世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス感染症。各国対策に苦慮しているなかで、日本の対応はどのような点がうまくいっていて、どのような点に課題があるのか。
本特集では、政府、地方自治体、医療現場、そして国民の視点から整理し、今後の日本の感染症対策のあり方、有事のリーダーシップについて考える題材を提示していきたい。
政策批判の前に政策の背景を考える
日本は、過去にSARSやMARSの大きな被害を受けずにすんだため、感染症に対する備えが弱いとされる。しかしそれでも、新型コロナウイルスによる死亡者数は欧米各国に比べて少なく、感染爆発も抑えられている。
一方で、急な臨時休校要請や、休業補償の対象者や現金給付金額をめぐる政策のぶれは国民の混乱を招いた。緊急事態宣言も含めて対応が後手にまわっているという批判もある。
さらに、感染が拡大するにつれて医療従事者の疲弊や医療資源の不足など、医療提供体制の問題も表出。感染症対策に関するさまざまな課題が浮き彫りになっている。
本特集では、こうした問題を、リーダーの意思決定、政策を国民に届けるコミュニケーションおよびオペレーションの課題に着目してひも解いていく。
政治的意思決定の葛藤
いま、各国のリーダーや国民に求められていることは、感染症の拡大およびそれに伴うさまざまな問題の発生を、できるかぎり最小限に抑えることだ。
ただし、スピード感のある感染拡大抑止と、経済活動の担保、国民一人ひとりの人権の尊重、意思決定プロセスの遵守などは相反することもある。
PHP総研主席研究員であり、立教大学大学院で、公共政策を専門とする亀井善太郎教授は、こう指摘する。
「こうした緊急事態になると、特定の状況で政府の権限が強くなる場面があります。これはコロナ以上に危険なことかもしれない。だからこそ、誰がどんなことを決めているのかという意思決定プロセスはオープンでなければならないですし、私たち国民は、政治がどうあってほしいのか、常に考えていかなければなりません」
特集では、こうした政治的意思決定の難しさについて再考し、あるべき意思決定プロセスやコミュニケーションについて考えていく。
首長のリーダーシップの秘訣を探る
今回の新型コロナウイルスへの対応をめぐっては、政府だけでなく、地方自治体の首長にも大きな裁量があり、そのリーダーシップが問われることになった。
緊急事態になってみてはじめて、政治および政治家の存在が自分たちの生活に直結していることを痛感した人も少なくないはずだ。
実際に自治体によっては早期対応が功を奏し、検査体制が整備されていたり、独自支援策を早くから打ち出してたりする。
では、どうしたらそのような迅速な対応が可能になるのか。平時にどのような準備が必要なのか――。
特集では、迅速な意思決定を積み重ねて感染症に対する取り組みを行っている三重県・鈴木英敬知事と、福岡市・高島宗一郎市長に話を聞いた。
また有事の際には平時の課題があらわになる。リーダーへの信頼や、危機管理体制、地域の医療提供体制などは、平時に築き上げていくものであり、基盤がなければ緊急事態には対応できない。
地域住民の健康や衛生を支える保健所が大幅に削減されてきたことが問題になっているのも、その一例と言える。いま起きている困りごとだけではなく、そうした社会の構造的な問題を知ることが有事の対策につながる。
感染症は数年に1回は世界のどこかで流行しており、新興感染症は今後も絶えないとされる。さらに現代では、ヒトやモノの移動が活発化し、感染症が全世界的に広まりやすくなっている。またいつ、同じような危機に晒されるかわからない。
この先パンデミックが起こった際、感染の拡大を防ぎ被害を最小限に抑えるためのヒントを探っていく。
第1章 医療機関
(photoAC)
第1回【「病院が潰れてしまう」医療崩壊と経営危機に晒される現場】では、逼迫する医療現場の現状と、国や自治体に求められている対応、そして平時からの医療現場の課題に迫る。
第2章 政府
(photoAC)
第2回【感染症対策から考える民主主義国家としてのジレンマ】 では、感染症の対応における迅速な意思決定の難しさについて考えていく。
第3章 地方自治体
第3回【鈴木英敬三重県知事に聞く、有事に耐えうる平時の危機管理】では、三重県知事にインタビュー。緊急事態に対応するための平時からの備えや危機管理について考え方、徹底検査を可能にした医療機関とコミュニケーションについて話を聞いた。
第4回【福岡市の150億円規模の迅速な独自支援策はなぜ実現できたのか】では、独自支援策で話題になっている福岡市長に、基礎自治体の首長として感染症対策に取り組む際に大事にしていることや、私たち一人ひとりがコロナ危機から考えていかなければならないことを語ってもらった。
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