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公開日: 2023/2/3(金)

「優しいデマ」と「不快な真実」。 マスメディアなき時代の、情報・コミュニティとの付き合い方

公開日: 2023/2/3(金)
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「優しいデマ」と「不快な真実」。 マスメディアなき時代の、情報・コミュニティとの付き合い方

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オーディオブック(ベータ版)


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「マスメディアの報道だけでは、乳がんや医療の課題解決に貢献できないと思った」

 

新卒で日本テレビに入社し、記者・キャスターを務めてきた鈴木美穂さん。

 

自身に乳がんが見つかったことをきっかけに、がんの当事者や家族・友人が集える第二の我が家として、「マギーズ東京」を立ち上げた。

 

「自分の仕事が、多様性と逆行しているような気がした」

 

新卒で博報堂に入社した高木新平さん。SNSが注目を浴び始めた当時、エネルギー政策について国民と議論するプラットフォームづくりを担当したが、「都合の悪いコメントが出たら、削除すればいい」という方針に違和感を覚えた。

 

会社を約1年で退職し、「現代の駆け込み寺」を掲げたシェアハウス「リバ邸」や、カレーを中心とした招待制コミュニティ「6curry」など、様々なコミュニティを企画、運営してきた。

 

テレビや広告といった「マスメディア」の世界を経験した上で、コミュニティを通して多様な社会参画をデザインしてきたふたりは、SNSや個人メディアが発達した今の社会をどのように捉えているのか。

 

テーマは「マスメディアなき時代の社会参画」。

 

「居場所や情報源がひとつしかないと、そのひとつを信じるしかなくなってしまう」

 

「同じ情報を摂取して、同じくらいのリテラシーを国民みんなが持つような国家のモデルは、崩壊しつつある」

 

「政治や社会のニュースよりも、美味しいご飯を紹介した方が視聴率が良い。受け手に迎合すると、『不快だけど重要』な情報が届けられない」

 

リディラバ安部がモデレーターを担当。社会やコミュニティを、深く議論した。

このセッションを動画で見たい方はこちら

「画面上でコメントを消しても…」
大手広告代理店で感じた違和感 

 安部敏樹  モデレーターを務めます、リディラバの安部です。


まず最初に、このセッションの背景を少しお話してから、パネラーのお二人に自己紹介をいただこうと思います。

 

これまでの時代は、テレビや新聞などのマスメディアを通して、みんながある程度同じ情報に触れてきました。

 

マスメディアの功罪はいろいろと言われていますが、僕はマスメディアが社会参画のツールとして機能していたと思います。

 

テレビさえ見ておけば、社会の大まかな動向が掴めるし、みんなが同じニュースを見ているので、「あのニュースどう思う?」とどんな相手とも話ができる共通のテーマがありました。

 

ただ、SNSが台頭して、一人ひとりがそれぞれに情報を得るようになった今、マスメディアの存在感は小さくなりました。

 

今日は、マスメディアの世界を飛び出して、コミュニティづくりに取り組んでいるお二人に来てもらって、メディア環境が変わった現代の社会参画について議論できたらと思います。

 

(安部敏樹)

 

それでは、美穂さんから自己紹介をお願いします。

 

 鈴木美穂  鈴木美穂と申します。報道記者として、新卒で日本テレビに入社して、13年ほど働いてきました。

 

キャリアの後半では、キャスターもやらせていただいて、記者として自分で調べて、キャスターとして自分で視聴者に届ける、という記者とキャスターの兼業に取り組ませてもらいました。

 

 安部  今はどんな活動をされているんですか。

 

 鈴木  私は入社して3年目の春に、乳がんと診断されました。


自身で治療をしたり、がん関係の活動をしたりする中で、日本テレビの仕事、マスメディアの報道だけでは、がんや医療の課題解決に貢献できないのでは、と思うようになりました。

 

そこで、3年前に退社して、「マギーズ東京」という、がんの当事者やその家族や友人、医療者などが無料で集える場所の運営に取り組んでいます。

 

 安部  ありがとうございます。続いて、新平さん、自己紹介をお願いします。

 

 高木新平  高木新平です。

 

新卒で博報堂という広告代理店に入社したのですが、入ってみて、自分はマスメディア的な「こういうの、みんな好きでしょ」というものを出していく仕事に違和感を覚えて、1年ほどで退職しました。

 

退職後は、居場所づくりの一環として自分でシェアハウスを作ってみて、そのシェアハウスで出会った家入一真さんと一緒に、Campfireを立ち上げるなど、いくつかのサービスを作ってきました。

 

今は、ニューピースという会社を立ち上げて、会社や自治体のビジョン作りや、コミュニティ作りに取り組んでいます。

 

