女性管理職が教員や子どもの「当たり前」となるには? 学校教育現場の女性活躍に向けた取り組み(第3回)

女性管理職が教員や子どもの「当たり前」となるには? 学校教育現場の女性活躍に向けた取り組み(第3回)
「子どもたちにとって“女性管理職”が当たり前の存在になる。それがアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)を変えるきっかけになると思いますし、そうしていくことが私の使命だと思っています」(寺田さん)
「いまはそう思いませんが、教員になってすぐの頃は『高学年の担任は男の先生の方が向いているんだろう』と思っていました。先輩の先生に『男だから女だからという視点で物事を見てはいけない』と言われ、ハッとした経験があります」(寺嶋さん)
学校教育現場で活躍している二人は、自身が歩んできたキャリアやいまの思いについてこう語る。
アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)やジェンダー不平等の課題。それらを乗り越え、学校教育現場の女性活躍を推進していくためには何が必要なのか。また、そのための具体的な取り組みにはどのようなものがあるのか。
第3回では、女性活躍を推進していく上で重要な「女性管理職のキャリアデザイン」にフォーカス。
北海道伊達市立光陵中学校教頭の寺田環さん、東京都文京区立千駄木小学校主任教諭の寺嶋ひとみさんは、どのようにキャリアを重ねてきたのか。
これまでの具体的な歩みや、振り返って課題に感じたこと、いま女性管理職として思うことをお聞きしながら、女性教員が管理職のキャリアを目指す上でのポイントを考えた。
※本記事は2024年12月26日に開催された「『学校と未来』を作る全国フォーラム第二部講演」の内容を編集してお届けしています。
※本記事は文科省からの委託事業の一環で制作しており、無料で公開しています。
「できることしかできない」
私に教頭が務まるのか?という不安を払拭した一言
聞き手北海道伊達市立光陵中学校で教頭を務める寺田さんですが、管理職のキャリアを歩むことになったきっかけは何だったのでしょうか?
寺田 環まずは私の自己紹介になりますが、一番上が24歳、一番下が中学3年の4人の子の母になります。4人の出産があったので、働き盛りの活きのいい30代はほぼ産休と育休をとっていて、下の子が3歳になる年の4月に約5年ぶりに職場復帰しました。
キャリアにおける1つ目のきっかけは教務主任になったことです。校内の人事面接でやらないか?と言われたのですが、生徒指導や保護者の方との連携を考えると、担任よりも自分の時間の都合に合わせて仕事ができる教務主任が良いかもということで引き受けました。
大変でしたが、業務の効率化など自分が課題に感じていた点に着手できましたし、ボトムアップ型で変革していく経験や、ミドルリーダーとして主体的に学校経営に参画する経験を積むこともできました。
(画像提供:寺田さん)
なにより、学校全体を俯瞰して変えていく面白さを味わえたのは大きかったですね。
聞き手その後教頭になられたと思うのですが、それはどのような流れだったのでしょうか。
寺田異動先の学校で「考えてみないか」と声をかけていただいて。その時は「全く考えていません」と即答したのですが、そのあと一晩考えてみたんです。
当時、私は50歳になる年だったので、定年の60歳まで残り10年。一度しかない人生、私自身の人生を考えたとき、新しいことにチャレンジしたいという思いに至り、次の日校長に「教頭試験を受けます」と伝えました。
ただ、実際に承認試験を通ると「私が先生方に指導なんてできるのだろうか」と焦る気持ちも強くなりました。
私にとって管理職のイメージは、完璧に仕事ができる人です。私自身が「私についてきなさい」というタイプではないため、無理かもしれないという思いもありました。
しかし、校長からの「大丈夫、できることしかできないから」という言葉に救われました。確かにそうだ、できることをやればいいんだ、自分ができないことは誰かに助けてもらおうと、考え直すことができました。
「女性は管理職になれる」「管理職は楽しい」と
自ら証明することで、アンコンシャス・バイアスを変えていく
聞き手教頭の仕事の醍醐味はどこにあると思いますか?
