「ミスをすると病院が止まる」重症患者の治療現場でのプレッシャーとは――循環器と感染症の専門家が語るコロナの実態(前編)
「ミスをすると病院が止まる」重症患者の治療現場でのプレッシャーとは――循環器と感染症の専門家が語るコロナの実態(前編)
2020年2月2日時点で、日本国内の新型コロナウイルスの重症患者数は937人。1月7日から11都道府県を対象に発令されていた緊急事態宣言は2月2日、栃木県を除く10都道府県で1ヶ月間の延長が決定するなど、引き続き緊張感が漂っている。
一部報道では、自身の感染を恐れる医療従事者の声なども取り上げられている。愛知医科大学病院・循環器内科の後藤礼司医師は、いま現場のスタッフが最も恐れているのは「一つでもミスをすると病院が稼働できなくなってしまうこと」だという。
今回はリディラバ代表・安部敏樹が、感染症の専門家でもある愛知医科大学病院・循環器内科の後藤礼司医師に緊急公開取材を実施。前編では最新の医療現場の現状について話を聞いた。
※本記事は、2020年1月12日に行われた「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」のライブ勉強会「ー重症患者治療の最前線の医師と考えるー新型コロナといかに向き合うか」の内容にもとづいています。
愛知医科大学 循環器内科 医師。日本内科学会総合内科専門医、指導医。日本循環器学会循環器専門医。日本感染症学会認定インフェクションコントロールドクター。1981年10月1日愛知県生まれ、39歳。中部国際空港に一番近い病院で2009年の新型インフルエンザパンデミックに対処。循環器内科で心筋梗塞などの救急疾患治療の傍ら、感染症対策、抗菌薬適正使用活動の「二刀流」を専門としている。またメディアでは正しい知識、冷静な判断、そして相互理解がなし得るコロナ禍の収束を目指して「優しさの連鎖」をキーワードに活動を続ける。
2009年の新型インフルエンザ流行に最前線で対応
――まずは後藤先生の専門分野やキャリアについて教えていただけますか。
循環器内科で心筋梗塞などの救急疾患治療を行っているのと、感染症対策も専門としています。
キャリアとしては、最初に中部国際空港に一番近い病院で研修医として働きはじめました。そこで2009年に新型インフルエンザが流行した際、ウイルスが空港を経由して国内に入ってくる様子を目の当たりにしたんです。
当時は水際対策や封じ込め対策のオペレーションが確立されていない状況でした。僕のいた病院にも感染した患者さんが運ばれてきたので診断していましたし、病院から感染を広げないために四苦八苦していました。
――感染症のオペレーションを確立するプロセスに関わるのが最初のキャリアって珍しいですね。循環器系に加えて感染症も専門とするようになったのは、そのときからなんですか。
そうですね。あとは、研修医のときに「感染症からは一生逃げられない」という言葉を知ったのも大きかったです。
新しく有害な細菌が出てきたら、抗菌薬を開発するなどして対処します。でも、細菌も自分たちが滅ぼされてはいけないので、生存のためにどんどん対応していく。結局、薬をつくってもそれに対抗する新たな細菌が生まれてしまう。
社会が感染症と向き合っていくためには、薬を開発して対処することに加えて、感染を広げないために平時から対策をとらないといけない。そのことに強い興味を持ったんですね。
もともとは細菌感染のところから勉強をはじめて、そこからウイルス感染も学ぶようになって今に至ります。
(写真 後藤礼司さん)
常に100点を求められる…重症患者の治療現場にかかるプレッシャー
――いまは主に新型コロナの重症患者の治療にあたられていますが、現場はどのような状況ですか。
重症患者の受け入れをしている僕たちが最も恐れているのは、感染そのものではなく、ミスをしてしまうことです。
たとえば、一人でも患者さんからスタッフに院内感染が生じると、技術を持った医療従事者の多くが濃厚接触者になり、2週間ほど現場から離脱します。
すると、予定していた外科の手術ができなくなったり、緊急で心筋梗塞の患者さんが来ても対応できなくなったりしてしまいます。
いまの現場の基準を学校のテストで例えるなら、「70点取れば良い」ではなくて「100点を取らないといけない」となっているんです。
感染を防ぐための対応方法はわかっていますし、対策もとっているのですが、油断して一つでもミスを犯してしまうと、それだけで医療崩壊につながる可能性がある。そこが僕たちにとって一番のプレッシャーです。
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