食品ロス 621万トンの真実
明日は2月3日、節分の日。
日本の伝統的な行事として行われる節分のイベントと言えば豆まきだが、最近は「恵方巻」を食べるという人も多いかもしれない。
元は遊郭の遊びだったとも言われるこの恵方巻きの文化だが、一方で商業的なプロモーションとしてコンビニ等を中心によく売られるようになった。
そして、我々編集部は今年もこの風景を目にする事になるのか。
売れ残って捨てられる大量の恵方巻
リディラバジャーナル、2本目の特集である今回のテーマは、本当は食べられる食品が捨てられてしまう事象、「食品ロス」を扱う。
日本において、食べることができるにもかかわらず廃棄される食品は年間621万トン発生していると言われている。
621万トンと言われてもうまく想像ができないが、日本国民全員が毎日おにぎり2個を捨てているくらいの量になる。
最近では、Youtuberが知名度を目当てにファミリーレストランでメニューを全部頼み、案の定食べ残しをした事で炎上した事件も起きた。
その裏には多くの方の心のなかにある、「食品を残すのはもったいない」という気持ちがあるのか。
誰もが子どもの頃は学校給食や家庭で言われる「出された食べ物は残しちゃいけません」という子供心に思う理不尽な言葉たち。
それを真に受けていた編集部一同(特に編集長安部)も同じ思いだったが、調査を進めていくと、どうも問題はそうシンプルではないようだ。
心意気だけではどうにもならない食品ロスの構造的実態を調査した。
食品ロス、何が問題?
さて、そもそもこの食品ロス、一体何が問題なのか。
私たちが食べられる量と、生産・流通の量を完全に一致させることは不可能だ。
事業的には仕方のない、ある種の「コスト」と見る向きもある。
まずは、何が問題なのかを整理する。
1 食べ物が足りていないのに捨てている
日本の食糧自給率はカロリーベースだと毎年約40%だ。
多くの食品を捨てている横で、実は自国内の生産では国民の食事をまかなうことが難しい現状がある。
食品を他国に多く依存しているということで、「食の安全保障問題」とも呼ばれるこの問題、実は今まで捨てられていた食品を消費したりあるいはリサイクルすることで改善する。
今回の特集でも、廃棄される食品をリサイクルすることで食糧自給率の向上につながる仕組みを紹介する。
食品ロスを削減することで、食糧自給率が高まる。
2 食品の価格に影響する
食品会社は、販売できる量以上の食品を製造し、売れ残った分は捨てている。
私たちが日々目にしている食品の価格には、その売れ残って捨てられる食品の製造・廃棄コストも上乗せされている。
食品ロスを削減することで食品の生産量が最適化され、価格が安くなりうるのだ。
これは消費者としても嬉しい話だ。
3 私たちの税金も使われている
発生したロスの一部は、ごみとなって処理場で焼却される。
ごみ処理にかかる費用は私たちの税金でまかなわれているので、食品ロスを削減することで税金の投入量を減らすことができるのだ。
また、今回の特集の後半では、税金が投入されているからこそリサイクルが進んでいない現状も明らかになった。
大事な税金だからこそ、どう使われているかを意識したい。
4 地球環境にも影響
食品が私たちの手に届くまでには、生産の際には水やエサが、輸送の際には石油や天然ガスのエネルギーを使っている。
食品を食べることなく捨ててしまうと、それまでに使ったエネルギーもムダになってしまう。
また、捨てられた食品を焼却する際にも、二酸化炭素やダイオキシンなどによって環境に悪影響を及ぼしている。
食品ロスは個人レベルだけでなく、地球にとっても悪影響なのだ。
食品ロスの問題は、大きなレベルで言えば、地球上に熱効率の悪いサプライチェーンを作っている、という問題だ。
食料自給率や税金の投入にとどまらず、我々自身の買い物の価格にも影響を及ぼす問題とも言える。
環境問題から私たちの生活に直結するお金の問題まで、幅広く関係しているのが今回のテーマなのだ。
食品ロスとは?
