• 新しいお知らせ
    ×
公開日: 2023/5/6(土)

約2兆円の活動資金でも生まれる「取捨選択」 飢餓問題に挑む「国連WFP」の組織論(後編)

公開日: 2023/5/6(土)
公開日: 2023/5/6(土)

約2兆円の活動資金でも生まれる「取捨選択」 飢餓問題に挑む「国連WFP」の組織論(後編)

公開日: 2023/5/6(土)
オーディオブック(ベータ版)

「どれだけ経済が成長しても、成長から取り残されて飢餓状態に陥る人たちが必ず存在する。私はそうしたマイノリティへの支援をしたいと思い、この仕事をしています」
 

こう語るのは、田島大基(たじま・だいき)さん。
田島さんは、飢餓問題の解決に向けて「国連世界食糧計画(WFP)」という国際機関で働いている。


国連WFPで働く田島さんの姿と、田島さんが見る飢餓問題のリアルを「国連WFPの現場から」と題してお届けする。


前編では、「国連WFPで働くリアル」と題し、田島さんが日々取り組む仕事の内容や、田島さんが見た飢餓問題の実態を聞いた。


今回、後編のテーマは「国連WFPの組織論」。


約142億ドル(約1.9兆円)(2022年度)という莫大な活動資金を基に、世界各国で活動を行う国連WFP。


予算規模・活動範囲を考えると官僚的な組織を想像するかもしれないが、中で働く田島さんは企業的な側面が強い組織だと語る。
 

飢餓問題の解決に取り組む国際組織の内側を聞いた。
 


 

資金規模は約2兆円
それでも生まれる「取捨選択」

リディラバジャーナル編集部 鈴木
田島さん、今回もよろしくお願いします。
 

田島さん
よろしくお願いします!今日も、タイのバンコクにある自宅からお届けします。


 

田島大基(たじま・だいき)さん
国連WFP在バンコク・アジア太平洋地域局  予算担当官
東京大学経済学部卒業後、三菱UFJ銀行、インド地場会計事務所を経て、 タフツ大学フレッチャースクールにて国際ビジネスの修士号取得。 大学院卒業後、JICA勤務を経て2019年4月より国連WFPで勤務開始。東アフリカ地域局、ケニア国事務所を経て、2022年4月よりアジア太平洋地域局所属。


鈴木
国連WFPは123の国と地域で約1億5800万人(2022年度)を支援してきたそうですが、組織規模としてはどれくらいになるのでしょうか。


田島さん

国連WFP全体のスタッフは約22,300人で、うち87%が飢餓を抱える国の現場で働くフィールドスタッフです。


新型コロナウィルスやウクライナ戦争の影響で近年オペレーションが拡大傾向で、年々スタッフの総数は増えており、私が入った2019年と比べ現在の方が人数が多いですね。


国籍の比率で見ると、本部のあるイタリアをはじめアメリカが多い印象で、日本人の正規職員は57人です。

鈴木
約20,000人中、日本人の正規職員は約60人。想像以上に少ないな、という印象を受けました。

 

田島さん

おっしゃる通り、かなり少ない人数だと思います。

その影響もあって、国連WFPが国内ではあまり知られていないことに課題意識を持っています。

これを機会にたくさんの方々に活動を知ってもらいたいと思っています。

 

鈴木
約20,000人の組織で、資金規模はどれくらいですか。

 

田島さん
2022年は、年間の拠出金額が約142億米ドル(約1.9兆円)でした。


国連の中でも大きいとされるPKO(国連平和維持活動)の2021年の予算は約64億米ドルで、それよりもずっと大きい資金規模です。
 

鈴木
約142億米ドル…!途方もない金額ですね。

 

田島さん

そう思いますよね。
 

しかし、これだけの額があってもなお、本来支援に必要な額には程遠いのが実態なんです。

2022年の場合は、必要な額の約222億米ドルに対して約80億米ドルが足りず、食料の配給が必要量の半分になってしまった地域もありました。
 

前回もお話しましたが、世界の飢餓人口が増え続けており、支援が足りていないのが実情です。

 

鈴木
活動資金が足りない場合は、どういったことが起こるんですか?

 

田島さん
国連WFPのローマ本部から緊急で資金を借りたり、ドナーである政府・企業などに対してファンドレイズを追加で行ったりと、色々な手立てを打ちますが、最悪の場合は限りある活動資金をどこに割くか、取捨選択せざるをえません。
 

これまで100%の配給量を70%に、50%に、と減らすことになります。

東アフリカ地域局勤務時代に自分が担当していたケニア・ルワンダ国事務所では、資金不足から難民向け食料支援の配給量カットに追い込まれ、どう計算しても1日に1.5食程度の食料しか提供できない時期もありました。


また、本当に心苦しいのですが、誰を支援して誰を支援しないかという優先順位づけが行われます。


例えば、自然災害の被害地域で全世代を対象としていた支援プログラムが、資金不足のために、より脆弱な立場である女性と子どもを対象とした母子栄養支援のみに縮小されることもあります。

 

鈴木
国連WFPをはじめ、様々な組織が長年にわたって食料支援を続けていると思います。

田島さんとしては、支援の効果をどのように考えていますか。

 

田島さん

一定の支援効果は出ていると思っています。


例えば、アジアではラオスなど学校給食支援事業が現地政府に移管されて、国連WFPの支援の規模が縮小されたり、ラテンアメリカでは国連WFPの直接支援から卒業して技術供与のみとなる国が増えてきたりと、良い方向に進んでいるケースも多くなってきました。
 

ただ、グローバルで考えると、支援が足りていない状況に歯止めはかかっていません。


国連WFPでは一般の方々からの個人寄付も募っていますが、資金が圧倒的に不足している背景を知ってもらえるとありがたいです。


国連WFPホームページより)

「スタッフの手腕にかかっている」
予算確保のシビアな実態

鈴木
活動資金が足りないとのお話がありましたが、資金を増やすために、どういった手段を講じられていますか?

