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構造化特集
プラスチックごみ
公開日: 2019/2/5(火)

【プラスチックごみ】“使い捨て”が生む弊害

公開日: 2019/2/5(火)
構造化特集
プラスチックごみ
公開日: 2019/2/5(火)

【プラスチックごみ】“使い捨て”が生む弊害

公開日: 2019/2/5(火)
構造化特集 : プラスチックごみ
構造化の視点

2050年、海に漂うプラスチックごみの量は、世界の海中

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2050年、海に漂うプラスチックごみの量は、世界の海中の魚を合わせた量を上回るとも試算されている。そうした海洋汚染問題の主な原因は、私たちが大量消費しているプラスチックごみです。リサイクルされていると思われていた資源は、実は「循環」していないという現実も。プラスチックがごみになった「その後」を構造的に考えます。


2050年、海に漂うプラスチックごみの量は、世界中のすべての海中の魚を合わせた量を上回るーー。

 

これは、国連環境計画(UNEP)が2017年に発表した、重量をベースにした試算だ。

 

人間によって排出された廃棄物による海洋汚染は、以前から地球規模の問題とされてきた。海洋汚染のうち、およそ8割をプラスチックごみが占めるということが最近の研究でわかっている。

 

Shutterstock.com

 

そして、海洋が汚染されるペースが抑制されない限り、30年後、海は魚ではなくプラスチックごみによって支配される未来を迎えることになる。

海洋汚染は末期的な状況

2015年、ウミガメの鼻の中にストローが突き刺さった動画がインターネット上に投稿され、瞬く間に拡散された。

 

多くの人に衝撃を与えた動画には、ウミガメの鼻から10分近くかけてストローを引っ張り出す様子が収められている。ウミガメは終始もがき苦しんでおり、引っ張り出されたストローは劣化して茶色くなったプラスチック製のものだった。

 

※ウミガメが出血するシーンが含まれていますので、閲覧の際はご注意ください。

 

海洋ごみの問題に取り組む一般社団法人JEANの小島あずさ事務局長は、このようなケースは氷山の一角だと話す。

 

「2018年には、神奈川県鎌倉市の由比ケ浜に漂着した生後6カ月未満のシロナガスクジラの死骸の胃の中から、ビニールが見つかりました。魚や海鳥が誤って飲み込んで死に至るケースもある。海におけるプラスチックごみの問題は深刻化しています」

 

由比ヶ浜のクジラの場合は死因との関連はなかったとされるが、生後6カ月未満は母乳だけを飲む時期。ビニールは偶然に飲み込んだと見られるものの、海中にプラスチックごみがあふれていることを示している。

 

さらに、プラスチックが微細化された破片である「マイクロプラスチック」もまた、海中の生物にとって大きな脅威になっている。マイクロプラスチックとは、プラスチックが海洋に流出する過程で波や紫外線にさらされて劣化し、直径5ミリ以下の粒子となったものを指す。

 

有害な化学物質を吸着しやすいとされるマイクロプラスチックは、魚や鳥が餌と食べてしまうこともある。それらは食物連鎖を通じ、生態系に悪影響を及ぼしていることがわかっている。また、魚を食べる人間の健康への影響も懸念されている。

 

「多くの人がプラスチックを大量に消費しながら、『ごみ』になった後のことをきちんと考えてこなかった。その結果として、海は末期的な状況にあります。すでに海中にあるプラスチックごみを回収することは不可能。最近になってようやく着目されるようになりましたが、もっと早期に着目されるべきだったと感じます」(小島さん)

海洋汚染だけではない弊害

プラスチックごみが世界的な問題になるなか、日本はプラスチックの大量消費国でもある。国連環境計画によれば、1人あたりが排出する使い捨てプラスチックごみ量で、日本はアメリカに次いで世界2位とされている。

 

Shutterstock.com

 

世界で生産されているプラスチックは年間約4億トンとされるが、その大半は“使い捨てプラスチック”。つまり、使用してすぐに捨てられてしまうペットボトルやレジ袋、ストローといったものだ。

 

