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構造化特集
万引き依存症
公開日: 2018/10/30(火)

【万引き依存症】「やめたくてもやめられない」という病

公開日: 2018/10/30(火)
構造化特集
万引き依存症
公開日: 2018/10/30(火)

【万引き依存症】「やめたくてもやめられない」という病

公開日: 2018/10/30(火)
構造化特集 : 万引き依存症
構造化の視点

万引きをやめたくてもやめられないー。万引き依存症、通称

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万引きをやめたくてもやめられないー。万引き依存症、通称クレプトマニア。その実態について、依存症当事者、万引きGメン、弁護士などにインタビュー。万引きを始めたきっかけや万引き依存症になるプロセス、依存症からの脱却といった視点から、病理の実態を構造化する。


「離婚を切り出されたとき、やっと解放されると思ったんです。夫と子ども2人の生活から、やっと1人になれる。これで思う存分、万引きができると思いました」

 

万引きをやめられない東京都内在住の女性(33)は、1年前の離婚当時の心境をそう語る。

 

 

22歳のときに結婚し、その3年後、最初の子どもが生まれた頃から万引きがはじまった。買い物に行くたびに万引きをする。最初は少しずつだったのが次第にエスカレートし、制御不能になっていった。

 

「結婚していた当時、私は主婦で平日は子ども2人と過ごしていました。ただ、ずっと一緒にいるのがしんどくて、あるときから長女は認可外の保育園に預けるようになりました。次女が生まれる前まで毎日のように万引きをしていたので、私の中では万引きができないという状況がとても苦しかったんです」

 

治療施設に入っても彼女の万引きは止まることはなかった。そして、万引きをやめることができない彼女は、夫から離婚を突きつけられた。7歳と5歳の娘2人は元夫に引き取られたという。

万引き依存症という病

これまでに万引き依存症とされる患者1800人以上を診察してきた群馬県の精神科病院・赤城高原ホスピタルの竹村道夫医師は「万引きをやめたくてもやめられない。そうした人たちは窃盗症であることが多いです」と話す。

 

窃盗症やクレプトマニアという病名である、通称「万引き依存症」だ。

 

「ところが、病気だと認識されず、何度も刑務所に入っている人がいます。窃盗症は女性が多いのですが、彼女らに必要なのは処罰ではなく治療です」

 

Shutterstock 

 

万引き依存症は、さまざまな依存症のなかでも認知度が低く、治療機関や支援体制も不足している。そうした背景には、万引きを繰り返す人が依存症という病気だと社会的に認識されていない現実がある。

 

「万引きを繰り返す人に対して、治療するという発想は、一般の人には思い浮かばないかもしれません。以前はギャンブルもアルコールも道徳の問題とされ、治療が必要だという認識が広がるまでに時間がかかりましたが、現在の万引きへの依存症も同じ状況にあります。世間では、万引き常習者を病人扱いするのはおかしいじゃないかという風潮がまだまだあるんです」(赤城高原ホスピタル・竹村さん)

 

そうした状況は、万引き依存症の人たちをより苦しめ、さらには家族をはじめとする周囲の人たちの人生も狂わせていく。

被害総額1日13億円の衝撃

「平成29年版 犯罪白書」によれば、2016年の万引きの認知件数は11万2702件。刑法犯で最も多い窃盗のうちの15.6%を占める。

 

全国で1日300件以上、時間にして約5分に1回発生しているほど数が多いが、これらは認知されている万引きをカウントした数字であり、発生したことすら把握されていない“暗数”も多いとされる。

 

他の犯罪と比べると一件あたりの被害も小さいことから軽視されがちな万引きだが、被害の総額は膨大だ。万引きという犯罪防止のために立ち上げられた全国万引犯罪防止機構の推計では、年間被害額は約4615億円。1日あたりに換算すると13億円近くにも上る。

 

 

そして、万引きは再犯率がとても高いことでも知られる。

 

「窃盗事犯者と再犯」を特集した「平成26年版 犯罪白書」では、前科のない万引き事犯者のうち、窃盗再犯を行った136人中、90%以上が万引きで再犯していることが明らかになった。さらに出所後1年以内に再犯をする人が多いこともわかっている。

 

冒頭の彼女もまた「毎日、万引きをしないと気が狂いそうだった」と話す。

 

「だから離婚のときも、すべて元夫の言うとおりにしました。子どもの親権のことも、母親なのになぜ引き取らなかったのかと思われるかもしれないけど、私には無理だったんです。万引きに狂っていたから……。離婚が成立したときは悲しくて涙が出ました。でもやっと解放されたという思いのほうが強かった」

 

なぜ彼女はそこまで追い込まれてしまったのか。彼女が抱えていた「心の闇」とはなんだったのかーー。彼女が万引き依存症に至った経緯は第1回の記事で詳述する。

万引き依存症を取り巻く課題

本特集では、万引き依存症を取り巻く現状を構造的に捉えることを試みる。そして、万引きに対する認識を覆し、当事者の声とともに万引きという行為に潜む病理の実態を明らかにしていく。

 

 

第1章《万引きへの入口》

 

 

第1回【万引きできないと気が狂う…ある女性の告白】では、ある女性の壮絶な万引き体験やその引き金・原因となったことを探る。

 

第2回【万引き依存症は「家族の問題」なのか】では、常習化する前の万引きの入口にフォーカス。何がどのように万引きのきっかけとなるかを考える。

 

第2章《万引き依存への道》

 

 

第3回【万引きGメンが問う「万引き常習者は“依存症”か」】では、これまでに5000件以上の現場に対峙してきた万引きGメンの視点から、万引きの実態に迫る。

 

第4回【常習的な万引き、「依存症」との境界線】では、何をもって常習的な万引きを「依存症」と診断するのかを問い、病理の実態を明らかにする。

 

第3章《万引き依存からの脱却》

 

 

第5回【彼女が「万引き依存症」になった理由】では、万引き依存に陥っていく過程や依存の実態について当事者のインタビューを通じて「家族問題」を浮き彫りにする。

 

第6回【300円の万引きで税金130万円?社会的コストを考える】では、万引き依存症という病がどのようにして社会に影響するのかについて考える。

 

第7回【万引き依存症になるのは「自己責任」か】では、自己責任ではなく回復責任論を提唱し、万引き依存症を社会的にどう捉えるべきかを模索する。

 

そして、第8回【リディラバ安部が考える「万引き依存症という病」】では、リディラバジャーナル編集長である安部敏樹が万引き依存症をめぐる現状や問題点について語る。

 

ーーー

 

昨今、少しずつ認識されつつある万引き依存症だが、当事者を取り巻く実態はまだまだ課題が山積している。本特集を通じ、この病への理解と支援を考える機会にしてほしい。

リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
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CONTENTS
intro
万引きへの入口
no.
1
no.
2
万引き依存への道
no.
3
no.
4
万引き依存からの脱却
no.
5
no.
6
no.
7
安部コラム
no.
8