ホームレス:彼・彼女らが失い、取り戻すもの | Ridilover Journal(リディラバジャーナル)
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ホームレス
彼・彼女らが失い、取り戻すもの

ホームレス芸人を名乗る、小谷真理さんという男性がいます。


ウェブ上で1日を50円で売り、その名の通り家を持たず生活しているそうです。彼のSNSを見ると、非常に充実した日々を過ごしていることがうかがえます。

 

堀江貴文さん。かつて自著で、出所後にマンションの賃貸契約を拒まれて不愉快な思いをしたことなどから、ホテル暮らしをしていると語っています。その暮らしは快適で身軽だと言います。


社会問題について知るための記事なのに、いきなり芸人とホリエモン? といった疑問の声が画面の向こうから聞こえてくるようですが進めさせていただきます。この2人の共通点、それは「家がない」ことです。


リディラバジャーナル、記念すべき最初の特集で取り上げるテーマは「ホームレス」。


バブル崩壊後や年越し派遣村が話題だった頃ならまだしも、いまさらホームレス? 新鮮味ねえな。そんな向きもあるかもしれません。


しかし、我々の中のホームレス像はいつまでもアップデートされず「路上で暮らすおじさん、おじいさん」という単純なラベリングのままになっているのではないか。そもそも、なぜホームレスになるのか、ホームレスであり続けるのかについて、深い理解が進んでいないのではないか。このような問題意識によりこのテーマを選ぶことになりました。


ホームレスとひとくくりにされますが、いつもいつも同じような人たちがホームレスというわけではありません。

 

「日本においてホームレス問題が深刻化して23、4年というところですよね」


そう語るのは、大学生の頃からホームレスの支援活動を続ける立教大学大学院特任准教授・稲葉剛さん。稲葉さんの言うように、1990年代前半のバブル崩壊後、社会問題として大きく取り上げられるようになりました。

ホームレス問題の歴史について語る稲葉さん(左)と編集長・安部。


このとき、ホームレス問題とは景気や雇用の問題でした。

 

もう少し時代は下って2008年。リーマン・ショックに端を発する世界的な不況が起こった際、派遣労働者の解雇や雇い止めが発生。職と住まいを失った人々がホームレス化しました。このときのホームレス問題もやはり、景気と雇用の問題でした。


では、ホームレス問題とはつねに経済や労働の文脈で語れる問題なのでしょうか。最新のデータである2017年11月の完全失業率は2.7%で、24年ぶりの低さとなっています。


景気が上向いている現在、景気や雇用が主要因でないことは明らかです。今、働ける人はホームレスを脱しています。むしろ、年齢や健康などの事情で働けない人が取り残されており、景気・雇用の問題というより福祉の問題となっています。


とくに、最近の調査・研究で、知的障害や精神障害のある人がホームレスとなっていることもわかってきています。

また、ホームレスになる背景には借金だなんだと一人ひとりバラバラの問題があると思われがちですが、取材を進めていくと、ホームレスとなるまでの流れや、ホームレスから脱するのが難しい理由には共通点があることがわかってきました。

ホームレス構造化マップ

今回、リディラバジャーナルでは、ホームレス問題を上の図のような切り口で見ていきます。


取材を通して、一度ホームレスになると抜け出せない、蟻地獄のような構図が見えてきました。蟻地獄と表現しましたが、入り口は一つではなく、ホームレスになる前の条件から2パターンに大別できます。


図にある「『資産』の多い人」「障害者を含む『資産』の少ない人」のことです。


ここでいう「資産」とは、なにも「金銭」「家」などの財産に限った話ではありません。「家族」「友人」といった人間関係、「学歴」「職」「自尊心」といった目に見えないものも含まれます。


この「資産」については、これまでのホームレス研究でもしばしば言及されており、社会活動家の湯浅誠さんは「溜め」という言葉で表現。長年、貧困やホームレス問題研究に従事してきた日本女子大名誉教授・岩田正美さんは「抵抗力」と呼んでいます。


あわせてホームレスという言葉についても説明しておくと、何も路上生活を送る人々だけを指す言葉ではありません。そもそも、ホームレスとは貧困の一つの、そして最も極まった状態です。つまり、ホームレスとは特別な特定の種類の人間を指し示す言葉ではなく、「家がない状態にある」ことを指す言葉です。


路上で暮らす人はたしかに家がないのでホームレスです。ですが、ネットカフェ難民、カプセルホテルやドヤと呼ばれる簡易宿所で暮らす人、友人の家を転々としている人などもみなホームレスです。ホームレスという状態の中でもっとも極まった状態が、路上生活なのです。


ホームレスになったからといって、誰もが路上生活に至るわけではありません。図を見てわかるように、「『資産』の多い人」は比較的抜け出しやすく、比例して路上に至る前にホームレスを脱する可能性も高まります。


