 


 

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