自分らしさの発揮がなぜ重要?「余白」を生む工夫とは? 学校教育現場の女性活躍に向けた取り組み(第2回)
自分らしさの発揮がなぜ重要?「余白」を生む工夫とは? 学校教育現場の女性活躍に向けた取り組み(第2回)
「誰もが自分らしく働ける職場をつくる必要がある。そのために何ができるかを、管理職自ら探究し実行していくことが大切です」(髙橋さん)
「人は時間的にも気持ち的にも余裕がない中では、じっくり考えて行動したり、意欲を持って挑戦したりすることはなかなか難しいと思います。『ひがしチャレンジデー』は生徒の主体性の育成と教職員の働き方改革をともに実現させようという試みです」(立木さん)
校長として女性活躍推進に向けたさまざまな取り組みを行う二人は、そう語る。
アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)やジェンダー不平等の課題を乗り越え、学校教育現場の女性活躍を推進していくためには何が必要なのか。また、そのための具体的な取り組みにはどのようなものがあるのか。
第2回では、学校全体で探究活動に力を入れている群馬県伊勢崎高等学校校長の高橋みゆきさんと、教職員への「余白」の提供を目的とした「ひがしチャレンジデー」などを設立した長崎県立長崎東高等学校・長崎東中学校校長の立木貴文さんに、取り組みの背景にある課題や活動の意義・効果などについて聞いた。
※本記事は2024年12月26日に開催された「『学校と未来』を作る全国フォーラム 第二部講演」の内容を編集してお届けしています。
※本記事は文科省からの委託事業の一環で制作しており、無料で公開しています。
「校長先生になって良かった」が約8割
一方で「子育てとの両立が大変」の声も
聞き手最初に髙橋さんからお話を伺いたいのですが、女性活躍に向けた取り組みとして伊勢崎高校ではどのようなことを行なっているのでしょうか?

髙橋みゆき伊勢崎高校は群馬県のSAH(スチューデント・エージェンシー・ハイスクール)に指定されていて(※)、「iTanQ(あいたんきゅう)」という探究活動に力を入れています。
※エージェンシー:人が誰しも生まれついて持っている自分と社会をより良くしようと願う意思、原動力(髙橋さんより)
私たちは「シン探究人」と呼んでいるんですが、チャレンジし続ける力や、多様性を認めともに社会を創造する力、常識や既成概念にとらわれず本質を見極めようとする力の育成を目指して、課題解決的な学びを重視しています。
校長の私も探究活動を続けていて、岡山県立倉敷鷲羽高校の三村直子前校長先生とともに「なぜ女性校長は少ないのか〜女性校長を増やす意義と方法〜」について研究を行いました。
全国の高等学校の教員の男女比は約2対1となっていますが、校長になると大きく約10対1にまで女性比率が下がります。私も三村先生もそれなりに楽しくやりがいを持って校長職の仕事をしているのに、なぜなのだろうかと。

(画像提供:髙橋さん)
私たちは、古くからある社会通念が男性中心の組織構造をつくり、女性が校長になりにくくなっている、女性自身も校長になろうと思えなくなっているのではないかと考えました。
そこで、全国の47都道府県178人の女性校長先生にアンケートを取り、実態調査を行いました。
「校長先生になって良かったですか」と聞いたところ、約8割の女性校長が「良かった」と答えています。一方で「校長になるまでに大変だったこと」という質問に対しては、「子育てとの両立」という声が多く出ました。私自身にも思い当たるところです。
子育ては母親中心という思い込みが女性教員に負担をかけ、仕事と両立させることに難しさを感じさせている。そして管理職を目指そうという意欲を失わせているのではないかと思います。
もちろん男性の中にも子育てをしたい人はいて、育休をしたい、取りたいと考えている人はいると思います。これまでは、それを言い出せないような世の中だったんじゃないかなと。
伊勢崎高校では来年度から2名の男性教諭がそれぞれ1年、3ヵ月の育休を取りますが、(その男性教諭が育休を取得することは)生徒たちに非常に良い影響を及ぼすと思います。
思い込みから抜け出すには?
ポイントは「環境整備」と「対話」
聞き手女性が働きやすい職場をつくることも重要かと思いますが、その点について取り組んでいることはありますか?
高橋まず、学校のウェルビーイングを考えるのは校長の仕事だと考えています。誰もが自分らしく働ける職場をつくる必要がある。そのために何ができるかを、管理職自ら探究し実行していくことが大切だと思います。
たとえば育児中の先生たちのキャリアアップについて、昔は小さいお子さんがいる先生を担任から外したり、主要なポジションに置かなかったりする傾向がありました。
今はその考え方から脱却し、子育て中であっても希望する人には3年生の担任もやってもらいますし、主事主任もやってもらっています。
また、本校は20年前まで男子校だったのですが、実は女性教員の休憩室がありませんでした。
女性校長は私が初めてということもあったと思いますが、着任して早速休憩室をつくり、妊娠中の先生方が横になったりできる部屋を用意しました。
聞き手環境づくり以外にも、性別役割分業意識の思い込みを脱するための取り組みもされているそうですが、それはどのようなものなのでしょうか?
高橋保護者に向けて、保護者会で4年制大学進学率に男女で差があることを示し、「性別によって進路選択の条件を変えないでください」「女子を将来の自分のケア要員として地元に置こうとしないでください」とお願いしました。