 

田島さん

方法は二つあります。


現地の大使館や企業など、ドナーに資金調達をかける方法と、国連WFPローマ本部にある全体予算から調達する方法です。


比率は前者が圧倒的に多く、ローマ本部から各国事務所に支給される額は予算全体の1割にも満たないケースがほとんどです。


各国事務所は「国連WFP」というブランドを活用してこそいますが、ローマ本部からの資金割り当てに頼るのではなく、活動資金のほとんどは独自でファンドレイジングをしていることになります。

 

鈴木
予算は上から配分されるのではなく、自分たちで集めるものなんですね。

 

田島さん

各国で支援ニーズに対して充分な支援が実現できるかどうかは、各国事務所のスタッフの手腕にかかっていると言っても過言ではないと思います。


当然ですが、他の国連機関や、国際NGOなどと支援プログラムでは連携相手となることもありますが、似たようなドナーに対してアプローチを行うので、予算確保の観点からは競合相手になる場合もあります。


資金調達のあり方は民間っぽいなと感じます。

※リディラバジャーナルについてもっと知りたい方はコチラ
リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
note
リディラバジャーナル編集部
noteのicon
東京・埼玉で相次いだ闇バイトによる強盗。指示役に脅されていた若者も?
2024年10月4日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「選択的夫婦別姓制度」が総裁選の焦点に?日本の姓の歴史の背景をひもとく
2024年9月17日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
新しい認知症観とは?“常識”を捨て、認知症の人に「寄り添う」ことが、その人らしさの尊重に繋がる
2024年9月6日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「9月1日」を乗り越えた子どものその後は?SOSを聞き逃さず、切れ目のない支援を
2024年8月30日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
子どもは「安心して学校を休む権利」をもっている。夏休み明けの子どもの自殺防止に役立つチェックリストも
2024年8月23日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「食品ロス」が「日本の食料自給率」を救う?2つの社会課題を解決へ導く循環型システム
2024年8月9日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ!リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「パパは寝てる」Tシャツの裏で、男性の育休取得率は過去最高に。新旧の価値観がぶつかり合う転換期
2024年8月2日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
起業家が受ける不当な圧力・セクハラ。背景にあるものは?【ニュースに潜む社会課題をキャッチ!】
2024年7月26日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
「障害者が子どもを産むな」ひとつでもできないことがあれば子どもをもってはいけないのか?
2024年7月19日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず。

続きをみる
芸術祭なのに、米作りに雪かき?「大地の芸術祭」が挑む地域づくりとは
2024年7月12日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず。

続きをみる
「夏休みに特別な体験をさせられない」子どもの体験格差は、学ぶ意欲や将来の可能性にまで影響を及ぼす?
2024年7月8日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
メディアが作り出した? 生活保護費引き下げにつながった世論
2024年7月1日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
在日クルド人に対するSNSでのヘイトスピーチ。書き込みへの法的措置の意義とは?
2024年6月21日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
輪島・珠洲の断水解消も、水道は使えない。復興を左右するのは世間の関心の深さ
2024年5月31日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ!リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
少しずつ可視化されてきた「恋愛的にも性的にも惹かれない」人たち。アロマンティック・アセクシュアルとは?
2024年5月24日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
喜べない教員の給与増。残業が残業だと認められない給特法とは?
2024年5月17日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ!リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
勤務時間15分減で退職金ゼロ?非正規の人の労働条件を改善するための制度のはずが…
2024年5月14日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
性犯罪の被害者の約半数が子ども。わが子をグルーミングから守るには?【ニュースに潜む社会課題をキャッチ!】
2024年5月7日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず

続きをみる
動物の虐待摘発過去最多。「保護犬・保護猫」前進の裏で生まれる課題
2024年4月12日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず。

続きをみる
スクールカウンセラー約250人が雇い止め。子どもの心の健康を支える専門職なのに任期は1年?【ニュースから読み取る社会課題!リディラバジャーナル】
2024年4月4日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず。

続きをみる
依存症の人に必要なのは「反省や刑罰」ではなく「治療と仲間」
2024年3月29日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず

続きをみる
「同性婚を認めないのは違憲」互いの違いを尊重できる成熟した社会へ
2024年3月18日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ! リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
能登半島地震、深刻なボランティア受け入れ態勢不足が課題
2024年3月8日

ニュースに潜む社会課題をキャッチ!リディラバジャーナル

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

続きをみる
学校の死亡事故の7割が国に未報告。求められる事故検証システム
2024年3月1日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。

日々流れてくるさまざまなニュース。一見、局所的で自分とはかかわりのないように見えるニュースも、その出来事をとりまく社会課題を知ると、見え方が大きく変わってくるはず

続きをみる
「思いこみ」も背景に?女性管理職への道を阻むもの【なぜ少ない?学校教育現場の女性管理職】
2024年2月23日

みなさん、こんにちは!リディラバジャーナルです。こちらの記事の最後には、全文無料で読める!「学校経営の新時代、女性管理職の可能性 ~ロールモデル・取り組み事例資料集~」もご紹介しています。ぜひご活用ください!

続きをみる
×
CONTENTS
intro
WFPの現場から
no.
1
no.
2