カミングアウトとアウティング:悲劇を繰り返さないために | Ridilover Journal(リディラバジャーナル)
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カミングアウトとアウティング
悲劇を繰り返さないために

「兄は、異性愛が当たり前の社会で、アイデンティティの核である性的指向について、伝える相手を慎重に選び、その上で人間関係を築いていました。自分が信頼して『言える』と決めた人ではない、不特定多数に核の部分をさらけ出されて、すごく動揺したと思いますし、何かが崩れるような感覚だったのではと思います」

 

そう語るのは、2015年に亡くなった、一橋大学法科大学院の男子学生Aさん(当時25歳)の妹。

 

Aさんは亡くなる2ヶ月前、以前告白した男子同級生のZさんから、同性愛者であることを同意なく暴露(アウティング)されていた。

 

2016年、Aさんの両親は、Zさんと一橋大学を提訴。Zさんとは2018年に和解したが、大学とは裁判が継続。2019年2月27日の判決で東京地裁は、「適切な対応を怠ったとは認められない」として、大学に対する請求を棄却した。

 

 

この判決に先立ち、リディラバジャーナルではAbemaTVのニュース番組「AbemaPrime」と共同取材を実施。

 

同性愛者に対する「アウティング」について取材する中で、密接不可分な問題として出てきたのは「カミングアウト」だった。

なぜ、カミングアウトをするのか?

現在の日本社会において「カミングアウト」という言葉は、「他人に明かしていない秘密を口外する」といったニュアンスで使われている。

 

日本テレビ系のバラエティ番組「カミングアウトバラエティ‼︎秘密のケンミンSHOW」のタイトルなどは、まさにその代表例だろう。

 

しかし、カミングアウトとは本来「LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー )などが、自分の性的指向(恋愛や性的欲望の対象)や性自認(自分の性別に関する意識)について誰かに伝えることを指す言葉」(砂川秀樹著『カミングアウト』)だ。

 

では、なぜLGBTの当事者は──とくに今回の特集に関して言うと、同性愛者は──カミングアウトするのか。

 

「カミングアウトをしない限り、異性愛者だとして扱われるからです」

 

自身も同性愛者であり、慶應義塾大学大学院でジェンダー・セクシュアリティの研究をする、中村香住さんはそう指摘する。

 

 

「彼女は?」

「彼氏は?」

「結婚は?」

 

異性愛者であることを前提としたコミュニケーションの中で、時にごまかし、時に嘘をつき……。カミングアウトをしない限り、自分を偽り傷つき続ける。

アウティングをさせないために

「カミングアウトされたとき、信頼されてるんだなという嬉しさがありました。ただ同時に、驚きもあったのが正直なところです」

 

そう振り返るのは、福岡県に住む女性(32)。大学生の頃、親しい友人から女性が好きなことを打ち明けられた。

 

「驚いたのは驚いたけれど、友人であることには変わりがないので、とくに関係性が変わることはありませんでした」

 

 

しかし、カミングアウトを受けた誰もがこのように対応できるわけではない。

 

異性愛を当たり前と思っている中、カミングアウトを受けて驚いたり、動揺したりする人がいるのも事実だ。

 

取材を進めていくと、こうした「カミングアウトを受ける側」への相談・支援体制が貧弱であるという問題が見えてきた。そして、この体制の貧弱さが、アウティングの危険性につながっている。

 

「以前、講義で質問したら『カミングアウトをされたとき、どうすればいいかわからない』という学生が大半だったんです」

 

そう明かすのは、筑波大学助教の河野禎之さん。

 

 

「カミングアウトをされた人が対応できず、偶発的にアウティングが起こる可能性は捨てきれない。そう考えると、カミングアウトを受けた学生への支援は絶対必要だと判断しました」

 

このような危機意識から、筑波大学では、LGBTの学生への支援体制とあわせて、カミングアウトを受けた学生への支援体制も整え、相談を受け付けていることをPRしている。

 

 

異性愛が前提とされ続ける限り、カミングアウトの必要性はなくならない。

そして、アウティングの危険性も消えない。

 

そのような現状の中、アウティングを防ぐためには、どのような支援体制や啓発活動が必要なのか。

 

本特集では、この点について見ていき、一橋大学アウティング事件のような悲惨な出来事を二度と繰り返さない社会とするために必要なことを考える。


 

 

なお、本特集は「一橋大学アウティング事件」を契機としていることから、LGBTの中でもとくに、同性愛者の「カミングアウト」と「アウティング」を中心に見ていく。

 

 

第1章 一橋大学アウティング事件

第一回は【原告側・南和行弁護士が語る「死の原因は同性愛ではない」】。大学側との裁判の原告代理人を務める南弁護士が、大学との裁判でのやり取りなどについて語る。

 

第二回は【原告側・南和行弁護士が「アウティングは不法行為」とする理由】。自己情報コントロール権、自己決定権に関係して、なぜアウティングを不法行為と考えるか解説。

 

第三回は【原告側・南和行弁護士が指摘する大学の問題点とは】。南弁護士が裁判を通じて感じた一橋大学の問題点とは。

 

第2章 LGBTとは

第四回は【fair代表理事・松岡宗嗣さんが解説する「LGBTとは?」】。自身も同性愛者である松岡さんが、セクシュアルマイノリティの総称の一つであるLGBTや、セクシュアリティについて解説。

 

第3章 カミングアウト

第五回【同性愛者がカミングアウトする事情】では、異性愛者が前提とされる中で、同性愛者がカミングアウトをする背景にあるものを考える。

 

第4章 カミングアウトと人間関係

第六回は【親しいからこそ難しい、家族・友人へのカミングアウト】。親、家族、友人……。近い存在だからと言って、カミングアウトしやすいというわけではないと経験者は指摘する。

 

第5章 アウティング

第七回【なぜしてはいけない?アウティング】。一橋大学の事件は、例外的なものだったのか。筑波大学の河野助教は「どこで起こってもおかしくない」と危機感を募らせ、アウティングの問題点を語る。

 

第6章 所属組織

第八回は【大学・企業がアウティング対策をすべき理由】。ガイドラインで「アウティングはハラスメント」と規定する筑波大学。大学として熱心に対策を勧める理由とは。

 

第7章 相談機関・支援団体

第九回【一致しない、カミングアウトした人・された人の数】。ほとんど聞かれない「カミングアウトをされた人」からの相談。いかにリーチしていくかを考える。

 

第8章 安部コラム

第十回【リディラバ安部の考える「カミングアウト」と「アウティング」】。南弁護士への取材などを通して考えた、リディラバジャーナル編集長・安部敏樹の「カミングアウト」と「アウティング」の問題点とは。

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特集 カミングアウトとアウティング:悲劇を繰り返さないために 全10回
0章 はじめに
1章 一橋大学アウティング事件
2章 LGBTとは
3章 カミングアウト
4章 カミングアウトと人間関係
5章 アウティング
6章 所属組織
7章 相談機関・支援団体
8章 安部コラム
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