ドメスティック・バイオレンス:家庭に潜む暴力の構造 | Ridilover Journal(リディラバジャーナル)
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ドメスティック・バイオレンス
家庭に潜む暴力の構造

「家族」という言葉にどのようなイメージを持っているだろうか。

 

たとえば、Googleの画像検索で「家族」と入力すると、笑顔で寄り添う人びとの写真が並ぶ。こうした温もりや安らぎというイメージを持つ人は多いだろう。

 

一方で、親密な関係であるがゆえに憎しみや暴力が生じやすいことを示唆するデータがある。

 

「平成30年版 警察白書」によると、日本で検挙された殺人事件のうち約半数は親族間で起こっている。

 

「平成30年版 警察白書」殺人の被疑者と被害者の関係別検挙状況(平成29年)に基づき編集部作成。

 

暴力や殺人事件が親族間で多く発生する理由について、長年、家庭内暴力や加害者問題の研究を行ってきた、立命館大学産業社会学部の中村正教授は次のように語る。

 

「配偶者間や親子間においても、身体的、経済的な力関係が存在します。そうした非対称性がある場合、本来はパワーを持つ者が相手に配慮しなければなりませんが、家族内では距離感が縮まり、他者に配慮するという意識が欠如しやすい。また、それぞれ異なる要素を持つ人が互いに求め合うことで、喜びや愛情も生まれますが、その分葛藤や対立も大きくなります。逃れにくい関係性ということもありますね」

 

著書に『ドメスティック・バイオレンスと家族の病理』がある中村教授。

 

こうした「家族関係の病理」が、夫婦間の暴力や、子どもへの虐待、高齢化した親への虐待など、あらゆる問題として表出していると中村教授は言う。

DVはあらゆる暴力の原型

今回の特集では、その中でも「ドメスティック・バイオレンス(以下、DV)」と呼ばれる主に配偶者間の暴力に焦点を当てる。

 

DVについての明確な定義はないが、日本では「配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者からふるわれる暴力」という意味で使用されることが一般的だ。

 

現在婚姻関係にある配偶者にかぎらず、事実婚、生活の本拠を共にする交際相手(いわゆる同棲相手)、離婚した者(事実上の離婚を含む)も含まれる。

 

中村教授は「DVはあらゆる暴力の原型」と話す。

 


 

「身近で親密な関係性に暴力が存在すれば、さまざまな対人関係においても暴力が存在しえます。実際にDV加害者は、『暴力はコミュニケーションだ』とか『暴力も愛情のひとつである』と話すんです。子どもがいれば、その子は他者とともに生きていく親密な関係性の作法には暴力が宿っていると学んでしまうこともあります」

3人に1人は配偶者から暴力を受けている

内閣府の調査によると、配偶者(事実婚や別居中の夫婦、元配偶者も含む)から「身体的暴行」「心理的攻撃」「経済的圧迫」「性的強要」のいずれか1つでも受けたことがあると答えた女性は、約3人に1人に上る。(2017年度調査、「男女間における暴力に関する調査」)

 

「男女共同参画白書 平成30年版」配偶者からの被害経験に基づき編集部作成。

 

DVにおける「暴力」の形態は多様であり、殴る、蹴る、髪の毛をひっぱる、首を絞めるといった身体的な暴力だけではない。「精神的暴力」や「性的暴力」なども該当する。

 

DVの暴力の形態

 

「身体的暴行」:なぐったり、けったり、物を投げつけたり、突き飛ばしたりするなどの身体に対する暴行。

 

「心理的攻撃」:人格を否定するような暴言、交友関係や行き先、電話・メール等を細かく監視したり、長期間無視するなどの精神的な嫌がらせ、あるいは、自分もしくは自分の家族に危害が加えられるのではないかと恐怖を感じるような脅迫。

 

「経済的圧迫」:生活費を渡さない、貯金を勝手に使われる、外で働くことを妨害されるなど。

 

「性的強要」:嫌がっているのに性的な行為を強要される、見たくないポルノ映像等を見せられる、避妊に協力しないなど。

 

(出典:「男女共同参画白書 平成30年版」配偶者からの被害経験

 

また、男性の被害者も存在するが、DV被害者の大半は女性とされているため、本特集でも基本的に被害者は女性を想定している。配偶者間における犯罪(殺人・傷害・暴行)被害者の男女別割合をみても、被害者のうち約9割は女性だ。

 

「男女共同参画白書 平成30年版」配偶者間(内縁を含む)における犯罪(殺人・傷害・暴行)の被害者の男女別割合(検挙件数、平成29年)に基づき編集部作成。

見過ごされてきた深刻な人権侵害

2001年、日本でDV防止法(正式名称:「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)が成立し、DVは「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害」と認められるようになった。以降、DVの相談件数は増加傾向にある。

