動物実験:科学と倫理の狭間で | Ridilover Journal(リディラバジャーナル)
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動物実験
科学と倫理の狭間で

毎年、何万頭にも及ぶ犬や猫が殺処分されていることは「ペット流通の闇」として、近年メディアで報道されるようになった。動物の命が人間によって都合よく消費され、その末路が明るみになったことは、ペット愛好家のみならず多くの人に衝撃を与えた。

 

しかし、動物と人間にまつわるトピックはペット問題にとどまらず多岐にわたる。商品化のために毛皮を剥がされたり、絶滅危惧種に指定されていながら密猟されたり、各地域の祭事や伝統行事で虐待に近い行為をされたり……。

 

とりわけ動物と人間との関係について取り上げられる際、報道で避けられがちなトピックが「動物実験」だ。人間の安全や健康のために、さまざまな動物が苦痛を伴う被検体にされた末、安楽死させられる。そんな動物実験を問題視する声がヨーロッパを中心にここ数十年で盛り上がりつつある。

 

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しかし、そもそも動物実験は「社会問題」と言えるのかーー。

動物実験が報道されない理由

化学物質を含む商品が市場に出る際、個々の成分は動物実験によって安全性が追求されている。私たちが生活のために用いる医薬品や食品、そして化粧品などの多くは化学物質が含まれており、それは動物実験を経て開発されたことを意味する。すなわち、私たちの生活は動物実験なしには成り立たないのが現実だ。

 

しかしながら、動物実験をめぐる状況がここ数年で大きく変化している。真っ先に問題視されたのが化粧品業界だ。

 

ヨーロッパでは「美しさのための犠牲はいらない」というスローガンのもと、2004年から化粧品のための動物実験の実施が禁止された。2009年からは化粧品の原料のための動物実験、および動物実験された原料を使った化粧品の取引および輸入に関しても禁止されている。

 

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さらに2013年には、動物実験禁止が適用除外とされていた一部の原料についても取引禁止が施行され、完全禁止に至った。こうした動向はヨーロッパにとどまらず、アメリカやカナダ、オーストラリア、ブラジルなどでも動物実験を禁止するための法案審議が進められるなど、世界的に波及している。

 

日本国内でも、2013年に国内最大手の化粧品メーカーが動物実験の廃止を宣言し、業界他社もそれに追随した。その結果、現在では多くのメーカーが化粧品に関する動物実験を廃止しているが、一部のメーカーでは動物実験が行われている。

 

日本の現況について、動物実験の反対を訴え続けているNPO法人 動物実験の廃止を求める会の事務局長の和﨑聖子さんは、次のように話す。

 

「すでに安全性が確認されて世界中で使用されている原料は膨大にあり、新たに動物実験をしなくても、化粧品を製造・販売することができます。ところが、いまだに一部の化粧品メーカーにおいて動物実験が行われている状況があります。また、そもそも動物実験については、ほとんどの人に知られていない。犬や猫の殺処分のようにメディアが取り上げる機会も少なく、社会的なイシューとしても認識されていないんです」

 

ヨーロッパをはじめ動物実験をめぐる議論が盛り上がっているにもかかわらず、なぜ日本ではこれほど関心が低いのか。動物実験の廃止を求める会の和﨑さんはこう続ける。

 

 

「化粧品メーカーや薬品メーカーがスポンサーになっているテレビをはじめとする大手メディアでは、それらのメーカーへの配慮もあってか動物実験についてなかなか報道しない。また動物実験は現場が閉ざされているため、どのような実験がどのように行われているのか、実験された動物がどうなるのかといったことが目に見えない。関心が低いのには、そうした閉鎖性という理由も大きいと思います」

動物実験の何がどう問題なのか

ではなぜ、ヨーロッパをはじめとする各国では動物実験が問題視され、化粧品に限っては厳しい規制が設けられるまでに至ったのか。

 

