リディラバジャーナル構造化特集「ヤングケアラー」。
第5回となる本記事では、支援の手が届かない構造(3章)として、学校におけるヤングケアラーへのサポートに焦点を当てる。
「諸外国の中には、ケアを社会全体で行うべきものと位置付け、ケアラーの社会的支援とその地位を保証している国もあります(一般社団法人日本ケアラー連盟・中嶋圭子さん)」
ヤングケアラー支援に先進的に取り組んできたのはヨーロッパだ。特にイギリスでは、国全体で300を超えるヤングケアラー支援団体があり、地域ごとの特性に合わせた支援に取り組んでいる。
その他、給付や法整備を通して、ケアラーによるケアの社会的な価値を認める仕組みが導入されている国もある。
諸外国の例と比較しながら、日本における今後のヤングケアラー支援のあり方を検討する。
全国に300以上の支援拠点。
ヤングケアラー支援先進国である英国の取り組み
ヤングケアラー研究の第一人者であるソール・ベッカーは、2016年に世界のヤングケアラー支援状況について論文を発表した。支援状況のレベルは7つに分類され、それぞれにモデルとなる国が記載されている。
その論文によると、当時の時点で最高レベルであるレベル1に到達している国はなく、次のレベル2に該当する英国が、世界で最もヤングケアラー支援が進んでいるとされている(ちなみに、日本はレベル7に相当)。
(出典:NHK首都圏ナビ「ヤングケアラー支援の先進地イギリス ソール・ベッカー教授に聞く」)
では、英国の先進性はどういった点に認められるのだろうか。
そもそも「ヤングケアラー」という言葉自体、英国が発祥。この言葉は、1990年代前半に一部の関係者の間で使用され始めていたが、1993年にベッカーがジョー・オルドリッジと共に発表した論文(Aldridge, Jo; Becker, Saul (1993): Children who care: inside the world of young carers. Loughborough University. Online resource.)で社会的な注目を集めることになった。
十数名のヤングケアラーへの聞き取りを元にしたこの調査は、親やきょうだいの介護や、日常生活の世話などを担っている子どもたちが存在することを示し、ケアによる負担が大きくなると、健康や教育、幸福度に大きな影響を及ぼす可能性があると指摘した。
その後、各自治体で民間団体が主導となり、レスパイトを含む多様な支援が広がった。シェフィールド市の民間団体「シェフィールド・ヤングケアラーズ」では、ヤングケアラーの子どもだけでなく、親を含めた家庭全体の支援を打ち出している。
ヤングケアラーの負担を減らすためには、家庭状況の改善が必要不可欠だと考えた同団体は、担当者が保護者と定期的に面談をする他、保護者同士が交流できる場も提供している。
実際に現地で同団体の活動を視察してきた、精神疾患の親をもつ25歳以下の支援団体CoCoTELIで代表を務める平井登威さんは次のように話す。
関西大学社会安全学部4年生(2023.4~休学中)。精神疾患の親をもつ25歳以下の支援団体"CoCoTELI”代表を務める。
「子どもだけでなく、保護者とも面談を重ねることで、家庭内で目線を合わせることができるんです。保護者も、支援を通して子どもがどんな状態なのかを客観的に把握し、子どもの考えを受け入れる準備ができる。結果的に、子どもが声を上げやすい環境づくりにつながっていると感じました」
ただ英国においても、最初から家族の多くが支援を快く受け入れていたわけではなく、支援団体の工夫によって徐々に浸透していったのだと、ヤングケアラーについて長年研究を続けてきた、成蹊大学の澁谷智子教授は語る。
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