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構造化特集
痴漢大国ニッポン
公開日: 2018/5/30(水)

【痴漢大国ニッポン】「社会問題」として考える痴漢

公開日: 2018/5/30(水)
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公開日: 2018/5/30(水)

【痴漢大国ニッポン】「社会問題」として考える痴漢

公開日: 2018/5/30(水)
構造化特集 : 痴漢大国ニッポン
構造化の視点

女性への性暴力を告発する「#metoo」が盛り上がるな

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女性への性暴力を告発する「#metoo」が盛り上がるなか、最も日常的で身近な性犯罪である痴漢は、いまもなお目立った対策がなされていません。痴漢を個人ではなく社会の問題にするべく、問題を生むことが多い男性側にフォーカスをして取材。加害者へのインタビューも交え、問題が生まれる構造を紐解きます。


オーディオブック(ベータ版)

2017年より、世界を駆け巡っているハッシュタグ「#metoo」。

 

主に女性が性暴力被害を告発する「#metoo」という世界的なうねりは、日本にも及んでいる。

 

だが、日々おびただしい数の被害者を出している「痴漢」という性暴力に対する告発は鳴りを潜め、目立った対策もなされていない。

 

その背景には、主に被害を受ける女性にとって、そして社会にとって、痴漢があまりに“日常的なもの”となってしまっていることがある。

世界でも有名な「日本の痴漢」

警備サービス業のセコムが10〜30代の女性200人を対象に実施した「女性の『安全・安心』に関する意識調査」では、次のような結果が出ている。

 

セコム「女性の『安全・安心』に関する調査」(2017年12月)より引用

 

女性が巻き込まれる犯罪被害として約半数の女性が「痴漢」を挙げ、同アンケートの1位に。また、5人に1人以上が実際に痴漢被害にあったと回答している。

 

高校生のときに通学中、痴漢に遭ったというある女性は次のように話す。

 

「満員電車に乗っていたときに、最初は胸に手が当たっているだけかなと思ったんですけど、微妙に手が動いている気がして、やっぱり触られていた。何度か痴漢に遭っていますが、そういうときってフリーズしてしまうんです。怖くて。でも、被害届を出そうと思ったことはない。なんていうか、よくあることだし、そんなに大ごとにするのもなと思ってしまって……」

 

「電車内の痴漢防止に係る研究会の報告書」(警察庁、2011年)によれば、過去1年間に痴漢被害に遭った女性のうち、「警察に通報・相談していない」人は全体の89%を占める。

 

Shutterstock.com

 

日本には、痴漢被害が蔓延しているーー。

 

そのことは今や世界中でも広く知られ、「CHIKAN(痴漢)」は「SUSHI」や「KAIZEN」などと並び、世界でも通じる日本語になっている。

 

イギリス政府の公式サイトに掲載されている日本への渡航者向け情報の中には、「通勤列車における女性客への不適切な接触や“チカン”についての報告は、かなり一般的です」と記されている。

 

また、2017年にはフランスで『Tchikan』という本が出版され、大きな反響を呼んだ。ここ数年では、わざわざ痴漢するために日本に来る外国人がいるという話もある。

痴漢は女性ではなく男性の問題

これまでに痴漢を含む2000人以上の性犯罪加害者に対し、日本で先駆的に再発防止プログラムを実践してきた精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳(あきよし)さんは、次のように話す。

 

「ミニスカートを履いて出かけようとする娘に対して、母親が『そんな短いスカートを履いていたら、痴漢に遭うでしょう』と注意するのは、多くの家庭で見られる光景だと思います。ただこれは『ミニスカートを履いていたら痴漢に遭っても仕方がない』と、痴漢特有の“認知の歪み”を間接的に強化してしまっていることになります。女性にはどんな格好をしてもいい自由があるはずです。女性の“落ち度”をあげつらい、自己責任を問う社会にこそ問題があります」

 

痴漢問題において問われるべきは、被害者の自己責任ではなく、あくまで加害者の行為そのものだ。

 

それは、痴漢問題が「女性の問題」ではなく、「男性の問題」であることも意味する。

 

 

本特集では、痴漢問題は「加害者である男性が解決するべき問題」であるという前提から、男性にフォーカスをあてる。

 

現実には「加害者=男性/被害者=女性」という構図は、ときに逆転したり、ともに同性であるケースもあるが、本特集内ではケースとして最も多い「加害者=男性/被害者=女性」という構図に限定する。