そのきっかけはアメリカのニューヨーク・タイムズ紙に掲載された動物実験廃止を訴える意見広告だったという。化粧品のために動物実験を行っていた企業が名指しで批判され、動物実験が社会的なイシューとなった。実際にアメリカでは多くの企業が実験廃止に追い込まれ、その動向はヨーロッパにも波及し、現在のEU圏内での全廃につながっている。

 

多くの国々で動物実験の廃止を訴える人々は、動物の生存権を主張する。動物も人間と同様に苦痛を感じるという倫理観を問い、人とは違う動物を介した実験によって得られる知見の科学的有用性にも疑問を呈す。

 

一方、動物実験者をはじめとする動物実験を推進する側は、動物実験を必要不可欠だと主張する。人間の暮らしは多くの犠牲の上に成り立っており、動物によって人間の安全性が担保されるのであれば、犠牲は致し方ないという主張だ。

 

ただし、これらの対立を一概に動物実験肯定派と反対派と分類することはできない。動物実験が用いられる業界によってスタンスが変わったり、一定の必要性を認める場合でも動物実験のあり方や制度上のさまざまな問題点を指摘する専門家も少なくない。

 

研究者を主体とする組織と動物福祉を訴える団体との議論は、長年にわたって平行線をたどりつづけている。両者のコミュニケーションはほとんど成立していない状況であり、その溝は広く深い。

 

片や世間では動物実験がなぜ、どのように行われているのか、そこにはどんな意義があるのかについて関心を持たれることはない。それでも、私たちの生活は動物の犠牲に上に成り立っているのはれっきとした事実だ。

 

本特集では、動物実験を取り巻く現況や課題を整理する。動物実験そのものを問題視して廃止を訴えることを出発点にせず、動物実験について、何がどのように問題とされているのかについて考えたい。

 

 

第1章は《動物実験は「残酷」なのか》。

 

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第1回【動物実験とは何か?実験のあり方の現状】では、そもそも動物実験とは何かから、実験が行われる際の動物への配慮について考える。

 

第2回【動物実験の是非とは?日本特有の動物観】では、動物実験の問題視のされ方と、その背景にある日本特有の動物観について専門家が解説する。

 

第2章は《倫理と科学から考える動物実験》。

 

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第3回【動物実験は必要悪か?科学者たちの見解】では、科学面から動物実験の是非を問い、化粧品業界における動物実験廃止の背景にある代替法の現在地を探る。

 

第4回【美しさに犠牲はいらない?動物実験を問う】では、倫理面から消費者である一人一人が動物実験をどのように考えるべきかについて問う。

 

第5回【リディラバ 安部が考える「動物実験」】では、リディラバジャーナル編集長である安部敏樹が動物実験をめぐる現状や問題点について語る。

 

ーーー

 

動物実験の是非に「答え」があるわけではない。だからこそ、本特集を読むことで読者自身が関心を持ち、動物実験の是非、そしてあり方について考える機会にしてほしい。

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この記事に寄せられたコメント

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杉山 啓
普段科学側にいると日常的過ぎて意識に上らない話。
杉山啓さん、コメントありがとうございます。科学側にいらっしゃるということで、とても身近なテーマだと思います。本記事、本特集を通じて少しでも何かの気づきがあれば幸いです。
リディラバジャーナル編集部からの返信
User
hasshu-ridi
今日まで知らなかったリメンバーミーサーズデー、流れてきたテントウムシの話、色々薬に頼る体。
嫌んなっちゃうTLだけど、たまたま目に止まるきっかけは、興味持ったら触ってみよう…記事無料。
hasshu-ridiさん、コメントありがとうございます。動物実験は私たちの日常の裏側の話ではありますが、恩恵を受けているのに無関心でいいのかという問いが本特集のテーマでもあります。ぜひ他の記事もご覧いただけると幸いです。
リディラバジャーナル編集部からの返信
User
Masataka Yoshida
記事連載開始時に、これは読んでコメント書かなきゃって思っていました。
私の前職は動物実験をやるラボでした。
なので、世界の動きも把握していますし、業界の努力もよく分かっています。
やっと気持ちが前向きになったのでこれから読んでいこうかと思います。
批判も大歓迎ですが、知ってもらいたい世界があります。

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