日本では、家庭で出る使い捨てプラスチックごみは通常、分別して捨てれば市町村により資源ごみとして回収される。海洋汚染で問題となるのは、「回収されなかったごみ」であり、主にポイ捨てや意図せず排出される微細なごみなどを指す。では、回収を徹底すれば海洋に流れることはなく問題はないのか。

 

それに対して、プラスチックごみによる海洋汚染を調査している東京農工大学の高田秀重教授は「SDGsで課題とされている全体を見据えた対応が必要」とし、次のように話す。

 

「使い捨てプラスチックの多くは石油を原料としています。石油ベースのプラスチックは焼却処理すればエネルギーを回収したとしても、温暖化ガスの発生につながる。それは、SDGsの13番目の目標でもある『地球温暖化の抑制』に逆行するものです」

 

Shutterstock.com

 

回収されたプラスチックごみは「リサイクルされる」と多くの人に認識されているが、国内で再資源となって循環しているものは、国際基準で見れば27パーセントに過ぎないのが実態だ。

 

さらに、プラスチックの主原料である石油資源は枯渇の危機が叫ばれて久しい。高田さんは「世界の石油産出量の8%がプラスチックの生産に使われています」と話す。

 

こうして、「“使い捨てられる”プラスチックごみ」による影響を構造化して捉えると、近年注目を浴びているプラスチックごみによる海洋汚染は、もたらされる弊害の一つでしかないことが見えてくる。

 

すなわち、プラスチックごみの問題は「捨てる」という観点だけでなく、リサイクルや消費にも着眼しなければ包括的な解決に至らない。それが、SDGsで「減プラスチック社会」への構造転換が挙げられている所以でもある。

問われるプラスチック社会のあり方

本特集では、プラスチックごみを取り巻く構造として、「投棄」「リサイクル」「消費(生産)」の3つの視点から問題を浮き彫りにしていく。

 

 

プラスチックごみが、海洋汚染や地球温暖化、石油資源の枯渇といった問題に直結していることを踏まえれば、社会的に取り組むべき喫緊の社会問題だと言える。

 

第1章 捨てられたプラスチック

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第1回【「プラスチックごみ」によって深刻化する海洋汚染】では、プラスチックごみを取り巻く実態からどのように世界的なイシューになったのかをたどる。

 

第2回【「プラスチックごみ」がもたらす海への脅威】では、海洋を漂うことになったプラスチックごみは、具体的にどのような弊害をもたらすのかを浮き彫りにしていく。

 

第2章 プラスチックごみリサイクルの実態

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第3回【「プラスチックごみ」のリサイクルの実態】では、回収されたごみがたどる「リサイクル」にフォーカスし、その実態を解き明かしていく。

 

第4回【限界を迎える「プラスチックごみ」の行方】では、中国が輸入をストップし、さまようことになったプラスチックごみの行方を考える。

 

第3章 消費から考えるプラスチック

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第5回【問われる「プラスチック大量消費」社会】では、これまでプラスチックに依存してきた社会のあり方を問うとともに、これからあり方を模索する。

 

第4章 安部コラム

 

第6回【リディラバ安部が考える「プラスチックごみ問題」】では、リディラバジャーナル編集長である安部敏樹がプラスチックごみをめぐる現状や問題点について語る。

 

ー ー ー

 

人が追求してきた「豊かな暮らし」の代表例でもあるプラスチック。プラスチックごみが生む弊害はごみ問題としてだけでなく、私たちの生活のあり方にも直結する問題だ。

 

便利かつ安価でもあるプラスチックは、さまざまな場面で活用されている。しかし世界的には、プラスチックに依存した生活からの脱却が叫ばれるようにもなっている。

 

本特集を通じて、これまで何気なくプラスチックを大量消費してきた生活を見つめ直す契機にしてほしい。 

リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
イシューから探す
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CONTENTS
intro
捨てられたプラスチックごみの行方
no.
1
no.
2
プラスチックごみリサイクルの実態
no.
3
no.
4
消費から考えるプラスチック
no.
5
安部コラム
no.
6
2022年の現状
no.
7
プラスチック資源循環の現在地と未来
no.
8