それでは、食品ロスとは一体何か。
捨てられる食品の全てが食品ロスと定義されるわけではない。
食品ロスとは、「食べることができるにも関わらず廃棄される食品」のことを指す。
つまり、もともと食べることのできないキャベツの芯やスイカの皮といった部分は可食部ではないため食品ロスには該当しない。
可食部であったにも関わらず捨てられてしまう食品のことを食品ロスと呼ぶ。
(本連載における食品ロスは、国の定義とは異なります。詳しくは次の記事を参照)
この食品ロス問題を理解するため、本特集では次の図に基づいて記事を執筆している。
図1 発生するロスが、サプライチェーンのどこから来ているかで分類
図2 食品ロス問題のポイント2つ 「なぜ発生」と「発生後どこへ行く」
一口に食品ロスと言っても、その発生要因は様々だ。
整理していくと、サプライチェーンのどこで発生するのかによって要因が大きく異なってくる事がわかった。
そのため図1では、食品ロスが生じるタイミングをサプライチェーンの役割に分けて可視化する。
サプライチェーンは生産・加工・小売・消費といった場面ごとに区切っている。
さらに図2では、「食品ロスはなぜ発生するのか」という問いと、「食品ロスが発生した後になぜ再利用できないのか」という問いを中心に、図式化している。
今回編集部は、関係する各プレイヤー達に取材を進めた。
取材をしてみて驚くのは、その関係者の幅広さ。
食品ロスに関っているのは、スーパーやコンビニといった小売店や各家庭だけではない。
食品の製造工場、農業など食品の生産現場、捨てられてしまった食品をリサイクルする工場、国の立場から政策提案などを行う省庁、ビジネスの立場でロス削減のためのアプリを開発する企業など、実に多様な人や組織が食品ロスに関っている。
もちろん消費者である読者の皆さんもメインプレイヤーの一つだ。
「食事は残しては行けません」のその先にある食品ロスの問題構造に迫る。
第1章 生産→加工(全2回)
1-1 「誰も把握していない」見逃され続けた食品ロスに迫る
1-2 「5~10%は市場に出ない」規格外野菜はどこへ行く?
第1章では、農業、漁業、畜産業といった食品を生産する現場から、それらが加工される現場に至るまでに生じるロスを特集する。
なんと、作られた野菜の5~10%は市場に出回ることなく捨てられてしまうのだ。なぜか。
そして、生産現場で発生するロスは定義上食品ロスに含まれていない。
国も把握できていない生産現場での食品廃棄の現状に迫る。
第2章 加工→小売(全2回)
2-1 「1~2トンはしょうがない」消費者から見えない食品ロス
2-2 私たちの税金がリサイクルを止めている? ごみ処理費用と食品ロスの関係
生産された野菜やお米などを加工して、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売店や飲食店に販売するまでにもロスは生じている。
実は食品業界のルールによって、賞味期限まで余裕のある食品も捨てられてしまうことがある。
一体どんなルールなのか。どうして食品ロスを生んでしまうようなルールが存在するのか。
また、この写真にあるような炊き立ての米が毎日大量に捨てられている。
これはお店で売れ残った結果、捨てられてしまうものではないのだ。
では一体どこで捨てられているのか、なぜそんなもったいないことが起こっているのか。
第3章 小売→消費(全1回)
消費者として日々利用しているスーパーマーケット(スーパー)、コンビニエンスストア(コンビニ)では、どのようなかたちでロスが発生しているのか。
探っていくと、同じ小売業とは言え、スーパーとコンビニではロスに対する意識や、ロスが出る理由が異なっていることがわかってきた。
コンビニで発生するロスの裏側には、本部とフランチャイズ店舗の対立が見える。
今回は、その当事者である「コンビニ加盟店ユニオン」を取材した。
普段何気なく利用しているコンビニ、その裏側に潜む店舗と本部の関係性が見えてきた。
第4章 消費(全1回)
食品ロスは、私たち一人ひとりの行動が大きく影響する問題だ。
第4章では「個人にできること」にフォーカスした。
私たちは、どんなかたちでロス削減に貢献できるか。
「私たちにできることは、家庭や飲食店で食べ残しをしないようにするくらい」
そんな風に思っている人も多いだろう。
これからは、あるアプリを使うことで食品ロス削減に貢献できるようになる。
アプリでロス削減、とはどういうことか?
第5章 リユース・リサイクル(全3回)
5-1 ロス削減だけでなく「誰もが食にありつける社会を」 フードバンクとは?
5-2 食糧自給率はまだ上がる! その方法は‟エサを変える”だけ!?
5-3 お金があっても、良い機械があってもダメ……意外なところに見える食品ロス問題解決の糸口とは?
(セカンドハーベストジャパン提供 【Photo by Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE】)
発生したロスは、その後どこへ行くのか。
実はこの写真にあるパンや麺は、すべて捨てられてしまうはずだったものだが、ある取り組みによって、食べ物を必要としている人たちに届けらている。
食品ロスは、燃やしてしまえばただのごみとなるが、有効に使えば社会にとってメリットがある。
本特集の特集名、また特集内での記載について、「フードロス」を「食品ロス」へと変更いたしました。
2018年の執筆当時から、国 では「食品ロス」を正式名称として用いておりました。
しかし本特集においては、取材を通じて国の定義する「食品ロス」に生産現場でのロスが含まれないと明らかになったため、差異を明確にする意図で、「 フードロス」の名称を使用しました。
近年、生産現場でのロスの問題認知が進んだこと、また「フードロス」に対して「食品ロス」の名称が国のみならず社会一般に利用されている現状を鑑み、本特集においても名称を変更いたしました。