 安部  具体的にどんなことがあって、マスメディア的な仕事への違和感を抱くようになったんですか。

 

 高木  僕が入社した2010年は、TwitterなどのSNSはまだ一部の人たちの間で流行り始めた頃で、今のようにみんなが使っている状態ではありませんでした。

 

僕は、面白そうだなと思ってSNS関連の部署に手をあげたところ、最初に任されたのが「エネルギー政策を国民と議論するプラットフォームを作ろう」という仕事でした。

 

国民と議論すると言いながら、クライアントも社内も「都合が悪いコメントが出てきたら削除すればいい」という考え方で、僕はどうしても賛同できませんでした。

 

画面上でコメントを消しても、書いた人たちの思いが消えるわけではないし、結論が決まっているものを、体裁上だけ民主主義っぽく取り繕うのが嫌で、自分の仕事が、多様性と逆行しているような気がしました。

 

結局、3.11の震災によってサービスは公開されなくなり、僕自身もそのタイミングで退職をしました。

「これでがんが治る」
SNSの台頭が生んだ弊害

 安部  今、新平さんからSNSのお話がありましたが、この10年ほどでSNSが急激に台頭してきました。

 

SNSは社会にポジティブな変化も、ネガティブな変化も生んできたと思いますが、SNSの功罪をどんな風に捉えていますか。

 

 鈴木  SNSは自らの意思で自由に情報源を選べる良さがある一方で、自分が見たいものだけを見る、いわゆる「フィルターバブル」のリスクが高まったと思います。

 

私が日本テレビに入ったのは、この問題は興味ないと思っている視聴者に対して、たまたま好きなタレントが情報発信をしていたとか、たまたまテレビをつけたらやっていた、という風に、無関心な人にもマスメディアに問題を届ける力があると思ったからです。

 

ただ現在では、情報を届ける力は弱まっていて、例えば乳がんの問題も、自ら主体的に情報を取りに行かないと、検診・早期発見の重要性を理解しにくくなっています。

 

知っていれば将来自分の健康や幸せに寄与するような情報も、フィルターバブルによって届きづらくなっていると思います。

 

(鈴木美穂さん)

 

 安部  フィルターバブルによって、届くべき情報が届かないという問題と併せて、逆に本来届いてはいけないような誤った情報が届いてしまう、という問題もありますよね。

 

例えばHPVワクチンの安全性・効果は科学的に照明されていて、子宮頸がんの予防のためには摂取したほうがいいとされています。

 

ただ、Instagramのママ友ネットワークを中心に、非科学的な反ワクチンの考えが広がっていて、この情報に触れてワクチンを打たなかった人の中には、将来的に子宮頸がんで命を落とす人もいるわけです。

 

 鈴木  がんも含めて、医療関係の情報って、本当に怪しいものが多くて。

 

基礎的な知識がない状態で、急にがんと言われて不安になると、「これでがんが治ります」みたいな情報を信じてしまう人が一定数います。

 

少なくとも、命に関わる情報に関しては、SNSを運営するプラットフォーマー側がある程度の規制をかけないと、情報の受け手側で全てを判断するのは現実的に難しいと思っています。

 

 安部  続いて、新平さんはこのSNSの功罪をどんな風に捉えていますか。

 

 高木  いま話していたようなフィルターバブルやデマ情報など、SNSには負の側面があるのも事実です。

 

ただ、負の側面があってもなお、人々がマスメディアから自由度の高いSNSに流れていくのは、必然だと思うんですよね。

 

オリコンランキングでみんなが同じ曲を共有していた時代は懐かしいけど、Spotifyで自分の好きな音楽を自由に聴ける今の方がいいじゃないですか。

 

同じように、自分の欲望のまま、自由に情報が取れる方向にみんなが流れていくのは当たり前だよね、この流れは不可逆だよね、という前提に立って、将来に向けた議論をするのがいいんじゃないかなと、僕は思います。

 

(高木新平さん)

優しい声に騙される 
マスメディアなき時代の情報源選び

 安部  ここから、今日の本題であるメディアと社会参画の話に移っていけたらと思うんですが、美穂さんのお話の通り、必ずしも正しい情報を届けるメディアが受け入れられるとは限らない。

 

「痛くて辛いんだけど、抗がん剤治療をしないと、長生きできません」と正しい情報を言う人よりも、「何もしなくても大丈夫だよ」と言ってくれる人の言葉を信じた方が、寿命は縮まるかもしれないけれど、幸せなんです、という状況もあり得ると思うんですが、美穂さんはどう思いますか。

 

 鈴木  実際に起こっていますね。

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