寺田職員室経営(編集部注:職員室での教員間の連携や協力を構築する意味)にあると思います。
私は自分を完璧な人間だとは思っていません。サーバントリーダーシップで「自走するチーム」ができたらと思いながら職員室経営をしています。
(画像提供:寺田さん)
サーバントとは奉仕者という意味で、リーダーがチームのメンバーを支えたり支援したりすることで信頼を得て、チームが主体的に協力する状況を作り出すというマネジメントの考え方です。
この考え方を実行する上で、心がけていることが3つあります。
1つ目は個々の強みを生かすこと、2つ目は縦と横のつながりを作ることです。
最前線にいる先生方に安心して指導にあたってもらうためには、管理職と先生方の縦のつながりも、先生同士が力を合わせて困難を乗り越えて喜びを分かち合う横のつながりも、両方強めていきたいと考えています。
3つ目は「どうせやるなら前向きに」という意識です。より良くなるよう工夫したり挑戦したり、先生方の主体性を育むため、私が後押しをするよう心がけています。
こうした職員室経営を、教職員を生徒に、管理職を担任に置き換えてみると、まさに学級経営そのものなんですね。
(画像提供:寺田さん)
学級担任の面白さを知っている先生方なら、きっと教頭の面白さを実感できるはずです。先生方同士がああじゃないか、こうじゃないかというふうに、力を合わせて頑張っている姿を見ると、楽しくてとても嬉しい気持ちになります。
聞き手教頭という新たな職に挑戦する中で、やりがいや面白さを感じていったんですね。
寺田そうですね。あとは自分のキャリアについては、次の挑戦として「校長になろう」と思っています。
教頭として赴任した当初は、教頭が女性ということに驚かれることがよくありました。保護者の方からは女性ということで喜ばれたこともありました。本校に4年もいるので、いまではすっかり馴染んでいます。
この馴染むということ、子どもたちにとっての当たり前にすることが私の使命ではないかと。私の存在が「女性はリーダーに向いていない」「女性管理職の仕事は楽しくない」という子どもたちのアンコンシャス・バイアスを変える。これが校長になろうと決意した理由です。
聞き手ありがとうございます。一点お聞きしたいのですが、いま教頭として働いている中でも、女性が管理職になることの児童・生徒への影響を感じることはありますか。
寺田普段教頭は子どもたちと触れ合う機会はそう多くはありませんが、学級で子どもたちと関わったときに「先生って何の先生?」と聞かれたことがありました。
「教頭先生だよ」というと「教頭先生、女なの?」と質問が返ってきました。このことがきっかけで、子どもたちにとって女性管理職に出会う経験がほとんどない状況だったんだと気づかされました。
いまの学校で、私は4年間教頭をしてきているので、私の存在はもう当たり前になっています。こうした経験が増えていけば子どもたちの認識も変わっていくのかなと感じますね。
立場が変わることで新たな喜びも生まれる
主任教諭としてのやりがいとは
聞き手続いて、東京都文京区立千駄木小学校で主任教諭を務めている寺嶋ひとみさんにも、管理職としてのキャリアについてお聞きしたいと思います。
寺嶋ひとみはい。私は現在教員12年目、34歳です。まず主任教諭を務めることになった経緯からお話しできればと思います。
東京都には、教諭と主幹の間に主任教諭という役割があります。初任校で先輩方の背中を見ながら、私も時期が来たら主任教諭になるものだと思っていました。
(画像提供:寺嶋さん)
2校目に異動すると、初任校よりもはるかに若い同僚の先生と出会い、自分の立ち位置も変わっていきました。おのずと学年や学校全体に視野を広げていきたいと感じるようになりました。
初めての学年主任は1、2、3年目の3人の先生と4年生を担任しました。毎日がめまぐるしく、起きたことの一つずつに対応していくことで精一杯でした。
また、運動会委員長、音楽会委員長を務め、行事の立案、提案、先生方と実行していく役割などを経験しました。
先生方に情報を共有することの難しさや、管理職・教員・児童・保護者などさまざまな視点で物事を考えることの難しさを痛感しているところです。
現在も主任教諭としての課題はたくさんありますが、立場があることで責任感や使命感が生まれています。また、学校全体を任せてもらえることへの喜びも感じています。教員の立場では感じることのできなかった先生方とのつながりを感じられるようになりました。
「高学年は男の先生の方が向いている」と思っていた時期も
管理職として働いてみて変わったこと
聞き手寺嶋さんは、3人の女性校長と出会ったことが大きかったそうですね。
寺嶋はい。12年間お世話になった3名の校長先生が全員女性で、ロールモデルとなる女性管理職の先生が身近な存在だったのは恵まれていたと思います。
3人の校長先生からは、スクラム、真心、思いやりの三つを教わりました。具体的には、ひとりで抱え込まず他の先生方とスクラムを組んでいくことや、誰にでも思いやりを持って接することなど、働く上で大切にすべきことを常日頃から教わっているところです。
聞き手ありがとうございます。ちなみにこれまで女性が管理職に就くことについて、何かハードルを感じたり課題を感じたりしたことはありましたか。
寺嶋そうですね。それでいうと、出産や育児を経験している先生、介護等で出勤できない先生、突然休暇を取られなければならない先生たちはたくさん見てきたので、感じる部分はあります。
またアンコンシャス・バイアスの課題に関しては、私自身、教員になってすぐの頃はなかなか学級経営がうまくいかず「高学年は男の先生の方が向いているんだろう」と思っていました。
先輩の先生に相談すると「男だから女だからという視点で物事を見てはいけない。性差に関わらず、なぜこの人がうまくいっているのかという本質的なところで見ないと成長はできない」と指摘され、ハッとした経験があります。
それからは、高学年や低学年、男だから女だからというところを意識しないように心がけています。
聞き手最後に、これからのキャリアについて思い描いていることはありますか。
寺嶋学級経営でいっぱいいっぱいだった初任校から、ようやく学年や学校という全体に視野を広げられるようになりました。いまは教科の専門性の向上や、若い先生とベテランの先生の架け橋のような存在になりたいと考えています。
(画像提供:寺嶋さん)
その過程で、主任教諭という立場では手の届かないようなことが生まれてくるかのかもしれません。そのときには、また新たなステージも視野に入れて考えていきたいと思っています。
聞き手寺嶋さん、寺田さん、貴重なお話をありがとうございました。
——第4回「『管理職になりたい』という思いをどう後押しする?」に続く

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