 

また、痴漢問題が語られる際、主に男性側から「痴漢冤罪」についても問題視するべきだという声があがる。痴漢冤罪はたしかに存在し、問題とされるべきものだ。

 

しかし、痴漢と痴漢冤罪は別問題であること、痴漢冤罪よりも痴漢そのものの被害件数が圧倒的に多いことから、痴漢という問題にのみ言及していく。

 

女性の「痴漢に遭いたくない」と、男性の「痴漢だと思われたくない」という双方の認識の間には、広くて深い溝がある。

 

その溝は、女性の痴漢被害の実態が男性に理解されづらいことも招いている。

 

「痴漢について男性と話そうとしても、すぐに冤罪の話にのすり替えられてしまうことは多くの女性が日常的に経験しています。痴漢という問題においては、女性の声は男性に届きづらいんです」(痴漢被害経験のある女性)という声があることから、本特集の取材や記事執筆は、すべて男性編集者が担当している。

 

リディラバジャーナルでは、痴漢についての構造的な問題を解き明かすべく、全10回にわたる特集記事をお送りする。

 

 

第一章は《なぜ男は「痴漢」になるのか》。

 

 

第一回まさかあの人が…知られざる痴漢の実像では、一般的なイメージを覆す痴漢の実像を浮き彫りにしながら、男性が痴漢をする理由を探る。

 

第二回なぜ男は「痴漢」になるのかでは、痴漢をする「きっかけ」に着目。痴漢をするに至る背景として、満員電車やアダルト動画というトリガーについて明らかにする。

 

第三回「やめられない、とまらない」痴漢の実態では、痴漢行為がどのようにエスカレートしていくのかについて、痴漢行為の常習性に焦点をあてる。

 

第二章は《痴漢被害と加害…当事者たちの告白》。

 

『Tchikan』(佐々木くみさん著、2017年)より引用

 

第四回被害者が語る「痴漢に遭うこと」のリアルでは、痴漢の被害体験を綴った本をフランスで出版した女性へのインタビュー記事をお送りする。

 

第五回痴漢しつづけて30年…元加害者の告白では、30年間にわたって痴漢をし続けてきた男性に3時間におよぶ取材を敢行。痴漢加害者の実像に迫る。

 

第六回元痴漢加害者の告白「何度捕まってもやめられなかった」では、第五回に続くインタビュー記事を掲載。男性の告白の最後には衝撃の事実も。

 

第三章は《「痴漢大国」からの脱却は可能なのか》。

 

 

第七回痴漢は「謝れば済む」問題なのかでは、痴漢加害者の男性や社会における“認知の歪み”をはじめ、痴漢が潜在的に抱える問題点を解き明かす。

 

第八回痴漢問題は「抑止」でなく「撲滅」をでは、痴漢が蔓延している現状を踏まえ、被害に遭い続ける女性の視点から痴漢問題に対する取り組みについて考える。

 

第九回「痴漢大国」からの脱却は不可能なのかでは、どうすれば「痴漢大国」という“汚名”を返上できるのかについて、現状の課題や問題点を指摘する。

 

そして、第十回リディラバ安部が考える「痴漢大国ニッポン」では、リディラバジャーナル編集長の安部が、痴漢問題を取り巻く現状に一石を投じるコラムをお届けする。

 

————

 

日本で蔓延し続け、不名誉にも世界的に知られることになった痴漢問題。いまなお有効な対策がとられないまま、被害を生み続けている痴漢をストップさせるために、私たちは何ができるのか。

 

記事を通じて痴漢問題についての理解を深め、読者の皆さんと一緒に痴漢問題を「女性の問題」から「男性の問題」、そして延いては「社会全体の問題」へとアップデートできればと考えている。 

 

リディラバジャーナルでは、「#metoo痴漢」とハッシュタグをつけ、痴漢問題に対して声をあげる動きに賛同します。痴漢を取り巻く現状に問題意識を持つ人が連帯し、痴漢撲滅のための一助になることを目指します。

イシューから探す
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CONTENTS
intro
なぜ男は「痴漢」になるのか
no.
1
no.
2
no.
3
痴漢被害と加害…当事者たちの告白
no.
4
no.
5
no.
6
no.
7
痴漢大国からの脱却は可能なのか
no.
8
no.
9
no.
10
安部コラム
no.
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