行き場をなくした女性を救うために――コロナショックと産婦人科医(前編) | Ridilover Journal(リディラバジャーナル)
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女性医師の取り組み
2020/6/30(火) : 2020/7/7(火)まで無料公開
行き場をなくした女性を救うために――コロナショックと産婦人科医(前編)
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行き場をなくした女性を救うために――コロナショックと産婦人科医(前編)
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新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、数ヵ月に及んだ自粛生活。ステイホームによってかえって危険な目にさらされていたのが、DVや性的虐待、レイプなどの被害者だ。

 

家庭内に居場所がない、レイプ被害から逃げてきた、緊急避妊薬がいますぐ必要、中絶の問題を抱えている……。そんな女性たちの救済に、いち早く乗り出したのが婦人科医の対馬ルリ子さんだった。

 

緊急事態宣言をきっかけに始まった女性支援の取り組みと、そこから見えてきた今後の課題について聞いた。

コロナ禍で休診… 女性の逃げ場確保が急務だった

――緊急事態宣言が出された4月7日、対馬さんは居場所のない女性たちのために急遽、自身のクリニックを「シェルターとして開放する」と宣言しました。そこに至った背景について教えてください。

 

私は、地域に根ざした産婦人科医として、女性の心と体、社会とのかかわりを総合的に捉え、健康維持を助ける医療(女性外来)をすすめてきました。この数ヵ月間の自粛生活を振り返ると、産婦人科というのは、もともと「駆け込み寺」的存在だったのではないかと感じることが多かったです。

 

私たちはどんな年代の女性が駆け込んできても治療の選択肢を提示できますし、女性のヘルスケアのスキル向上のお手伝いができる位置にいます。

 

妊娠・出産、不妊治療、DVや性被害、中絶、働き方・生き方まで、女性が抱えるさまざまな社会問題にとても近いところにいるのが、産婦人科医なのです。

 

 

現在、私は東京の銀座(対馬ルリ子ライフクリニック銀座)と、新宿の百貨店・伊勢丹の中に女性クリニックを開院していますが、新宿のクリニックは土日も、連休も、年末年始も、デパートの営業日に合わせて開けており、予約がいらないクリニックです。

 

自費診療になりますが、費用を比較的安く設定し、ピルや緊急避妊、レイプ対応、月経トラブル、ホルモン検査などに対応しています。

 

また、コロナ以前から、支援団体の「SARC東京※1」(性暴力救済センター・東京)や「BONDプロジェクト※2」、警察とも連携し、性被害やDV被害に対応してきました。場所もわかりやすく、長野や新潟など近隣の県からも患者が来ていました。

 

しかし、緊急事態宣言があってデパートが休館になり、クリニックもしばらくの間、休診となってしまいました。

 

あのとき、女性たちの逃げ場がなくなってしまう、どうしたら支援できるかなあと考えていたら、ニュースで、国連のUN Womanから「女性に対する暴力という隠れたパンデミックが増えている」との警告が出ていると知りました。

 

銀座のクリニックには病室があり、婦人科ですから緊急避妊も妊娠判定も、中絶や流産手術もできます。しかも銀座のクリニックが入居しているビルは、飲食や美容のお店が多く、守衛さんも24時間いて、夜間はエレベーターも止まらない。交番までは数分ですし、「シェルターとしても機能できる!」と気づいたのです。

 

※1 SARC東京(特定非営利活動法人 性暴力救済センター・東京):性暴力被害直後からの中長期にわたる総合的支援を行うための拠点として設立された。急性期のワンストップセンター(1ヶ所ですべて相談できる場所)として性暴力救援ダイヤル NaNa(24時間ホットライン)を開設している。
※2 特定非営利活動法人 BONDプロジェクト:渋谷を拠点に活動。10代~20代の漂流少女に対して支援を行っている。LINE相談を開設。

身近な人からの暴力、性被害が増加する恐れがあった

――もともと新宿のクリニックは、性暴力の被害者が駆け込んでくることが多かったそうですね。

 

そうですね。コロナ以前から、緊急避妊薬(避妊に失敗した際に、ホルモン避妊薬を服用することで妊娠を回避することができる方法。日本では医師の処方が必要な薬)を求めて当院を受診するケースは年間15例ぐらいありました。

 

繁華街で仕事帰りや学校帰りの女性が性暴力を受ける事件は、普段から起きています。また、性被害の特徴として、教師や指導者、上司、学校の先輩、近親者など身近な人から被害を受けているケースがとても多いのです。人に会わなくなった自粛生活下で、一番心配だったのはやはり家庭内で起こる暴力でした。

 

新型コロナウイルス感染対策が求められる中で、DVや性被害を受けた子どもたちや女性たちへの支援が後回しになったり、途切れてしまうことは避けなければと思いました。

 

 

――Facebookでシェルター解放の宣言をすると、シェアは一晩で1800件を超えました。対馬さんは「対象は、自認の性が女性の方。年齢や収入、居住地など、条件を問わない。妊娠中、子連れでも可。プライバシーは守ります。困っている方、お金の心配をしないで、とりあえず連絡してください」と呼びかけました。反響が大きかったですね。
 

