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構造化特集
ヤングケアラー 第4回
公開日: 2023/5/17(水)

「当事者にたどり着けない」ヤングケアラー支援の難しさに直面する行政

公開日: 2023/5/17(水)
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ヤングケアラー 第4回
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「当事者にたどり着けない」ヤングケアラー支援の難しさに直面する行政

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オーディオブック(ベータ版)

リディラバジャーナル構造化特集「ヤングケアラー」。
 
第4回となる本記事では、支援の手が届かない構造(3章)として、ヤングケアラー支援に取り組む自治体と国に焦点を当てる。
 

 


 

ヤングケアラーやその家族を公的支援につなげる上で、極めて重要な役割を担うのが全国約1,700の自治体だ。

 

しかし、ヤングケアラー支援に取り組み始めた自治体の多くは、当事者や家族を見つけられない、見つけたとしても介入できないといった難しさに直面している。

 

そもそも、財源上の問題からヤングケアラー支援に取り組めない自治体も少なくない。

 

本記事では、全国初のヤングケアラー相談窓口を設置した兵庫県神戸市の取り組みを解説しながら、公的支援がヤングケアラー当事者に及びづらい構造を見ていく。

「ケアする側に対する意識が足りていなかった」
市長の特命で全国初のヤングケアラー相談窓口を開設

 

2019年10月、20代の女性幼稚園教諭が、90代の認知症の祖母を殺害する事件が神戸市で発生した。

 

女性教諭は幼少期に両親が離婚し、小学1年生のときに母親が病死。児童養護施設に入所後、祖父母に引き取られた。中学2年生からは叔母の家族と同居し、短大卒業後の2019年春、幼稚園教諭として働き始めた。

 

しかし同時期に祖母の認知症が悪化。父は手足が痺れる病気を抱え、叔父は自ら会社を経営しており多忙で、叔母にも幼い子どもがいた。「あんたが介護するのが当たり前やろ」という叔母の一言をきっかけに、女性が介護を担うことになった。女性は学生時代の生活費や学費を祖母に負担してもらっていた。

 

慣れない仕事と介護の両立は困難を極めた。

 

祖母は要介護4。日常生活を1人で送ることが難しく、施設入所を勧められることも多い要介護度だった。仕事から帰宅後、祖母の食事、入浴、排泄、散歩に付き添う。睡眠時間は2時間程度にまで減少。

 

職場では、介護をしている事情を話しても信じてもらえず、仕事の不手際に対する叱責を受け続け、親族に話しても取り合ってもらえなかった。叔母は、女性が祖母のケアマネージャーと連絡を取ることすら禁じたという。

 

ある日の早朝、祖母の体を拭いているときに、「あんたがおるから生きていても楽しくない」と言われた。女性は祖母をベッドに押し倒し、タオルを祖母の口に押し込んで窒息死させた。

 

神戸市のこども・若者ケアラー相談・支援窓口で担当課長を務める上田智也さんは、当時を振り返って次のように語る。
 

上田 智也(うえだ・ともや)
神戸市福祉局相談支援課こども・若者ケアラー相談・支援窓口の担当課長。

 

「この事件が起こったとき、市として真っ先に考えたのは、『祖母に対する介護サービスの導入状況はどうなっていたのだろう』ということだったんです。ケアを受ける祖母の側の視点に立っていて、ケアをする側の孫の女性には、十分に目を向けられていませんでした」

 

しかし、その後の裁判の過程で、女性の生い立ちや生活上の苦悩が明らかになるにつれ、認識は変わっていった。

 

「就職したばかりで、職場では覚えなければならない仕事が山ほどあり、帰宅後は祖母の介護をしなければならない。近隣に親族はいたものの、助けは得られなかった。そのような事件の背景がだんだんと見えてきました。

 

当時からヤングケアラーという言葉はありましたが、この女性もヤングケアラーだったのかと理解できたのは、この過程においてでした」

 

裁判の約2か月後の2020年11月、市長の特命でヤングケアラーのプロジェクトチームが発足した。福祉局、健康局、こども家庭局、教育委員会事務局という、組織横断型のチームだ。

 

「まずは各課が管轄する現場からヤングケアラーに関する事例収集を行いました。自治体が施策を打つときには、実態把握のためのアンケート調査から入ることが多いですが、私たちはそんな悠長なことを言ってはいられなかった。既に事件が起こってしまっていたからです」

 

1週間という短期間だったが、現場からは約80件の事例が集まった。ヤングケアラーに関して、現場では把握していたものの、対応が留め置かれていたケースの存在が明らかになったことになる。

 

「現場としては、どこに相談してよいのかわからなかったようなんです。

 

例えば介護保険では、ケアマネージャーは介護が必要な方のケアプランは作成できるものの、ケアや介護を担う子どもへの接し方などは職務の範囲外。『もしかしたら子どもも苦しさを抱えているのではないだろうか』と気づいたとしても、それをどう調整すればいいのかは検討がつかなかった。

 

調査結果を受けて、全国初となるヤングケアラー専門の相談窓口を設置することにしました。名前は「こども・若者ケアラー相談・支援窓口」。18歳を境にケアがなくなるわけではないので、20代の若者ケアラーも含めた支援を目指しています」

相談は家族からも。
「断らない相談窓口」を掲げて得た成果

 

神戸市が掲げているのは、「断らない相談窓口」だ。行政の相談窓口では、実名での相談が前提となっているのが一般的だが、「こども・若者ケアラー相談・支援窓口」では匿名の相談も受け付け、助言をすることがあるという。

 

「我々の役割は関係機関や施策への橋渡し。隙間をつないでいくこと自体が役割なので、どんな相談でも、相談者本人が望んでいることやその背景を理解し、次のアクションにつなげられるように努めています。

 

学校が対応に苦慮しているようであれば、今後やるべきことを整理して助言します。保護者が公的サービスの手続きに難しさを感じているようであれば、手続きに同行します。家が散らかっていることが、保護者の気持ちを重くしていると判断した時は、スタッフで片付けに向かったこともありました」

 

断らない体制を維持できるのはなぜなのか。その理由は2つあると、上田さんは分析する。

 

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リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
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CONTENTS
intro
日本における家族ケアの形
no.
1
ヤングケアラーと家族を取り巻く困難
no.
2
no.
3
支援の手が届かない構造
no.
4
no.
5
no.
6
目指すべき方向性
no.
7