一方、ホームレスになってからも、様々な理由でどんどん「資産」を失った結果、路上に至る人もいます。


これまでの説明の通り、取材を通してホームレス問題には普遍的なものがあることがわかりました。

 

それは、ホームレスに「なるとき」に失うもの。

「なったとき」に抜け出せない仕組み。

「脱するとき」のハードルの高さです。

 

それをイメージしやすいように表したのが、上の図です。


では、「なるとき」「なったとき」「脱するとき」の普遍的な問題点とは何なのか。


第一回「結婚できると思わなかった。ホームレスが失った『資産』とは」では、「『資産』の多い人」「『資産』の少ない人」のそれぞれが、どのように貧困、そしてホームレスに至ってしまうのか。研究者への取材をもとに紹介します。

 

第二回は「あらゆる人を引きずり込む。ホームレスを生む日本特有の構造」。実は日本には、「資産」の多さに関わらず、あらゆる人が貧困、ホームレス陥りやすくなってしまう社会システムがあることがわかりました。

 

第三回「筋トレからケータイへ。ホームレスの就職対策」は、「なぜホームレスは働かないのか」との問いへのアンサーです。働きたくても働けない。その原因が社会の側にありました。

 

第四回の「熟睡なんてできるわけない。ホームレスの宿命」では、第三回に引き続きホームレスが働けない理由を紹介。過酷なホームレス生活に、働けなくなる理由がありました。

 

第五回は「スナックに代わる人間関係を。住まいの次に必要なもの」。ホームレスを脱しようとするとき、必要なものは無数にあります。ですが近年、優先して回復すべき「資産」が何なのかがわかってきました。「ハウジングファースト」をキーワードに、優先すべき「資産」について紹介します。

 

第六回は「家族からもむしりとられる。ある障害者が家を失った話」。景気も回復している今、ホームレス、とくに路上生活を送っている人の中に、知的障害や精神障害のある人が多くいることがわかってきました。なぜ障害のある人が路上生活に至ってしまうのか。元当事者の声を踏まえ解説します。

 

第七回の「ひとりはつらいよ。ホームレスだからこそ重要な人間関係」。知的障害や精神障害のある人が路上生活を送るのは困難を極めます。抜け出したくても抜け出せない。そんな障害のあるホームレスの実情に迫りました。

 

第八回は「路上じゃない時代もロクでもなかった——ホームレスを選ぶ人々」。路上生活を送る知的障害や精神障害のある人の中には、路上生活を続けることを望む人もいるといいます。どうしてそのような心境に至ったのでしょうか。

 

第九回「障害がある人にこそ『まず住まいを』。ハウジングファーストという手法」では、「ハウジングファースト」が知的障害や精神障害のある人にこそ効果的な理由を、支援者や研究者の声から見ていきます。

 

第十回「日本の『しんどい人』を救う。ベーシックインカムより必要なもの」では、知的障害や精神障害のある人に「住居」以外で必要な支援を見ていくとともに、相対的貧困率がじわじわ上昇する日本において「ハウジングファースト」はホームレス以外にも必要な考え方である理由を解説します。

 

※「ホームレス」とは文字通り「家がない状態」なので、路上生活を送る人以外にも、ネットカフェで寝泊まりする人(ネットカフェ難民)、カプセルホテルやドヤ、友人宅を転々として暮らしている人なども「ホームレス」です。私たちは、路上や駅で見かける人々だけがホームレスだと思いがちですが、実は可視化されていないホームレスも存在します。つまり「ホームレス」「路上生活」というのは、その人が今置かれた「状態」を指し示す言葉です。リディラバジャーナルでは便宜上、記事中では「状態」を除いたかたちで使用しています。

 

※また、「障がい者」は「障害者」と表記します。「障がい者」という表記の場合、音声読み上げソフト等で読み上げる際、「さわりがいしゃ」と読み上げられる場合があります。そのため、音声読み上げを利用される方のアクセシビリティに配慮して「障害者」という表記を利用します。

 

