経済成長の柱として「観光立国」を掲げ、外国人観光客の誘致に力を入れる日本。
法務省により発表された2017年の外国人入国者数はおよそ2743万人、前年比約421万人の増加で過去最多となりました。
しかし、この2743万人の中の一部には、日本にとって「招かざる客」とも言える人たちが含まれています。それが「難民」と呼ばれる人たちです。
シリア人男性が難民不認定だった理由
2018年3月、シリア人4人による難民認定を求める訴えを東京地裁が退けたというニュースが話題になりました。
この裁判は、シリア内戦の激化に伴い、アサド政権からの弾圧を逃れて日本にたどりついたシリア人が「難民不認定」とされた行政判断を問うものでした。
しかし、司法判断でも「難民ではない」とされてしまったのです。
難民と認められなかった一人、シリア人男性のユセフ・ジュディさんは、「この判決に従うのならば、シリアから脱出した世界中にいるシリア難民が『難民ではない』ということなのでしょうか」と訴えます。
ジュディさんは、アサド政権から弾圧されていたクルド民族の部族長の家系であり、反政権を掲げるデモにも参加。
政権側から家族が危害を受けたことで国外避難を決意し、やむなくブローカーの力を借りてイギリスを目指しました。
しかし、頼みのブローカーが支払ったお金を持って姿をくらまし、イギリスまでたどり着くことができず、フランスに到着。
フランスで難民申請をすることを望まなかったジュディさんは、経由地でもあった日本に戻されました。
来日してすぐの2012年に日本で難民認定を申請しましたが、法務省入国管理局は「人道配慮による在留特別許可」を与え、「難民」とは認めず。
ジュディさんは日本に留まることはできたものの、「難民認定」ではないために1年ごとに在留許可更新をしないといけないなど、現在にいたるまで不安定な生活を送っています。
ジュディさんらは、反政府活動をしていたことでシリア政府による迫害のおそれがあったことを主張していました。しかし今回の判決では、それを客観的な証拠によって立証できなかったという理由で請求を退けられました。
この「客観的な証拠による立証」について、「そもそも客観的な証拠を持って国外に逃れる難民申請者のほうが稀です」と全国難民弁護団連絡会議の代表を務める渡邉彰悟弁護士は指摘します。
「客観的な証拠を持って国外に逃亡しようとしていることが政権側に知られれば、命をさらす大きなリスクになる。物証がない前提で、難民であるか否かを判断することが受け入れ国には問われるんです。にもかかわらず、過度な立証を要求する日本は、国際的な基準から見るとあまりに厳しい」
日本では難民申請の99.8%が不認定
日本で保護を求めて難民認定申請をした人の数は、2017年には1万9629人。これは前年比8728人増、過去最多の数字です。
それに対して、難民申請の処理数は1万1361人で、うち難民と認定されたのはわずか19人。認定率にして0.2%になります。
本来、難民には該当しない外国人が難民申請を行っている現実もあり、一概に認定率の低さだけを問題にするべきではないという声もあれば、難民申請者のうち99.8%もの人が不認定となる日本に対しては国内外から非難の声があがっています。
なぜ日本の難民認定率はここまで低いのでしょうか。またそこにはどのような構造があるのでしょうか。
日本における難民認定は、来日した本人による申請後、法務省入国管理局によってA〜Dの区分に振り分けられます。
その後、認定・不認定という結果が出て、不認定で不服がある場合は異議申し立てをします。
異議申し立てという再申請の認定・不認定という結果をもって難民認定申請のプロセスは終了します。
冒頭で紹介したシリア人のジュディさんのケースは、こうした一連のプロセスを経て「不認定」とされ、さらに「不認定」は不服だとして起こした裁判でも敗れてしまったのです。
本特集では、複雑に絡み合う要素を構造的に捉えるために、「難民認定率0.2%」という現実が生まれてしまう背景に迫ります。
難民当事者や弁護士、支援団体、有識者などの見解をまとめながら、「日本の中にある『難民問題』」について全10回の記事を通じて解き明かします。
第一章は【「難民保護」より優先される「入国管理」】。
第一回【認定率0.2%、日本は「難民に冷たい国」なのか】では、難民認定率が0.2%という数字をどう捉えるか、さまざまな見解を交えながら、難民受け入れの是非を考えます。
第二回【「誰が難民なのか」、世界とかい離する日本の解釈】では、国際基準よりも難民条約を狭義に解釈し、結果的に難民認定率を下げてしまっている日本の現実に迫ります。
第三回【「偽装難民が多数」は本当か?移民政策なき日本の現実】では、「移民は受け入れない」という日本政府の“建て前”と外国人に依存している労働現場の“実態”、そのかい離によって難民申請が濫用されている現実を見ていきます。
第二章は【厚くて高すぎる「難民認定」のハードル】。
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第四回【「本当の難民」であることを証明するための現実】では、難民か否かを判断される際、難民申請者に問われる信憑性やそれを立証する難しさについて、実際の証言とともに紹介します。
第五回【問題発言も多数…難民認定の審査に潜む問題】では、第四回とは逆の審査する側の視点から、その認定審査に潜むプロセスについての問題を考えます。
第六回【難民たちが日本で辿る、ある末路】では、難民たちが強いられる苦難に迫ります。なぜ難民は日本に来るのか、また来日した難民はどのような困難に直面するのか。「難民のリアル」に触れます。
第三章は【難民政策の欠陥が生む弊害と日本社会】。
第七回【難民に対する「無関心」が「偏見」を生む】では、「偽装難民多数」という誤解や無理解がヘイト的な言説に昇華している現状を見ながら、その背景にあるものを考察します。
第八回【『そうだ難民しよう!』が支持される日本という社会】では、難民関連の書籍で最も売れている『そうだ難民しよう!』の著者 はすみとしこさんに直撃。「ヘイト本」とされる同書の出版の是非について、「リディラバジャーナル」編集長の安部との議論をお送りします。
第九回【『そうだ難民しよう!』著者とリディラバ安部が激論「難民の人権をどう考えるか?」】は、『そうだ難民しよう!』の著者 はすみとしこさんと「リディラバジャーナル」編集長の安部による直撃取材の後編。日本における難民認定の審査のあり方について議論します。
世界的に見れば、難民をめぐる情勢は国際社会を揺るがす一大事であり、「21世紀最大の難問」とも言われています。
しかし、そもそも難民という存在が身近にいない日本において、難民問題に対する関心は高くありません。そうした無関心が、日本における難民問題の深刻化を招いている側面もあります。
難民問題の現実を知ることで、私たちは何ができるのか。読者の皆さんと一緒に、考えていければと思います。