はい、たくさんの人が反応したことに驚き、うれしくもありました。人を支えていくのは大変だけれど、「なんとかなるよ、困ったら来て!」と言えたのは、同じ想いを持つ仲間や、地域のいろんな人が助けてくれるだろうと思えたからです。普段からそうした活動をしていたのが大きかったですね。

 

そもそも女性の健康と人権を守る基地にしたくて、この銀座の場所でクリニックを始めたのですから、迷いはありませんでした。

 

――駆け込んできた女性というと、実際にはどのような問題を抱えていたのですか。

 

世の中が自粛生活に入って10日くらいの間に、レイプ症例が数例や、分娩場所に困っている妊婦相談、ネットカフェを追い出されて行くところのない生活保護のLGBTの方の訪問などがありました。

 

ある女性は、水道が止められて行くところがないというので、私の自宅に一晩泊まってもらって、一緒にご飯を食べたりもしましたね。

 

ただ、こうした活動というのは、緊急避難的にかくまうことはできてもずっと預かるわけにはいきません。受け入れ先の確保をどうするか、民間の支援団体や行政との連携はどうするかなど、整備しなくてはならない課題がたくさんあるのです。

 

――今回のコロナ禍ではどのような整備を行ったのですか。

 

まず、地域の管轄の築地警察署に電話をして「こういうことをするので、協力してください」と連携を求めました。

 

女性医療を真剣にやりたいと思ったら、婦人科だけではウーマンズヘルスサポートはできません。医療機関、さまざまな診療科の医師、ヘルスケアのプロフェッショナルたち、弁護士、支援団体、警察、行政、福祉などさまざまな機関と連携することがとても重要です。

 

身近な人から性暴力被害を受けているケースでは、被害者が訴え出ないことも多くあります。それでも私は、「加害者は何度でも繰り返します。また被害者が出るから知っておいてほしい」と、性被害やDV被害の情報は警察にも伝えるようにしています。

 

こうしたワンストップ支援センターの設置は、コロナ禍であるないに関わらず全国に必要ですが、まだまだ足りていません。

 

「いましかない」と行動を起こす人が増えた

――自粛期間中、オンラインでつながるということが盛んに行われました。対馬さんのクリニックでも、週1回のペースで「オンライン相談室」を実施していましたね。

 

そうなんです。「女性のこころと身体のオンライン相談室」を週1回、1ヵ月間開催しました。立ち上げたのは、看護師や理学療法士の女性たちで、私は顧問・アドバイザーとして参加してほしいと頼まれたのです。

 

子育て中の女性たちはもちろん、リモートワーク中の男性も参加してくれました。月経や更年期障害の悩みの背景にDVがあったり、幼少期からのトラウマがあったり。さまざまな立場の女性が集まって、それぞれが悩みを打ち明ける中で、「自分もDVの被害者だったのだと初めて気づいた」と話す相談者もいました。

 

コロナ以前は、問題を感じていても、考えないようにして生きていた方が多いと思います。けれど、家庭に閉じこもって生活しているうちに、さまざまな問題と向き合わなくてはいけなくなった。一人ひとりが、自分が抱えるつらさや不調の背景に気づけただけでも、やる意味があったと思います。

 

それは、私たち医師にとっても同様でした。緊急事態宣言により診療時間が減ったことで、さまざまな人たちと語り合うことができました。

 

忙しさに追われているとつい忘れてしまいがちですが、医療者側も、問診して治療して終わりではなく、まず相手の話を傾聴し、受け入れるところからはじめる必要があるんですね。「どんなことで困っているの?」と聞く姿勢、受け入れる姿勢がなければいけません。垣根の低さはとても大事ですね。

 

 

今回のコロナショックは、一人ひとりの足元を照らしてくれたようにも感じています。「いましかない」と行動を起こす人がたくさんいました。

 

――通常時では、なんとかうまく適応しながら生活を続けていたけれど、コロナ禍で家庭でのストレス、里帰り出産の不安、育児の悩みなど当事者だけでは解決できない問題が増加した。それぞれの家庭が抱える問題が、一気に吹き出したような印象があります。

 

ええ、誰かの問題は自分の問題でもあって、DVにしろ、虐待や性被害にしろ、「自分にも関わってくることなんだ」ということが見えてきた人たちが多かったのではないでしょうか。

 

ほかにも自粛期間中は、婦人科医師、精神科医師、ナース、理学療法士といった医療従事者や、支援団体のスタッフ、メディアの方などたくさんの人たちが集まり、毎週のようにオンラインミーティングを開いていました。ここでも見えてきた課題がたくさんあり、みんなで問題を共有し、どんな支援が必要なのかを話し合いました。


コロナショックはさまざまな社会問題に悪影響を与えましたが、その一方で、多くの人たちが団結して立ち上がる機会にもなったと思います。

 

 

・・・後編では、対馬さんがウィズコロナ・アフターコロナに描く「女性の健康や人権をトータルで守る仕組みづくり」について聞いていく。

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