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この記事に寄せられたコメント

User
廣瀬正樹
金銭的な意味合いではない「資産」という指摘には、なるほどと感じました。自分自身の「資産」にも気付かされました。
社会人になりたての頃、軽い”寄付”のつもりで、貰い物の缶ビールを路上生活者の方の寝床に置いて帰ろうとし、その方に激怒されたことがあります。その場でじっくりとお話を伺い和解しましたが、相手への尊厳を持ちながら支援することの大切さと、その難しさを感じました。
「2020」が注目されていますが、オリンピックに向けて東京都内で排除される路上生活者の方々がいるのではないか、と密かに気になっています。
廣瀬さん、コメントありがとうございます!
自分自身、どのような「資産」を持っているか振り返ってみることは、ホームレス問題だけに限らず「いかに生きるか」を考えた際、非常に重要だなと取材を通して感じました。
廣瀬さんのエピソード、印象的ですね。のちの記事で、相手を慮りながら支援に取り組む方々のコメントの掲載しておりますので、よければご覧ください!
リディラバジャーナル編集部からの返信
User
下島健太
まさにホームレスというと路上生活を送る人だと思っていたためスタートラインからあたらめる必要があることを知らされました。
自分でもホームレスとの差は紙一重と思うことがたまにあるので、どう紙一重なのかを記事を読み進めながら考えたいと思います。
下島さん、コメントありがとうございます。
この特集で取材した日本女子大名誉教授・岩田正美さんは、若年層の今後も心配されていました。
ノマドなど流行っているけれど、いざというとき大丈夫か、と。
岩田さんがかつて路上生活を送っている人を調査したところ、元料理人など手に職を持つ人も結構いたそうです。
一見食いっぱぐれがなさそうな職業の人でも、路上生活、ホームレス状態におちいることがある。それがなぜなのか、この特集を通して共に見ていければと思います。
リディラバジャーナル編集部からの返信
User
ホー バック
資本主義の経済システムからはじき出された末路がホームレスなのかなと思う。だから、個人の力では抗えずにどんどん悪循環に。欧米は再分配が根付いているイメージだけど(寄付とか北欧系の福祉政策とか)、アジアはやっぱり地縁による共助がメインかな・・・?
ホーさん、コメントありがとうございます。
今回、諸外国について入念に調査したわけではないのですが、こと住宅政策についていうと、欧米の方が低所得者向けの住宅政策が充実傾向にあるそうです。
そのため、多少は再分配機能が働いているかもしれませんね。もちろん、そのぶん格差も大きいという問題もあるでしょうが……。
リディラバジャーナル編集部からの返信
User
Kazunori Nakaguma
今まで無意識だった「ホーム」とはなにか?という「ホームの機能」をもっと意識すら必要ありますね。不登校や引きこもりに携わる教師や教育者に伝えたいと思います。
Nakagumaさん、コメントありがとうございます。
「ホームの機能」、おっしゃる通りですね。
取材をしていくと、子どものころ不登校だった、いじめられていたというエピソードもしばしば耳にしました。
子どもの頃から、家庭や学校以外の居場所作りを意識していると、何かあったときセーフティネットとなる居場所や人間関係を築けるのかな、と感じています。
ぜひ、先生をはじめ教育に携わる方にもこの問題共有していただければ!
リディラバジャーナル編集部からの返信
User
morimorimorimorityan
ノマド生活をしている人に知ってほしい!将来的に社会的資本を築けなかったらそうなる可能性がある
morimorimorimorityanさん、コメントありがとうございます!
ノマドワーカーの方も、意識的に人間関係を築いていかないと、気づいたら人間関係という「資産」が極めて少ないという状況が出てくるかもしれませんね。
若いから、最先端のスキルを身につけているからといってホームレス問題と無関係とはいえないので、ぜひ周囲の人にもこの問題を拡散していただけると嬉しいです!
リディラバジャーナル編集部からの返信
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Yukimi Kama
17年ほど前、仕送りで生活していた大学生だったときに自宅マンションの裏階段でホームレスの若い女性に出会いました。あのとき、もっと違う形で彼女と関わることができたんじゃないかと、今でも時々思い出すことがあります。
多くの人にその構造が理解されることで、必要とする人に支援の手が届きやすくなるのではないかと、今回の特集に期待しています。
Kamaさん、コメントありがとうございます。
先日、今回の特集でも取材に応じてくださった稲葉剛さんが、下記のような投稿をされています。
https://www.facebook.com/inatsuyo/posts/1603683599701532
ホームレスの方にお会いした際、支援団体を紹介するだけでも救われる場合があるようです。
いつも支援団体の情報を持ち歩く。そんな一歩から始めるのもいいかもしれませんね。
リディラバジャーナル編集部からの返信
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安部敏樹
第一回の特集はホームレス問題です。ホームレスの問題は誰もがイメージするThe・社会問題ですが、その内実は今変わってきています。知っているようで、多くの人は「理解」できているわけではない、そんなホームレス問題の事情を解き明かしていきます。
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特集 ホームレス:彼・彼女らが失い、取り戻すもの 全11回
0章 はじめに
1章 ホームレスになるとき
2章 ホームレスになったとき
3章 ホームレスを脱するとき
4章 障害者がホームレスになるとき
5章 障害者がホームレスになったとき
6章 障害者がホームレスを脱するとき
7章 安部コラム
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