 

2017年度の配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数は10万6110件。警察における配偶者からの暴力事案等の相談等件数も7万2455件に上る。

 

ただし、これらの数字は氷山の一角だと言える。

 

DVは家庭というブラックボックス化した空間で起こるため表面化しづらい。また、親密な関係性だからこそ、被害者がDVだと認識していなかったり、加害者との関係性を壊すことを恐れたりするからだ。

 

相談件数が増加傾向にあることについて、中村教授は、DVそのものの件数が増えているというよりは、「被害者に対する支援の拡大や、女性の権利意識の向上などによって、被害に遭った女性たちが声をあげやすくなった結果」と説明する。

 

DV防止法が成立する以前は、家庭の外であれば人権侵害とみなされる行為であっても、配偶者間であれば「夫婦げんか」などと捉えられ、見過ごされてきたのだ。

DVはなぜ生じるのか

そもそも、DV被害はなぜ生じるのか――。本特集では、その構造や、DVから脱却する上で生じる問題を見ていく。


 

DVが生じる背景には、DV加害者の特性など個人的な要因だけではなく、偏ったジェンダーバイアスや暴力を容認する社会の風潮、それを流布するメディアなど、社会的な要因もある。

 

たとえ家庭ではDVとは無関係であっても、無意識のうちにDV加害者を容認するような発言をしていたり、DV問題の傍観者となっていたりする可能性は誰にでもあるのだ。

DVの与える影響の大きさ

2004年には、児童虐待防止法が改正され、子どもの面前で家族が暴力をふるうことが「心理的虐待」にあたると明記された。

 

親の暴力を日常的に目にした子どももまた他者へ暴力をふるうようになったり、ひきこもり状態になったりと、DVが子どもに与える影響は大きい。いじめや不登校の問題とも無関係ではない。

 

さらに、DV問題は被害者が、加害者の暴力から逃れたら終わりではない。

 

当然、DV被害者にはその後の人生がある。加害者に見つからないように生きていくために友人との連絡を絶ったり、見知らぬ土地に引っ越したりすることもある。子どもがいれば、ひとり親として生きる上での困難に直面する。

 

同様に、DV加害者の人生も続く。加害者が変わらなければ、新たな被害者は生まれ続ける。

 

そうした現実を踏まえ、DV防止法の課題や、社会に必要とされていることも考えていかなければならない。

 

本特集を機に、DV加害者を生み出す社会に自覚的になり、自らの言動を見つめ直すとともに、DV被害を減らすために必要なこと、DV被害者への支援体制について考えるきっかけにしてほしい。

 

第1章《DV被害》

 

(Shutterstock)

 

第1回【暴力で歪められた関係性】では、DV被害者が暴力をふるわれても加害者との関係性を維持しつづけてしまう心理についてみていく。

 

第2回【2度のDV被害に遭った女性の苦悩】では、DV被害の事例と、被害者が経験する苦悩に迫る。

 

第3回【逃げつづけても終わらないDV被害】では、被害者が加害者から逃れた後に直面する困難と、被害者支援のあり方について考える。

 

第4回【いじめ、引きこもり、自尊感情の低下…DVが子どもへ与える影響】。DVは子どもへの身体的虐待に比べてメディアで大きく取り上げられることは少ないが、子どもへの影響は深刻だ。本記事では、配偶者間のDVが子どもに与える影響に着目する。

 

第2章《DV加害》

 

(Shutterstock)

 

第5回【なぜ暴力をふるうのか…元DV加害者の告白】では、元DV加害者のインタビューをお送りする。なぜ暴力をふるうに至ったのか。その要因を考えていく。

 

第6回【「暴力の再生産を防ぐ」DV加害者更生の可能性と課題】では、DV加害者の更生について考える。本文で触れたとおり、DV加害者が変わらなければ、新たな被害者が生み出されつづけてしまう。では、DVをなくすためには何が必要なのだろうか。

 

第3章《社会の認識》

 

(Shutterstock)

 

第7回【DVを容認する風潮に自覚を】では、DV問題を取り巻く社会制度や社会の認識について問い直す。

 

そして、第8回【リディラバ安部が考える「DV問題」】では、リディラバジャーナル編集長である安部敏樹がDV問題について考えを綴る。

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特集 ドメスティック・バイオレンス:家庭に潜む暴力の構造 全8回
0章 はじめに
1章 DV被害
2章 DV加害
3章 社会の認識
4章 安部コラム
ドメスティック・バイオレンス
全8回
[特集]家庭に潜む暴力の構造