(画像提供:髙橋さん)
生徒たちに向けては、来年から制服を全面リニューアルする予定で、女子だけ公式シャツがピンクになっていたものを白のシャツとブレザー型に変更します。
また、スカートやスラックス、ネクタイ、リボンなど、すべて男女どちらでも自由に選べるようにします。
より多様性に配慮した環境に変えることも、生徒を(性別役割分担意識の)思い込みから解き放つ上で重要だと感じています。
あとは、生徒が探究活動を進めていく中で質問に来たりすることもあるのですが、そこでの対話も大事にしています。
ある日、校則について探究している生徒が「女性は社会人になったらお化粧するのが身だしなみだから、高校でもしてもいいんじゃないでしょうか」と言ったので、「社会人になって女性が化粧をしなければ身だしなみが良くないというのは誰から聞いたの?」「性別に関係なく化粧するのは自由なのではないかしら、社会人になって、男性でもしたい人はいるし、女性がしなければいけないっていうこともないんじゃない?」という話をしました。
「確かに」とその生徒は言っていましたね。こうやって対話を重ねて、一つひとつバイアスを解いていくことを心がけています。

自ら課題に気づき、変えていこうとする主体性が思い込みを外していく
聞き手伊勢崎高校で行われている「探究スクール」についてもお聞きして良いですか?
高橋はい。第一弾として、東大名誉教授であり社会学者の上野千鶴子さんのゼミを開校しました。そこでの一期生の探究テーマは多岐にわたります。
ここでは、参加した長崎県立五島海陽高校2年生の泉和穂さんの研究を紹介したいと思います。テーマは「離島(五島市)と本土(長崎市)における女性活躍について」です。
泉さんは「高校生時点では離島と本土において女性活躍に大差がないが、社会人になって差が開いているのではないか」と仮説を立てました。それを検証するために、女性の生徒会長の数と、女性の課長以上の数を比較したんですね。
その結果、生徒会長は長崎市と五島市で男女比の差はありませんでしたが、課長職になると、長崎市で男女89:11、五島市で男女94:6となり、五島市の方が男性比率が多くなりました。
この結果から、離島では「男性は働き、女性は家庭を守るべきという伝統的な考えが否定されない」という考察に至っています。
私は、このような教育がこの社会を変えていくのだと思っています。高校だけではなく、幼稚園、保育園、小学校、中学校においても、生徒が自ら課題に気づき、変えていこうという学びを実践していくことが大事なんじゃないかと思います。
小学校での自由研究では、たとえば「なぜお母さんが毎日ご飯をつくっているの」とか、「なぜトイレのマークは青と赤なのか」というような研究もできるのではないでしょうか。
誰かが変えてくれるのを待つのではなく、自分自身が社会を変えていこうとする。そういう生徒をみんなで支援しながら育成していく、みんなで変えていくという実践が大事だと思っています。

女性活躍のためには「余白」が必要?
授業なし・部活なしの日を設けることの意味
聞き手次に立木貴文さん(長崎県立長崎東高等学校・長崎東中学校校長)にもお話しをお伺いできればと思います。立木さんは「ひがしチャレンジデー」という取り組みをされていますが、基本的な考え方や狙い等について教えてください。

立木貴文学校教育現場では、多様な人材が活躍できる環境をつくっていくことが重要だと思っています。そこで今年新たに取り入れたのが、教職員への「余白」の提供を目的とした「ひがしチャレンジデー」というものです。
私は昨年度本校に着任しましたが、すべての教職員が子どもたちのために本当に献身的に取り組んでくれています。
だからこそなのかもしれませんけれども、教職員にも生徒にも余裕がなく、誰もが多忙な日常を送っていました。
人は時間的にも気持ち的にも余裕がない中では、じっくり考えて行動したり、意欲を持って挑戦したりすることはなかなか難しいと思います。
「ひがしチャレンジデー」は生徒の主体性の育成と教職員の働き方改革をともに実現させようという試みです。今年度は高校は9日間、中学は6日間、授業なし・部活なしの日を設けています。
教職員には心身のリフレッシュや自己研鑽、超過勤務の縮減を。生徒には時間を自分で管理する経験を積むこと、主体的な学びの充実を目的としています。
中間アンケートをとったところ、教職員の約9割が「リフレッシュ等に役立つ」と肯定的に捉えており、84.7%が「超過勤務の縮減に有効」と回答しました。
直接的に業務量の軽減が図れるわけではありませんが、女性活躍を阻む要因の一つである負担感の軽減には、一定の役割を果たしているのではないかと認識しています。
生徒も中高合わせて1,200人の生徒のうち95.9%が「主体性の育成に役立つ」と回答しています。このチャレンジデーに生徒が行なったことですが、最も多かったのがほぼ同率で勉強とリフレッシュという回答でした。
子どもたちは「未来からの留学生」と言われます。次の社会の担い手でもある彼らが、様々な機会を得て受身の姿勢から脱却し、自ら考えて必要な行動をとる経験を重ねることは、これからの社会を彼ら自身の手で作り出していくという自覚や姿勢を身につけることに繋がるのではないかと思っています。

「他者を頼っていい」と伝えることが、多様な人材の活躍につながる
聞き手ほかに女性活躍を推進する上で心がけていることはありますか?
立木「組織力の最大化」を意識するようにしています。それぞれが業務にかけられる範囲で100%のマンパワーを提供してくださいということですね。
いま十分な時間や力を業務に割けない先生方には、思い切って他者を頼る、そして環境が整うようになったら今度は誰かを支えてくださいねと伝えています。
また、「価値観の相克への対処」も意識している点です。
先生方の中にも、そして保護者の中にも、さまざまな価値観をお持ちの方がいて対立することもあります。
個別に対応を重ねたり、Webや学校だよりなどの媒体を使いながら、取り組みや学校からの意図を伝えていく。そして賛成や納得には至らなくても、理解を得る努力はしていきたいと思っています。

聞き手ありがとうございます。最後に、立木さんと髙橋さんに質問が来ていますのでご紹介できればと思います。
「育休取得した先生や時短勤務をしている先生に担任を持ってもらうことは、なかなかハードルが高いのではないでしょうか?保護者の方への対応も含めてどのようにされているかお聞きしたいです」
立木未就学児を育児中の先生が「担任をしたい」ということで、お任せした事例がありました。
なかなか踏み出せない、周りに迷惑をかけるんじゃないかという不安もあったようですが、全体で支えるような形を作りました。
本人が無理な場合には授業を実習にしてもいい。工夫してできる範囲でやっていく。本人も望む形で働いていただくという取り組みは継続して行なっていますね。
高橋伊勢崎高校でも今、部分休を取っている教員が1年と3年で担任をしています。
朝のホームルームは担任がいないんですが、代わりに副担任がフォローします。
保護者には「本校はどの教員も自分らしく働ける学校現場を目指しているので、部分休を取っている教員も担任を持ちます」と年度当初にお知らせしましたが、3学年の保護者からは一切クレームのようなものは出ていませんし、生徒からもないです。
実際にやってみると問題や課題となるようなものは何もありませんでした。
聞き手お二人とも、ありがとうございました。
——第3回「女性管理職が教員や子どもの『当たり前』となるには?」に続く

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